BMW G20 320i (2019/3) 後編 その2


  

ここで試乗車のエンジンスペックをお浚いしておくと、新型 G20 は B48B20B で先代 F30 は B48B20A と最終桁が異なっている。この桁が違うという事は何やら変更されているということで、この桁をサフィックス (suffix) というとプロっぽい。因みに F30 でも 330i は既に B48B20B が搭載されたいたという事は、先に 330i が改良されていて、今回はそれを 320i にも搭載したということだ。そして 320i と 330i のエンジン型式が完全に同一と言う事は物理的には同一であり違うのは制御ソフト、主として過給圧だったりして‥‥。え〜っ、それで50万円高いの〜っ?

ここでボンネットカバーを開けてエンジンを眺める事にする (写真31) 。前述のようにエンジン型式はサフィックスが A と B の違いのみだが、エンジンカバーはマルで違う。えっ、その違いが A と B って? いやまさかそれは無いだろうが。ところでエンジンルームというのはストラットタワーが見える場合が多く、これを比較する事はプラットフォームの設計ポリシーを想像するのに都合が良い。実際に比べて見ると F30 では従来見慣れた薄板 (鉄板) のプレスを溶接で繋ぎ合せて、その部分に水が浸入しないようにシール材で処理されている。対する G20 は繋ぎ目は見えないし補強用のリブが立っている事から板金プレスではなく鋳造品、それも鋳鉄ではなくアルミ鋳物で、しかも砂型では無くダイキャストのような気がする (写真32) 。これは5シリーズでは以前から使われていた方法で、今回は3シリーズにも払い下げ(?)されたようだ。ただし5シリーズよりはショボいが。

写真31
G20 320i のエンジンは B48B20B 直4 1,998cc 184ps/5,000rpm 300N-m/1,350-4,000rpm 。

F30 320i では B48B20A と型式が僅かに違うが 最高出力は同じでトルクは 290N-m/1,350-4,250 rpm と僅かに異なる。


写真32
ストラットタワーは板金からアルミダイキャスト(多分)となった。

動力性能としては特に強力では無いが必要なだけの加速性能は備えていた。それでは操舵性と旋回性能は如何だろうか? 先ずステアリングの特性は最近の BMW らしく軽い操舵力であり、そのレスポンスはこれまた BMW の伝統に従って中心付近では適度にルーズになっている。勿論それでも充分にスポーティーではあるし、これが SPORT モードでは‥‥チョイ乗り程度では特に大きく変わるとも感じられなかった。

途中の2車線の道路で上手い具合にミラーに後続車の気配は無く、チャンスとばかりに素早いレーンチェンジをしてみたが安定性に問題がある筈も無く、常識的、いや多少の非常識くらいの急激な操作でも全く危険は感じられないのも BMW らしい。まあ最近は国産車だって有る程度のレベルになれば急な挙動をすると危険という事も少なくなってきているが、あっ、それは上級車の場合で、軽や安モノミニバンなどでの急なステアリング操作は即座に事故に繋がるというのは動画投稿サイトを見れば一目瞭然で、特に高速ではチョッと無茶な操舵をすると簡単にスピンして飛んで行ってしまうのが判る。

やがて今回の試乗コースでのハイライトである中速コーナーに近付いてきた。そこまでの試乗で充分な安定性があるのは判っていたので、チョイと強気で常識よりも少し速目の速度で侵入して見たが、弱いアンダーステアで簡単にクリアしてしまった。

しかしここで動力性能にしても操舵性能にしても何と無く物足りない、というか面白く無いと感じるのは、まあ最近のクルマの傾向だが、同じ3シリーズでも3代前の E46 などはもっとハッとするような楽しさがあった気がする。何しろ走行中にはステアリングホイールを伝わって常に路面の状況が手に伝わってきたものだが、新型になる度にマイルドになり、気が付いて見たらば路面状況がハッキリと感知できるようなステアリングインフォメーションは今時のモデルには受け継がれていなかった。

まあ郊外のチョッとした住宅地、中産階級の街へ行けば、今では3シリーズ何てメジャーなクルマであり、良く整備されているが少し古い住宅地のカーポートには隣り近所で3シリーズがウジャウジャ、というのも珍しく無く、このような売れ行きではマニアックな特性では返って嫌がられるのは判らないでも無いが、何か寂しモノがある。

試乗車のタイヤは M Sport に標準のフロント:225/45R18 リア:255/40R18 では無く、オプションのフロント:225/40R19 リア:255/35R19 という明らかにオーバースペック気味のものが付いていた (写真33) 。まあオーバースペックのタイヤ&ホイールというのは BMW の M Sport としては伝統的なものであり、その昔は見掛けだけの BMW とは一線を画していたメルセデス ベンツも、ユーザーの要求を無視する事も出来ずに、いつの間にか BMW バリのタイヤを装着するようになってしまった。これが最善か無かという強烈なポリシーを持っていた W124 までだったらば「無暗に太いタイヤは弊害があるからそんなモノを装着してはいけない(キリッ 」という雰囲気だったのだが。

そんな扁平なタイヤでも決して乗り心地が悪いという事も無いのは、技術の進歩が大きい訳で、実際試乗車の乗り心地は決して悪く無い。オプションの19インチホイールは径がデカイだけでは無くスポークも細いから中のブレーキユニットも良く見える。BMW は従来からブレーキに金を掛けないので有名だが、それゆえに如何にもスポーティーな大径ホイールから覗くブレーキローター径は相対的に小さく見えて、スカスカだから決してカッコの良いモノでは無い、と思うのだが‥‥。

それでブレ−キキャリパーを F30 と比べてみれば、確かにユニット自体は別物なのだが、ランクとしては似たようなもので相変わらずショボい (写真34) 。ただし新型のカタログを見ると M のロゴが付いたブルーのアルミ対向ピストンキャリパーもオプションで用意されているようだが、結構ふんだくられそうだ。なお、パーキングブレーキがレバー式から電動式となった事で、リアのパーキング用ドラムブレーキにはモーターが付いた電動式となっている筈だ (外からは見えないが)。


写真33
G20 の標準タイヤは Fr:225/45R18 Rr:255/40R18 (F30と同じ) だが、試乗車にはオプションの Fr:225/40R19 Rr:255/35R19 というオーバースペックの気味のサイズが付いていた。


写真34
例によってショボい BMW のキャリパーだが電動パーキングとなった事もありユニットは変更されている。

新型となった3シリーズは想定通りの正常進化であるが、では何か劇的に良くなった部分はといえば‥‥ハテ? まあ F30 も充分に完成されたクルマだったから、それ以上に何か大幅に変わる必要も無い訳だ。しかもエンジンは基本的にキャリーオーバーだし、車両重量が劇的に減少している訳でも無い (1,580 → 1,560Kg) から動力性能も似たようなものだ。

では何が進化したかと言えばメーターがフル液晶ディスプレイとなったり、パーキングブレーキが電動式となったり、ストラットタワーがアルミダイキャスト化されたりと、時代に合せての進化はしている。BMW の常で FMC 時点ではエンジンはキャリーオーバーしているが、MC を待たずに 1〜2年後に新型とか大幅改良とかが行われる可能性はある。

さて BMW 3シリーズの世の中の立ち位置はといえば中流階級のファミリーカーであり、亭主は大学受験戦争と就職競争の覇者でもある。だから年収はフリーターや非正規社員に比べて圧倒的に多いが、タワーマンションのローンや子供のお受験や、その為の塾などの教育費でヒーヒー言っている状況だから、クルマはバリューローンだったりするが、それでも BMW の有る生活は重要で、ブランド女子大出の奥方が旧友と会う時にプリウスじゃあイマイチだしワゴンRなんて論外だ!

そんな状況だから、負け組から見れば実に腹の立つ存在の代表が3シリーズだ。だから負け組の中古ワゴンRが煽ったりするが、今の時代ドライブレコーダーなんて当たり前だから、警察に持ち込まれてあっという間に御用となる。まあ脳みそが足りないから今の負け組生活な訳だが‥‥。。

そうなると BMW 3 シリーズと比較する相手はメルセデス ベンツ Cクラスでは無く、勿論アウディ A4 でも無い。そう中古のワゴン R こそが特別編での比較相手に相応しい! と言う事で、まあ本当にそんな事をやるかは今現在考慮中だ。