Mazda Roadstar AT & MT (2015/8) 中編

  

試乗は最初にAT から始めたが当日は結構強い雨が降っていて、ロードスターなのにオープンの試乗ができない状態のために、MT 車については翌日の試乗とした。

ということで先ずは運転席に座ると、前方視界の第一印象がスポーツカーとしは少し高いように感じたために、先ずは座面を下げようと思い右側面の大きめのレバーを見つけてこれに違いないとばかりにレバーを押そうとしたがビクともしない。そこで引いてみると簡単にレバーは上がったが上体に力を入れたらバックレストが後ろに倒れたことで、このレバーはリクライニングの調整用だったと悟った。それではと色々捜してみて先端にあるダイヤルを回すと座面の先端のみは上下することが判ったが、結局座面全体の上下は出来ないようでヒップポイントは事実上固定という、運転姿勢が命のスポーツカーとしてはチョイと物足りない。

それにしても視線の高さが気になったのでフロアーと座面の高さをチェックしたらば、何故かシートの座面はフロアーに対して結構低い位置にある? そこで今度は路面とフロアーの位置を確認したらば、何と地面より可成り高い事がわかった。要するにフロントエンジンの Roadster は排気管を通すスペースが必要なためにボディ底面と室内のフロアーの間に空間が必要であり、その為にどうしてもフロアー自体が路面に対して高くなってしまうのだ。そういえば極端に低いドライビングポジションに驚いた S660 はミッドシップエンジンだったし、Porsche 911 も Boxster & Cayman もエンジンは後部にあった。

それでも念の為に Roadster と S660 を両車のメーカーが発表している断面図で比較してみる。この図は縮尺を合わせてあるので両車のヒップポイントの高さを比べられるよになっているが、これを見れば一目瞭然で Roadster はフロアーの位置も高いがそれ以上にシャーシー下面 (底面) が高いのが解るが、コレは実用性を考慮したのだろうか。それに比べて S660 の底面の低さは路面によっては底を突いてしまうような気もするが、Roadster 以上に特殊なマニア層をターゲットとしているから、その辺は自己責任でという事だろうか。

まあそう言っても Roadster の着座位置だって一般的なサルーンなどと比べれば充分に低いわけで、その意味では異次元とまでは言わないまでも、何か普通ではない乗り物を運転している的な感覚は感じられる。走り出すために先ずはエンジンを始動するが、センタークラスター右端にある丸い押しボタンは世間の常識通りの場所と形状だから何も考え無くても操作が可能だ。AT セレクターは直線式のティプトロタイプでDレンジから右に倒して M モードとなり、引いてアップ/押してダウンというレーシングスタイルで、個人的にはこれが自然だと思う。パーキングブレーキはセンターコンソールの後部にあるレバー式で、オーソドックスだが確実だし、ジムカーナなどに出場するようなドライバーならサイドターンにも使えるメリットも有る。

アイドリングはステアリングホイールに多少の振動が伝わるが「しっかし今時のクルマで振動とはマツダの技術はどうなっているんだ?」何て感じるユーザーはこのクルマには最初から縁が無いと思ったほうが良い。これは Porsche も良く使う手で、わざと振動を伝えることで高性能エンジンらしさを強調してドライバーをその気にさせるというもモノで、Porsche を買おうというユーザーならば直ぐに理解するだろうが、マツダのユーザーということを考えばこのようなチューニングは多少のリスクがある。しかし敢えてそれをやったマツダの決断は評価すべきだ。これは今回の新型がエンジンを 2.0L から1.5L に変更したことも同様で、世間の大多数のユーザーからは理解されないような事も実施した事とも共通している。


写真31
場所、形状ともに一般的なスタートスイッチ。


写真32
AT セレクターはオーソドックスな直線パターンにマニュアルモード付きのティプトロタイプ。


写真33
オーソドックスなパーキングブレーキレバー。


写真34
ペダルは樹脂製パッドの地味なもの。

走り出した第一印象は特別パワフルでは無いが、並の実用車よりは明らかに加速も良いから2ドアスポーツとしてはまあ合格というところだ。エンジンスペックでは 131ps と非力に思える数字だが、車両重量が 1,030s と圧倒的な軽量化を実現しているために、P/W レシオでは 184 ps もあるBMW Z4 sDrive 2.0i に勝るくらいなのは、Z4 の車両重量が1,500s とRoadster の5割増しもあることが原因だ。

Roadster の AT はオーソドックスな6速トルコン式で、CVT も最近では改良著しいとはいえやはりトルコン式の自然なフィーリングは大いなる魅力がある。Roadster のシフトスケジュールはエンジントルクが少ない事もあるがやはりスポーツカーである事も考慮されているのだろうか、普通の実用車に比べれば巡航時の回転数も1,500rpm 以上だし、シフトポイントもユックリ加速しても2,000rpm 以上でないとシフトアップが起らない。そこで今度はコンソール上のATセレクター後方にあるスイッチを SPORT と表示された前方に押してスポーツモードに切り替えてみる (写真36) 。これにより正面の回転計内のインジケータには小さなオレンジ色の文字で ”SPORT" と表示される (写真37) 。

スポーツモードでの走行では当然ながらシフトポイントが高くなるが、Roadster の場合エンジンの特性やステアリングのレスポンスが変化することは無く、あくまでも AT のシフトスケジュールが変更されるだけだった。ということはセレクトレバーをDレンジから右に倒してMモードにすると、スポーツモードの御利益は無くなってしまうという事だろうか。マニュアルモードでのシフト操作はAT セレクターと共にステアリングの裏側に付いているパドルスイッチでも可能であり、それではと早速試してみた。気になるシフトレスポンスはトルコン式の AT としてはマアマア、というか平均的なものであり、苛つく程には遅くないがイマイチまだるっこしい。この辺が Porsche の PDK のようにMT よりも圧倒的に速くて、もはや性能的には MT を選ぶメリットはなく単なる、ノスタルジックなフィーリングを求めるものというのとは違って、Roadster の場合は本気でシフト操作をするには MT を選択することを勧める。

ところで、走行中に常に目に入るメーターについてはセンターに大径の回転計を置き、その両側に少し径の小さいメーターを配置するというスポーティーな3眼式で、速度計の位置が違うが Porsche Boxster 等に近いレイアウトとなっている。しかも回転計と速度計は0位置が真下にあり、これをMazda では "垂直ゼロ指針" と呼んでいる。しかし、これは特に速度計に於いては日本の市街地走行時、すなわち精々50〜60q/h 程度の速度域では指針が下の方をウロチョロしているだけで非常に視認し辛い。これをやるなら、Porsche のように正面の回転計の中にデジタル式の速度計を内蔵し本来の役目はそちらに任せて、アナログ速度計は単なる雰囲気の演出用とするのが望ましい。

写真35
メーターはセンターに大径の回転計を置き、その両側に少し径の小さいメーターを配置するというスポーティーな3眼式。

目盛りは0位置が真下にあり、Mazda では垂直ゼロ指針と呼んでいる。


写真36
AT セレクター後方にある モード切替スイッチ。


写真37
Sport モードを選ぶとメーター内のディスプレイにオレンジで "SPORT" と表示される。

今度はフル加速を試してみる。例によって信号待ちから青に変わって、それっとばかりにフル加速すると、想像どおりの "適度な" 勢いでで回転計の針は上がってゆく。この時の排気音は大した音量ではないが音質自体は実にスポーティーというか、如何にも高性能エンジンでの加速状態という気持にさせるようなもので、これは相当に研究したのだろう。最近はマツダも音響解析を重視しているようで、外で聞いていれば大した音量では無くても、運転している本人には結構気持ちよく感じる音を出しているという。ところで冒頭で触れたように当日は結構などしゃ降りで路面にも多少水が溜まって入る状況だったが、にも関わらずフルスロットルでの発進加速に不安は全く無かった。まあそれ程のトルクが無いのも事実だが‥‥。

なおエンジンの滑らかさも上々の出来でだったが、これはについては Mazda に限らず最近のクルマは4気筒でも充分にスムースにレッドゾーンまで吹け上がるが‥‥。そう言えば多くの国産車が6気筒でさえ 4,000rpm 以上では振動が多くて使い物にならない1970年代にバイトで運転したファミリアのピックアップトラックはとにかく良く回ったのを覚えているから、Mazda のエンジンは元々スムーズだったようだ。

ところで、最近はターボ化によるダウンサイジングエンジンがトレンドであり、この分野で大きく遅れをとっている日本勢も一番売れ筋の 2.0L に於いて、トヨタが最近ターボエンジン化を果たして Lexus のミドルサイズモデルに採用を始めたし、Nissan の場合はチョイとインチキっぽいがメルセデスから Cクラスと同じエンジンを購入して搭載しているなど、徐々にダウンサイジング化を実施し始めている。Mazda の場合は SKYACTIV エンジンにはターボ化の流れが見えてこないが、近い将来はどうなのだろうか? この Roadster も 1.5L 自然吸気 (NA) ではなく、1.0 〜 1.2L ターボというのもあっても良さそうだが。

写真38
エンジンルームは目一杯後方に搭載されるいわゆるフロントミッドシップ方式で前後重量配分を50:50を実現している。


写真39
4気筒 1.5L NAエンジンはコンパクトに収まっている。


写真40
インレットのカバーには "SKYACTIV TECHNOLOGY" のロゴがある。

Roadster のコンセプトからすれば動力性能は程々で良いとしても、ハンドリングは譲れないところだろう。そこで先ずは直進中のステアリングのセンター付近での不感帯はといえば、これはガッチガチではないがゆるくもないという丁度良いくらいで、標準装着タイヤが 195/50R16 という比較的細めであることが良い方向に作用しているのは、見栄えよりも実を取った成果だろう。

それで肝心のコーナーリングはといえば最初に述べたように当日は雨であり、しかも試乗の後半でいよいよコーナーリングを試そうという矢先にどしゃ降りとなってしまい、これだけ路面に水が溜まった状況ではコーナーリング速度を落とさざるを得ないが、それでも基本的に素直な旋回特性であることは実感できた。とはいえ、これは MT 車の試乗を晴れとは言わないまでもせめて雨のない日にオープン走行とともに試すことにする。

ということで、後編では Roadster としは本命の 6MT でオープン走行を行う事にする。

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