Mercedes-Benz (W213) E200 特別編
  [Merdedes-Benz E200 vs BMW 523i 後編 その2]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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既に後編その1にて両車共走行モードをスポーツに切り替えれば充分な動力性能とレスポンスが得られるということに触れているが、そのモード切替はどの様するのだろうか? ということで、Eクラスではコンソール上のコマンドダイヤルの左側先端にある ”DYNAMIC" というスイッチで切り替えできる。対する5シリーズでは同じくコンソール上のAT セレクター右にあるスイッチを使用する。ここで気になるのはEクラスの DYNAMIC スイッチが左側、すなわちドライバーからはコマンドダイヤルの影になって見づらい所に付いていることで、これは5シリーズのようにドライバー側の右に付いているのが普通だろう。

そこで、欧州サイトからLHD (左ハンドル) のEクラスのコンソールの写真を探してみたらば、何と日本仕様と共通だった。ということは本来 LHD 用を RHD にも流用しているのだった。これは日本市場をなめてんのかと思ったが、同じく RHD の英国市場も結果は同様という事になるから、単に生産台数の多い方に合わせているのだろう。

この走行モードでスポーツを選択することで当然ながらスロットルレスポンスは向上するし、ミッションはより高回転側を選ぶから、いくら低回転側から充分なトルクが有るとはいえ駆動軸の減速比が違うのだからその分駆動トルクが増すのは当たり前で、これによりイマイチトルク不足気味の両車ともに調度良いくらいの性能となり、クルマ好きならばスポーツモードに入れっぱなしでも良いのではないか、という気がする。

ただし、スペック上では両車のエンジン性能はかなり近似しているが、駆動系ということになるとトランスミッションが5シリーズは従来の常識からすると不必要なくらい多段の8速だが、Eクラスは何とその上をいく9速AT を装備している。それで実際に走ってみるとどうかといえば、やはり1段追加したご利益は充分に感じられ、特にスポーツモードで細かくシフトが行われるときに常に適度な高回転を維持できているという実感がある。

更に E200 の場合はデフォルトのコンフォートモードでは多少ダルい傾向のあるステアリングが、スポーツモードに入れる事でシャキッとセンタリングが決まり、操舵力も適度に重くなるなど良い事尽くめとなる。

このように随所で近似点の多い両車だが、ドライバー正面のメータークラスターは大いに違っている。下の写真を見るとそれでも大径の2眼メーターは左が速度計で右が回転計という点では同じだし、違いといえばEクラスは自光式メーターのように見えるくらいだ。ところが‥・

下の写真を見ると、特に左下はメーターの配置自体がマルで異なっている。実はEクラスのメータークラスターは全面がカラー液晶ディスプレイであり、メーター類はソフトウェアで表示しているから、言ってみればバーチャルメーターであり、機械式のアナログメーターは一切装備していない。この点は5シリーズとの大きな違いだし、最新のモデルであるEクラスと末期モデルの5シリーズとの違いだ。

次に旋回特性だがEクラスの場合は弱いアンダーステアで決して悪く無いが、5シリーズと比べればあちらはサルーンとしては例外的にクイックな反応とニュートラルな旋回特性という、もうスポーツセダンのお手本みたいなものであり、運転することが好きなドライバーだったらやはり5シリーズを選ぶだろう。メルセデスも最近はBMW をかなり意識して、特にCクラスなどは相当にスポーティーな味付けにしているが、Eクラスともなるとよりコンフォートに徹したチューニングにが成されているようで、結局ターゲットユーザー自体が5シリーズより年配層を狙っているのだろう。言ってみればジジイのEクラスとアンちゃんの5シリーズというところだ。おっと、アンちゃんじゃあ5シリーズは買えないが‥‥。あれっ、ジジイでも買えないって? 確かに生活保護以下の年金支給額じゃあ E クラスどころかアルトだって買えないよなぁ。

実は 523i はエンジンが小型軽量であることから5シリーズの中でも最も旋回性能が良いのだという事は既に述べたが、この旋回性能は1千万円以上も価格差のある M5 やアルピナ B5 よりも明らかに上回っていて、今更ながらフロント荷重が小さいことが如何に重要かという事を認識するところだ。それならエンジン自体をフロントに置かなければ一番良いということになり、実際にレーシング専用車は半世紀以上前からリアミッドシップにエンジンを搭載するのが常識であり、少なくともルマンカー等と言われるマシンでフロントエンジンというのは存在しない。(実はミッドエンジン車のメリットはもっと他にあるし、フロントが軽すぎるデメリットもあるのだが、まあ今回はしらばっくれておく)

ここで両車のボンネットカバーを開けてエンジンの搭載状態を比較すると、やはり5シリーズの方がエンジンが後方に搭載されていて、BMWでは当然のフロントミッドシップ的なレイアウトとなっている。これに比べれば E200 は同じく4気筒の短いエンジンを敢えてある程度前方に搭載している。旋回方向の慣性を少なくするには重量が同じならば重心からの距離が短いほどモーメントは少なくなり、重量配分とともにこの慣性モーメントの少なさが大きく効いてくる。したがって5シリーズの運動性能の良さは当然といえば当然なのだった。

タイヤのサイズについてはその昔、といってもホンの十数年程前までのことだが、メルセデスとBMW はタイヤに関するポリシーが大いに違っていた。メルセデスの場合はどちらかと言えば細目のタイヤで言い換えれば適正サイズを頑なに守っていたし、ホイールも基本的にはスチールでホイールキャップを付けるという出で立ちで、アルミホイールなんて格好だけのモノは必要ない、というスタンスにさえ感じたものだった。これに対してBMW はより太くて大径のタイヤを使用する傾向があったし、ベースモデル以外にはアルミホイールを採用したのも早かったし、なによりオプションでより太くて大径の組み合わせを用意していたり、M SPORT なんていう異常に太いタイヤを標準装備したモデルを発売したりと、言ってみれば見掛け勝負のモデルを平気で取り揃えていた。

例えば 2000年頃に発売された3シリーズ (E46) の318i M Sport は 1.9L 118ps のエンジンに対してフロント:225/45R17、リア:245/40R17 というオーバースペックに程がある、と言いたいようなサイズを装着していて、幾らなんでもそりゃあやり過ぎだろうと思っていたが、市場では大いに歓迎されてE46 後期では販売されるモデルの半分以上が M Sport なんて事になってしまった。結局この成功は後に流石のメルセデスも追従せざるを得ず M Sport に対する AMG Sport なんていうグレードを作ってしまったし、レクサスでは F Sport なんていう殆どそのまんまパクったようグレードを作るしで、結局これはBMWの勝ちだった事になる。まあそれでもメルセデスが最善か無かポリシーを続けていたのならば、意地でもそんなモデルは出さなかったと思うが、コストダウン路線に失敗し、クライスラーを吸収して失敗し、SBC (ブレーバイワイヤ) でも大リコールとなり‥‥という情況から脱出するためには何でもやるしか無い‥‥という情況だったのだろう。

それで今回の試乗車だが EクラスのグレードがSPORTということで写真左下の細いスポークの大径ホイールを履いていて、これにはご丁寧に ”AMG” のロゴまで鋳込まれていた。という事なので5シリーズの方も条件を揃えるために M SPORT の標準装備品を並べてみた。勿論どちらもスタンダードグレードならばもっと大人しいホイールになる。

ブレーキについては試乗記本編や日記などで何度も述べてきたように、E クラスがフロントに見るからに立派なアルミ対向ピストンキャリパーを搭載しているのに対して、5シリーズは相も変わらず片押しキャリパーを使っている。まあ BMW の場合は昔からブレーキには金を掛けないのがポリシーなのだから今更とやかく言う事も無いが。

以上Eクラスと5シリーズという世界のアッパーミドルカーの最高峰の、その中では最も動力性能の大人しい、というか価格的にもボトムとなる両車を比較してみたが、ここで他のエンジンバリエーションもチョイと見てみよう。

先ずはディーゼル車であり、これも両車共4気筒 2.0Lターボディーゼルでパワー、トルク共に概ね等しい値となっている。そして上級モデルとしては 3.0〜3.5L ターボの 300ps 超えの高性能モデルも当然ラインナップされている。なお更に高性能となるとV8搭載モデルが考えられるが、Eクラスの場合はベースモデルが発売されたばかりなので未だAMG ブランドは発売されていない。何れは例によってドッカンパワーのモデルも販売されるだろう。そして5シリーズの方は V8 搭載モデルとして 550i と更に高性能が欲しければ M5 もある。

ではこの2車のラインナップで一番買いやすい、要するに価格の安いのはといえば 523d となる。E セグメント車の場合、殆ど全てのラインナップが本革シートやレザーコンビの高級インテリアであり、ファブリックシートのベースモデルはといえば 523d しか無いという情況だ。

その 523d の599万円という価格はマルでスーパーのタイムサービスみたいな値付だが、今や 320d M SPORT が 551万円もする時代に、多少内装に金を掛けていないスタンダード仕様とはいえ、599万円というのは絶対に買いだと思う。まあ、この辺は考え方次第だが、ハッキリ言って3シリーズと5シリーズでは車自体の根本的な金の兼け方が違う。

ところで国産プレミアムブランドであるレクサスの誇るEセグメント車で、米国ではEクラスのライバルである (と日本の自称知識人が信じている) GS の価格はといえばイッチバーン安い GS 250 が551.7万円だった。何っ、もうちょいで 523d が買えるじゃあないか。しかも GS250 は時代遅れの自然吸気 V6 2.5L モデル搭載だ。

そういえば最近街中でもGS は滅多にお目にかかれないが、確かに「誰が買うんだ?」状態だ。
だめだ、こりゃ。