Lexus IS 300h (2013/7) 後編
  

ドライビングポジションは特に低いわけではないが、それでもボンネットの先端が目視できないのは、最近の車としてはちょいとイマイチで、BMWなども新型では僅かにボンネットが見えるような絶妙さがあるのだがISはそうでもない。エンジンの始動、というかHVだからメインスイッチのONは当然ながらインテリジェントキーとプッシュボタン(写真31)を使用し、これにより正面のメーターに火が灯る。

HVとはいえガソリン車のATセレクターと同様にコンソール上にあるセレクターは、パターンもまたガソリン車のATと同じで違和感がない(写真32)。このセレクターをDに入れて、さてパーキングブレーキはといえば、最新のプレミアムブランドのレクサスらしくコンソール上の電気式スイッチ‥‥を探すが‥‥無い。それならと同じレクサスの兄貴分であるGSのようにインパネ下端にあるスイッチ‥‥にも、それらしいモノはない。もしかして、と足元の左端にあるフートレスト辺りを見たらば小さいベダルがあって(写真34)、これを踏んだらばギリギリっと奥に入っていって、正面のメーターにはブレーキマークが表示され、パーキングブレーキが作動中であることを知らせてくれた。要するに、プッシュ/プッシュ式だった。最近FMCされたVW ゴルフ(Z)はコンソール上に立派なパーキングブレーキスイッチを備える電気式だったたが、ISは今回も安っぽい足踏み式で、結局次のFMCまではこれで引っ張るのだろうか? (写真35)


写真31
パワースイッチはインテリジェントキーと押しボタンというハイブリッドでは当然の方式を採用している。


写真33
コンソールの全景。右側にATセレクターとその手前には走行モード切り替えスイッチ。左はリモートタッチと呼ばれる画面入力装置。


写真32
ATセレクターは一見トルコン式のようにマニュアルモードまでついているが、トヨタのハイブリッドだから無断変速を使用している。


写真34
F SPORTではスポーティーなアルミペダルを標準装着しているが、左端のプッシュ/プッシュ式のパーキングブレーキが白ける。


写真35
最近はパーキングブレーキが電動式となっている例が多い。レクサスもGSはインパネ下部に、VWの新しいゴルフはセンターコンソールに何れも電気式だ。

公道に出るために1/2程度にアクセルを踏むとハイブリッドらしくスムースな電気モーター独特のトルク感で走り出したが、気が付いた時には既にエンジンも回っていて、信号待ちで停止するとエンジンは止まっていた。最初は走行モードをノーマルにしているので、正面のメーターはハイブリッドのパワーメーターとなり回転数は判らない。ここから右折して一般(市)道に入って、決して広くはない道を前車に続いて40〜50km/h位で巡航する。ところで、メーターについてはF SPORTとそれ以外では全く異なり、F SPORTの場合は正面に大径のメーターとそのサイドに同心円の一部を切り取ったような細長いメーターが付いていて、走行モードがNORMALもしくはエコモードでは正面の大径メーターはパワーメーターとなるが、SPORTモードに切り替えると回転計となる。なお、速度は何れも大径メーター内にデジタル表示される。なお、両サイドのメーターはモードに関係なく左が水温で右が燃料となる(写真36)。

ここでエンジンの回転数を知りたかったのでスポーツモードにして正面の大径メーターをパワーメーターから回転計に変身させる。そうすると巡航時の回転数は速度は一定で殆どアクセルを踏まないような状態では1,500rpm以下を指すが、少しでも踏み込むと、その量によって2,000から2,500rpm位に素早く回転が上がる。その後も色々やってみたが、回転数に付いては電子制御が事細かに回転数を制御することから、どういう時に何回転くらいという事が言えず、とにかく1,500〜3,000位は上下するような状況だった。電気式モーターの特性は内燃機関と違い発進(停車)時が最もトルクがあり、その意味ではエンジンとの不得意分野を上手く補完するわけだが、言い換えれば回転数が上がるほど電気モーター独特のトルクのメリットは減ってしまう。IS300hの動力性能は発進から暫くの間は、スペックから感じるよりも、それ以上のトルク感でまあ満足出来る加速性能だが、フルスロットル加速をしてみるとある程度の速度から先は大した加速はしない。その面では決して強力な動力性能を持ったクルマではなく、あくまで燃費命のハイブリッド車だという事実を認識させられる。


写真36-1
F SPORTのメーターは中央の大径メーターと左右の細長い同心円上のメーターの組み合わせ。
なお、中央のメーターはECOとNORMAL時はパワーメーターとなり、SPORTでは回転計となる。


写真36-2
ECOモードのメーター表示は、基本的にノーマルモードと変わらない。


写真37
IS300hはHVのためにEV MODEのスイッチが追加されている。

IS300hにはマニュアルモードもあるし、ステアリングホイールには立派なパドルスイッチも付いている。実は最初に試乗したF SPORTはそこまで試す時間と余裕が無かったので、その後に別の場所でベースグレードのIS300hに試乗した。F SPORTとの最大の相違点は正面のメーターで、F SPORTが大径のメーターをセンターに置くのに対して、ベスグレード、及び"version L"は大径といってもF SPORTよりは小さい2つのメーターが左右対称に配置されていて、右がFS260km/hのアナログ速度計であり、左はNORMAL(とECO)モードではパワー(エレキ)メーターでSPORTモードでは回転計となる。写真38を参照すれば判るとおりで、むしろこの方がオーソドックスて使いやすように感じるが、ハイテクっぽさという面ではF SPORTに軍配が挙がる。

マニュアルモードを選択するにはフロアーコンソール上のATセレクターをDの位置から右に押すというオードドックスなパターンで、多くの輸入車が左に押してマニュアルモードとなるのとは逆だが、マニュアルセレクトするのだがらドライバーに近い方向になるレクサスのパターンが本来であり、多くの輸入車は単にLHD(左ハンドル)用を流用しているから反対になっているというだけだ。この辺がレクサスの良いところで、国産でありながら多くが米国で販売されるということで、LHD用のパーキングブレーキレバーのままで国内販売している、ドコかのスポーツカーとはチョイと違う。

さて、実際にマニュアル操作してみると、レスポンスの悪さが結構気になるのはIS300hのミッションが無断変速、すなわちCVTであるために、変速をシミュレートする際はプーリー上をベルトが移動というか乗り上げて入出力のプーリーの径を変えるために、一瞬の変速というのは無理なようで、どうしてもレスポンスが悪くなってしまう。まあ、マニュアル操作をしたければ、少なくともハイブリッドを買うのは避けることだろう。


写真38
ベースグレードと"version L"はF SPORTと異なるり、BMWのようなセンターに対称な2メーターとなる。
F SPORTよりもこちらの方がオーソドックスで好ましいと感じるJのだが‥‥。


写真39
マニュアルシフト用のパドルスイッチは無段変速のHVの割りには立派なものが付いている。


写真40
ブレーキのマスターシリンダー付近には電子制御装置やアクチュエーターなどハイテクのブレーキ制御機器が見える。

写真41
エンジンは2AR-FSE 直4 2.5L 176PS 22.5kg-m に1KM 143psモーターを組み合わせていて、これはクラウンハイブリッドと全く同じ。エンジンルーム内のオレンジの太いケーブルがハイブリッドらしさを感じる。

動力性能については、レクサスのブランドを充分に満足するとは言えない状況だったが、それでは操舵性はといえば、先ずはF SPOORTの方から言えば何と思いの他良い結果だった。最初にNORMALモードでの走行中でもステアリングの中心付近の不感帯も少なく決して悪くはなかったが、これをSPORTモードに切り替えると更にシャキッとして、BMW320iとは言わないまでも充分に満足できる程度の剛性感もある。そして何時もレクサスの試乗で試しているちょっとしたブラインドコーナに近付いたのでモードはSPORTでチョッと速めにコーナーに入ってみたら、あっと驚くニュートラルステアで、これはレクサス車の中でも最良の部類ではないか、というくらいの旋回特性だった。

その後のコーナーでは更に速度を上げてみたが、まともな神経では限界どころが余裕の範囲だった。しかし、最近の新型車にはIS以外でも驚くほどのニュートラルな旋回特性のクルマが多くなったように感じるが、それだけ技術が進歩して、予算さえあればこの程度のステアリング特性のクルマが確実に出来るようになったのかもしれない。しかし、それと共に手抜きのどうしようもないクルマも確実に存在するのは、どうせこのクルマのユーザーには判るわけがないので走りなんかは手を抜いて、目に入る部分に金を掛けるという確信犯で開発されたとしか思えないクルマもあるのが事実だ。しかも、これがまた良く売れている!

話が横道に逸れてしまったが、F SPORTの旋回性能は確かに想像以上に良かったが、それではF SPORTではないベースグレードのISではどうなのだろうか、と思って試乗したベースグレードのIS300hだったが、結局試乗コースに上手いコーナーが無くてハッキリとした比較が出来なかったという状況だったけれど、大きな交差点の右左折を少し速めに回ってみたりした限りでは、FSPORT程のニュートラル感は無かった。もう一つの違いはFSPORTの場合はしっかりした旋回性能とともに驚くほど良い乗り心地を両立していたが、ベースグレードでは常に路面の突き上げが感じるほどに硬い足回りは、明らかに洗練させていないというか、ダンパーなどのサスペンション部品も明らかに質が劣るのではないか。そうは言っても価格差が58万円もあるから、一概にはF SPORTを勧められないが。

ブレーキについてはホイールのスポークから覗いて見えるホイールユニットが極々普通の片押しキャリパーだが、トヨタのハイブリッドの強みは完全エレキのブレーキバイワイヤシステムを採用していることで、これによりキャリパーやブレーキ系の剛性が良くなくともチャラにできるし、勿論最大の強みは回生ブレーキをフルに使えることだ。そしてフィーリングはというと、良く言えば以前よりも自然になったが、悪く言えばバイワイヤー独特の遊びの無さとストロークの短かさが無くなってしまったことだ。


写真42
ベースグレードのタイヤは205/55R16、F SPORTはフロント225/40R18 リア255/35R18となる。
なお、写真にはないが"version L"では225/45R17が標準となる。


写真43
ブレーキキャリパーはオーソドックスな片押しタイプ。


写真44
ドアのヒンジを見ると、相変わらずプレスのチャチな奴を使っている。これがLSだとドイツ車真っ青のゴッツいスチールブロックとなる。

新型になったISに乗ってみて、確かに先代のようなトヨタ丸出しからは脱却しているし、妙にドイツ車を意識し過ぎて硬過ぎて返って不安定だった先代からは充分に改善されている。しかし、ドアヒンジなどを見れば、やっぱりプレスの安物(写真44)だったりと、ドイツ車並の剛性命を目標とするのは止めてしまったのだろうか。しかし、同じレクサス車でも最上級のLSは、例えばドアヒンジなどはBMWも真っ青というガッチリとしたスチール製だから、やっぱりISは見切っているのだろう。

BMWやメルセデスのユーザーが”より価格が安く内容は寧ろ勝る”レクサスに乗り換える、なんていう妄想は今や誰も抱かなくなったが、それでもレクサスISといえば、ヤッパリBMW3シリーズの影が付きまとう。となれば、IS vs 3シリーズの比較を特別編で、という要望があるだろう。ただし、新型ISのメイングレードは今回試乗したハイブリッドの300hであり、小排気量ターボが主流の3シリーズとは方針が全く異なるが、とはいえIS 300h vs 320iというのはやってみたいアイテムであり、新世代という意味では320dの方が合っているかもしれない。

ということで、「LEXUS IS 300h vs BMW 320d」の構想を纏めることにする。

乞うご期待!

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