Lexus NX 200t & 300h (2014/10) 後編

  

"走る" についてはイマイチだった両車だが、それでは曲がると止まるはどうだろか? といっても SUV のルーツであるクロスカントリー4WD車というのは元々走行性能は二の次で、あくまで悪路を踏破することを目的としたクルマだったが、それが今のような都会派の車となったのは何を隠そうレクサスRX (当時の国内販売はハリアー) が本家本元だった。

レクサスRX は米国で大いに売れたことで、レクサスブランド車の販売台数も伸びて、これが米国のプレミアムカー市場ではメルセデスやBMWよりもレクサスの方が売れていて今やドイツ車なんか有難がるのは日本人だけだ、何ていう話まで飛び出したりして、例によって無知なB層はそれを信じていた。それに対して当時はこのサイトでも米国での車種別販売台数を元にして、3シリーズやCクラスよりもISが売れている何てことは無いという事実を暴露したものだった。まあ肝心要のドイツ車オーナーはそんな嘘を見通していたし、結局最初にトヨタが目論んだり無知なマスコミや文化人が信じていたドイツ車からレクサスへの乗り換えは殆ど無く、国内のレクサスディーラーの経営も厳しかっただろう。

その初代 RX の米国での発売は1998年3月で ハリアーとして国内での発売は1997年12月だから国内の方が少し早かったことになる。ところで、初代ハリアーは当時の基準では大型クロスオーバーという事になるが、それより小さいカテゴリーとしてはトヨタのRAV4が1994年の発売であり、当時のクロスカントリ− 4WD と異なる乗用車テイストのいわゆるクロスオーバーSUVの先駆けとなっていた。ということは、後出しジャンケンだのパクリだの言われているトヨタだが、 SUV に関しては本家本元ということになる。

それでハリアー (RX) について言えば、ランクルなどのクロスカントリー車に比べれば乗用車テイストで扱いやすく運動性能も勝っていたが、それでもマトモなサルーンに比べれば当然ながらハンドリングや旋回特性は劣っていた。その SUV が並みのセダンよりもコーナーリング性能が良いという驚くような性能を達成したのはハリアーより2年ほど後の2000年に発売されたBMW X5 だった。何しろSUV なのにコーナーリング中に横Gを感じるというのは始めての経験だったが、初代X5 は発売当初 V8 エンジン搭載の4.4i という高価なモデルしか無かったから価格も1千万円級で、これゃまあ良くて当たり前という気持ちもあった。

ということで、今回の前置きは背が高くて重心も高いSUV というのはサルーンの気持ちで乗れば性能的には絶対に劣るのが普通だという認識を共有してから本題に入ろうと思ったからだ。

それでは早速300hから。HV は重いバッテリ−を積むことから重量的には不利となるが、バッテリーを積む場所によっては意外に重心が下がって走行安定性などで有利になることもある。またバッテリー積載スペースという点では背の高いSUV はサルーンに比べてむしろ余裕があり、サルーンよりもHV 化に有利という状況もある。それで実際に走ってみると、乗り心地は結構硬いが安定性はスポーティーというよりも、硬いだけでイマイチ路面をしっかりグリップしてないというか、地に足がつかないような落ち着きのない乗り味というような感覚だ。

NX の標準タイヤはベースモデルと "I package" が225/65R17で "version L" が225/60R18となり、"F SPORT" では235/55R18が標準装備だが、オプションでダークプレミアムメタリック塗装ホイールと225R/60R18という組み合わせもある。なお、ガソリンの200t とHV の300h はタイヤホイールに関しては全く同じ設定になっている。今回の試乗車は300h F SPORT にオプションの225/60R18が装着されていたが、普通はF SOORT 何ていうスポーツ志向のグレードのオプションといえば標準よりもインチアップしているなどが普通だが、このNX ではオプションの方が幅が狭いという不思議な事になっていた。300h の走行安定性がイマイチだったのはこのタイヤが原因か? まあ、多少はあるだろう。


写真41
ベースモデルと "I package" 標準の225/65R17。


写真42
"version L" に標準の225/60R18。


写真43
"F SPORT" に標準の235/55R18。


写真44
"F SPORT" のオプションでダークプレミアムメタリック塗装ホイールと225R/60R18タイヤの組み合わせ。

このように何となく地に足がつかない走行感とともにステアリングの中心付近の遊びは少ないがこれまたリニア感が無いというか、出来の悪いスポーツモデルによくある特性で、まあハッキリ言ってチューニング不足という感じだから、もう少しセッティングを煮詰めれば改善されるとは思うのだが。

何やら良いこと無しのような操舵感だが、旋回特性自体はSUVであることを考慮すれば決して悪くは無い。見かけの割にはアンダーステアも少なめだし、高い視点の割にはロールも感じないし、それでいて出来の悪いSUVによくある大した速度でもないのに短足で転倒の恐怖を感じる、なんていう事も無い。

という訳で、動力性能も操舵性能もイマイチで試乗したNX 300h F SPORT 2WD (FF) の556万円という価格を考えれば、まあ買いたいと思うならどうぞご勝手に、なあんて言いたいくらいだったが、さて300hよりも60万円以上も安くて、最新の2Lターボエンジン、欧州で流行りのいわゆるダウンサイジングエンジンを搭載した200t に俄然期待が掛かるわけだ。200t の動力性能についてはまあ許せる範囲だったから、これで操舵性がマズマズならば決して悪い車ではないということになる。ただし、今回の200tの試乗車は4WD、というかトヨタでは最近の風習に従ってAWD と表記しているが、要するにFFに対して車両価格は26万高いためにNX 200t F SOORT AWD の価格は518万円となり、先に試乗した300h F SPORT FF との価格差は38万円まで縮まっている。

それで実際の走りだが、こちらのタイヤはF SPORT に標準の235/55R18が装着されていたこととAWD であることから条件は大分異なっているが、最初に広い国道を巡航しただけでも300h より安定感があるというか、300h で感じた妙な不安感が大分少なかったように思えた。とは言っても、SUV とは思えないような安定感、という程のモノでもない。200t のAWD は走行状況によってフロントの配分が100〜50%まで電子制御で変化するから、穏やかな巡航では恐らくほとんどFF(フロント100%)に近い状況であろうから、AWD であるから直ちに直線性に優れているとは言えないが、それでもFFよりはマシだろうし実際にもそう感じる。

200hの試乗車のタイヤは300hがオプション装着していた225/60R18 に対して少しは幅広で扁平な235/55R18 という標準サイズだったこともあり、これらが相まって中心付近の不感帯でのフィーリングなどの操舵感も300hよりは良いように感じた。しかし、感じた何て決して断定していないことでも判るように、誰が乗っても一発で違いが判るほどかというと、それ程でもないのが辛いところだ。

カタログによればNXのAWDは「すぐれたコーナリング性能を実現するダイナミックトルクコントロールAWD」ということで「旋回時にはステアリング操舵量からドライバーの意図するターゲットラインを予測して最適なトルク配分を行い、機敏で安定したコーナリングを実現します。」と謳われているが、実際のコーナーリングはといえば、実は今回の試乗では本格的なワインディング路なんていうものは無く、途中のチョットしたコーナーとか広い交差点を右左折するときに速度を速めにして曲がったくらいだが、確かにFF だった300hよりはニュートラルに近いが、これまたそれ程大騒ぎする程のモノでも無さそうだ。 ただし、雨天などでは大いに威力を発揮するかもしれないし、少なくともFF よりは走りは良いようだから、FF に対する26万円の投資は決して損は無さそうだが、まあこれも各自の好みと考え方次第とはいえ、はっきり言ってしまえばSUV というのはオールマイティな踏破性が売りだからAWD が当たり前であり、FF のSUV (しかもプレミアムブランドのレクサスで) を買うっていう考えが理解できない。

結局走ると曲がるでは価格の安い200tの方が好結果だったが、それでは止まるはどうだろうか? 300hはHVだからトヨタの場合はブレーキにフルエレキのブレーキバイワイヤ方式を採用しているはずで、念の為にエンジンルーム内のブレーキマスターシリンダー付近を見てみると、確かに一般的なバキュームブースターは無く、マスターシリンダ−の形状もチョイと違うから、これは正しくフルエレキだろう(写真45右側)。

次に200h のエンジンルーム内のブレーキマスターを見ると、これは一般的なモノで黒い鍋のような形状のバキュームブースターも見えるから、これはオーソドックスなブレーキシステムだ (写真45左) 。因みにカタログを見ると300h は "電子制御ブレーキ[EBD]" の欄に標準装着のマークが付いているから、これは間違いない。なおホイール内のキャリパーやディスクローターは共通のようで、カタログでも双方ともフロント: Φ328mmベンチレーテッドディスク、リア:Φ281mmディクスと表記されている。そしてブレーキの効きはといえばBMWと同じような軽くて少し踏んだだけで喰い付くように効くタイプで、これには個人の好き嫌いはあるが軽くて良く効くのは間違いない。因みにレクサス各車はブレーキパッドにBMW と全く同じドイツのメーカーのロースチールと呼ばれるタイプを使用しているが、これは効きは抜群だがダストが多いからホイールは1周間で真っ黒になるし、ローターの減りも早い (ローター攻撃性が強い) など、メリットもデメリットも欧州車そのままとなっている。


写真45
フルエレキ制御の300h とオーソドックスな 200t ではブレーキシリンダーが全く異なる。
200t のマスターシリンダ−にはオードドックスなバキュームブースター (黄矢印) が見える。

写真46
ブレーキユニットは200t と300h で共通のフロントが2ピストン、リアはシングルピストンで何れも鋳物の片押しキャリパーとなる。

結論としては既に述べたようにどちらを選ぶかといえば200t の、それもAWD という事になるし、グレードはベースグレードよりも14万円高いがそれ以上に装備が充実する "I package" (468万円) がベストバイとなる。しかしこの価格をどう考えるかで、468万円といえばBMWでいえば X3 (579万円より)には手が届かないが、X1 (377万円から) ならば下位モデルは余裕で買えるし中位モデルにも手が届きそうだ。とはいえX1 は車両クラスから言えば1サイズ以上も小さいから、サイズ的にNX 並といえば何があるかと思って調べてみたらば、何とあの評判抜群のマツダ CX-5 (全長 4,540 x 全幅 1,840、W/B 2,700o) がNX (全長4,630 x 全幅1,840、W/B2,660o)に結構近いことに気がついた。そして CX-5 の価格帯は313.8~328.3万円であり、欧州テイストのターボディーゼルを搭載した上位モデル (Lパッケージ) でも328.3万円と、もう買い得感では NX の出る幕は全くない。

買い得感と言えば同じトヨタのハリアーは以前はより上級の LX の日本名だった筈だ。となれば、NX とハリアーを比較するという手もある。と言う事で、特別編で比較する事にした。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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