BMW M4 Coupe (2016/1) 後編


  

ドライバーズシートの座り心地は例えば 420i 、いや335ï などと比べても一ランク上という感じだが、さりとて体をガッチガチにマルでギブスを付けられたように固定するレーシングスタイルという訳でもなく、ストリートユースとしては調度良いところだ。逆にレーシングカーを彷彿させるようなモノを期待すると落胆することになる。前方視界も充分でボンネットの先端も確認できるし見切り良いが、これも非現実性を期待するのはやめた方が良い。シートの調整はそのまんま3シリーズだから、シートのベース側面にある何時ものスイッチを使用するのも新鮮味は全く無いが、BMW を知っているドライバーならば何の異和感も無く使用できる。

エンジンの始動はこれまた何時もの位置にある、何時もの丸型で上部にはアイドリングストップ機能のキャンセルスイッチが付いたBMWに共通のスイッチを押すと普通に目覚めてアイドリングする。そのアイドリングも多少ラフで如何にも高性能エンジンというものではなく、高級車のアイドリングという感じだ。発進するためにコンソール上の AT セレクターを見ると、ここで始めて420ï などとは違いレバーが短いのに気が付くし、そのレバーの上部に表示されるパターンも全く違うことが判る。この部分は旧M5 などから受け継がれたMモデルのセミオートの伝統に従っている。まずはPポジションが無く走り出すには行き成り右に押すとDとなる。従って停車する時は左に押してN であり、更に上に押してRとなるなど、これはチョイと成れが必要だ。この場面で始めてこのクルマが ”本物” のMモデルであることを思い出す。

なお、この M4 は同じ2ペダル MT でも旧M5 のようなシングルクラッチのセミオート (BMW では DSG と呼んでいた) ではなく、今流行の DCT 方式 (BMW では M DCT Drivelogic と呼ぶ) であるところが大いに異なる。試乗車はその DCT を搭載したモデルのために、MT (1,075万円) よりも51万円高い 1,126 万円也の正札が付く。

ブレーキペダルを踏んでセレクターをDに入れ、これも 420i と全く同じパーキングブレーキレバーをリリースして発進するが、以前のDSGとは異なり特に意識すること無く発進できる (写真35) 。ここでペダル類について補足するとペダル自体はBMWらしくとても一千万円超のクルマには見えないショボイ見かけのものだが、そのブレーキペダルの踏面形状は逆三角形で面積は小さくマルでポルシェのようだが、これはヒールアンドトウ (H & T) をするのには実に都合が良い (写真32) 。とはいえこのクルマは2ペダルだからH & T をする事は無いが、更にペダル配置を見ればブレーキとその左側のフートレストの間は大きく開いている事に気が付く。要するに MT の3ペダルからクラッチペダルを取っ払っただけというわけだ。従って恐らくクラッチペダルのリンクをエンジンルーム内のクラッチマスターと繋げるための穴が開いていて、DCT モデルではこれにブランクパネルが掛かっているのだろう。


写真31
BMW に共通の位置と形状のスタートスイッチ。


写真32
例によってショボいペダル類。MTと共通のようで左にはクラッチペダルのスペースがある。


写真33
M モデル独特のDCT 用セレクター。


写真34
マニュアルシフト用のパドルスイッチ。


写真35
セレクター以外は 420i と殆ど同じ。勿論パーキングブレーキレバーも同じ。

最初に駐車場内を移動するためにユックリと発進してみると、特に意識しなければ DCT とは気が付かない程度に自然に発進するのは技術の進歩か。まあ、他社のDCT でも今時発進時にクセのあるようなものは無くなってはいるから、M4 クラスなら当然でもある。今回のディーラーは駐車場から出たところの公道は一級国道ではあるが片側一車線の旧道のために流れ自体はせいぜい 50 km/hくらいだから、公道に出た直後も1/2 スロットル程度で加速してみる。この時の第一印象はパワーウェイト (P/W) レシオ3.7ps/kg は伊達じゃあない、ということだ。ただし P/W レシオに関しては先代の E92 M3 とはそれ程変わらないが、E92 の最大トルク 400N-m/3,900rpm に対して新型は 550N-m/1,850-5,500rpm で、これは絶対値も大きいが何より発生回転数の範囲が広く、1,850rpmから最大トルクを発生するという特性もあり、実感としてはちょっと踏めばグイグイと加速するのが感じられる。

ところで M4 の P/W レシオ 3.7 kg/ps というのは他車で言えばどのくらいかといえば、ポルシェ カレラS の 3.6 kg/ps とほぼ同等で、同じ 911 系でもスタンダードのカレラだと 4.0 kg/ps となるから、兎に角数値上は充分過ぎるくらいの高性能だ。だからBMWのセールスとしては 1,500万円のカレラS に比べれば7割で買える超お買い得品でっせぇ、というトークで数値でしか判断できないユーザーを騙して説得して見事にご成約と相成る‥‥筈だ (その点 b-otaku.com 読者はチョイと手強いぞ) 。

最近のクルマは走行モードの切り替えが付いているのが当たり前になっているが、M4 の場合は他車とはちょいと違う。先ずモード自体がステアリングとエンジンが別になっているし、更には AT 時のシフトポイントの変更も別になっている。そのスイッチはコンソール上のATセレクター右横にある3つの押しボタン (写真36) で、上からエンジン、ダンパー、ステアリングの各特性を変えることが出来る。なお、写真では2つ目のダンパー切り替えがブランクパネルとなっているが、これはオプションのアダプティブMサスペンション (28.5万円) を装着することで使用できる。さらにもう一つ、M4 の場合は AT セレクターの手前にあるスイッチでシフトスケジュールの変更も出来る (写真37) という具合に其々完全に別に設定することが出来るから、エンジンは普通でいいがステアリングはスポーツで、みたいな事が可能となる。

それでは先ずは一番奥のボタンでエンジン特性をスポーツにしてみるとここで劇的にレスポンスが、と言いたいところだがノーマル (正式にはコンフォートモード) でも充分過ぎるレスポンスのエンジンを一般道の試乗で違いを本気で試すような場面はある筈もなく、まあ確かに反応は良くなったというくらいしか言いようが無い。次にAT セレクターの手前にあるシフトスケジュールのモードスイッチを押してみると、これは 420i 等のスポーツモード時のシフトスケジュールみたいなもので高回転側を使用するようになるのだが、そもそもこのクルマのミッションは本来がセミオートである DCT であり、スポーツ走行というならばマニュアルモードを使用して、高回転を維持したければ自分でシフトタイミングを変えるべきで、AT モード (Dレンジ) 走行はあくまでも簡易的なイージードライブと割り切るのが本来だ。と建前を言ってみたが、クルマに一千万円も投資できるユーザーが皆本気のクルママニアという事は無く、多くのユーザーからすれば高性能はハッタリだったりするから、ATモードのスポーツスイッチは必要なのだろう。この辺がポルシェ911との違いで、こちらは本当のマニアなら相当な無理をしてでも買ってしまう例もあるが、それでも最近はポルシェですら年々大人しくなる傾向だから、本物のマニア達は嘆いていることだろう。


写真36
M モデルはモードスイッチも独特で奥がエンジン、手前が操舵特性を変更する。


写真37
シフトスケジュールの切り替えはセレクターレバー手前のスイッチを使用する。

今度は前述のように M4 としては本命のマニュアルモードを使用してみる。このモードに入るにはセレクターをDレンジから右に押すか、Dレンジのままでパドルスイッチを操作する事でもMモードになるが、こは数十秒経過の後にDモードに戻るという動作は全てトルコン式のBMW各車と同じ作法だから BMWオーナーなら全く違和感はない。それで肝心のシフトレスポンスはといえば、やはりトルコンに比べて圧倒的に良く、ここは流石に本物の M という感じだ。BMW のトルコン車のマニュアルシフト自体はトルコンとしては最もレスポンスが良い部類だが、やはりそこはDCT との違いを見せ付けられる。

尤もDCT 自体はフォルクスワーゲンのように一般的なクルマにまで採用している例もあるから、BMW だってMモデルのみ何てケチな事を言わずにもっと採用車種を増やせよ、という気持ちもあるが、そのフォルクスワーゲンはDCTのコストダウンを狙って乾式を採用したらば見事に大外れでリコールの嵐となってしまったから、結果的には BMW の選択は正解だったとも言える。

ここで気になるのは同じく DCT であるポルシェの PDK との比較だが、流石に M4 は PDK 程のレスポンスは無い。M4 が高性能スポーツらしいレスポンスとすれば、911 (とボクスタ−/ケイマンも) はレーシングカー並であり、やはりエンジンを後ろに積むようなクルマはポリシーが違うということだ。

運転中に最も視界に入る機器であるメータークラスターは基本的に3シリーズと同じものだが、速度計のフルスケール (FS) は 330km/h でその目盛りはリニアになっている。すなわち E60 M5 のように 120km/h までは目盛り間隔が広くフルスケールが同じ 330km/h でも真上は 120km/h くらいになっているのとは違う。当時の試乗記で走行中の写真を掲載し、この時わざと針がほぼ真上にある事が判るようにモザイクを掛けたところ、案の定あの位置なら160km/h以上の筈だと騒いでいた奴が居たというが、勿論引っ掛けを狙ったものだからコチラとしてはしてやったり、という気持ちだった。そして回転計はといえば、これも高性能エンジンらしく7,000rpm からがイエローゾーンで 7,500rpm からレッドゾーンとなっているが、FSは 8,500 rpm でしかも一般モデルの 8,000rpm のメーターを流用して一目盛りを足しただけだ。因みに先代の E92 M3ではFSが9,000rpm という専用パーツを使っていたが、こんなところまでコストダウンに励んでいる。

写真38
メータークラスターは基本的に3シリーズなどと同じものだが、速度計のFS は 330km/h、回転計も高性能エンジンらしく7,000rpm からがイエローゾーンで 7,500rpm からレッドゾーンとなっている。
また右の小径メーターは水温ではなく油温計となっている。


写真39
マニュアル時はシフト位置が大きな数字で表示される。


写真40
3色のステッチが入ったステアリングホイールやパドルスイッチ等はMとして当然だが420i M SPORT と大きく違う事も無い。

M4 のような高性能な車の場合、エンジン音が如何に魅力的かという事も大いなる興味となるが、さて実際はといえばフルスロットを踏む機会が殆ど無いことから、よく判らなかったというのが本当のところだ。例えば停止もしくは徐行状態から1速でフルスロットルを踏むとあっという間に7,000rpmのイエロゾーンに達し、この時の速度は既に巡航速度となっているし、此処でシフトアップして2速でもフル加速したとするとイエローゾーンではトンデモナイ速度に達してしまう。せめて高速道路なら、3速にシフトアップくらいまでなら何とか合法的な速度内で試せるが、やっぱり一般道では無理があった。それでも一瞬の間の出来事を思い出せば、排気音は大人しくて何だか拍子抜けがするくらいだった。

しかしエンジン音は何もフルスロットルだけでは無く、通常走行時だって気持ちのいい音を発するエンジンもあるわけで、それでは M4で 3,000rpm 前後で 50~60 km/h くらいの巡航をした時はどうだろうかといえば、何だが高級乗用車的な静かささえ感じるくらいで、常にエンジン音が耳に轟く何て事はなかった。まあ、単なる足代わりのスポーツクーペとして 420i でも充分なところを高い金を出して M4 を買うようなユーザーからすれば、エンジン音は静かに越したことは無いのかもしれない。

ここでエンジンルーム内を眺めてみると、”M Power” のロゴとお馴染み ”M” マークが付いたトップカバーが見えるし、何よりも目に付くのはU字型のカーボンファイバー製ストラットバーで、本来は3シリーズ用のボティに 550N-mもの強力なトルクを発生する 3.0Lターボエンジンを搭載するのだから、このくらいの補強は必要だろう (写真41) 。そしてこのバーをストラットタワーに取り付けるためのフランジ自体も恐ろしく頑丈なもので、これ自体タワーの補強を兼ねていると思える (写真42) 。

写真41
直列6気筒 3.0L ターボ のS55B30A エンジンは 431 ps、550 N-m という強力なものだけあって、カーボンファイバーのガッチリしたU字型タワーバーを標準装着している。


写真42
ストラットタワーバーの取り付けフランジ自体も恐ろしく頑丈なもので、これ自体タワーの補強を兼ねていると思える。

高性能車の楽しみといえば動力性能以外ではレスポンスの良さを満喫できるステアリングや、安定した旋回性能と高い旋回速度などがあるが、先ずはステアリングの感触としてはノーマルでは可成り軽くて、とてもでは無いがこれ程の高性能車のモノとは思えないくらいで、気持ちとして心もとないというところだ。それで中心付近の不感帯はといえば歴代 BMW と同等で、要するに多少の不感帯はある。従ってこの軽さとともに運転はし易すく実に緊張感が無いから、これならセレブの奥様 (勿論一部の男勝りのじゃじゃ馬、失礼、活発なマダムではなく) 、要するに普通に運転スキルの大した事の無いご婦人方の足としても充分に適応するだろう。

それでは旋回性能はといえば、今回の試乗コースを考えればハンドリング云々をテストするような場所は当然ながら無いのだが、それでも旧国道や県道・市道ということで多少のコーナはあるから、その少ないチャンスを活かして何とかやってみた結果としては一般的なBMWのイメージのようなニュートラルなものではなく、フロントヘビーが多少感じられるアンダーステア気味のモノだった。だだしこれは M4 に限らずフロントに重いエンジンを積んだ BMW の高性能車に共通していることで、例えば5シリーズの場合ならば M5 やアルピナ B5 よりも523i の方が軽快なハンドリングを得られるのと同じことだ。とはいえ限界自体は相当に高いから、多少のアンダーとはいえ充分な速度でのコーナーリングが可能だが、決して楽しくはないであろうし、そういう事をするクルマでも無い。

ブレーキについては写真44 のようにブレーキに金を掛けない BMW としては珍しく前後にアルミ対向ピストン (オポーズド) キャリパーで M を表すブルーの塗装に M のロゴという見た目の立派なモノを装着している。このようにBMWが方針を変えたのは最近で、先代の E92 M3 ではアルミボディとはいえ片押しタイプを黒く塗ってお茶を濁したキャリパーを装着していたくらいだ。それでは効きはどうかといば、踏んだ瞬間にオポーズドキャリパーと判る少ない遊びとダイレクト感‥‥なんてことはなく、普通のブレーキと変わる処は無い。要するにオポーズド化の最大のメリットは車格なりの見かけを手に入れたことだが、まあこういうクルマはそこが大事な訳で、キャリパーとともに穴の開いたディスクロータ−だって街乗りで、いや日本の高速道路で一体何のメリットがあるのか、なんて言いたくなるがやっぱり穴開きはカッコが良い。


写真43
タイヤはフロント 225/40ZR18 リア 275/40ZR18を標準としている。


写真44
前後にアルミ対向オポーズド キャリパーで M を表すブルーの塗装に M のロゴという立派なモノを装着している。

もう結論は見えただろう。今の M4 は適度なサイズで振り回せるマニア憧れの高性能車ではなく、ラグジュアリーなスポーツクーペで、付加価値として充分な動力性能を持っているクルマ、という立ち位置のようだ。勿論クルマ好きのオーナーが偶には少しその気になって振り回してもそれなりの良さはあるとは思うが、それが目的ならばもっと適したクルマは他にある。

そうは言っても M4 といえばやはりマニアからすれば重大な関心のあるクルマでもあり、此処はポルシェ 911 との比較を避けては通れそうもない。ということで以下のような企画を立ててみた。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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