Subaru Levorg 2.0 GT-S (2016/2) 後編 |
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スバルのシートといえば前編でも取り上げた不滅の名作3代目レガシィ GT (BH) でも、最初にシートに座った途端にガックリとくるような座り心地の悪さに唖然としたものだ。なにしろ体を全く支えないから不安定この上ないし、見るからにセンスの悪いシート表皮はよく滑るから増々体はズルズルと動き出し、その後の走行では走りの良さと共に腰の痛さまで感じるというオマケ付きだった。まあ言ってみれば、中々の美人でスタイルも良いオネエサンがファッションセンスが全く駄目で、殆どオバちゃんルックといえる服装で、せめて人並みのファッションだったらなぁ、なんて思うみたいなものだ。 そのスバルのシートも流石に最近は改善されてきて、何とか世間並みくらいにはなったから、前出のオネエサンに例えれば一流のファッションとは言わないまでも、シ○ムラで一番新しいデザインのモノを買うようになって、これなら都会の先端から1年遅れ程度にはなっているという状況だ。 イグニッションのスタートはダッシュボート右端にある丸いボタン (写真31) を押すとエンジンが始動してアイドリングを行うが、水平対向独特のボロボロという音が聞こえる‥‥事も無いのは、今時の新型車なら当たり前だが、300ps の高性能エンジンという雰囲気は感じられない。AT セレクターは直線式で、これをカチカチとDまで引っ張ってその手前にあるパーキングブレーキスイッチを下に押してリリースする (写真32) 。そうです、レヴォーグは一丁前に電動式のパーキングブレーキを採用していたのだった。この点ではBMW 3シリーズよりも進んでいるじゃんか、とか思いながらブレーキペダルから足を離す。このブレーキペダルもアルミのスポーツタイプ (写真34) で、これまたBMW よりも遥かにスポーティーでカッコ良いから、運転中にもペダルを見る度に悦に入る‥‥ことは出来ないのは当然で、その意味ではいくら良いペダルを付けても乗降時しか眺められないのがチョイと寂しい。まあ、それでも表面の適度な滑りやすさから右足1本でブレーキとアクセルを同時に操作するヒール & トウには威力を発揮‥‥って、2ペダルだからそれも無い。 このクルマは CVT を採用しているので、発進時にトルコン式のように上手くスリップで吸収するということが出来ないので発進のスムースさは大いなる関心事だが、これについては極自然で何も考えなければ トルコン式では無い事に気が付かないかもしれない。駐車場内をユックリ進んで公道の手前で一時停止して、クルマの流れが切れるのを待つ。やがて目の前からクルマがいなくなりここは右にステアリングを切って公道に進入してみる。直ぐに信号待ちに引っかかり、次の青信号で1/2 程度アクセルペダルを踏み込むが、何となく右足の踏み方とトルクの出方がしっくり来ない。その後も市街地の遅い流れと多くの信号待ちのある地域を走るが、やっぱり低回転域のレスポンスは良くないが、考えてみれば最近のダウンサイジングエンジンはターボとはいえ低回転域から十分なレスポンスで反応するものが多くなったが、少し前にはこのレヴォーグくらいの遅れは当たり前だったのを思い出した。 やがて道も空いてきて前方からクルマがいなくなったところで、20km/h くらいの低速からフルスロットルを踏んでみると、一瞬、いやもう少し長いタイミングで、すなわちハッキリと遅れを感じる頃に回転計の針が上がってエンジンが吹け上がりだした。まあ一度エンジンが臨戦態勢になればそれからは一応は 300ps の大出力だから十分な加速力を得られるのだが、今時のクルマとしてはタイムラグは大き過ぎる。 ここで、ふと思い出したのは、このフィーリングは何処かで覚えがあることだ。と思ってよ〜く考えてみたらば例のベストセラーだったころの BH型レガシィ ツーリングワゴン GR-Bスペックにフィーリングだった。ただし BH の場合は、この遅れのタイミングをガマンすればそこからはグィーンと一気に加速し始めて、言ってみればジェット旅客機が離陸を開始するときにユックリと推力が増していって、あるところからグオーっという怒涛の加速で離陸するような感覚があったが、レヴォーグはそれも感じれれなかった。 |
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ここで考えてみたらば、乗り出してから走行モードの部類を確認していなかった事に気が付いて、早速スポーツモードに切り替えるためにセンターコンソール上に視線を移すが、ここはシンプルそのものでモード切替スイッチらしきものは影も形も無い。そうかぁ、今回からはセンタークラスターに移動しなのかな、とも思って探してみるが見当たらない。それからはステアリングホイールの影になっている部分とかも確信してみたが見当たらない。もしかして、今回からは走行モードの切り替えは無くなった??なんて事がある筈もなく、途方に暮れかかった時にふと目に入ったのがステアリングホイールのスポーク上にゴヂャゴヂャと並ぶスイッチの一つに ”S/I” という文字を見つけたのだった (写真35) 。確か以前に インプSTi に試乗した時も走行モードはSとI だったのを思い出し、このスイッチに間違いないと確信して早速押してみると、メータークラスター中央のカラー液晶ディスプレイには小さくて見難いが見事に ’S” の表示が現れた。 I モードではモアーっと回転が上がるのが S モードに入れたことでレスポンスの悪さは大分改善されるが、遅れが大きいので大きく踏んで回転が上がりそうになったら一度アクセルを緩めないと、今度はドヒャーっと加速を始めて慌てることになる。ということは BH のオーナーからすれば「これこれコレだよ」と思うかどうかは解らないが、兎に角レガシィ ツーリングワゴン GT を現在に伝えているという表現もできる。 そんな事をやっているうちに高速道路の入り口が近づいてきたので、これから先は高速でのインプレッションに移る。先ずはゲートを通って加速車線に向かって 40km/h 弱で走っていると、後続のステップワゴンかなにかが苛ついたようにピッタリくっついて煽ってくる。まあ、そう焦るなって。当方としては加速テストをするためには少しでも速度は遅いほうが良い訳で、別に遵法精神に則っている訳でな無い。いよいよ高速本線と並んだろことでフルスロットルを踏むと、例によってタイムラグはあるものの、シフトダウンとともにエンジン回転が上がりだし3,000rpm位まで上がって 300ps 400N-m のパワー&トルクでグイグイと加速していく。そういえば後ろにピッタリ張り付いて煽っていたステップワゴンはといえばバックミラーで遥か後方にいるの確認できる。 ところでステップワゴン程度なら楽におちょくれるが、もっとシビアに高回転域での特性を試して見ると、確かに4,500rpm くらいまでは一気に伸びてゆくのだが、それ以降の勢いがなくてレッドゾーンの6,500rpmまで引っ張る意味はあまりなさそうだ。この辺が同じスバルの2.0Lターボで、スペック上の最高出力は 308ps と殆ど違わない STi はレッドゾーン付近の高回転域の勢い (トルク特性) が違うのだった。実際にメーターに刻まれたレッドゾーンはレヴォーグの6,500rpm に対して WRX STi は8,000 rpmとなっている (写真36) 。 レヴォーグのミッションは CVT であるが、300ps 級の大パワーエンジンで CVT って? と思ってしまうが、その CVT は走行モードで S# を選ぶと8段変速として動作する。しかし無段変速にはそれなりのメリットもある訳で、それを8速にして使うというのは何とも腑に落ちない面もあるが、実際にやってみると8段というBMW の AT 並の細かい制御になるわけだが、それにも増して感覚的には各段での回転数の変化が本物の8速よりも少ないというか、多少CVT 的なフィーリングも残っているようにも感じたが、まあ気のせいかもしれない。 次にステアリングホイールには立派な (という程でもないが) パドルスイッチが付いているので、今度はAT セレクターをDから右に押してマニュアルモードを選んで見る。さてこの時のパドル操作に対する反応はというと、よく出来たトルコンAT と比べるとやっぱり遅い気がするが、CVT の擬似8速と考えれば十分に合格で、他車の一部にあるようなこんなトロイの誰が使うんじゃい! という程酷くは無いのが救いだった。 |
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回転系は6,500rpmからレッドゾーンで、WRX STi の8,000回転とはエンジン特性がまるで違う。 |
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ということで、動力性能については300ps という割にはイマイチ感はあるが、勿論一般的な常識からすればパワーはあり過ぎという感もあり、これはイザという時の余裕と思えば十分な性能だし、本気で走り云々言うドライバーは兄弟分のWRX STi を選べば良いだけだ。 そこで今度は操舵感に話を移そう。レヴォーグ 2.0GT のステアリングは I モード(ノーマルモード) の場合市街地では異様に軽くて中心付近のセンタリングも弱くてシャキッとしない。それでも高速道路で80 km/h くらいからは多少は重くなるしセンタリングも少しはしっかりする。Sモードでは市街地でもIモードとはハッキリ違いが出るくらいに変化するがそれでも未だ操舵力は軽めで、調度良くなるのは高速道路走行時だった。 SUBARU といえば以前から乗り心地の良さに感動する事が多かったが、今回のクルマは 2.0GTということもあってやはりサスペンションは硬めの設定となっているようで、驚くほどのしなやかな乗り心地という訳にはいかなかった。そう言えば今までの試乗でも絶妙な乗り心地を感じられたのはスポーツモデルではなくパワーも低めのコンフォートグレードだった。 それでは今度はコーナーリングの特性を探ってみる。これは何時もの慣れたコースを使うために高速道路を降りようと本線から離れて料金所に向かうランプウェイの急なコーナーを回ることになるが、折角だからここでも少し速めで進入してみると、出来の良いFWDモデルの代表であるフォルクスワーゲン ゴルフGTI 並とは言わないが、多少のアンダーステアは感じるものの結構素直に曲がって行く。その後の何時ものコースを走った結果も同様で、アンダーステア自体は少ないのだがワインディングロードをガンガン攻めて楽しい、という部類ではない。それでもこのクルマの性格からすれば丁度良いところだろう。 ところが、ここで一つの疑問が湧いてきた。同じレヴォーグでも簡易試乗記で扱った1.6GT では弱アンダーの特性は同じにしても、もっと素直で楽しめるコーナーリング特性であり、これから想像した時は更にパワーのある2.0GT だったら尚更良いだろう、と書いた覚えがあるが、今回実際に2.0GT に試乗してみたらば、何と軽快性では1.6GT に負けているし、楽しさでも1.6GT が上回っている感さえあった。そこで両車の車両重量を比べてみると 2.0GT の方が 30kg 重かった。たったの 30kg とも思うだろうがエンジンの搭載情況 (写真37) はフロントサスのタワーよりも前、すなわちフロントオーバーハングにぶら下がっていて、1.6L と 2.0L という排気量の差から30kg の重量差は殆どがフロントにぶら下がったエンジン関連部分であろうと想像できるから、先端に30kg のオモリをつけたに等しい 2.0GT が軽快感では1.6GT に敵わないのは十分に納得できるし、この情況は例えばBMW5シリーズの場合でもM5 やアルピナB5 よりも523i の方が軽快なコーナーリングを体験できることでも証明される。 |
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レヴォーグの標準装着タイヤは 1.6GT EyeSight が 215/50R17 で1.6GT-S EyeSight および 2.0GT 全グレードでは 225/45R18 となる。前回簡易試乗記で乗り心地の良さに感銘した1.6GT は今回の 2.0GT-S に比べてタイヤサイズがひとつ下という事も効いていたのかもしれない。この辺がクルマの難しさでありエンジンもタイヤも車格に合ったものが最も良い結果となり、要するに「過ぎたるは及ばざるが如し」ということで、いやまあ昔の人は上手い事を言ったものだ。 レヴォーグのブレーキはスバル車ではお馴染みのフロントに2ポット (ピストン) キャリパーを使用していて、言うまでもなく適度な踏力で良く効く。実は 1.6GT でも同じく2ポットであり、その面では 2.0GT でさえ十分過ぎる程の容量のブレーキを1.6GT にまで使っていることになる。ただし、両車は全く同じキャリパーかどうかは解らないが、写真で見る限りではフロントは共通のように見える。 リアブレーキについては1.6GT のソリッドディスクに対して2.0GT ではベンチレーテッドディスクとなる。ただし1.6GT でも EyeSihgt では2.0GT と同じくリアにもベンチレーテッドディスクを使用している。 と思っていたのだが、何と今現在ではベースグレードの 1.6GT は型録から無くなり、最下位でも1.6GT EyeSihgt となり、すなわちレヴォーグは全てのグレードで4輪ともベンチレーテッドディスクブレーキとなっていた。 | |
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発売当時の1.6GTの試乗でその出来の良さに感銘し、これならパワーに余裕のある 2.0GT だったらどんなに良いのだろうかという期待をしていたが、今回の試乗でこの期待は見事に裏切られてしまった。勿論強力なパワーに魅力はあるが、それ以上に乗って楽しい軽快感が無くなってしまったのでは魅力半減というところだ。まあこの問題は中々難しいところで、大パワーと軽快さを両立させるにはポルシェのような実用性を犠牲にした専用のスポーツカーを選ぶしか無いということだろう。
レヴォーグの場合1.6GTと2.0GTの価格差はEyeSighit 同士を比べると其々277.6万円と334.8万円とその差は約57万円であり、1.6GT のコストパフォーマンスの良さが際立っている。とはいえ、加速命のドライバーにはやっぱり2.0GT を勧めるが、一般的には1.6GT がベストチョイスという結論にしよう。 さて、特別編でのライバル比較をどうするかだが、日記では既に BMW 218i アクティブツアラーとの写真比較を実施てみたが、これは価格を揃えただけで性能や車両セグメントがちょっと違いすぎるとも感じたわけで、さてどうしようかは現在考慮中だ。 -------------------------------------------------------------- 【追記】 検討の結果、特別編の相手役としてはBMW 320d Touringと決定。 ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。特別企画「Levorg 2.0 GT vs BMW 320d Touring」に進む |