Volvo XC40 T5 (2018/8) 後編 その2


  

フルスロットル時のエンジンの高回転側での挙動はというと、レッドゾーンは 6,500rpm でシフトアップは 5,500〜6,000rpm弱くらいで行われるが、それまでは充分にスムースに加速するし、トルクの落ち込みもそれ程感じなかった。そして XC60 との比較はといえば、ほぼ同じエンジンを 140kg 重いボディに載せている XC60 T5 (P/Wレシオ=7.2kg/ps) に対して P/Wレシオ=6.7kg/ps の XC40 の方が勝っているのが体感上でも感じられる。おおっ、初めて XC60 に勝る項目があった!

ここでボンネットフードを開けてエンジンルーム内を見ると、XC60 と事実上同じエンジンにも関わらずエンジンの上に掛っているカバーのデザインが少し異なる事で一見すると違うエンジンに見える (写真36) 。エンジンルーム内を見たついでにストラットタワー部分を比べると、XC40 が板金製でスポット溶接により組み立てられけいるのに対して、XC60 は BMW 5シリーズのようにアルミの精密鋳造らしき一体の部品で構成されている (写真37) 。う〜ん、やっぱりXC60 は見えない処にもコストを掛けているのが判る。


写真36
エンジン型式は同じで性能もほぼ同じだが、トップカバーのデザインを少し変えて変化を付けている。


写真37
ストラットタワーはXC60のアルミ精密鋳造から、XC40は普通の板金となる。

と言う事で動力性能では中々の好結果をもたらした XC40 T5 だが、さて操舵性や旋回性はどうだろうか。まず走行モードがデフォルトの Comfoet では操舵力は妙に軽く、それでいて結構レスポンスは良いから少し慣れないと妙に下品な走行に成ってしまう。それでは走行モードを Dymamic にすると如何かと言えば、先ず極端に軽い操舵力が‥‥んっ、変わらない? 実はデフォルトの設定では Dymamic にしてもステアリング特性は変わらないのだった。しかし詳細な設定モードにすれば操舵力やレスポンスの設定変更が出来るらしいが、走行中にこれをする事も出来ず、勿論停車して設定する時間も無いので効果を試す事は出来なかった。

次に旋回性能だが、XC60も SUV としては中々の性能だったが、さて XC40 は如何だろうか? 今回のコースは XC60 の試乗時とは全く異なるコースで、途中のコーナーの数も多かったのである程度の確認が出来たが、先ずはアンダーステアは弱くて結構速度を上げても綺麗にコーナーをトレースして行く姿は最近の出来の言い 4WD らしい特性であり、これなら BMW X1 と比べても決して劣っていないと言える。ただし、なぜか BMW のような楽しさは無く、実にニューラルでしかし全く緊張感も無く旋回して行くから、運転スキルが並み以下のドライバーでも安心して走れそうだ。元来ボルボは安全を第一に掲げていたが、フォード時代は肝心のハンドリングが悪く、しかもボディ剛性が低かったから「これの何処が安全なんだ」と言いたくなったが、ここに来てやっと安全云々を言っても恥ずかしく無いレベルになったようだ。

旋回性については結構高得点を稼いだ試乗車だったが、この R-Design というグレードはサスペンションのセッティングがスポーティー寄りのようで、事実その代償として乗り心地はかなり硬く、荒れた路面ではガツンっというよりもガっ、ガっ、ガっと突き上げが来る。まあボディ剛性が高いであろう事は推定できるし、実際突き上げが来てもボディが軋んだりは全く感じられないが、不快かどうかは人其々というレベルで、全てのユーザーが問題無く受け入れられるレベルを超えているように思う。この原因はサスの硬さと共に標準タイヤが 235/50R19 というスポーティーなサイズであることも原因になっているだろう (写真38) 。まあ、このグレードを選ばなければ良いだけで、内装の趣味の悪さと共に R-Design は薦められない。

ところで走行中何やらステアリングホイールが僅かに振動するような気がしたが、ハテこれは何だろうか? と思ったら、その答えはレーンキーピング デバイスの警告だったようだ。しかし別に車線を逸脱している訳ではないのだが、少しセンターラインに寄りになっただけで警告するようで、チョイと余計なお世話的でもある。この辺がBMW との違いで、あちらは完全にレーンを踏むくらいでないと警告は出ないのに、と言いたくなるが、これが両社のポリシーの違いでもある。

最後にブレーキについては軽い踏力で良く効くし、そのフィーリングも他の欧州車、すなわちBMW等と比べても違和感は無い。実はボルボの場合、仕様書のブレーキ欄には前後とも単に "ディスクブレーキ" と記載されていて、これを額面通りに受け取れば前後ともソリッドディスクと言う事になるが、まさかこの車重クラスでそれは無いだろう、という以前からの疑問を思い出したので実車のブレーキローターに手を突っ込んで調べてみたらば、フロントはベンチレーテッドディスクでリアはソリッドディスクを使用していた。これは BMW X1 と同様で、しかもそのブレーキキャリパーも鋳物の片押しシングルピストンというもので、更にキャリパーメーカーも何となく同じような気もする。まあ欧州のブレーキメーカー何て世界中に何社も無く、特に欧州勢では VW や BMW が採用しているコンチネンタルが大きなシェアを持っているから、ボルボも同社製を採用する事は充分に考えられる。

と、また余計な事を書いてしまった。そう、普通のドライバー、いや結構なマニアを含めてもキャリパーメーカーまで気にするドライバーは先ずいないだろう。


写真38
XC40はスポーツグレードの R-Design の為に、タイヤは235/50R19というスポーティーなサイズが標準となる。


写真39
ブレーキキャリパーは極普通の鋳物製片押しシングルピストンを使用している。

さてそろそろ結論に移ろう。
と言っても結論らしきモノは既に本文中で出ているが、一応纏めてみると‥‥

XC40 は XC60と比べれば価格差 180万円分の差別はシッカリと付けている事で、これに加えて試乗車のグレードである X40 T5 R-Design のセンスの悪さは、前回試乗した XC60 T5 Inscription のセンスの良さが光っているのとは対照的で、これが本当に同じメーカーか? と言いたくなる状況だった。

しかも試乗車の R-Design は乗り心地も悪く、良く言えばスポーツ志向でハンドリングはボルボらしからぬスポーティーな味付けだが、やはりボルボらしく無い。という事で、XC40 を買うのなら T4 のベースグレード (FWD:389万円) か T4 Momentum (4WD:459万円) が正解だと思うし、少なくとも今回の R-Design (539万円) は薦めない。ところが今のところ X40 は今回のT5 R-Design と更にその上の Inspription しか輸入されていないのが現状で、本来売れ筋の筈の T4 は来年くらいになるらしい。

こんな事をやっているから折角クルマが良くなった割には売り上げが伸びないのだろう。ただでさえ、今でも多くの外車乗りは「ボルボなんて直ぐガタくるインチキ車で、あんなのに乗って馬っ鹿じゃねぇ」と思っているふしがあり、まあ百歩譲ってメルセデスか BMW オーナーに言われるなら未だしも、ワーゲン乗りにまで言われたかぁねぇぞっ!みたいな感じで、これを脱却するには時間と努力が必要になる訳で、輸入元には頑張ってもらうしかない。