Mazda Roadstar 試乗記 特別編
  [Mazda Roadster vs Toyota 86 (Subaru BRZ) 後編]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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動力性能では多少車両重量が大きいとはいえパワーで勝る 86 の勝利だったが、さてそれでは操舵性能はどうだろうか。この分野はより小さく、より軽量な Roadster には充分に期待できるし、更には車両の断面 (下図) で比べても Roadster のエンジン搭載位置はエンジン先端がフロントアスクルの中心という、いわゆるフロントミッドシップとなっている。対する 86 はエンジンの中心がフロントアクスルの中心という具合で Roadstar よりは前方であり、重量バランスや慣性からすれば多少不利になる配置だ。とはいえ 86 だってフロントオーバーハングにエンジンを搭載する、すなわちフロントの先端にエンジンをぶら下げている世間一般のクルマから言えば充分にバランスの良い配置ではある。そしてメーカー発表の前後軸の重量配分は Roadster が 50:50、86 が 53:47 とやはり Roadster は完全にイーブンだが、86 は多少フロントに寄っているのは想像通りだった。

しかし 86 には重心の低い水平対向エンジンを搭載しているという強みがあり、下の写真を見れば一目瞭然、というよりも Roadster のエンジンは異様に背が高く見えるが、いやこれは水平対向エンジンと比較するからで決してマツダのエンジンが妙に背が高い訳ではない。これが Roadster に対して 86 が重量バランスからくる不利をどのくらい挽回するのかも大いに興味がある。

 

両車の比較に於いて考慮するべき点として各ラインナップ中のどのグレードのモデルで比較するかという事がある。ただし Roadster の場合は事実上2グレードでしかもその違いは主としてレザーシートが装着されるか否かだから乱暴な言い方をすれば性能的には1グレードと言っても良いくらいだが、86 の場合はGと GT では性能に関係する部分の違いも多く、しかもトヨタブランドの 86 以外にスバルブランドの BRZ もあり、トヨタブランドよりも更にマニアックな設定になっているなどで、これは最初にターゲットをはっきりさせておかないと何を比較しているのか判らなくなってしまう危険がある。

今回の比較は前編の冒頭で述べたように価格などを考慮して Roadster は Special Package、86 はGTを選んで比較しているが、Roadster のタイヤは 195/50R16 に対して 86GT は215/45R17 と扁平率を見ても操舵性には有利な状況だが、86G では 205/55R16 というサイズでこれは寧ろ Roadster よりもショボいくらいで、言い換えれば 86 の場合は GT と Gでは大きなフィーリングの差があるという事だ。

そしてもう一つ、実際の試乗は 86GT では無くこれと同等の BRZ S で実施しているという前提を頭に入れて先ずは直進からステアリング切り始めた時の遊び等を比べると、Radster では直進時のステアリングのレスポンスはセンター付近での不感帯はガッチガチではないがゆるくもないという丁度良いくらいで、これは AT と MT で基本的に変わらない。

これが BRZ S の場合は操舵力は特に軽過ぎるということはないが、中心付近から実にクイックで勿論不感帯なんて殆ど感じない。しかしこれが 86G となると良く言えばマイルド、悪く言えば少しトロいという具合に、同じ86 一族でもこんなに違うにかというくらいに性格が異なっている。

それではコーナーリングはというと Roadster では先ずはブラインドコーナーを余裕を持った速度で侵入してみると、アンダーステアは極々少なく素直に曲がっていった。次に少し速度を上げてみると勿論何の問題もなく回っていくが、例えばBMW のようにわざとらしいくらいにニュートラルを感じさせるような演出は無く、コーナーリングが楽しくなるとかこのクルマから降りたく無いという気持になることは無い。しかも、コーナーリング中にエンジントルクに物を言わせて‥‥みたいな走りをするほどのパワーは無いし、とにかく癖の無い乗りやすさは充分に感じるが、何故か熱くなる物は無い。

次に BRZ S でコーナーの連続する場面を、ギア (MT) は3速に入れて 50q/h くらいで進入してみたが全く余裕のコーナーリングで、勿論アンダーステアも極々僅かだった。今度はコーナーの後半で直線になる少し前からアクセルを少し踏み込んでみたらキッチリとトラクションが掛かっている様子だったが、あまり調子に乗るとトリッキーな挙動が出そうな前兆も感じたので程々で止めておいた。実はBRZ S には標準でトルセン LSD が装着されているので、トリッキーに感じた挙動は LSD が原因の一つだったようだ。

これに対して 86G では BRZ S のガッチガチに締め上げたようなフィーリングのサス対して、こちらはもう少しストロークを使っているような感じで、乗り心地についてはBRZ S よりも圧倒的にマイルドだ。発売当時は世間では 86 よりも BRZ の方が安定志向だとも言われていたが、結局はグレードによる違いが大いにあるということだ。 

というように Roadster の性能は決して絶賛とはならないが、実は一般道でのコーナーリングでは別の大きな大きなアドバンテージがある。それは 1,735o という5ナンバーに毛の生えたような狭い全幅による取り回しの良さであり、ブラインドコーナーでも明らかに余裕が持てる事だ。更には2シータースポーツとしてはチョット高めの着座位置による視界の良さも加わり、実際に街中でのコーナーリング速度ではアンダーステア云々の前にこの取り回しの良さが武器になる。

対する BRZ S のエンジン特性とコーナーリング特性は、決して物凄い高性能というのではないが、とに角過激とも言えるくらいにスポーティーなフィーリングに満ち溢れていて、日本の交通事情からすればこれでも高性能過ぎるくらいで、スポーツ度という点では明らかに Roadster より優っている。しかしこれが 86 G となると話は変わって、Roadster と良い勝負かむしろマイルドなくらいで、まあ最初に予想したとおりに トヨタとスバル、そして各グレードによって大いに変わるということだ。

最後にブレーキについてだが、Roadster では適度に軽い踏力でよく効くがそのフィーリングは乗用車的であり誰が操作しても全く問題ない。対する BRZ S は喰い付き感は無く踏力は重めでストロークは短いが、踏めば踏んだだけのブレーキ力が得られるから、言ってみればスポーツ嗜好のリニアな特性で、走行中にちょっと減速する場合でもブレーキペダルに軽く足を載せたくらいでは速度は落ちないので、緩い減速でも多少ペダルを踏むことが必要となる。要するにクルマに興味のないドライバーからすれば 「何だっ、この効かないブレーキは!?」ということになるから、その面でもクルマが大して好きでないドライバー、というかカッコをつけるためにスポーツタイプが欲しいというドライバーには 勧められない。

なおブレーキはどんなものが付いているかとホイールの隙間から覗いてみると、Roadster では特に変わったところも無い鋳物の片押しキャリパーだが、写真左下でも判るようにフロントとリアのキャリパーの大きさが同じくらい、いやむしろリアの方が大きくさえ見えるくらいだ。これは Roadster の前後の軸重配分が50:50 と一般的なクルマに対してフロント負荷が小さいためにフロントキャリパーも一見すると小さくて頼りないがこれでも容量的には充分なのだろう。

対する BRZ S はフロントに鋳物の片押しとはいえ2ピストンタイプを使用している。この程度の重量のクルマに2ピストンというは身分不相応、というかオーバーグレード気味だが、言い換えればサーキットなどのスポーツ走行や過激な降坂でも充分に対応可能と思える。因みにスバルの場合は多くのモデルでフロントに2ピストンタイプを使用していてこれがポリシーだろうから、トヨタもこれに同調したのだろう。

歴代 Roadster ではサーキット仕様に改造したようなクルマも偶には見たが、やはり基本はスポーツマインドというか雰囲気を楽しむというのが主の車であり、特に今回の新型はスポーツカーとしてはアンダーパワー気味のエンジンや適度にマイルドな操舵性など、今更ながらこれは雰囲気を楽しむクルマと再確認した。

対する 86 は何度も述べたようにブランドやグレードによって大いに特性が異なるが、このクルマの本来の立ち位置は今は無きシルビアのような走り屋御用達車の筈なのだが、しかし実際に街中で見かける 86 (BRZ) には過激な走り屋仕様なんて見たことがないし、グレードも G (R) が意外に多いようにも感じる。しかもドライバーの多くが年配の男性、場合によっては定年退職後か退職間近という感じで、今更ガッチガッチの走りを求めはしないがトロい実用車なんて嫌だ、若いころはカリーナGT や ブルーバード SSS とかに乗っていたものだ、みたいな状況だろうか。

最後に個人的に一番好きなのはといえば、やっぱり BRZ S それも MT 尽きるというものだ。価格はオーディオ (ナビ) を付けて概ね300万円ということで決して安くはないが、価値は充分にあると思う。若い頃は週日は夜中まで残業して、オマケに休日まで出勤して家族のためにボロボロになって働いて、やっと買った持ち家はバブル崩壊で買値の 1/4 以下に値下がりし、Porsche 911 1台分くらいの学費を掛けて大学を出した息子は就職に失敗して今はフリーターとしてビデオレンタルショップでフルタイムで働いても月に 12万円の非正規職員。こんな苦労をしてきたお父さんのせめてもの老後の楽しみに、退職金の中からホンの一割くらい使って BRZ くらい買ってもバチは当たらないだろう。えっ? 退職金は既に住宅ローンの繰り上げ完済と、残りは第2子の大学の学費に借りた銀行ローンの返済に当てる予定だから、クルマ代の300万円なんてとんでもない、って‥‥。

グワ〜、俺の青春を返せ〜っ!!