BMW 130i (2005/12/9)
※この試乗記は2005年12月現在の内容です。現在この車種は新車販売が終了しています。




  
この角度から見る限りは外観上で4気筒モデルのMspと大きく異なるところはない。

最近はミニバンブームとやらで、国産のハイパワーなハッチバック車は見事に姿を消してしまった。しかも、世の中はAT時代だから、今時MT車を探そうとすれば、ホンの一握りしか残っていない。ましてや、輸入車のMTとなると、極一部のハイパフォーマンス車、例えばフェラーリやポルシェなどの高価格、高性能な飾っておきたいようなクルマか、アルファロメオのような極端に癖の強いクルマしかない。

そんな時代に、なんとコンパクトハッチバックでRWD(FR)、輸入車にも関らずRHD(右ハン)の6MT、更にはマグネシュウム合金製の、あのBMW6気筒、しかも3リッターを積んだBMW130iが遂に発売になった。 これは乗るしかないと早速試乗した結果を、今回は速報版としてお伝えする。既に116iと120iに試乗しているから、今回はそれらとの相違点を主に解説することにする。


4気筒モデルとの最大の違いは、太い2本出しの排気管で、見る人が見れば一目で判る。
 
標準でレザーのスポーツシートが装着されている。 そんな物いらんから、安くセイと言いたくなるが・・・。。
 

コンパクトハッチの1シリーズのボンネットの下にドッカと居座った6気筒3.0Lエンジン。
強引にぶち込んだと言うよりも、このエンジンを積む前提で1シリーズが開発されたと見るべきだ。

外観上での4気筒系1シリーズMspとの違いは殆どない。唯一最大の相違点と言えば、リアバンパー下から覗く太い2本の排気管くらいだ。ドアを開けて乗り込めば、そこは見慣れた1シリーズだけれど、シートがフルレザーのボストンレザーインテリアが標準で装着されている。スポーツグレードに滑りやすいレザーシートは似合わないのでは、という意見もあるだろうが、130iのレザーシートの表面は多くのシボがあり、レザーシートとしては最も滑らない部類で、この点ではポルシェカレラのレザーシートよりも勝る、なんて言いたくなる程だ。座り心地は勿論悪い訳が無いし、この点では国産車は足元にも及ばないが、実際には高性能国産車を買う層は、アフターパーツのレカロなどを装着するから如何でも良いとも言えるが。そういう意味では130iも標準のファブリックシートでも付けておいて、本気で走るユーザーは勝手にレカロあたりに取り替える方が合理的とも思える。

130iには7シリーズの血を引く iDrive(HDDナビ組み込み)も装着されているが、これも走り屋には不要だから、レザーシートと共にオプションにして、その分価格を下げて欲しいものだ。 試乗車には写真でも判るように、オプションのウッドトリムが装着されていたが、このクルマのキャラクターには全く似合わない。標準はアルミ・コーディング・シルバーという例のボチボチ模様のアルミだが、これこそ130iに似合うような気がする。


試乗車にはオプションのウッドトリムが装着されていたが、これは甚だしく似合わない。
このクルマこそは、ボツボツのアルミや、カーボンモドキがピッタリだと思うが。
それに標準装備のiドライブも要らない。このクルマのオーナーなら、ナビなんか無くても大丈夫!
それにしても輸入車のRHD&MTという組み合わせは珍しい。

今回の試乗車で一番の注目点はRHDのMTという点だ。輸入車の場合に何より心配なのは、べダル配置が如何なのかと、ブレーキ機器の配置上などでLHDよりフィーリングが劣ることは無いのかという心配だ。 まず、ペダル配置については大きな問題は無いが、狭いことは狭い。べダル全体が左寄りな事と各ペダルの間隔が狭い事、それにペダル自体が小さい事から、特にクラッチを踏む場合には、普通の感覚だと靴の左端がフートレストに引っかかり易い。この足がフートレストに引っかかる状況は10分もすれば慣れてきたので、オーナーとなった場合には全く問題はないが、工事現場の帰りに安全靴のままで運転するのはチョッと辛い。


べダル配置は間隔が狭く、ペダル自体も小さいが、慣れれば問題ない程度だ。

特にクラッチを踏むときに左のフートレストギリギリとなる。と言って、左足を右よりにすれば、右足と干渉する。写真のコ汚いサンプルは御勘弁されたし。

1シリーズは流行のインテリジェントキーで、エンジンの始動はスタートボタンを押すが、AT車がブレーキを踏みながらでないと始動しないのと同様に、MT車の場合はクラッチを踏む必要がある。ボタンを押すとチョット長目のクランキングと共にエンジンは目覚めた。アイドリングは静かで、E46の330iのようにブルブルと震えることもないので、ある面物足りない。ポルシェカレラにしても、アイドリングで車体全体がブルブルと震えていると、これから始まる官能的なシーンを想像できて何とも胸が躍るのだが、130iには残念ながらそれはない。

クラッチは軽いし、繋がりもスムースで、しかもスロットルべダルも軽めでスムースだから、600rpmのアイドリングから800rpmに上げてクラッチを繋ぐなどという動作は、いとも簡単にできる。それに3Lのトルクはアイドリングスタートでも問題なくクルマを発進させる事ができる。 そして、130iは走り出した瞬間から、トルコン付きのAT車とは別世界が広がる。走行100km程度の試乗車だが、ちょっと踏めば回転計の針は即座に5000rpm位に飛び上がる。この時の低速トルクの太さは、下手な国産のターボ車より遥かに凄まじく、ある面アメリカンなフィーリングが何ともいえない。アッという間の1速から2速にシフトアップしても、相変わらず十分な加速を提供してくれる。実際に街中では巡航時でさえ3速までしか使い道が無いくらいだ。低回転でのトルクがあると言ってもトルコンがある程度吸収してくれるATとは異なり、やはり2000rpm以下の巡航は心情的にも苦しい感じがする。流れの速い2車線の国道でどうにか4速が使えるくらいだ。したがって、5速の出番は少ないだろうし、高速道路でも合法的な速度での6速の出番も少ないだろう。

室内でのエンジン音については、お馴染みのBMWサウンド、それもスポーツ系の気持ちの良い音だから、フェラーリのような特殊なものを除けば、市販車の中では最高に官能的なサウンドを奏でる。それでも、窓を閉め切っていると多少こもるような音になるので、当日は気温が高かったことも手伝って、サイドウインドウを空けてみたら、実に気持ちの良い音がするので、結局は1時間以上に渡って窓を開けたまま走ってしまった。

130iのミッションは、残念ながらフィーリングという面では決して絶賛できない。勿論、特に悪いわけではないのだが、BMWのカット飛びハッチともなれば期待が大きくて当然だ。まず、カチッとした節度に乏しく、ストロークも意外と長い。例えば、3速からニュートラルに入れて、一瞬のブリッピングの後にシフトレバーを左に倒して心持ち手前に引いたら、次は自然に2速に吸い込まれるような動作を期待すると見事に裏切られる。左へのストロークも大きいし、手前にはある程度の力を入れないと、決して吸い込まれてはくれない。そして、各ポジションもカチっとしていないから、慣れないと隣に入ってしまう可能性だってある。ただし、1時間近く経過した試乗の後半には体が慣れたから、これもオーナーになれば問題ないだろう。まあミッションのフィーリングが如何のと言っても、官能的なエンジン音を聞けば、何やら不必要にシフトダウンしたくなるし、その時の空ぶかしの音が実に気持ちが良い。これは結構癖になる。


4気筒系1シリーズの240km/hに対して、260km/hフルスケールの速度計と、フルスケール7000rpm/レッドゾーン6500rpmに対して8000rpm/7000rpmの回転計が装着されている。

一見M3のようなシフトノブ。シフトフィーリングは決して絶賛出来るほど良くはないが、貴重なMTであることで贅沢は言わない。それ以上のフィーリングを望むならば、多くの代償を払ってポルシェでも選ぶしかない。

M3やM5にも似たBMWのM系独特な太いステアリングホイールを握っての操舵力は適度に重い。元々BMWのステアリングは重めな場合が多いが、この130iも結構ズッシリとくる。中心付近の遊びも殆ど無いが、それでいて極度にクイックという事もなく、例によって微妙な不感帯があるのもBMW独特だ。この点では、妙にクイックというよりも、チョロチョロと不安定なレクサスISあたりと比べれば、流石にBMWはスポーツドライブがどういうものかを熟知していることに感心する。 フロントに3L エンジンを載せていることから想像できるように、130iはコンパクトハッチという外観程には軽快ではない。むしろドッシリとしているし、コーナーでも限りなくニュートラルという訳でもないが、限界は極めて高いし、何よりもトルコンスリップのないMTによる、踏めば踏んだだけのトルクが後輪に掛かるから、これはもう楽しいのなんのって! 試乗車がコレマタ例によって降ろし立てで、走行100km程度だったにも関らずに、乗り心地は硬いとはいえ非常に良い。走行中の道路の継ぎ目などでは其れなりのショックはあるが、それも一瞬で、如何にも剛性の高そうなボディーはビクともしないから、まさに硬いが乗り心地が良いという、上手いスポーツチューニングの手本と言ってもいいだろう。ステアリングへのインフォメーションも抜群で、例えば左コーナーを攻めている時に、右のサスのコイルがどの程度圧縮されているかが手に伝わるような感じがする。これはBMW各車のなかでも最高の部類だ。

東北自動車道には高速道路の左右に側道と呼ばれる一般道がある。川口から岩槻までは片側2車線で国道122号線を兼ねているので絶好のネズミ捕のポイントになっているくらいだけれど、これが北上するに従って道がショボくなる。特に久喜から羽生までは幅が5m程度しかないために、センターラインがあるとは言え、3ナンバーの乗用車なら幅は殆ど一杯になる。(勿論、大型は通行禁止)この側道には途中のインターチェンジ付近では、ランプウェイを避けるように急で見通しの悪い複合カーブがある。このカーブで一番速いのはランエボでもインプでもないし、国産マニアのバイブルでもあるGT−Rでもない。それは、アルトワークスやミニカダンガンなどの旧規格の軽スポーツ(ターボ)車だ。最大の理由は、その狭い車幅にある。一般道の場合は、ブラインドコーナーの先に、歩行者や自転車、それにトロいバイクなどが居るかも知れず、万が一の場合に備えて、幅方向のマージンを必要とするので、チョッと幅広のクルマだとコーナーリング能力の前に、安全確保のための減速が必要となるから、日本の道では幅が狭い事が重要になる。 その点では全幅1750mmの1シリーズは限界の幅と言える。何しろ日本では長い間、殆どの国産車が5ナンバーサイズという全幅1700mm以下だったから、当然ながら道路もこれに合わせて造られた。すなわち、130iの最大の強みは、その狭い車幅を含めたコンパクトな寸法にある。この点では全幅が2mもあるスーパーカーは当然ながら、1800mmのポルシェ一族も結構辛いものがある。

ボディの格からしたら、不相応に排気量の大きなエンジンを積んで、しかもMTを駆使した130iのワインディング走行は実に楽しいし、癖になりそうだ。こういう事のできるクルマが最近は内外問わずメッキリ減ってしまったから、この130iは実に貴重な存在だ。とにかく、理屈抜きで楽しい!

次に話をブレーキに移すと、これは今更言うまでもないBMWに共通な軽い踏力で確実に効く、実用車のブレーキとしては実に信頼できる。が、130iのようにMTでのスポーツドライブをするとなると、チョット問題が出てくる。まず、如何にもμ(摩擦係数)の高そうな、チョット踏めば食いつくようなフィーリングのブレーキは、コーナー直前でガンッと減速するには踏力が軽すぎて、シビアな減速調整が出来ずに、折角の進入速度を殺してしまいそうだ。それに、つま先でブレーキペダルを踏んでいる右足の踵を使ってスロットルを吹かし、ミッションの回転を合わせる、所謂ヒールアンドトウをやるには、ブレーキの踏力は適度に重いほうがやり易い。 まあ、この問題はパッドをμの低いスポーツ系に入れ替えれば改善されるし、慣れの問題もあるだろう。実際に最初は減速しすぎたのが、30分もやっているうちには結構慣れてはきたから、これまた、自分でオーナーになれば何とかなるかも知れない。

今回、約1時間半程度の試乗だったが、終る頃にはクルマを返すのが惜しくなるくらいだった。これは最近珍しいし、帰り道での我がE46が、まるでクラウンロイヤルのように感じたのも事実だ。

 
フロント17J×17ホイールと205/50R17タイヤ、リアは17.5J×17ホイールと225/45R17タイヤの組合せ。

3シリーズの4気筒系と同じ鋳鉄製のキャリパーを装着。リヤのローターは1シリーズで唯一ベンチレートタイプを使用している。

もしも、あなたが幸運にもM5やカレラなどを所有する程の車好きと、高収入を両立しているなら、そして、更に配偶者がMT免許を所持しているという条件を満たしたなら、130iをセカンドカーとして購入するのは実に良い選択だと思う。もしかすると、M5はガレージに置いたままで、130iの出番が俄然多くなるかも知れないし、夫婦で130iを 奪い合いするかも知れない。

勿論、上記のような恵まれた状況の人は一般市民から見れば別格だから、この際放っておくとしても、130iは普通の市民でクルマ好き(それも重症の)にとっても実に良い買い物だと言える。他のBMW3L車なら、330iの625万円、530iの722万円などに対して130iの487万円という価格は大いなるバーゲンに違いない。最近発売された323iの480万円と同等ということを考えても、また120iの367万円に対して120万円の差額を出せばエンジン以外に主な装備だけでも、Mスポーツパッケージ(約34万円)、レザーインテリア(約29万円)、iDrive(約28万円)、バイキセノンヘッドライト(約8万円)が標準で付いてくるから、実質差額は約100万円分の装備を引けば、なんと20万円しか違わない。そんなら、Msp以外のオプション装備は取っ払って420万円にしてくれれば良いのに!なんて走り屋の気持ちが伝わってくるようだ。

しかし、 B_Otaku?のような普通の市民から冷静に見れば、こんなクルマを買うのは異常以外の何物でもない。487万円というのは、近所の建築屋の社長が乗っているクラウン 3.0ロイヤルサルーンより50万円も高いのだから。まあ、サラリーマンで130iを買おうなんて思うのは、クルマオタク症候群のステージVだから、完治する見込みは少ないかもしれない。これ以上悪化の道を辿ってステージWまで進むと、5年間同一車生存(所有)率は数パーセント程度になり、やがて体中にクルマオタク細胞がはびこる末期症状となるが、幸いなことに、この病気は命に別状はないから、財布の中身が十分有るなら、傍目には普通の生活をしているようにも見える。くどいようだが、この病気に薬はない。えっ、近所にフェラーリ買った病院長が居るけど、末期クルマオタクの治療の副作用で髪の毛が抜けているって?それは、ただのハ○です!