Volkswagen Golf Highline (2013/7) 後編
  

全幅1,800oというサイズは一昔前ならばフルサイズの高級サルーンの数値だったが、今ではCセグメントハッチバックのゴルフでも1,800oもあるから、運転席から見た車幅感覚だって決してコンパクトカーのそれではない。とはいえ、フィーリングとしてはクラウン並の車幅を感じないのは、ゴルフ=コンパクトという思い込みが小さいクルマに感じるのか、それともゴルフの設計が上手いのか?

それで、シートの座り心地はといえばゴルフのシートは伝統的に硬めでシッカリした、言ってみればドイツ系シートの典型のようなフィーリングで、この点ではBMWの安物グレードより良いのではないか、というくらいだ。エンジンの始動は オーソドックスな金属式のキーをステアリングコラム横のキーホールに差し込んで回すという、国産車ならば軽の廉価モデルやライトバンが脳裏に浮かぶ方式だが、まあ、これはポリシーの問題だろう(写真31)。

コンソール上のセレクターをDに入れて、同じくコンソール上の電気式パーキングブレーキスイッチ(写真33)を下に押してリリースし、右足をブレーキから離すと殆どクリープはなく、僅かにアクセルを踏めばスムースに走り出した。このディーラーもまた国道バイパス沿いなので、猛烈なクルマの流れを待って切れ目を見つけて本線に入る。そこから2/3程アクセルを踏み込むと、クルマは驚く程スムースに加速する。先代に比べるとパワーでは160→140psと12%もダウンしているが、実際の走りは寧ろ強力に感じるのは最大トルクから言えば24.5→25.5s・mと逆に増大していることも原因の一つであろう。

国道の流れは60〜70km/hで、その時の回転数は約1,500rpmだった。交差点手前で一度流れが悪くなり30km/h程度まで落ちたので、前方が開いてからアクセルを強く踏んでキックダウンを誘うとシフトダウンまでの時間はまあ程々で、特に速いことは無いが充分に我慢のできる範囲だった。今度はコンソール上のセレクトレバーを手前に引いて走行モードをSにする。先代ゴルフでは確かDレンジの手前にSレンジが付いていた記憶があるが、新型ゴルフではDの位置から手前に引く毎にDとSを繰り返すような動作となった。それで、実際に巡航中にDからSに入れてみると素早く回転計の針が約1,000rpmほど跳ね上がり2,500rpmくらいで巡航する。


写真31
エンジンの始動は今時珍しくインテリジェントキーではなく、金属式のキーをキーホールに挿入するタイプとなっている。


写真32
コンソール上の右後方スペースには、ドリンクホルダーがあり、しかもスライド式のカバーも付いている。

写真33
コンソール上にはATセレクターと電動式パーキングブレーキのスイッチが配置されている。

うまい具合に信号待ちの先頭で停車したので例によってスタンディングスタートに挑戦してみると、発進直後の加速感はスペックからは想像も付かないくらい充分なもので、この時のエンジン音も適度であり、何よりもウルトラスムーズに6,000rpmくらいまで上がっていったが、回転数が上がると加速感はイマイチとなっていった。試乗車は当然ながら走行距離の少ないまっサラの新車であり、ドイツ車の常では新種のエンジンは回転がいかにも重たく、これが本来の性能になるのは1万キロ程度は走った頃なのだが、今回のゴルフは国産車みたいに工場出荷の段階で既に当たりが付いているようだった。もしかして1万キロ走行後は更にスムースになっているのだろうか?

今度はマニュアルモードを試してみる。切り替えはDの位置から左へ倒すという一般的な方法で、Highlineの場合はステアリングにパドルスイッチも付いている。このパドルスイッチはVWの常で、高さが短くてステアリングスポークより僅かに頭が出ている程度だが、別に機能には関係ない(写真35)。勿論右がアップで左がダウンなのは言うまでもない。このマニュアルモードとスポーツモードの組み合わせで巡航中に左のパドルを引くと、結構素早いレスポンスでシフトダウンが起こった。その後も上げたり下げたりとトライしてみたが、DCTタイプ(DCT)で速いのは当たり前とはいえ、通常では充分なレスポンスであり、国産車がいつまでもトルコンATを装着していて良いのだろうか?という疑問さえ浮かんでくる。えっ? 国産車は安物の場合はCVTだぞ、って、確かいそうだった。ところで、DCTタイプとはいえ、同じくDCTのポルシェPDKと比べると流石にアレほどの素早さは無いが、それは仕方がないだろう。


写真34
メーターは奇数表示が小さい速度計や、すごく小さい燃料計など、如何にもVWという感じがする。


写真35
ドライバーからは微かに上部が見えるくらいのパドルスイッチは勿論機能には全く問題はない。

写真36
直4 1.4Lターボエンジンは140ps/ 5,000rpm 25.5kgf-m/4,500rpmを発生する。

ステアリングは不感帯も殆ど無く中々クイックだが、試乗車にはオプションのアクティブシャーシーコントロール"DCC"というダンパーの減衰力や電動パワーステアリングの特性を瞬時にコントロールするサスペンションシステムが装着されていた。DCCのモードは大人しい順に「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の3モードがあり、スポーツを選ぶことでステアリングは更にクイックになり、サスペンションも硬めでシッカリとグリップするようになる。今回の試乗コースでは途中に多少のワインディング路があるので、DCCはスポーツに、そしてATセレクターはMTモードとして回転数は3,000rpmになるように選んで、最初から少し速めの速度でコーナーに進入してみると、やはりあっさりと通過してしまった。それではと徐々に速度を上げていったが、マトモな神経では公道上の限界か、くらいの気持ちで突入を試みても難なくクリアーしてしまい、DCCの威力を見せつけられてしまった。DCCのオプション代金は14.7万円ということだが、これには専用デザインのホイール(写真37)もついてくるし、その効果を考えれば結構お勧めだ。とはいえ、DCC無しのモデルに乗って比較したわけではないので、DCCが絶対必要かどうかは断定できないが、少なくとも今回試乗した状況ではFF車の究極といってもバチはあたらないくらいの旋回性能だった。

ブレーキは特に可もなく不可もなくで、実用車としては充分だろう。BMWのように極端に軽く喰い付くうような効きではないが、人によってはこのゴルフのようなオーソドックスな効きを好むかもしれない。ところで、欧州車のブレーキといえばホイールの汚れが思い浮かぶが、これはBMWのような喰い付きの良いパッドでは特に顕著で、BMWオーナーならば毎週ホイールを水洗いする羽目になったりして、この事実を身にしみて体験しているとは思う。それでゴルフのパッドはどうかといえば、さて、こればかりはある程度の期間乗った経験がないので残念ながら何とも言えない。


写真37
Highline の標準タイヤは225/45R17だが、写真のホイールはアダプティブシャーシーコントロール(DCC)付きのために標準とは異なっている。


写真38
ブレーキキャリパーは極普通の鋳物製片押しタイプで、実用車としては充分だろう。

今回の結果は特に旋回性能ではベタ褒めになってしまったが、既述のように試乗車にはオプションのDCCが装着されていたことも大いなる原因だったと推定されるから、それではDCC無しならどうなのかという興味もある。更に今回の試乗車は一番上級グレードのHighLineだったためにエンジンもそれ以下のグレードより強力だったこともあり、動力性能だって実用車としては決して悪くなかったが、その代償は車両価格が299万円で、DCCを付けると約315万円という、小型ハッチバックとしては決して安くない価格になってしまる。これではBMW116iの308万円を上回り、同デザインラインの318万円と同等となってしまう。

ということで、価格的にもゴルフだったらばTrendline(249万円)くらいが丁度いいようにも感じる。実は今回試乗した時点ではHighlineのみの販売だったが、これを書いている今現在では下位グレードの試乗車もボチボチ用意されているようなので、これは是非とも試してみたいと思っている。

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