BMW X5 xDrive50i (2016/9) 前編

  

最近の SUV ブーム、とりわけ高級輸入車の世界ではメルセデスが GL○としてシリーズを充実させてきたりということもあり、このサイトでも最近メルセデスベンツ AMG GLE 43 を取り上げてみた。それでは GLE クラスのライバルはといえばもう誰が何と言っても BMW X5 であり、現行の F15 タイプについては昨年7月に xDrive 35d 試乗記をアップしているが、これは X5 としてはボトムグレードであるために AMG GLE 43と比較する訳にもいかない。そこで今回はAMG GLE 43と同等クラスの X5 xDrive 50i の試乗記を企画してみた。

先ずはBMW X5 のルーツについて簡単にお浚いしておこう。X5 のルーツはランドローバー車のレンジローバーに行き着く。何故レンジローバーなのかと言えば、BMWが 1996年にイギリスのローバー グループを買収したことで、BMWは3代目レンジローバーの開発を行っていたが、結局日の目を見る前にBMWはローバーをタダ同然で売却してしまった。これにより宙に浮いた開発途中のレンジローバーを元にBMW車として完成させたのが初代X5(E53、写真3) だった。X5 が日本で発売されたのは2000年末で、要するに2001年モデルということだ。このX5は当時の SUV としては驚異的な安定性とサルーン並の軽快なハンドリングなど、従来の SUV のイメージを大きく塗り替えたものだった。ポルシェが同社として初めて、というよりもサルーンを含めて初のスポーツカー以外のモデルである SUV のカイエンを発売したのは2002年だったから、それ以前では X5 は走りの SUV としては独壇場だった。X5 はその後正常進化で 2007年に2代目 (E70、写真4) となり、今回試乗したモデルは3代目 (F15、2013−) となる。

ここで初代X5が販売された2001年というのはどんな年だったかと言えば、21世紀となった初の年でありその世相では小泉内閣が国民の圧倒的な支持で誕生した年だったが、何を隠そうその後の日本は格差社会に向かってまっしぐら。まあ当時小泉内閣を支持した多くの国民が、それが元で今では低賃金に喘いでいる訳で‥‥おっと、こういうのは特別編でやるべきだった。

それならということで、当時クルマを運転しながらFMラジオを掛けていると頻繁にかかっていた曲として MISIA の Everything をボカロ&打ち込みで作ってみた。まあ MISIA といえば現役日本人シンガーでは間違いなくトップの実力だから、これをコンピューターに歌わせようというのは殆ど暴挙だが、まあ気が向いたらパロディーとして聞いてもらおう。

話を戻して、それではレンジローバーの歴史はと言えば初代は 1970年に発売されて 1996年まで生産されたから、そのライフサイクルは何と26年という長寿だった。4WD オフロード車と言えばトラックベースの作業車が当然だった時代に、レンジローバーは高級乗用車としても使用可能なくらいに洗練された乗り心地や内装など、当時はオフロードのロールスロイスとまで言われたくらいだった。従って、このレンジローバーこそが現在の高級 SUV のルーツと言っても過言では無い。因みにレンジローバーの本来の用途は貴族が自分の領地を見回るためだと言われていて、成る程貴族がトラックベースの作業車に自ら乗るというのはチョイと問題があるから、不整地を走る 4WD で乗用車にも匹敵する乗り心地と居住性が必要とされた訳だ。それにしても自分の領地を見回るのにクルマ、それも4WD車が必要ということは自宅の庭は山あり谷ありなのだろうか?

初代レンジローバーはあまりにもロングセラーだったが、それに比べれば2代目は 1995 - 2002年と大幅に短くなっている。そして3代目は前述の BMW 時代に開発中だったモデルを次の親会社であるフォードが開発を引き継いで完成させたもので、エンジンはオリジナルどおりに BMW 製を使用していた。まあ正直言って2代目までのレンジローバーのエンジンは旧式もいいところで、これが BMW 製エンジンとなったことでレンジローバーの魅力は大いにアップしたのだが、結局フォード自体の経営難もありその後また身売りする羽目となって、現在はインドのタタ自動車の傘下となっている。タタ自動車といえば世界最安値で超コストダウンを実施しているクルマであるナノを作っている会社だから、次期レンジローバーもナノの経験を取り入れた大幅コストダウンなんてことも‥‥ある訳が無い。


写真1
初代レンジローバー (1970-1996)
高級SUVのルーツとも言える超ロングセラー。


写真2
2代目レンジローバー (1995-2002)
正常進化の2代目だが、初代に比べればモデルライフは短かかった。


写真3
初代X5 (E53, 2000-2007)
当時のSUVとしては驚異的な旋回性能だった。


写真4
2代目X5 (E70, 2007-2013)
初代からの正常進化だが、よく見れば丸みを帯びたスタイルはより近代的になっている。

さてここで BMW の SUV ラインナップの各代表モデルの諸元を一覧にしてみる。BMW SUV の車名はXとそれに続く数字一桁から成り、サルーンと同様に1がCセグメント、3がDセグメント、5がEセグメントでその間の偶数はクーペタイプとなっている。すなわち X5 はEセグメントの SUV ということになる、って、そんなの誰だって知ってるだろう、とか言っている厨房が目に浮かぶが、まあコレは基本として再確認しておく事は必要だ。

それで一覧表では世間の常識とは逆に数字の大きい方、すなわち X6 から始まっているが、これはこのサイトが金持ち優先がコンセプトであり、それに従ったためであ〜る。また各車種は其々のボトムグレードを代表として掲載している。あれっ? 金持ち優先ならばトップグレードを並べるべきだろう、って、嫌な処を突いてくる奴がいるなぁ。

 

上の表から各セグメントの価格差は X1 (385万円) → 214万円 → X3 (599万円) → 261万円 → X5 (860万円) というようにセグメントが上がる毎に其々200万円以上も高くなっていく。エンジンはベースモデルで比較するとX5 が6気筒3.0Lターボ、X3 が4気筒2.0L ターボ、そしてX1 は3気筒1.5L ターボという具合に排気量、シリンダー数共それぞれに差を付けている。

ところで BMW の SUV は4WDモデルを "xDrive" 、2WDモデルを "sDrive" と表現しているが、実際にsDrive の設定があるのは X1 のみとなっている。しかも X1 は FWD だから BMW のシリーズではチョッと毛色が変わっているし、BMW = RWD と思っている古くからのBMWオーナーやファンからすると、FWD なんて BMW じゃあい、どうしてくれる、という気持ちだろう。まあこれも時代の流れだろうが、少なくとも3シリーズもFWD なんていう時代が来ないことを祈っておこう。

そして最近の傾向として SUV のラインナップにクーペデザインのモデルが増えつつある事だ。BMW では X3 ベースの X4 と X5 ベースの X6 で、確かに SUV といえば無骨なスタイルが定番であり、良さは認めてもあのカッコ悪いのはなあ、何ていうユーザー向けというところだ。それではこのクーペタイプ SUV の価格はといえば同じ 3.0L ターボの xDrive 35i 同士を比べると X5 (860万円) と X6 (922万円) の差は62万円となる。X3 と X4 では xDrive 28i 同士を比べるとX3 (664万円) とX4 (699万円) でその差は35万円だから、サルーンとクーペの価格差などと比べてもまあそんなものだろう。ただし、X4 には X3 に設定されている xDrive 20i (599万円)が無いから、 X4 が欲しい場合は丁度100万円也を余計に必要とする。

ところで、20i と 28i の違いはというと20i の4気筒2.0L ターボに対して 28i では 2.8L ターボ‥‥何て事は無く、同じ2.0L ターボでも出力が大きく、要するに2.8L相当だから 28i と呼ぶ例の手法だ。それで 28i のエンジンは一見同じ排気量でも内部は全く異なり‥‥と言いたいところだが、エンジンの型式をみるとどちらも N20B20A と全く同じで、これは要するに内容も全く同じということだから、制御系の違いということだろう。成る程、それならエンジン本体は同じでも制御用の機器はより大きく高価なもの‥‥ということも無さそうだし、結局電子制御装置 (ECU) の中のメモリーに入っているプログラムが違う‥‥とかいうんじゃ無いだろうなぁ?


写真5
BMW X6
X5のクーペバージョンで、現行Xシリーズでは最も高価格。


写真6
BMW X4
こちらはX3のクーペバージョン。


写真7
BMW X3
名前のとおり3シリーズベースで大きさ、価格ともにX5よりは多少は敷居が低い。とはいえ599万円より!


写真8
BMW X1
BMWのSUVとしてはエントリーモデルとなる。ベースグレードなら300万円代で買える。

ということで、X5 についての本題に入る前の予習が終わったので、次にX5 の内容を細かく見ることにする。続きは中編にて。

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