Lexus RX450h 試乗記 特別編
  [Lexus RX450h vs Porsche Cayenne S E-Hybrid 後編 その2]


特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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走り出すには両者とも極当たり前にセレクターをDに入れて、電気式のパーキングブレーキスイッチをリリースするが、この時 RX は押して、カイエンは引いてリリースとなる。ユックリとアクセルを踏むと両車共にハイブリッドらしくスーッと発進するが、そのスムースで無音に加えてトルク感タップリというハイブリッドらしさでは流石にハイブリッド車の経験がダントツのトヨタの作る RX に勝ち目がある。

公道に出て加速する際にも、また渋滞でユックリ前進する時も、兎に角 20km/h くらいまでのトルク感では RX の圧勝で、モーターの性能も RX はフロント用に167ps 335N-m、リア用には68ps 139N-m という強力なものであるの対して、カイエンでは95ps 310N-m のみという具合に元々モーターの性能がまるで違うのだから当然といえば当然の結果ではある。

両車のパワートレインの断面図を下に掲げておくが、これをみれば両車の違いや構造がよく解る‥‥ と言うには解り辛い図だが、まあ何となくフィーリングで理解して欲しい。

停止や極低速からの加速では RX に分があったが、それでは 40〜50q/h 程度の巡航から加速の必要が出て2/3 スロットル程度踏んだ時のレスポンスはといえば、これもRX は無段変速ということもあるが、マアマアのレスポンスで結構スムースに加速に移る。対するカイエンはと言えばシフトダウンが起こるまでの明らかなタイムラグを感じるのはポルシェらしくない。実はこのクルマに乗る直前までマカン ターボに試乗していたために直接比較してしまったこともあるが、実はマカンのミッションはレスポンスに定評のある PDK だったが、カイエンはトルコン式AT を使用している事も原因だ。

それではシフトダウンが完了してからフルスロットルを踏んでみるとどうかといえば、RX では図体の大きな SUV と考えれば十分に合格だが、低速時の抜群のトルク感から高回転時でもスポーツカー顔負けの強烈な加速と伸びを期待すると、残念だがそれ程でもない。対するカイエンはといえば、低速時のトルク感は RX 負けていたが、高回転域となればそこはポルシェだからグングンと伸びて‥‥と期待したが、まあ RX と同程度だった。RX とカイエンのハイブリッドシステムとしての出力はそれぞれ300ps および 380ps と結構差があるが、車体重量は 2,100 (4WD) および 2,380s とカイエンの重さもありパワーウェイトレシオはそれぞれ 7.0 および 6.3s/ps とカイエンが多少有利だが、モーターの高域特性の違いなどもあるのだろうか、結局は似たようなものだ。ただしどちらも SUV としては決して悪くはないし、カイエンにポルシェらしさを求めるならばカイエン ターボ (1,738万円也!)を選べば良いだけだが、そうなると更に570万円以上の追加投資が必要となる。

両車共走行モードの切り替えスイッチが付いているし、RX にはモーターのみで走行する EV モードもあるが、RX に限らずハイブリッド車のEV モードはバッテリー容量が少ないことから殆ど実用にはならない。やはりこのモードはプラグインハイブリッドで始めて生きるというものだ。カイエンにも似たようなモードがあるが、これも実際には余程バッテリーに余裕があるときでないと直ぐにバッテリー切れとなってしまう。言い忘れたがカイエン S-Eは外部から充電が可能だあり、実際にこのクルマを受け取った時には充電済だったのだが、これをプラグインハイブリッドと言うにはバッテリー容量が少なく過ぎる。

なお両車共スポーツモードを備えているが、まあそこはガサがデカくて重いハイブリッド SUV だから、スポーツモードにしたところで多少は機敏になるが、たかが知れている。ということで、詳細は其々の試乗記を参照願うとして、ここでは詳細は触れない事にする。

走るに関しては両車共悪くはないのだが、特にカイエンについては一千万円を軽く超える価格やポルシェというブランドを考えれば決して満足できるものではない。これが RX となれば価格もカイエンS-Eよりも 500万円以上安いということを考えればこれは文句を言う筋合いではない。これを高校生に例えれば、麻布・開成の生徒が東大を落ちれば親は大いに嘆くだろうが、並の公立高校でW大に合格すれば親も担任教師も大喜び、というようなものだ。

次に曲がるの方はどうかと言えば先ずは両車の車両重量、取り分け元々重量級のカイエンに更に重いモーターやバッテリーを追加したS-Eハイブリッドの重量を考えて欲しい。何と2,380s であり、これは要するに2.4トンである。そう言えば人間でも体重 100s の事を 0.1トンというといかにも重そうに感じるし、昔は百貫デブなんていう言葉があったのを思い出した。百貫といえばメートル法に換算して 375s!だから、実際にそんな人間は居ないだろう。ところで肥満体のことをデブというが、その語源は一節によると英語で二重あご、すなわち "Double chin" を昔の日本人が耳で聞くと ”デブチン” と聞こえたところから肥満体=でぶちん、そのうち省略されて単にデブと言うようになった、ということだ。

まあ RX だって2.1トンだからやはりデブの部類ではある。そしてデブは俊敏な動きが苦手なのと同じように両車共ワインディングロード云々という事は考えないほうが良さそうだ。尤も車重だけなら2.1トンと決して軽くはないカイエン ターボはもっと軽快なステアリングレスポンスだったが、それでも911 (1.4トン) はもとよりパナメーラ (1.9トン) と比べても劣ってはいたから、やっぱり軽量というのは大切なことだ。これは千数百万円のBMW M5 やアルピナ B5 よりも、同じボディでその半額以下の 523i の方が軽快なステアリング特性であることでも証明できる。

走行性能については多くを望むのに無理がある重量級の SUV だが、それでは乗り心地はというと、RX では試乗車が F SPORT ということもあり、欧州車的に固めのサスペンションで路面によっては振動も感じるが、勿論気になるほどではない。しかしあのデッカイボディとコンフォートな車両イメージからすればもう少し乗り心地優先でも良いような気もする。しかしその甲斐もあって背の高さの割には大きなロールを感じないから、これはこれで正解かもしれない。

それではカイエンはといえばこれも結構固い設定であり、大きなボディやこれまたポルシェとしてはコンフォートな性格 (に見える) の割には硬すぎる気もする。というのは、これまたその前に乗ったマカン ターボが硬くて安定している中にもしなやかさを持っていて、その後に乗ったカイエン S-Eがどうもイマイチに感じてしまったからだ。まあマカンは最も上位モデルのターボであり、価格だって一千万円の大台を僅かに超えるくらいだから良いのは当然だのだが、これはマカンの設計時点の新しさもあるだろし、マカンのためにポルシェは専用の工場まで新設したくらいの思い入れと社運をかけたプロジェクトであったとか、色々事情もあるのだろう。

なお RX の標準タイヤサイズは 235/65R18 だが version L と写真の F SPORT では 235/55R20 となる。カイエンは 255/55R18 が標準となるが、勿論各種のオプションが用意されている。

走ると曲がるの次はと言えば止まるとなるが、実は重量級の SUV のブレーキというのは条件としては極めて過酷であり、その理由は勿論重量があるからで、停止に必要なブレーキ力は重量に比例するから、ポルシェの場合なら 2.4トンのカイエン S-Eは 1.4トンの911に対して1.7倍、すなわち7割増しのブレーキ容量が必要となる。これはRX だって同様であり、カイエンよりは軽いとはいえ 2.1トンという重量は世間の多くのクルマと比べれば圧倒的に重量級である。

そこで先ずはブレーキシステムを確認するためにボンネットを開けてエンジンルーム内のドライバーと壁を隔てた付近にあるブレーキのマスターシリンダユニットをみれば、RX はレクサスの、いやトヨタのハイブリッドとして当然ながらフルエレキのブレーキバイワイヤ方式のアクチェーターが見える。この方式はドライバーがペダルを踏む踏力はあくまでもセンサーに必要なブレーキ力を知らせるためであり、実際にブレーキユニットを加圧する油圧はポンプによって発生されているから、その気になれば踏力はいくらでも軽くできるのだが、それでは人間の感覚と合わなくなり寧ろ逆効果ということで、常識的な踏力で動作するようになっている。

今度は両車のホールの隙間から見えるブレーキキャリパー&ローターを比べてみる。写真下のフロントキャリパーの比較では RX には鋳物の片押しだがピストンは2つ付いているのが解る。ようするに片押しとはいえ2ポット (ピストン) だからそれなりに容量を考えているようだ。対するカイエンの場合は見るからに容量の大きそうなアルミ対向ピストンでそのピストンは片側に3個だからこれは6ポットということになる。まあポルシェのブレーキと言えば世界一を通り越して宇宙一と言われるくらいだから、SUV とはいえ、いや重量のあるSUV だからこそ、このバカでかいキャリパーを装着してこれでもかと見せつけている、という感じさえする。

リアについても RX (写真左下) はオーソドックスな片押しキャリパーであり、カイエン (写真右下) はリアにも関わらず2ポットの対向ピストンだ。それでも RX のリアは他の国産車よりは少し大きめなのはやはり絶対的な重量が重いと共に、後軸付近に重いバッテリーやリアモーターを積んでいることからくる前後重量バランスの均等化も理由の一つだろう。前項で良い忘れたが背の高いSUV、しかもトヨタのクルマの割には旋回時のバランスが良いのは、重量物を低く前後の重量バランスも良いことが大きく効いているのだろう。言い換えればハイブリッド化はセダンよりもSUV の方が向いていると言う事になる。

それでは一番肝心な実際の効きはといえば RX はフルエレキだから当然軽い踏力で良く効く。最近のトヨタのフルエレキのブレーキは初期に比べて増々違和感がなくなってきたから、何も言われなけれは自分が踏んでいる力でマスターシリンダーを押してブレーキを掛けているような感覚で、一般のドライバーはそんな機構であることは全く気が付かないだろう。対するカイエンはポルシェらしく少し重めの踏力で、踏めば踏む程効いてくる。走ると曲がるはどちらかと言えばコンフォート系の味付けを感じるカイエンだが、ブレーキに関しては譲れないところだったのだろう。

なおハイブリッドといえば回生ブレーキだが、RX が低速で軽くブレーキを踏むとクィーンという地下鉄みたいな音とともに減速度を感じるのに対して、カイエン S-Eでは回生制動らしき挙動は殆ど感じられない。この面でもやはりトヨタとポルシェでは技術的に大きな差が付いているのは圧倒的な経験の差だろう。

さて結論だが、もう既に何度も述べてきたようにこの対決に関してはどう考えても RX450h に分がある訳で、天下のポルシェに対して真似っ子会社の代表みたいなトヨタがオリジナリティをフルに発揮してアドバンテージを持てる2つだけの分野、すなわちハイブリッドと SUV が一つになっているのだから、これは強い訳だ。それでもカイエンにはレクサスには無いステイタスもあるから、なおもカイエンの方を選ぶユーザーだって当然いるだろう。まあ、そういうユーザーはどうせ償却が終わったらさっさと買い換えるだけの法人ユーザーだし、そういうユーザーがいるからこそこの手のクルマが成立しているわけだか、これはこれで貧乏人がとやかく言う筋合いではないと自覚して、貧乏人である B_Otaku はこれ以上何も言わないことにする。

結局いくら老舗の蕎麦屋と言えども、ラーメンを作ったらば人気のラーメン屋には歯がたたない、というのと同じだから、結論としては「カイエン ハイブリッドとかけて、老舗蕎麦屋のラーメンと説く」ということで、お後が宜しいようで。えっ?落ちがない? その心は‥‥うーん、良いのが思い当たらない。読者の中でこれこそはという自信作があったらば、是非ともメールで知らせていただきたい。