FORD MUSTANG 50 Years Edition (2015/5) 後編

  

次に操舵性についてだが、その前に今回のモデルのハイライトはリアサスペンションがリジットから独立になったことで、これは MUSTANG の歴史では大きな出来事だ。そこで先ずはメーカー発表のイラストを見てみよう。

確かに先代と比べてリアーサスペンションが洗練された形になってはいるが、リジットアクスルのゴッツくて如何にもアメ車的な雰囲気はなっなってしまった。まあリアサスなんてリフトアップでもしないと全景を見ることは出来ないから別に問題はないが、アメ車ファンから言えば複雑な気持ちだろう。

因みに先代のリアサスは↓であり、それでもリジットアクスルとしては近代的な部類だが‥‥。

それでは実際に走ってみた状況はといえば、結論を先に言えば独立化のメリットは大いに有り、走行中の安定性というか安心感がマルで違う。元々アメ車としては驚くほどシッカリした走りだった MUSTANG だが、この新型が殆ど欧州のEセグメントに近いものを感じたのは、ある程度想定はしていたが実際にこれ程までとは思わなかった。それで乗り心地はというと実は結構硬くてスポーティーであり、この面でもアメ車的な面影は全く無い。特に走行モードを Sprot + にした時は可成りの突き上げを感じるくらいだ。ただし試乗車の走行距離は約1,000q という事実上マッサラの下ろしたてであり、ダンパーの当りも付いていないだろうから、せめて3,000q くらい走れば少しはマイルドになるかもしれない。

前述のように試乗車には走行モードとは別に Steerig Feel という操舵特性を変えるスイッチが付いていたが、先ずは Normal での操舵感は正にノーマルそのもので、決してレスポンスが良いわけでは無いが普通に街中を走るには何の緊張感も無くてコレで充分かもしれない。次に Sport + にすると操舵力が少し上がり中心付近の動きもシャキッとしてレスポンスも良くなる。ただし走行モードでは Sport + がヤタラと過激なオーバーレスポンスだったのに比べて、 Steerig Feel では同じ Sport + という名称だから結構期待したがそれ程では無かった。個人的にはこのスイッチは常に Sport + にしておいても良いと思うが、まあこれはドライバーの好みの問題だ。残る Comfort については、これも個人的見解だが入れた瞬間にダメだこりゃ、という気持ちだったが、ドライバーによってはこれくらいトロい方が運転しやすい、なんていう場合も‥‥あるのかなぁ? まあそういう手合は、ダイハツの軽自動車にでも乗っていればいいとも思うが‥‥。

今回は試乗時間に余裕があったことから、BMW 5シリーズやポルシェ カレラS などを試したワインディング路を走ってみた。 Drive Mode と Steerig Feel スイッチは当然ながら Sport + で、ミッションはマニュアルとする。話が前後するがパドルスイッチ (写真37) によるマニュアルシフトは最近のハイレスポンスはDCTなどが巷に増えた状況ではハッキリ言ってトトロい。まあトルコン式のAT だからある程度は考慮するにしても、BMW 5リーズ等のAT と比べても明らかにレスポンスは良くないが、元々434 N・m という充分過ぎるトルクを発生するから、例えばワインディング路などでも2速も3速も大して変わらず、3速に入れっぱなしで充分に事が足りるから、マニュアルというよりもシフトロックという使い方な訳で、それならレスポンスが悪くても特に問題はないことになる。それ以前にいくら2ドアクーペといっても、このクルマを峠スペシャルとして買うユーザーはいないだろう。


写真37
今回からはオーソドックスなステアリングパドルでマニュアルシフトが出来るようになった。


写真38
2つのペダルの左にはクラッチパダルを配置するスペースが有る。

前置きが長くなってしまったが、それでは早速ワインディング路を走行してみる。最初のコーナーは念の為にマージンを大きくとってコーナーへ侵入したが、これはもう余裕でもっと速度を上げても全く問題無さそうだ。そして次のコーナーまでの距離が短かったこともありコレまた予定よりも速度が遅めだったがそれでも冷静になって状況を見ると多少アンダーステアが多めのようにも感じた。そこでコーナーに入ってから間もなかったが、ちょっとインチキしてスロットルベダルを少し踏んでみると、多少のロール感を感じるしフロントは抉り気味でもあったが、強引に旋回していくとパッセンジャーは結構横Gに耐えている様子が目に入ったのでコーナーリング速度自体は決して遅くはないのだろう。なおコーナーリング中の安定感は充分で、やはりリアサスを独立化した効果は大いにあったようだ。

そんな状況でそれ以降もついついアンダー出しまくりのインチキなコーナーリングが多かったのも、やはり大きな図体のこのクルマでは少し速めに進入するのを躊躇してしまい「おっと遅すぎたか」なんていうマヌケなコーナーリングをやってしまったこともある。また左ハンドルということで道路のセンターから離れて座っていることで対向車の視認性が良くないし、特に左回りのブラインドコーナーでは可成り侵入しないと対向車の確認が出来ないことから、どうしても速度を上げることを躊躇してしまうこともあり、まあこの手のクルマはオーナーになってそれなりの走り方を研究すれば印象も違ってくるのだろうし、来年からは右ハンドル車が輸入されるというからこの問題も解決ということだ。尤も人によっては左ハンドルを好む場合もあり、「わたくし、免許を撮って以来左ハンドルしか乗ったことがないので、右ハンドルでは運転できないんですの」なんていうセレブの奥様や、これまた免許取得して直ぐに母親のお仏蘭西車 (勿論左ハンドル) で練習して以来ず〜と左のみという坊ちゃん嬢ちゃんなどもいるだろう。

次にブレーキについては第一印象は妙に遊びが少なく、少し踏むと直ぐに効き出すような特性だった。勿論これは良いことなのだが、この特性の理由が判らなかったのだが、写真撮影のためにクルマを降りてフロントホイールを覗いてみたらば、そこに見えたのはどう見ても4ピストンのアルミオポーズド (対向ピストン) キャリパーだった。ということはブレンボかとも思ったが何やら少し雰囲気が違う。この形はニッサン フェアレディZやスカイラインなどのスポーツモデルに付いているものに似ているように見える。ということは、もしかして日本の akebono 製という可能性も大きい。なおリアについてはオーソドックスな片押しキャリパーだが、先代同様にパーキング用のドラムが見当たらず、前記のサスペンションのイラストを拡大したところキャリパーにはパーキング用のレバーが見えたから、先代同様にブレーキキャリパーにパーキング用のメカを組み込んだ P 付というタイプと推定する。

なお、このフロントブレーキキャリパーはアニバーサリーモデル (50 Years Edition) の特別装備であり、新型 MUSTANG の全てにこのようなブレーキが付いている訳ではないだろう。


写真39
標準装備のタイヤは255/40ZR19でホイールも黒く塗装された50 Years Edition専用品を使用している。


写真40
フロントには4ピストンのアルミ対向ピストンキャリパーが使われている。

今回は先代よりも更に洗練されているという前評判もあり、スペック的には充分に期待できるモノだったから実際の結果に驚くことはなかったが、それにしても400万円代でこの性能というは驚異的でもある。まあ細かいことを言えば突っ込み処もあるが、総じて充分に満足できるモノだった。まあそんなことは一部のユーザーはお見通しだったようで、冒頭でも述べたが既に今年の販売分350台はとっくに売り切れていて、更に追加注文した100台もぼぼ売り切れの状況だ。

このように今年の販売分は無いにしてもディーラーには試乗車があるから、欧州車ファン、取り分け価格的に重なる3シリーズオーナーなどは騙されたと思って一度マスタングに試乗してみることを勧める。まあ、そうは言っても全幅1,920o ではファミリーマンションの立体駐車場には入らないし、2ドアクーペだからいくら子供といっても後席に長時間乗せられるか、等等‥‥そう簡単に3シリーズの市場を奪えるものでないのも事実であり、フォードとしては地道に販売を増やしていくしないだろう。