Porsche 992 Carrera 4S (2019/7) 後編 その2


  

今まではノーマルモードで走行し、まあそれでも何の不満も無いのだが、ここでスポーツモードを試して見る。切り替えスイッチは先代 991 と同様にステアリングコラムの4時位置にあるスイッチを使用するが、991 が回転式であったのと対照的に押しボタン式となった (写真26) 。

さてスポーツモードでは如何かと言えば、勿論レスポンスはより良くなりシフトアップポイントも上がっているのだろうが、これまた街乗りをする限りでは明らかに高回転側に寄った制御をしているという感じは受けなかった。

今までは片側1車線だったが、ここで2車線の幹線道路に出る。当日は結構交通量が多かったが、上手く前が空いたところでスポーツモードにて再度フルスロットルを試してみる。今回は自動でシフトアップするまで回してみたが、ターボチャージャーによる強力な低〜中速トルクで踏み始めから強力なトルクを感じるが、991Ph1までの自然吸気でみられた高回転になるに従いグイグイとトルク感が増して、取り分け最後のレッドソーン手前までの1000rpmくらいのワクワクするような感覚は、残念ながら無い。勿論絶対的トルクはより大きいし、数字上の加速性能でも勝るのだろうが、体感的な気持ち良さが無いのは今の時代では諦めるしか無いのだろうか。

ところで良く考えてみれば 992 のエンジンは 991 Ph2 からの使い回しであり、特性もほぼ同じ筈だ。という事は下の図でも判るように両車のトルクが入れ換わるのは 6,500rpm 付近でこれより下では 992 の方が 991 Ph1より勝っている筈で、たしかに 991 Ph2 ではそのように感じたのだが、今回の新型 992 は如何もそうでは無かった?

では回転計の目盛はターボの 992 と自然吸気 (NA) の 991 Ph1 ではどう違うのかと言うと、 992の回転計はフルスケールが 8,000rpm で 991 Ph1 の 9,000rpm よりも 1,000rpm も低い (写真27) 。しかしレッドゾーンの始まりは其々 7,400rpm と 7,600rpm と僅か 200rpm しか違わないが、上の図を見るとエンジンに対する負担は兎も角も、 991 Ph1 は 7,800rpm 位までトルクのデーターがあるところを見ると、7,600rpm のレッドゾーンは多少の余裕を持っているのだろう。

今回の 992 も、その前の 991 Ph2 も、更にその前の 991 Ph1 も、試乗したカレラS にはスポーツマフラーが付いていた。しかしその音は古い順に過激であり、 991 Ph1 の場合はスロットルを放した瞬間に派手なパッ、パッ、パッ、パンッという音が後方から聞こえ、マルでヤンキーの改造車みたいで気恥かしいし、これで車検が通るのが不思議なくらいだった。次の 991 Ph2 は前回に比べると大分大人しくなったが、それでもスロットルオフ時のアフターファイヤーの様な音は聞こえてきた。そして今回の 992 はスポーツマフラー装着と言われてもふーん、そうなんだという程度で、確かに結構良い音はするが飽く迄常識的であり、以前のように運転していて恥ずかしくなる程のヤバさは無かった。

そういう面でも、どうも今回の 992 はマイルド志向に振ってしまったようにも感じる。

写真26
モード切り替えスイッチは回転式から押しボタン式となった。

 


写真27
回転計のフルスケールは自然吸気の9,000rpm から8,000rpmへと低くなり、レッドゾーンも200rpm低くなった。

乗り心地は当然ながら一般のサルーンからみれば遥かに硬いが、とはいえ決して乗り心地が悪いと言うものではない。しかし途中、可也荒れた路面を通った時には結構な突き上げを感じたところを見ると、ある点を超えたサスの動きではダンパーは強力に振動を抑え込むべく仕事をしている、という感じだ。

操舵力は適度でレスポンスも悪く無いが良くも無い。まあ歴代の 911 も決して操舵レスポンスは良く無いし、国産の高性能GTのように中心付近の不感帯が殆ど無い、何て事も無い。ただし、これもモデルイヤーによって異なり、今までの経験では 997 の後期モデルが最も中心付近でもガチっとしていて、操舵力は重いがレスポンスは今まで乗った 911 の中では最も良かった。

今回の試乗も言ってみればフィーリング確認のチョイ取り程度であり、コーナーリング云々を言える程の事はやっていない。それでも一般道ならまず普通にコーナーはある訳で、そういうところで少し頑張った範囲では安定しているし、街中でマトモな神経では限界近くまでコーナーリング速度を上げる何て事は出来ないだろう。ただし、これも歴代 911 自体がそうなのだが、BMW のようなニュートラル感は無いのはテールヘビーのリアエンジンだから当然だが、モデルが新しくなる度にマイルドになった 911 で、しかも 4WD のカレラ4S だから、今や BMW やメルセデスの感覚で購入しても問題無いし、特にドライブスキルが高くないセレブの奥様の日常の足に使っても問題無いくらいで、まあそれが旧来のポルシェファンからすればチョイと気に食わないところだろう。

ブレーキについては前回の991 Ph2 の試乗車が同じカレラS とはいえオプションの PCCB と呼ばれるカーボンコンポジットブレーキが付いていた。その為に恐ろしい効きというか、本当に次元の違う効き味に驚いたのだった。しかし今回の 991 の試乗車には標準のブレーキ、と言ってもフロントが6ポット、リアが4ポットのアルミオポーズドキャリパーという、世間一般ではこれ以上のモノは見当たらないくらいのものだが、その効きは PCCB に比べれば極一般的で、扱い易くよく効くし、喰い付き具合も丁度良かった。

なおホイールの隙間から覗くブレーキキャリパーは一見すると先代 991 からの使い回しのように見えるが、よくよく見ると 992 はフロントのピストン系が少し大きいようだし、リアーは逆に小さくなっているようだ (写真29)。と言う事は設計上ではフロントのブレーキ負荷がより増している事になり、その理由は静的重量配分でリアヘビーの具合が減った(フロントが増えた)のか、もしくはフルブレーキングでの最大減速度をより増やした事で、フロントへの荷重移動が増えたのか、さてどちらだろうか?


写真28
標準タイヤはフロント245/35ZR20は新旧変わらないがリアは305/30ZR20から305/30ZR21へとホイールが1インチアップされている。


写真29
キャリパーのピストン径はフロントが大きくリアが小さくなっている。重量配分が変わったのか?

最新のポルシェは最良のポルシェとはお馴染みの "格言" だが、どうも今回の 992 に関しては一概にそうとは言えなかった。もしも他の多くのオーナーが同じ事を感じて買い替えを控えたとしたら、恐らくポルシェは近い将来のモデルイヤーで大幅改良してくるだろう。

結局、余程のモノ好きでない限りは代替えは少し待った方が良さそうだ。なお新型の売れ行きはといえば、都心のディーラーでは既に初期のモデルは売り切れだが、郊外ではスタンダードカレラの発売待ちのユーザーが多いというから、やっぱり新型はセレブには受けるがマニア層にはイマイチという事で、これは納得出来る。