FORD MUSTANG 50 Years Edition (2015/5) 前編

  

FORD MUSTANG V8 と聞いただけでパワーだけの直線番長でハンドリングなんて望むべくもなく、強大なパワー & トルクだって足回りが追い付かずにただただホイールスピンするだけ、というのが一般的な欧州車ファンの感覚だろう。何を隠そう B_Otaku 自身もその程度の知識で今年2月に試乗した末期モデルはアット驚く欧州車フィーリングで、試乗前の想像は見事に打ち砕かれたのだった。そのマスタングの以前からアナウンスのあった新型モデルが日本国内でも販売が開始されたことで早速試乗してみた。なお、先代V8 モデル試乗記は↓にて。

 ⇒ FORD MUSTANG V8 GT COUPE PREMIUM 試乗記 (2015/2) 

その新型 MUSTANG は米国では既に昨年から販売されていたが、日本では発表だけは昨年末であったがデリバリー開始は極最近だった。その新型だが、現在日本で販売されているのは 50 Years Edition というモデルで、これは直4 2.3L ターボモデルにマスタング50周年記念として特別なパーツを付けたり、エンジンはノーマルモデルよりも多少チューンナップされているし、ブレーキなどもより高性能なものが付いているというものだ。実はこのモデルの今年の割り当て台数は350台だが既に完売しているという。そこで日本の輸入元のであるフォードジャパンでは米国フォードに掛け合って急遽100台を追加した、という話は日記でも述べたが、その100台も5月末現在では残り10台位だというから、今年の分は既に完売しているかもしれない。

今回のモデルではアメ車らしからぬ 4気筒 2.3L ターボという今流行のヨーロッパ流のダウンサイジングエンジンを搭載したことで 314ps のパワーと434 N・m のトルクという自然吸気なら V8 4.5L 並の性能でありスペック上は十分そうだが、それ以前にマッスルカーと言えばV8 だろうよ、というユーザーは来年になるとV8 モデルも国内販売されるようだから今から楽しみにしていればいい。なお今回のクルマは左ハンドルだが、来年には右ハンドルが輸入されるというから、ユーザーの裾野はさらに広がるだろう。

新型のもう一つの大きな特徴はリアアクスルが遂に独立懸架 (通称インディペ) になったことで、性能的には誰が見ても向上したと思うだろうが、生粋のアメ車ファンで旧式なリジットアクスルに大パワーV8エンジンのパワーをかけて、リアが暴れまわる時にこそ幸せを感じるようなユーザーからすれば、4気筒でインディペなんてアメ車じゃあない、どうしてくれる! 状態だろうか‥‥。

  

今回の試乗車のボディーカラーはブラックだが、その他に5色と限定生産色が1色の計7色が用意されている。なお、以下の写真でオレンジのボディーカラーのクルマは比較用の先代 MUSTANG V8 GT で2月に試乗記として発表した車両だ。

まず先代と比べて目につくのはより広く低くなったことで、これはスペック上でも全幅が+40o に対して全高は−35o であり、これは見た目とも一致している。また先代はボンネットの盛り上がりも大きく、高い全高とともによりマッチョな雰囲気を強調しているから、こういうのこそマッスルカーだと信じているユーザーからすれば、新型は魅力半減と感じるかもしれない。まあ、新型が出た時点で旧型の方が良かったと懐かしむタイプのマニアは必ずいるものであり、何も MUSTANG に限ったことではない。

とはいえ両車の違いを下手に文章で表すよりは以下の写真1〜5 を参照された方が解りやすいだろう。


写真1
より広く低くなったことで、スポーティーという面では明らかに向上している。


写真2
サイドパネルをよく見ると複雑な曲線と張り出したブリスターフェンダーなど、このデザインも中々のものだ。


写真3
先代 (写真右) と比較すれば明らかに低くなっているが、言い換えればマッチョ感は減っている。

写真4
先代に比べて基本的なスタイルには変わりは無い。

先代の全高が35o も高いのは主にウエストラインの位置が高いことが原因だろうか。なお、前後方向ではホイールベースが同じで全長は新型が35o 短いが、写真からそのほとんどはリアオーバーハングと解る。


写真5
フロント以上に雰囲気が異なるのがリアで、縦3本のテールランプなどの基本は同じながら、新型の低く広いことがより強調されている。

トランクリッドを開けてラッゲージスペースを比べてみると、先代の方が幅・高さ方向共に広く見えるのは、先代の方がウエストラインが高いこととリジットアクスルによるサスの張り出しが少ない事が原因だろう。更には全長が35o 長く、その殆どがリアオーバーハングの違いである先代は、奥行きでも優っているようにも見える (写真6) 。

ヘッドランプはLED 方式が標準装備であり、フロントには更にバンバー下部にフォグライトらしきものが見えるが、これは例にって日本の法律に合致しないのだろう、カタログには "アクセサリーランプ" と明記されている。コレは恐らく先代同様にワット数の少ないバルブに取り替えてあるだけで、これをオリジナルのバルブに取り替えれば本来の姿に復活すると想像する。しかし、シロアリ役人もこんな事をやっていると、TPP でも妥結したら (しそうには無いが) 非関税障壁で米国車が売れなかったとして、賠償金を数千億円くらいふんだくられても知らないぞ〜。

リアに回って、MUSTANG のアイデンティティの一つである縦3列のテールランプはブレーキを踏むと3つが赤く光り、それではウィンガーはどこだろうと探したが見当たらない。それで実際にウィンガーを出してみると一番外側のみ黄色で点滅する (写真8) という中々凝った事をやっている。凝っているといえば、給油口に蓋がなく給油ノズルを挿入すると蓋が開くという機構は既に先代でも使用されていたが、勿論新型にも継承されている (写真9) 。


写真6
先代のほうが幅、高さそして奥行きも広く見えるリアトランクスペース。

 


写真7
ヘッドランプは LED 方式で、バンパー下端の丸型ランプはフォグランプではなく "アクセサリーランプ" 。


写真8
テールランプは初代の縦3分割を引き継いているが、一番外側はウィンガー使用時に黄色で点滅する。


写真9
先代から継承しているキャップレスの給油口は、給油ノズルを挿入することで開く。


写真10
リアーエンドにはマスタングの馬のマークとともに ”50 YEARS" のロゴも付いている。

ドアを開けて目にはいるインテリアで最初に感じるのは、何となく先代よりもアメ車感が減ったというか、欧州車的になったというか、そんな感じがする。そこで先代のインテリアと比べてみると、今回のモデルはスペシャルエディションということもあり、シートはサポートの良さそうなスポーツシートが付いているのだが、これに比べると先代のシートは座面が平で、悪く言えばサポートが悪そうであり、良く言えばアメ車的な大らかさを感じる。ということは、来年から販売される通常モデルのシートはどうなっているかだが、今の段階では判らない。

リアのスペースは決して広くないが大人でも何とか乗れる程度のスペースがあるのは先代同様で、やはりそこは2ドアクーペであり4ドアセダンの実用性は無い。しかし街を走っているクルマの多くはドライバー1人だけか、フロントに2人だけでリアシートまで人が乗っているクルマを見かけるのは稀だから、実は2ドアクーペでも特に問題は無いと割り切れるか、といえばそう簡単ではない (写真12) 。

そのリアシートの形状は先代同様にヒップポイントをおもいっきり下げてあるのは、クーペボディによる頭上空間の狭さを補うためだろう (写真12) 。その決して広くはないリアシートへの乗り降りはといえば勿論スムースという訳にはいかないし、特に足腰の弱った高齢者では下手に乗ったら降りるのに大騒ぎとなるかもしれない。えっ、オマエも高齢者の部類だろう、って、まあ確かにそうだが、取り敢えず足腰は何とか自分で歩けるくらいであり、ご要望にはお応えできずに残念無念。そのリアへのアクセスでの問題はBピラーからアンカーをとったフロントシートベルトが通路を遮ってしまうことで、BMW の4&5シリーズではシートのバックレストにベルトのアンカーをとっているし、旧3シリーズクーペではBピラーにアンカーを付けていたが、ドアを閉めるとレバーがビューっと伸びてドアを開けると引っ込むというギミックが付いていた。それで MUSTANG の場合はといえば、フロントの住人がサポート用の固定ベルトのスナップをパチンと外すという、良く言えばローコストで確実だし、悪く言えばダッサーというところだ。と、文章では解りづらいので写真13にまとめておいた。

シートの調整は先代譲りの前後・上下が電動でバックレスト、いわゆるリクライニングが手動式となっていてこれはポルシェとは逆だ。ポルシェの場合は一番シビアな調整を必要とするバックレストには無段階で位置が決められる電動とし、多少ラフでも許容できる前後は手動としている。対するマスタングの場合は、その理由として‥‥ハテ? (写真14)

そのシートの表皮は本皮だが、先代と同様で厚くてガサガサした質感で表面はテカテカとしているし、ハッキリ言って上質感は無いが、まあ車両価格が倍以上のBMW 6シリーズなどと比べてはいけない訳で、そこは我慢のしどころだ (写真15) 。


写真11
シートはサポートの良さそうなスポーツシートが付いている。対する先代のシートは座面が平で悪く言えばサポートが悪そうだが、良く言えばアメ車的な大らかさも感じる。

写真12
リアのスペースは決して広くないが大人でも何とか乗れる程度のスペースがあるのは先代同様だ。

シート形はヒップポイントを下げることで頭上高の低さをカバーしている。


写真13
2ドアクーペではBピラーからシートベルトのアンカーを取ると、場合によってはリアシートへのアクセスが出来なくなるため、フロントの住人がサポート用の固定ベルトのスナップをパチンと外すという、良く言えばローコストで確実だし、悪く言えばダッサーというところだ。


写真14
シートの調整は先代譲りの前後・上下が電動でバックレスト、が手動式となっている。


写真15
シート表皮は本皮だが、先代と同様で厚くてガサガサした質感で表面はテカテカとして上質感はあまり感じられない。

先代では幾ら何でももう少し何とかしろよ、と言いたいくらいだったドアのインナートリムは大きく進化した (写真16) 。特に先代の泣きたくなる程に出来の悪いシボに比べれば質感は大いに上がり、金型で作ったシボも本皮と見紛う‥‥とは言わないまでも世間の標準程度にはなっている (写真17) 。アームレスト付近も先代の如何にも垢抜けないものと違い、質感は大幅にアップしている。 ということは、新型は内装に予算を奮発したというよりも、製造技術が上がって同じ予算でもより見かけが良くなったという事だろうか (写真18) 。

写真16
ドアのインナートリムは先代に比べれば大いに質感がアップしていた 。


写真17
先代の泣きたくなる程に出来の悪いシボに比べて、新型は世間の標準程度にはなっている。


写真18
アームレスト付近も先代の如何にも垢抜けないものと違い、質感は大幅にアップしている。
新型は内装に予算を奮発したというよりも、製造技術が上がって同じ予算でもより見かけが良くなったという事だろうか。

インパネのデサインは一見すると先代とはかなり変わっているが、形状こそ違うとはいえシルバーの水平トリム、メーターやエアアウトレットにはクロームの縁取りなどアメリカンな部分は残している (写真19) 。試乗車は 50 Years Edition という記念モデルだから、インパネの助手席側、グローブボックスの上部に特別のエンブレムが付いている (写真21) 。

今度は視線を天井に向けて、中央先端にあるヘッドアップコンソール (という程のものではないが) を見上げると、何ともシンプルというか機能的な必要最小限のものが付いていた。

写真19
一見すると先代とは変わっているが、シルバーの水平トリム、メーターやエアアウトレットにはクロームの縁取りなどアメ車臭さは残している。



写真20
何ともシンプルというか機能的な必要最小限のヘッドアップコンソール。


写真21
50 Years Edition という記念モデルだからグローブボックスの上部に特別のエンブレムが付いている。

インパネ左端のライトスイッチは先代のドイツ車そのものの形状とは違い多少アレンジされている。その下には何と引き出し式の小物入れがある! (写真22)

センタークラスターに視線を移すとそこには立派なディスプレイが付いていて、これはナビが標準装着か、と思ったらば実はナビとしては使えないのだった(写真23)。今回の車両は言ってみれば新型の先行輸入的なもので、右ハンドルの本格的な日本向け (実は英国向けの流用?) は来年販売分であり、その時にはナビの組み込みを考慮されているだろう‥‥たぶん。

センタークラスターのディスプレイの下段にはオーディオがあり、その下はオートエアコン、さらにその下の4つのトグルスイッチは走行モードやステアリング特性の切り替えスイッチで、左端の丸いボタンが何とスタータースイッチとなっている。これらのスイッチは表示が見辛く、視認性は良くない。


写真22
ライトスイッチは先代のドイツ車そのものの形状とは違っている。その下には何と引き出し式の小物入れがある。


写真23
センタークラスターには立派なディスプレイが付いているが、これはナビとしは使えない。

写真24
ディスプレイの下段にはオーディオがあり、その下はオートエアコン、さらにその下には走行モードやステアリング特性の切り替えスイッチなど4つのトグルスイッチがある。

リアパッセンジャールームのサイドパネルは殆どの部分がプラスチックの一体成形でフロントとは大いに差が付いている。まあ、どうせ滅多に使わないところだからこの際目一杯コストダウンしておこう、という目論見だろう。そしてリアークォーターウィンドウは剛性確保のためだろうか凄く小さく、"明かり取り" という感じだ。足元のスペースはフロントの住人が相当な長身だったり、足を目一杯伸ばしたいと思ったり、ハタマタ後席に対する思いやりが著しく欠如していたりすると足を入れる隙間が無くなってしまう (写真25) 。

最近の中級以上のクルマの多くは、センターコンソールの後端にはリア用エアアウトレットを設けているが、MUSTUNG にも当然ながら‥‥と思ったが、残念ながらそれはなかった。まあこの狭いリアスペースでは下手に冷風なんか噴き出してきたらば、足元直撃で返ってクレームが出るかもしれないから、これは OK ということにしよう。


写真25
リアのサイドパネルは殆どの部分がプラスチックの一体成形で、フロントとは差が付いている。

写真26
他社では定番のセンターコンソール後端のリア用エアアウトレットはMUSTANG には無い。


ここまで内外装を見たきたが、新型は当然ながら殆どの面で進歩している。なおこのクルマの内外装写真については既には5月21日からの日記にて取り上げていて、写真は本試乗記よりも大きなサイズを使用しているので、そちらも合わせて参照願いたい。

そして最も興味のある走りについては‥‥後編にて。

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