BMW G05 X5 xDrive 35d (2019/4) 後編 その2


  

新型の 3.0L ディーゼルターボエンジンは最大トルク 620N-m という凄まじいものだ。これが同じ3.0L ターボでもガソリンでは の xDrive 35i (G05は現在 35dのみなので先代 F15の場合)では 400N-m だから55%も勝っている。ここで X05 および F15 の2代に渡るエンジンのスペックを一覧としておく。

ただし、ディーゼルエンジンは低回転形の為にファイナルギアを高めに設定している事も考えられる。そこで今度は先代を中心に X5 のギア比を考察してみる。

下の表を見ると F15 ではファイナルギア比はすべて同じで、ガソリン3.0L の 35i のみトランスミッションのギア比が多少低いが、基本的に最高出力発生回転数の低いディーゼルもそれ程変わらないギア比となっている。

それでは新型 G05 35d は如何かと言えば、ファイナルは F15 より高いがその代わりに 8AT のギア比がよりワイド化されている。その為にオーバーオールでは一般道での巡航時に多用するであろう 2〜5速では F15 35d よりも高めのギア比であり、これはよりトルクが大きいので減速比を落としてもトルク感が変わらないと判断してのあろうか。なお4速でのオーバーオールでは G05 と F15 では其々 5.038 と 5.425 だから 8%程 G05 が高いが、その程度では620N-m が595N-m になったようなもので、それでも F15 の560N-m よりも勝っている。

同様にガソリン車と比較すると、35i では 5.038 と 5.258 だからその比率は 4.4%高い事で、トルクの比率は 594:400 であり、これはトルクでは圧倒的にディーゼルが勝っているという事だ。そこで同じガソリンでも V8 4.4L ターボの 50i でも同様な比較をすると、ギア比では 4.425 という、同じ F15 の 35d と同じだから8%の違いを考慮すると595:650 であり、これは流石にガソリンとはいえ V8 エンジンには敵わなかった。それでもまあガソリンの V8 に対してトルクが 9% しか違わない程度だから、V8 並みのフィーリングと言っても嘘では無いという事だ。

さて話を試乗に戻して、中低域での強力なトルクは解かったが、それでは高回転域 (といってもディーゼルだから低めだが) はどうだろか。いやその前に走行モードをスポーツにしてみる。これにより元々強力なトルクは、更にレスポンスが良くなるかが、劇的に変わったという感じはしなかった。まあそれだけエンジンが強大なトルクを発しているという事だ。

そしてスポーツモードにしたところで、チャンスを見つけてフルスロットルを踏んでみると、グイーンっと身体を後方に持っていく加速力を味わえるが、伸びはというとやはりそこはディーゼルだから、流石に出来の良いガソリンエンジンには劣るが、特に気にしなければ解からない程度ではある。まあその前に全幅 2m超の馬鹿デカイ SUV でそんな加速が必要な場面というのは先ず無いが‥‥。。

ここでもう一度上の表を眺めてみると、最高出力発生回転数までブン回した時の速度は35d では 35km/h だが、35i では54km/h と大きく異なり、2速ではそれぞれ 55km/h と 81km/h という圧倒的な差が付いている。従ってグイーンという気持ちの良い加速を味わいたければ未だガソリンが優位だと言う事だ。

とまあ、色々能書きを並べてみたが、先代よりも圧倒的に静かになって、ディーゼルエンジンの欠点の一つである音と振動を克服したのは大したモノだが、世間の主流は電気自動車に向かっているのも皮肉なもだ。

写真27
走行モード切り替えスイッチも新型ではG20 (新3シリーズ) などと共通のスイッチに変更となった。

それでは操舵性はどうだろうか。何しろ全幅2mを超える巨体であり、車両重量も 2.2トンという重量級だから軽快な操舵レスポンスを期待する方が間違っているが、元々多少緩い味付けをするBMWだから、このクルマが特にトロイとか言う事は無く、標準的な BMW の実用モデルなりのレスポンスはあるので心配無用だ。

さてそれでは旋回性能はどうだろうか? だがしかし、残念ながらこの試乗コースにはそれに適したコーナーが無い。もちろん全て直線の道などは無いから、ある程度の特性は判断出来るが、一言で言えばこの馬鹿デカくって背の高いボディーを考えれば充分にアンダーステアも少なく、普通の走行では全くストレスは無い。まあ本気でコーナーを攻めれば問題もあるかもしれないが、そもそもそんな用途でこのクルマを買うユーザーは居ないだろう。

次にホイ−ルから覗くブレーキを見ると、フロントにはブルーに塗装された巨大なブレーキキャリパーが見えている (写真29) 。その形状からこれは間違いなくアルミ製対向ピストン (オポーズド) キャリパーであり、恐らくブレンボからの OEM 供給だろう。BMW はブレーキに金を掛けない事で有名であり、Mモデルでさえ片押しキャリパーを使っていたが、ここ最近では上位モデルにはアルミオポーズドキャリパーを使用するようになり、これでようやくメルセデスベンツやポルシェ等のライバルに追い付いたという感じだ。

なおリアは普通の片押しシングルキャリパーだがフロントと同色の塗装が施されている。この塗装によりリアキャリパーの性能は片押しタイプとしては‥‥別に何の変化も無い。


写真28
試乗車のタイヤは M Sport のために Fr:275/45R20 Rr:305/40R20という馬鹿デカさだ。F15 では同じ M Sport でも Fr:255/50R19 Rr:285/45R19とワンサイズ小さい。


写真29
最近のBMWらしくフロントにはMロゴの付いたアルミ対向ピストンキャリパーが奢られている。

想像通りのキープコンセプトだった新型 X5 の最大の良さは静かで振動の感じられない新型のディーゼルエンジンであり、基本的にディーゼルが好きではない自分としてもこれなら許せるかな、という気持ちもある。まあ今のところは X5 を買う場合、この 35d しか選択の余地が無い訳だが、近い将来順次エンジンバリエーションは増えていくだろう。

このクラスの SUV として、性格的にスポーティーな走りという点では月並ではあるが
 カイエン > X5 > GLE
と表現できるが、まあ実際にはそんなに単純ではない。

 

それ以上にクルマに1千万円出すとして、SUV を選ぶという選択肢自体が個人の好みを大きく反映している訳で、まあ好きにしたら‥‥という気持ちだ。