Alfa Romeo Giulietta Quadrifoglio Verde (2015/11) 後編


  

ドライバーズシートに座ってみるとアルファロメオというイメージに相応しく低く沈み込むような着座位置‥‥ではなくて、そこはCセグメントの実用ハッチバック車だから極普通に乗用車ライクだが、シートのサイドサポートはサイズ的にもキツ目で、メタポ系のドライバーは圧迫感があるかもしれない。エンジンを始動するためにスタートボタンを探すが見つからない。そこでまさかとは思ったがステアリングコラムの右側面を見たらばキーが刺さっていた。要するに時代遅れなコンベンショナルな金属式のキーを挿入して回すタイプだった。エンジンを始動してみるとアイドリングは静かで安定していて、アイドリングから既に只者ではない雰囲気を漂わせていた往年のじゃじゃ馬的なフィーリングは全く無い。

フロアコンソール上に配置される AT セレクターは P→R→N→D、そしてDから左でマニュアルモードというオーソドックスなもので、これもアルファというかイタリア車らしくぶっ飛んだものを想像すると期待外れとなる。ブレーキペダルを踏みながらセレクターをDに入れるが、このペダルはアルミスポーツペダルで見た目の実に立派なのは、このモデルが高性能版の Quadrifoglio Verde だからだ。パーキングブレーキレバーはコンソール後端のこれまたオーソドックスなレバー式だから、エンジンの始動から発信までの操作機器は全てオーソドックスなものとなっている。


写真31
エンジンの始動はコンベンショナルな金属式のキーを挿入して回すタイプだ。


写真32
ペダルはアルミスポーツペダルで見た目の実に立派なものが標準装着されている。


写真33
AT セレクターのパターンもオーソドックスなものだ。


写真34
パーキングブレーキレバーも、これまたオーソドックスなレバー式を採用している。

このクルマは DCT 方式のためにトルコン方式のように強めのクリープを付けるのは難しいが、ブレーキペダルを放すと極僅かに前進しようとするのを感じる。駐車場から公道へ出ると、ここも流れの速い一級国道で十分距離を置いたはずの後続車が迫ってくるのが見えたから、ここで行き成りフルスロットルで加速するハメになる。そして、その時の加速感は実用車としては十分過ぎる程だが、その昔の GTA などと同等を期待すると裏切られる。まあ1,440s の車体に240ps のエンジンだからパワーウェイト (P/W) レシオは6.0 kg/ps となり、これはスバル BRZ R (86GT相当) の6.1と同等といえば想像は付くだろう。因みに良き時代の最後のアルファである 147GTA セレスピードは 1,390sのボディに V6 3.2L 250ps を搭載していたから PW レシオは5.6 kg/ps だから数字的には Giulietta Quadrifoglio Verde も決して悪くはないが、いまいちジェントルな仕立てなので迫力不足で実際よりも遅く感じてしまう。

ジェントルといえば乾式 DCT によるシフト時の挙動も同じく ”ジェントル” で、以前のGTA は特別としても比較的最近でもブレラやミトのセレスピードのようにシフト時にガツンっという振動は感じられない。まあセレスピードはシングルクラッチでありジュリアの DCT とは比較にならないが、それでもこれまたアルファらしくないとも言える。試乗車は当然ながらマニュアルシフト用のパドルスイッチが装備されているので、今度はマニュアルシフトを試してみる。先ずは加速しながら右のスイッチを引くと多少のタイムラグはあるが大方のトルコンAT よりは迅速にシフトアップが起こる。今度は左のパドルでシフトダウンしてみると、これまたDCT としてはイマイチだが一般的なトルコンAT と比較すれば十分に速いという具合だった。それよりもD (AT) モードで感じたのと同様にシフトショックが少ないのはアルファとしては進歩だが、あの出来の悪いセレスピードを微妙なアクセルワークでスムースに繋げる楽しみに対して、誰が乗ってもスムースにシフトできるなんていうのはマニア的にみると退歩と言いたくなるかもしれない。

Quadrifoglio Verde にはATセレクターの右前方辺りにモード切替スイッチが付いていて前方から Dinamic、Normal、All weather の3つのモードが有る。Sport と言わずにDinamic なんていう名称にするところはアルファらしいが、このスイッチを前方に押すと Daynamic モードに切り替わり、正面のメータークラスター中央部のディスプレイには 「dina」と表示される。これにより今まで1,500rpm くらいで巡航していた回転計の針は2,000rpmくらいまで上昇するが、その後の走りは意外と大人しく少し加速した後はシフトアップされてしまう。アルファのダイナミックモードなんていう名前からしたら3,000rpm 以上でもシフトアップ無しで高回転を維持するくらいを期待するのは間違いだろうか。

アルファのようなクルマは加速性能自体も大切だがそれ以上に加速時のエンジン音にも注目したい。前述のGTA を例に取れば常にヴォーっというかゴーっというか、マニア心をくすぐる音が聞こえていたが、今回のジュリエッタはフルスロットルを踏めば辛うじてアルファらしき音が聞こえるが、まあ何とか再現しようという努力は感じるものの、以前の音を知っていれば全く比較にならないくらいに静かだった。


写真35
モード切替スイッチは前方から Dinamic、Normal、All weather の3つのモードが有る。


写真36
パドルスイッチは見るからに立派‥‥ではなく実用本位だ。

写真37
アルファらしく独特なセンスのメーター類ともいえるが、しかしそれも中途半端で、これぞアルファという程ではない。

ここでチョイとエンジンルーム内を覗いてみよう。そこにはサスタワーより前方、要するにフロントオーバーハングに横置きエンジンがぶら下がっている。このエンジンは4気筒 1.75L ターボで240 ps、340 N-m という性能だが、これを147GTA と比べて見ればアチラは250ps、300N-mだから Quadrifoglio Verde はパワーでは多少劣るもののトクルでは10%以上も優っているわけで、何と事実上は性能的に近いスペックだった。その割には同じ V6 3.2L エンジンを147GTA よりも 100s 以上も重いボディに積んだ 156 GTA スポーツワゴンでも、その加速性能は今回の Giulietta Quadrifoglio Verde よりも圧倒的に優っていた記憶があるのはやはり自然吸気の素直なレスポンス故か、それとも味付けの上手さ ( Quadrifoglio Verde からみれば下手さ) なのか?

それで話をエンジンルーム内に戻すと、そのエンジンはカバーの一部が派手な真っ赤に塗装されて、更には ”Alfa Romeo” のロゴと共に ”1750i TURBO BENZINA" という文字が何れも白で書かれている。う〜ん、中々のイタリアンテイストだ、なんて言ってる君はあまーい! これは前述のGTA用だった V6 3.2L エンジンの惚れ惚れする眺めに比べれば、こんなのアルファじゃあない! というレベルなのだ。

ところで 1,750cc というエンジン排気量は1960年代に大いに売れた名車であるジュリア 1750GT にあやかったモノだが、きっと1.8L エンジンで名前だけ1750 と言っているのかと思ったら、本当に1,750cc (正確には1,742cc だが) だった。

エンジンルーム内を見ているついでに車両左側 (写真では向かって右側) のボディとの隔壁付近を覗くとそこにはブレーキのマスターシリンダーやバキュームブースターが見えるが、このクルマは右ハンドルだから、要するに以前からのアルファ同様に左ハンドル用のブレーキマスターをそのまま流用して右の運転席のペダルから長〜いロッドを介して力を加えている事になる。この結果ブレーキフィーリングはといえば‥‥この詳細は文末にて触れることにする。

写真38
4気筒 1.75L ターボ 240 ps、340 N-m エンジンはサスタワーより前に横置きされている。


写真39
エンジンはカバーの一部が派手な真っ赤に塗装されて、更には ”Alfa Romeo” のロゴと共に ”1750i TURBO BENZINA" という文字が何れも白で書かれている。


写真40
ブレーキのマスターシリンダーやバキュームブースターは左ハンドル用をそのまま流用して右の運転席のペダルから長〜いロッドを介して力を伝えている。

動力性能についてはまあ四葉のクローバーとしては決して十分ではないが、そのフィーリングが大人しいことで大分損をしている傾向もあった。さてそれでは旋回性能はどうだろうか? 本来戦後のアルファロメオは動力性能自体はそれ程傑出しているクルマではなく、むしろその魅力はニュートラルな旋回特性にあった。例えば1972年に発売されたアルフェッタはトランスミッションをリアデフと一体化して重量配分を理想化したトランスアクスル方式を採用し当時絶賛されたのを思い出すが、それ程までにして重量配分に拘ったアルファがいつのまにやらトランスアクスルどころか FWD に変身して、フロントアクスルより前方にエンジンをぶら下げてしまったのは、まるで熱心なクリスチャンが突然ナンミョーに入っちゃったようなものだが、まあこの話はその内特別編ででも詳しく述べることにする。

それでステアリングはといえばアルファのイメージからすれば極普通のクルマで拍子抜けする。やはりFWDの癖は多少感じるが普通のFWD 車と思って乗れば大きな不満もないが、VW GOLF GTI に比べればアチラはよりニュートラルで旋回速度もより速く安定したコーナーリングが楽しめるという具合に、明らかにに差がついてしまう。要するに中途半端で以前の GTA のようなドアンダーを強引に手懐(てなず)けるようなマニアックな物ならGOLF とは別の判断基準が働くのだが、中途半端にマトモな特性を狙ったら何だか特にメリットも個性も無いクルマになってしまった。

ブレーキについては前述のようにマスターシリンダーが左ハンドルと共用のために反対側に付いていて、右側のブレーキペダルから長いロッドで力を伝達していて、この方式は147でも同様だった。このために147 のブレーキはブカブカでフィーリングは最悪であり、オーナーになったらば先ずは摩擦係数の高いパッドに入れ替えて少しでも改善することを期待するのだが、それでも大して向上はしなかった。さて、その極悪フィーリングだった方式は今回のジュリエッタではというと、良い具合に改善されていて、何も知らなければ普通のブレーキシステムだと思う程度になっていた。そしてホイールから覗くブレーキキャリパーはフロントに Alfa Romeo のロゴの入ったブレンボ製4ピストンを採用している。アルファでもこの手のキャリパーが付いているのは 147 時代ならばGTA だったから、やはりこの Giulietta Quadrifoglio Verde はGTA に近い位置付けなのだろう。


写真41
タイヤは 225/40R18 と 1.4L モデルと同じという大人しさだが、ホイールはGTA を彷彿させるデザインとなっている。


写真42
フロントには Alfa Romeo のロゴの入ったブレンボ製4ピストンを採用している。

ということで、スペック的には 147 GTA の後継とも言えそうな Giulietta Quadrifoglio Verde だが、実際にはスペックの割に大人しい性格で、本気で GTA から買い替えしようとするマニアには到底満足できないだろう。しかし Quadrifoglio Verde の価格は425.5万円であり、10年前とはいえ 147 GTA が6MT なら444万円だったことを考えれば、結構近い価格設定となっている。そんな状況だから販売台数も期待は出来ないだろう。今現在の日本におけるアルファロメオ販売は、このジュリエッタとミトだけ!それでディーラーはどうやって食っていくのか、なんて余計な心配もしたくなるというものだ。

結局日本におけるアルファロメオの市場はアルファ命の特殊なマニアを別にすれば、普通の国産車じゃあカッコ悪いし貧乏っぽい。なんか良い車はないだろうかとキョロキョロしているプチセレブの奥様が、同じような仲間たちの集まりに出かける時に乗るクルマ、というイメージだから300万円代に押さえるのは必須だ。ということはジュリエッタでは下位モデルであり360万円の Sprtiva という事になる。360万円といえばプリウスだって上級グレードならそれに迫るような価格だし、もちろん市場にウジャウジャ出回っているBMW ではイマイチ押しが足りないし、1シリーズで行ったプチセレブの会でライバルが3シリーズか何か乗ってきた日には屈辱感で当分立ち直れそうもない。

そういえば、このところ特別編でのライバル比較がちょっと滞っていたこともあり、このジュリエッタをネタに何かと比較することで上記のような話題を突き詰めて行こうかとも思っている。

乞うご期待!

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【追記】

検討の結果、特別編の相手役としてはフォルクスワーゲン ゴルフ GTI と決定。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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