Porsche 991 Phase2 (2016/5) 後編


  

電子キーをダッシュボードのキースロット (写真32) に差し込んで右に捻ると、一瞬のクランキングの後に回転計の針がビョンと上がると共にヴォンという高性能を予感させるエンジン音を伴って目覚めた。先代 997 までの態とらしいが如何にも高性能車という感じのワクワクするような振動を伴うアイドリングは 991 Ph1 では望むことは出来なかったが、この Ph2 では何と 997 のフィーリング復活した‥‥という事態を期待したが、それは叶わぬ望みだった。

セレクターをDに入れてゆっくりとは発進してみると、DCT タイプとはいえ最近の PDK の躾の良さはトルコン AT 並とは言わないまでも十分にスムースで殆ど違和感は無い。先ずはデフォルトのモードのままで、国道とはいえ片側1車線の旧道を流れに乗って走ってみる。1/2 くらいスロットルを踏んでみると、自然吸気 (NA) の Ph1 よりも明らかに強力なトルクを感じる。しかもレスポンスが極めて良いから尚更トルクフルに感じる。

ところで、ここまでは特にモードスイッチなどは操作していないから全てデフォルトであり、おそらくノーマルモードでの走行だろう。と思って、それならスポーツモードにしたらばどれだけ過激になるのだろう、という期待と共にコンソール上の切り替えスイッチを探すが‥‥それらしきモノは無い!そういえば、乗り込んで最初にコンソールを見た時に妙にスイッチ類が少ない (写真33) と感じていたのだが、ハテ、走行モードの切り替えはどうするのだろうか? もしかしてモード切替はオプションでありこの試乗車には付いていない?? いやカレラSに付いていない訳がない。

そういえば最新のスバル車もコンソール上にモード切替スイッチが無くて、何とステアリングホイールのスポークに組み込んだあったが、もしかして Ph2 もスバルと同じなのかぁ? そこでステアリングホイールのスポークに目線を移すと、なっ、なっ何と、小さい回転式スイッチに小さい “S" とか“S+" という文字が見えた (写真34) 。そこでこれを右に一つ回してみると、メーター中央のディスプレイにそれらしい文字が現れてスポーツモードになったことを確認できた。しっかし、これを読んだスバヲタさん達は今頃「スバルはポルシェより進んでいる」と騒いでいるだろうなぁ。


写真31
AT セレクターは Ph1 と変わらないが、何故かベースプレートのロゴが “911“ となっている。


写真32
イグニッションスイッチは電子キーをスロットに差し込んで撚るとか、ダッシュボードの底面に付いているパーキングブレーキスイッチなど、Ph1 と変わらない。


写真33
PH1 ではコンソール上にあった走行モード切り替えが見当たらない?


写真34
Ph2 では走行モード切り替えスイッチはステアリングホイールのスポークに移動した。

さて、スポーツモードに入れるとノーマルでもレスポンスが良かったのだから、これはもう過激もいいところで、例えば信号待ちで前車の後ろに停車して、さて前車が動き出してこちらも前進しようとチョイとアクセルを踏み過ぎると、クルマは未だ十分な距離が取れていない前車に向かって突撃しそうになり、おっとっと、とアクセルを離す。そのまま流れに乗って走るが兎に角トルクがあり過ぎるくらいで、Ph1 とはマルで別のクルマに感じる。

こんな情況だから一般道でのフル加速なんて出来るはずも無いが、それでも多少の片鱗でも良いから確かめたいと思い、片側2車線のバイパスに向かう。一般道とはいえ合流は加速車線があり、前後に他車もいないことから止まる寸前くらいまで速度を落としてそれっ、とばかりにフルスロットルを踏んでみると、バックレストに上体が押し付けられる強烈な加速で、1速でレッドゾーンに行く前に既に必要な速度が、それも一瞬で出てしまった。

それにしてもフルスロットルを踏むのが恐ろしいくらいのクルマというのは最近では珍しいが、それ程までに991 カレラS Ph2 の動力性能は過激だった。それにしても Ph1 と Ph2 の数値上のエンジンスペックを比較すると Ph1 の 400ps/7,400rpm 440N-m/5,600rpm に対してPh2 では 420ps/6,500prm 500N-m/1,700-5,000rpm ということで、パワーでは 20ps 差だがトルクに於いては 440N-m と 500N-m で Ph2 は14% アップしている。とはいえ、体感上は十数%なんていうモノででは無く、極端に言えば倍くらいトルクフルと言いたいくらいの違いだ。

そこで Ph1 トルク&出力特性図に Ph2 のものを重ね書きしてみたのが下の図で、Ph2のトルク (赤線) では 1,250prm で 350N-m を発生していて、そこから 1,700prm で最大トルクの 500N-m まで一気に立ち上がり、そのまま 5,000prm までは完全にフラットという特性を持っている。この急激な立ち上がり故に 1,500rpmでも既に420N-m 以上のトルクを発生している。これが Ph1 (黒線) では 1,500rpm 時には 300N-m であり、Ph2 では最大トルクの 500N-m を発生する 1,700prm でも 320N-m と大いなる差が付いている。先ほど倍くらいのトルク感と表現した時はチョッとオーバーに書き過ぎたかなとも思ったが、下の表を見れば2,000rpm では本当にトルクは倍も出ていた。これそこ単なる数字を並べただけのスペックでは全く表現できない事もあるという見本のようなものだし、この特性を見れば両車に大いなる体感上の差が出るのは当然というものだ。

Ph1 カレラSの試乗車にはスポーツエクゾーストというオプションが装備されていて、これをONにするとマフラーからは爆裂音を発して、しかもスロットルオフではパンっ、パンっ、パンっ、というアフターファイヤーの音まで発するという、これで車検が通るのが不思議なくらいの代物で、ある面チョッと気恥ずかしいが中毒にもなりそうな危なさもあり、この時の感覚は今でも忘れられない。そして今回の試乗車のコンソールに並ぶスイッチを見ると、な〜んとあのエクゾーストをモチーフにしたアイコンの描かれたスイットがあるではないか!(写真37)

ということで、市街地の真っ只中だったが躊躇せずにスイッチをONにする。Ph1 ではこのスイッチを入れるとアイドリングからしてレーシングムード満点のドロドロという音が耳に入っていたが、今回のモデルはそれ程でもない。そして加速に入ると確かにあの爆裂音だが、Ph1 程には過激ではない。そこでアクセルと OFF にしてみると確かにパンっ、パンっというアフターファイヤーの音も聞こえるが、これも Ph1 に比べれば控えめだ。この理由を考えてみると先ずはエンジン方式の違い、すなわち自然吸気の Ph1 に比べてターボの Ph2 では排気圧はタービンを回すことで勢いを奪われているから、どうしても過激な音が出にくいということが考えられる。

ただし、Ph1 の試乗車はユーザーに対してデリバリーされる以前に輸入されたとも思えるためにその段階では型式認証が間に合わず、欧州仕様のままで少量輸入車の制度を使っての車検取得をした、と思えばあの過激さは納得できる。そしてもう一つは、流石にあれはやり過ぎだという行政指導かなんかを受けて、Ph1 でも次のモデルイヤーからは少し大人しく変更されていてその流れが続いている、ということも考えられる。とはいえ、Ph2 のスポーツエクゾーストだって世間の常識からすればストリートモデルとしては異常なくらいで、もう走り屋とかヤンキーの兄ちゃんが聞いたらよだれを出す位の代物には間違いなく、こういうところが国産命の走り屋でさえ 911 といえば憧れでもある訳で、BMW のようにヤンキーからすればカッコだけのムカつくクルマという感覚とは大いに異なるところだ。

写真35
911系のアイデンティティでもある5連メーターは Ph1 と変わりはない。


写真36
回転計についてはターボ化により最高回転数が下がった事で、レッドゾーンやフルスケールも下がっている。


写真37
試乗車にはスイッチひとつで爆裂マルラーに変身するスポーツエクゾーストが装着されていた。

動力性能については Ph1 に対して圧倒的な差を付けた Ph2 だが、さてそれでは操舵性はどうだろうか? 実を言えば今回の試乗ではこれを試すような環境も時間もなかったために何とも言えないが、少なくとも動力性能のように走り出した瞬間から明らかな違いがある、という事は無かった。元々 991 では 997 に対してホイールベースが100o 延長されたために旋回時のレスポンスの悪化が心配されたが、まあそれ程の劣化はなくホッとしたのだったが、冷静になって考えればやはり100o のホイールベース延長は切れという面では退化してはいる。それが今回元に戻ったとう印象は全く感じられないのはホイールベースという物理的なファクターはそう簡単にはソフトで挽回出来ないということだ。

実は今回、動力性等と共に乗った瞬間にギョッと驚いたのはブレーキ性能だった。実は試乗車にはオプションの PCCB と呼ばれるカーボンコンポジットブレーキが付いていた (写真41) が、何を隠そう PCCB は今回が初体験だった。カーボンコンポジットブレーキというのは世の中の常識では冷間時の効きが悪いためにストリートで使用した場合には走行開始直後でブレーキが冷えているとかなり効きが悪いという欠点があると言われている。ところが今回の PCCB は走りだした直後から恐ろしい効力を発揮して、ちょいと踏んだだけでもガッと止まるのには、一般道では寧ろ冷や汗モノだった。いくら低速での流れとはいえ前を走っていたクルマが一瞬で停止したのだら後続車のドライバーは肝を冷やしたに違い無い。ルーミラーで確認すると、後続車はその後は大きく車間距離を開けて走行していた。

軽くて喰い付くようなブレーキといえば BMW が思い浮かぶが、こちらはもっと次元が違う効きで、正に背後から巨大な手で抑えられたような、一瞬でクルマが止まってしまう感覚はチョっと例が無い。なおクルマというのは最終的には路面とタイヤの摩擦で止まるわけだが、こんな急激な制動力を掛けられても305幅のリアタイヤは一瞬キュっという音を立てたがスリップする事も無くクルマを停止させた。


写真38
カレラはフロント 235/40ZR19 リア 295/30ZR19タイヤを標準としている。


写真39
カレラSではフロント 245/35ZR20 リア 305/30ZR20 という恐ろしく太いタイヤを標準としている。


写真40
カレラのブレーキは Ph1 同様で前後共4ポットの黒いオポーズドキャリパーとドリルドローターを標準としている。


写真41
試乗したカレラSにはオプションの PCCB (カーボンコンポジットブレーキ) が装着されていた。

以上のことから、結論としては相変わらず最新のポルシェは最良のポルシェだった。それでも細かい事を言えば Ph1 の自然吸気エンジンのような回して楽しむ正統派スポーツカー的な要素は無くなってしまったとか、まあ毎回新型になる度に感じる小さな欠点はあるが、全体として見れば圧倒的に新型が優っている、という情況も変わらなかった。後は好み次第だが、少なくとも今後は自然吸気エンジンの911は新車では手に入らない事は事実だ。まあシルキーシックスと言われてマニアが絶賛していた BMW の6気筒は一足速くターボ化されて以前程にはシルキーで無くなったなど、世の中の流れにはポルシェも逆らえなかったということだ。

ところで、911 カレラSの試乗記なら、当然特別編で何処かのライバルと比較するとかを期待されるだろうが、ドンピシャライバルの BMW M4 は少し前に Ph1 と比較済みであり、もう一度やるというのも無意味だし、さ〜てどうするか。

【追記】(2016年6月18日)
上記でライバルとしてあげた M4 は、考えれてみればカレラSのライバルとしては役不足という気もしてきて、やはりここはメルセデスベンツ SL クラス、その中でもハイパワーな SL550 というところが真っ当なのかもしれない、と思い始めてきた。しかしそんな月並みな事ではこの厳しい時代を生き残れないという危機感もあり、それならばと対戦相手は‥‥なっ何と、国産スポーツタイプでは最も低価格のスズキ アルトRS を選んでみた。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

特別企画「Porsche Carrera S vs Suzuki Alto RS」に進む

【追記】(2016年月6日)
本試乗記開時点では一部スペックが未発表だったり、また他にも書き忘れた事などもある事から、今回これらを追補編として補足することにした。

⇒追補編へ