Porsche Cayenne S E-Hybrid (2015/5) 中編 その2
  

コンソール上の AT セレクターは  PORSCHE 各車に共通のものでパターは直線式のP→R→N→Dとなっえいて、Dから左でマニュアルモードとなる PORSCHE ではお馴染みの所謂ディプトロタイプで、これをDに入れてインパネ右端のパーキングブレーキスイッチ (写真44) を引いてリリースする。ブレーキペダルから足を放してゆっくりとアクセルペダルを踏み込むと、大きな図体のクルマは音もなく発進するのはまあハイブリッドだから当然ではある。

ここの駐車場は表通りに出るまでに狭い一方通行路を数百メートル程走るので、この巨体では30q/h程度でゆっくりと進むことになる。ようやく表の道路 (と言っても市道だが) へ出て巡航速度まで加速してみるが、この時の第一印象は動きが重々しいと感じることだが、実はこの直前まで Macan Turbo に試乗していたために相対的に Cayenne の挙動がトロく大人しく感じたことも考慮が必要だ。

写真44
AT セレクターは直線式で他のポルシェと同様にティプトロパターンとなっえいる。

Dレンジからセレクターを左に倒してマニュアルモードとなり、ソフト操作は押してアップ、引いてダウンとなる。

その後片側2車線のバイパスに出て流れに乗ったところで走行モードを変更してみる。スイッチはコンソール上のAT セレクターの手前に並ぶ中から、左端にある ”SPORT" というスイッチ (写真45) を入れることで切り替わり、エンジンの回転数が上昇する‥‥ことは確かなのだが、ガソリンエンジンの場合とはチョイと違うようで、露骨に高回転側を使うという訳でもない。

SPORT 以外の走行モードでは、ハイブリッドに関する "E-POWER" と "E-CHEARGE" という2つのスイッチがある。ここで "E-POWER" を選んでみると電気モーターを積極的に使用する様子が中央右のメーター内に表示される。このディスプレイに表示されるエナージーフローはバッテリーからホイールに向かう矢印が出てモータ駆動を積極的に使用しているのが解るが、さりとてトヨタのEV モードのように電気のみで走行する電気自動車状態という訳でもなく、アクセルの踏み具合ではエナジーフローの表示がエンジンからのホイールへの矢印も表示されエンジン駆動も使用しているのが解る。次に "E-CHEARGE" を選んでみると、巡航中はエンジンからホイールへのオレンジの矢印でエンジン駆動を表し、更にエンジンからバッテリーに向かってブルーの矢印が表示されて充電中であることを表わしている (写真46 @) 。そこで減速の為にアクセルペダルを放すとブルーの矢印がホイールからバッテリーに向かっていることで充電 (回生制動) 中であることを表わしていた (写真46 A) 。なおエナージーフローの矢印はブルーが充電、オレンジが放電 (電動駆動) を表わしている。


写真45
コンソール上のATセレクターの手前にあるスイッチ群は上半分がサスペンションの切り替え。
下に並んでいるのは SPORT モードとハイブリッドのモード(E-POWER、E-CHEARE)切り替え
および PSM (ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム) のOFF スイッチ。


写真46
写真は中央右のディスプレイのエナジーフロー表示例で
@は巡航時にエンジンの出力で駆動と充電を、アクセルを離して減速するとAのようにエンジンは停止して車輪側からバッテリーへ充電される状況が表示される。

今回は高速道路も走行したが、高速起点での料金所からの発進でフル加速を試してみると、どうも体感的な加速がイマイチで、特に高回転域に向かうにつれてグングンと加速していくような迫力がまるで感じられない。メーカー発表の0 - 100 q/h 加速は5.9秒であり、これは Boxster の5.7秒よりも僅かに遅い程度だが、どう考えても Boxster の方が高速側の伸びが感じられる。まあ車両重量が 2,380s もあるので俊敏な挙動は無理にしても、システム出力で 416ps もあるようには感じないのは何故だろうか。そこでハイブリッドの動力特性を調べてみた。

下の表は2011年モデルの為に今回のモデルとは多少違うが、基本的な特性を調べるには充分に参考になるだろう。えっ? 何で最新のデーターを使わないのか、って。実は最新のカタログにはモーターの特性表が載っていないというのが理由だ。PORSCHE のカタログというのはハードカバーの分厚い本のような仕立てで、数年前までは技術的にもかなり細かい部分まで書かれていたのだが、その後は年々簡略化されてきた。理由は定かではないが最近のPORSCHE社の拡大志向を見ていると、方針が変わって詳細を発表しなくなったのか、それとも数量拡大が大衆化に繋がった、言い換えればユーザーのレベルが下がったことで詳細な既述をしても無意味だとか、下手をすれば頓珍漢な質問やら揚げ足を取られてクレーム発展したりという状況に懲りて、そんなら最小限の既述にしてしまおう‥‥何て考えたのか、まあその辺は想像するしかない。

さて、その特性表を見ると電気モーターのトルク特性 (点線) は停止時 (発進時) が最大で、その後回転数が上がるに従って急カーブで落ち込んで行くことから、システムトルク (実線) も発進時が最大でその後はなだらかに下降していくのが解るだろう。これこそグイグイという加速感が感じならない原因であり、それでも絶対的なトルクは5,500rpmでも500N-m という充分過ぎる値だから、体感の割にはいつの間にか速度が上がっているという試乗結果と一致する。メデタシ、目出度し。

写真47
V6 3.0L スーパチャージャーで333ps、440N-mを発生するガソリンんエンジンと95ps、300N-mの電気もーターによりシステムでは416ps を発生する。

最近の PORSCHE 各モデルはディアルクラッチ方式の PDK の採用が当たり前であり、SUV でも先に試乗した Macan は PDK を使用していたから極めて迅速なシフトチェンジが行われたが、この Cayenne の場合、何を隠そう今では旧式とも言えるトルコン式の AT を採用している。このためにPDK に比べれば変速時の動作は遅いことがハッキリと認識できる。一般道を50q/h くらいで巡航中の回転計の指針は1,200rpmくらいまで落ちているが、ここでアクセルと踏み込むと一呼吸、いや二呼吸以上のタイムラグの後シフトダウンが起こりここから加速状態になるが、このタイムラグは20年程前の国産ターボ車みたいで、このレスポンスの悪さは AT がトルコン式であるこのみが理由では無さそうだ。

このタイムラグは走行モードをSPORT にしても多少はマシになるとはいえ、劇的な改善は感じられなかった。それでも今回は試乗期間が十分にとれたこともあり、翌日に試乗した時には既に Macan Turbo の挙動も多少は脳裏から消えかかってもいたことから、Cayenne S E の挙動も慣れればそんなに気になるものでもないし、いざ加速体制に入れば決して遅い車という訳ではないから、オーナーとなって慣れてしまえがこれはこれで不満はないかもしれないが、PORSCHE のファミリーでしかも一千万円超の価格を考えれば、当然ながら物足りない感はある。

Cayenne S E は他の PORSCHE 車同様にステアリングホイールにはマニュアルシフト用の立派なパドルスイッチが仕込まれたている (写真48)。実際にこのスイッチを使うシチュエーションやメリットがあるかは疑問だが、まあ付いているからには使ってみようと思い、しかし期待はせずに巡航状態で左のスイッチを引いたらば、何と意外にも結構レスポンス良くシフトダウンする‥‥なんていうことは無く、想像通りにワンテンポ、いやツーテンポ遅れというか、パドルを引いても何も起こらないのでアレっと思ったらシフトダウンが起こったという感じだ。ここでふと思ったのだが、このクルマはハイブリッド車だからシフトダウンしてエンジン回転数を合わせるという単純な制御ではなく、電気駆動系までも含んだ統合制御が必要だから、これらがイマイチな事がレスポンスの悪さに繋がっているのではないか、とまあこれは想像だが、そんな気がする。

写真48
マニュアル シフト用には立派なパドルスイッチが装着されている。

以上のように動力性能については流石の PORSCHE もハイブリッドの制御についてはまだまだ研究の必要が有りそうだ。それで次なる興味は操舵性や乗り心地だが、この続きは後編にて。

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