BMW G29 Z4 sDrive 20i (2019/4) 後編 その2 |
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実は動力性能よりも驚いたのはフル加速時に前方に他車が見えたので減速の為にアクセルをオフにした瞬間に後方から「パ・パ〜ン」というバックファイアの音が聞こえた事だ。こういう事は以前の経験ではポルシェ 991 (991) カレラS で体験しているが、Z4 の場合はポルシェ程では無いのだが、ヤッパリチョイと気恥かしいものはある。その後少し走行した後にまた減速の場面があったが、やはり同様の音が聞こえた。今度は多少身構えていたのでどんな音かを良く聞く事ができたが、何だがチョイと嘘くさい面もあり「なんか小細工しているな」という気がする。 それにしても今回の Z4 の過激さには驚いたが、ここでふとメーター内の表示を見ると "SPORT+" 。なにっ、スポーツプラスだって。そうか、これってモードスイッチを弄っているうちに SPORT のボタンを2回押してしまったようで、いつの間にか SPORT+で走っていたのだった。そこで "普通の" SPORT にして少し走ってみると多少はマイルドになったが、それでも結構過激なフィーリングだ。 さてここでボンネットフードを開けてエンジンルーム内を眺めると、この長〜い古典的なスポーツカー然としたボンネットの中には悲しい事に4気筒エンジンがチョコんと収まっていて、ボンネットの半分は "上げ底" みたいなもんで、観光地の土産物じゃねぇぞ、何ていう気持ちもあるが、まあここは開けなければ判らないから大した問題では無い (写真41) 。 |
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それでは操舵性とコーナーリング特性はどうだろうか? まあ外観からしても前後の重量配分や重心からのモーメントを意識してのスポーツカールックだから悪い訳は無いだろうが、実際の操舵感は‥‥いやBMWとしては実にクイックに仕上げられている。これはノーマルモードでも充分な程にクイックで、中心付近の不感帯をワザと作っている BMW の常からすると、この Z4 は例外的にクイックな仕立てと感じる。 ただしクルマ自体としては意識的に安定性を殺しているようにも感じられた。というのは Sport モードのフル加速時に直線性が悪く多少気を入れて修正が必要に感じる事で、しかし実際には大した修正は要らないという、何だか騙されたような気持ちだが、これってワザと緊張感を演出しているのだとしたら大したものだ。これによって実際の加速がより良いようにも錯覚したようで、ハイエンドでの伸びの無さを上手くカバーしている、とさえ思いたくなるほどだ。 さて走行モードを Comfort から Sport にすると、成る程ステアリングは多少はよりクイックになった気がするが、元々が BMW としは異例にクリックな設定だったからそれ程劇的に変化する事もなかった。 そうしているうちにこのコースのハイライトである中速コーナーが迫ってきた。そこでパドルスイッチを使って1段シフトダウンさせ、回転数は3,000rpm くらいを保ってコーナーに突入する。この時のアンダーステアは極々少なく、旋回中の微妙な修正にも機敏に反応するステアリングと共にこれは結構楽しくて、最近マイルドに成り過ぎた傾向のある BMW だが、これは久しびりに "駆け抜ける喜び" というキャッチフレーズを思い出した。 それにしても緊張感を伴う程の操舵性は最近の BMW としては何が違うのだろうか? そう言えば今回の Z4 はベースグレードを除いてランフラットタイヤ (RFT) を廃止しているとう話があったっけ(日記参照)。BMW が一部のMモデル等を除いてタイヤを RFT 化したのは2003年の E60 の頃からだった。初期は如何にもならないくらいに走りが劣化してしまったが、その後はタイヤも改良されてそれ程気にならなくなったが、こうして普通のチューブレスタイヤが装着されたモデルに乗ってみると、ヤッパリ RFT による操舵感の劣化は大いにあったのだったと認識する事となる。 そのタイヤのサイズは標準では sDrive20i M Sport が フロント225/45ZR18 リア255/40ZR18 で、実は Sport でも同サイズだった (写真42) 。これがスタンダードではフロント225/50R17 リア255/45R17 とワンサイズ小さく、更に前述のように RFT となる。なお、M40i ではフロント255/35ZR19 リア275/35ZR19 が標準となる。そして今回の試乗車だが、これにはオプションとして設定されている M40i と同サイズのモノが装着されていた。その為にホイールデザインも当然ながら細いスポークの見るからにスポーティーなものだが、その中から覗いているブレーキユニットは例によって車格としてはチャチい鋳物のシングル片押しキャリパーで、ホイールに完全に負けている (写真43) 。ただし、モデルによってはフロントにはブルーにMロゴの対向ピストンキャリパーが装備されるようだが、試乗車には付いていなかった。 ブレーキの効きはといえば、一時期少しマイルドになった BMW だが、最近はまた喰い付くようなアグレッシブな効きに戻っている。やはりこの方が BMW らしいという気がするが、一部では効き過ぎてスムースなコントロールが出来ない、なんて批判もあるようだ。しかしこれはハッキリ言って操作方法が悪い訳で、踵をシッカリ床に付けてつま先でコントロールをすれば喰い付きの良いブレーキでも充分にスムースに減速出来る筈だ。そして急ブレーキの場合は踵を上げて足をテコのようにすれば ABS が作動する減速度を得られるので、この辺の操作を体で覚えるくらいで無いと高性能スポーツカー何て乗る資格は無い、と言い切ってしまおう。 なお、ブレーキの喰い付きは殆どがブレーキパッドの材質で決まるから、どうしてもこれが嫌な場合はパッドを交換すれば良いのだが、輸入車の場合は日本ではマトモな交換用の社外品が手に入らないという辛さがある。というのは日本の大手パッドメーカーは欧州車用の交換パッドを手掛けていない事から、どうしても中小メーカーの製品となり、ハッキリ言ってプレート等の部品の材質がマルで違うし、摩擦材 (ライニング) なんて汎用品の角板から切り出している事も多く、明らかにフィーリングの悪い物とかがある。以前、さるお金持ちが自身の M5 に社外品の高価なパッドを付けていたのでチョイと運転させてもらったが、何とも酷いモノだった。ただし感想を聞かれた時には流石に本当の事は言えずに、適当に誤魔化したが。 |
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さて今回の新型 Z4 はと言えば、敢えて性能のマイルドな 20iに試乗した事で、正直言って大して期待はしていなかった。歴代 Z4 でのベースエンジンのモデルは3シリーズセダンと何処が違う、っていう場合が多かったから、今回も 320i に毛の生えた程度かとも思ったら、如何して中々のスポーティーフィーリングで、まあ特に高性能車に慣れたドライバーは別として、今までサルーンに乗っていたが、ここで一つ2シータースポーツカーを買ってみようか、という場合には充分に満足できるだろう。価格も今回の sDrive20i M Sport で 665万円だから、ポルシェ 718ボクスターの759万円よりも百万円近く安いし、しかもポルシェは例によって BMW の標準モデル並みの装備には50〜100万円程のオプションが必要となる。対する Z4 は今回の M Sport が最上位グレードであり、Sport なら 615万円となるし、スタンダードだったら 566万円だが、流石にスタンダードは在庫があるか疑わしいし、本国発注なら値引き無しで3カ月待ちとか、事実上は存在しないのと同じ、何て事も考えられる。
と言う訳で、今後はスープラとの比較は是非やってみたいと思っているし、ボクスターとの比較も意義がありそうだ。ただし、sDrive20i (197ps) と Boxster (300ps) の比較は果たして意味があるのだろか。それなら Z4 M40i (340ps) はといえば、これは Boxster S の350ps とでも釣り合うが、まあこの辺は試乗車を確保できれば是非比較したいとは思っている。
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