BMW ACTIVE HYBRID 3 & 5 (2013/7) 後編

  

試乗は3シリーズから始めるのが本来であろうが、今回は事情により最初にActiveHybrid 5から試乗する。実はActiveHybrid 3に試乗予定だったが他のユーザーが試乗に出てしまったので、先ずは予定外のアクティブ5から乗って見ることにした。シートに座ると流石は5シリーズだけあって、タップリとしたサイズにオプションのベンチレーション機能が付いたシート、そして余裕の広さの室内など、最近は高級化とサイズアップで人気の3シリーズでも、流石に5シリーズと比較すると差がついてしまうのは容易に想像できるから3シリーズから試乗したかったのだが‥‥。

スターターボタン(写真41)を押すとメーター類が目覚め、このときエンジンもアイドリング状態だったが、直ぐに停止した。目の前のメータークラスターは如何にもハイブリッドという感じの国産車と違い一見すると「普通の5シリーズ」という感じであり、回転計の代わりにチャージメーターが付いていることも無い(写真43)。その代わり、インパネ天板の高い位置にあるディスプレイには何か切り替えるとイラストが出て切り替えた機能が説明されたり、チャージの状況がイラストで表示されるが、いちいち注視することもない。セレクターはコンソール上にある電子式で、これもガソリン(やディーゼル)の5シリーズと共通であり、何の違和感もなくDに入れてその左手前にある電動式パーキングブレーキスイッチを押してリリースする(写真42)。走り出しはハイブリッドらしいというか、殆ど無音でスムースに動き出した。公道の手前で一時停止してクルマの切れ目で本線に入り1/2程度アクセルを踏むと、その瞬間からレシプロエンジンとは違う電気モーター独特のトルク感で加速する。走行モードはデフォルトのCOMFORTだが、その強力な加速はチョッと病みつきになりそうだ。

速度が上がったところで60q/h前後で巡航すると、回転計の指針は1,200rpm位を指しているが、少し踏み込むと結構こまめに1,600rpmくらいまで上がるのはシフトダウンしたのではなく、トルコンのスリップを上手く使っているようで、これは以前からBMWが行なっている方法だ。その後巡航中に気がつくとクルマの流れが40q/h程度と遅くなっていて、この時エンジンは停止していた、いわゆるEVモード走行だった。それにしても片側2車線の立派なバイパスで、法定速度の60q/hだって遅すぎるくらいだと思うのに、前の方には40q/hでチンタラ走るファミリーカーが2台並んで走っているから、2車線の意味なんて全くない状況だった。その後一台が横道に入って隣の車線の流れが良くなり始めたので、クルマの隙間を探して車線変更し、ここで2/3程アクセルと踏むと少しのタイムラグの後にシフトダウンされて、ここからは強力な加速で速度が上がり、40→60q/hなんていうのは一瞬だ。

その後も何度か流れが遅くなったが、前車に追いついて40q/hまで減速してから、アクセルペダルを僅かに踏んだ状態になると、回転計の針がストンとゼロになりEV走行であることが判る。この状態で大人しく巡航するとエンジンは停止したままだが、極僅かでもアクセルを踏むと直ぐにエンジンが回り出す。そして、EV走行中に速度計をみたらば50q/hで、この速度までなら右足の微妙な操作で上手く走るとEV走行が可能だったが、それ以上の速度になるとエンジンが停止することは無かった。


写真41
スタートボタンはハイブリッドの場合下端にあるアイドリングストップ・キャンセルスイッチが無い以外は場所も含めて同一だ。

写真42
ATセレクターや電気式パーキングブレーキスイッチも同一のモノを使っている。


写真43
比較したのが523iのために左の速度計内の下部にある燃費計が無いが、それ以外は共通のメータークラスター。

ActiveHybrid 5の走行モード切り替えは5シリーズに共通なコンソール上のATセレクター右にあるスイッチを使用するので、5シリーズ、というよりもBMWに精通しているユーザーならば何の違和感もなく使用出来る。えっ「俺の5シリーズにはそんなスイッチはねえぞ」って、そりゃあまあ、E34は走行モード切り替えは付いていないわなぁ。このスイッチでSPORTを選ぶと、今まで1,500rpmを指していた回転計の指針は2,500rpmに跳ね上がる。そして、アクセルを踏む右足に少しでも力を加えると、クルマはオーバーレスポンス気味に反応して強烈な加速に移る。最初は面白がって加速してみたが、実際の実用では決して必要ではない性能だ。そして、この多少胡散臭いオーバーレスポンスは実に面白いが、気を取り直せば不自然なことにも気付く。とはいえ、ここは余計なことは言わずに、只々楽しむことにする。

今度はフルスロットルを試してみる。先ずはCOMFORTモードで試してみると、いやいや、これでも充分な加速力で、図体の大きな5シリーズをグイグイと加速してゆく。そして、SPORTモードに切り替えて、再度のフルスロットルを試してみると、これはもうCOMFORTとは明らかに異なる強烈な加速で、元々エンジン音が極めて静かなActiveHybrid 5はフル加速でもそれ程のエンジン音が聞こえないが、それでいて強烈な加速を得られるのは快感であるし、しかも久々のシルキーシックスを感じさせるスムースなエンジンによる回転の上昇も快感が増す原因となっている。そういえば、最近のBMWは5シリーズでさえ4気筒ターボが主流であり、その点では久々のシルキーシックス体験だった。やっぱりBMWはこれでなくちゃ、なんて思うが、その為には850万円も出すことが必要なラインナップは何とかならないものだろうか。

動力性能は文句なしのActiveHybrid 5だったが、BMWといえばスポーツカー真っ青のハンドリングを期待するわけで、この面に関しては残念ながら523iや528iには遠く及ばなかった。5シリーズに限らず、最近の軽量な4気筒ターボは重量バランスという面では大いなるアドバンテージがあり、これに対してフロントの重いV8モデルなどはどうしてもハンドリングでは軽快さに劣る傾向があるのだが、ActiveHybrid 5のステアリングはBMWとしては緩慢であり、コーナーでのステアリングレスポンスはクラウン並、いや軽量な2.5アスリートには負けるんじゃあないか、というくらいにBMWらしくなかった。これでは、折角の動力性能が台無しになってしまう。まあ、それでも特性自体は弱アンダーで、決して悪くはないのだが、ステアリングを回しても反応が遅いBMWなんていうのは、殆ど意味が無いと言いたくなってしまう。エンジンが同じ535(1,820kg)よりも140kg重いActiveHybrid 5(1,960kg)だから、バッテリーを後席背面に置くなどしてフロントに積んだモーター類との重量バランスは取っているとは思うが、やはり前後に重りがついては、幾ら前後バランスが良いと言っても、やはり回転方向の慣性は大きい訳で、これが操舵性を悪化させる大きな原因なのだろう。

最後にブレーキはといえば、ハイブリッドとはいえトヨタのようにバイワイヤーではなく、ニッサンのように独自の発想による電動サポートでもなく、更にホイールを覗いて見れば5シリーズではお馴染みのアルミ製とはいえ片押しタイプの、ハッキリ言ってメリットが良くわからないブレーキキャリパーが見える(写真44)。それでも、5シーズと同じバキュームサーボのブレーキシステムだから、軽い踏力でよく効くことは他のBMW車と同様だが、一時のような極端に軽くて喰い付くような特性よりは穏やかんなってはいる。


写真44
先代(E60)から使っているアルミボディの片押しキャリパーをキャリオーバーで使っているから、どちらも同じブレーキユニットと思える。

それでは、引き続きActiveHybrid3に乗ってみる。

ActiveHybrid 5から乗り換えると当然ながら室内は多少狭いし、インテリアの質感も多少落ちるのは単に5シリーズと3シリーズの車格の違いだが、こうして時間差無しの乗り比べでは結構その差が気になってしまう。そしてエンジンを始動してさて発進となって、パーキングブレーキはといえばオーソドックスというか、時代遅れというか、コンソール上のレバー式はハイテク車の代表であるハイブリッドモデルとしては多少白ける。最近FMCしたVWゴルフが5シリーズにそっくりの電気式パーキングブレーキを標準としているのを見ると3シリーズの設計自体の古さが目についてしまう。とっても、昨年初めにデリバリーされたF30は決して古い車ではないのだが‥‥。

ActiveHybrid 3のパワートレインは直前に乗ったActiveHybrid 5と全く同じだから、違いは基本的にボディのみであり、その重量差は5の1,960sに対して3は1,740sと、何とその差は220sもある。それで、実際に走り出してみると強烈なトルク感のあったアクティブ 5に比べても、同じパワートレインで200s以上も軽いアクティブハイブリッド3の加速は凄まじい。勿論、基本的な特性は全く同じだのだが、スペックを見たただけでもその重量の違いに驚くのだから、立ち上がりトルクの強力な電気モーターの恩恵によるトルク感は正に圧巻だ。と、思ってよくよく考えたらば走りだしたばかりなので、走行モードは当然ながらデフォルトのCOMFORTであり、それならとSPORTに切り替えると、これはもうちょいと踏むと5,000rpmくらいまで加速してしまうし、べた踏みすれば6,000rpmまでも訳なく吹け上がる。ここで、気が付くのは同じパワートレインとはいえ、フル加速でさえも控えめで、通常走行では殆どエンジン音が聞こえなかったアクティブハイブリッド5に比べて、こちらはある程度の排気音を強調しているし、フル加速では伝統的なBMWのボーッというエンジン音が聞こえてくる。先ほどActiveHybrid 5の試乗でも以前の6気筒のシルキーシックスを思い出したと記したが、3の場合はもっと確実にE46時代の330iを思い出すような性能と音だった。


写真45
5シリーズ同様にハイブリッドとの違いはアイドリングストップ・キャンセルスイッチが付かないことで、それ以外は共通なスタートスイッチ。

写真46
電子式のATセレクターや走行モードの切り替えスイッチも同一のモノが使われている。


写真47
これまた基本的に同一なメーター類。

実は車両重量の違いのもたらす恩恵は、加速性能以上に操舵性で発揮された。ActiveHybrid 5のもさーっとした操舵特性に比べて、軽量なActiveHybrid 3は走り初めた瞬間から軽快感を感じるほどで、ステアリングレスポンスも充分にBMWサルーンの標準的レベルであり、5で感じた操舵性の悪さは一気に解決、というところだ。ただし、そうはいっても320iの1,500sに比べれば240sも重いわけで、3シリーズ本来の軽快さには及ばない。実際にちょっとしたワインディング路を走ってみても、まあ決して悪くはないのだが、3シリーズというにはチョイと物足りない。例えば最近FMCされたDセグメントという3シリーズと同じ車両クラスであり、しかもハイブリッド車のレクサスIS 300hに比べると、ISの方が素直なハンドリングというかニュートラルな旋回特性というか、何とActiveHybrid 3を上回っているのではないか、というくらいにレクサスが進歩したのか、BMWのハイブリッド車がイマイチなのか、ということだ。ただしActiveHybrid 3の動力性能はIS 300hとは異次元なくらいに強力だから、まあ比較するのが間違いではあるが‥‥。

ブレーキについては何時ものように軽い踏力で良く効くが、従来のBMWよりは喰い付きが穏やかだったとはいえ、フィーリング上で特に大きく変るようなことは無かった。ところが、試乗を終わって念の為にフロントホイールのスポークの隙間から見えるブレーキを見ると、何と対向ピストンらしきキャリーパーが見えるではないか!(写真43) BMWといえばM5でさえ先代までは片押しキャリパーを使うなど、ブレーキに金を掛けないことで有名だったが、ActiveHybrid 3は対向4ピストンキャリパーを奢っていた。そういえば、先代の135iクーペも対向ピストンだったが、これらは今後BMWが方針を変えて、上級モデルには対向ピストンを使用することにするの布石なのだろうか。

考えみると、米国でBMWのライバルであるインフィニティはG(スカイライン)やM(フーガ)の上級モデルではフロントが4ポット、リアは2ポットの何れもアルミ対向ピストンキャリパーを搭載しているから、BMWもやっと重い腰を上げたのだろうか?

アクティブハイブリッド3の価格は719万円(デザインライン)であり、これは性能的に近いレクサスIS350(520万円)との価格差は約200万円となる。


写真48
今回のActiveHybrid 3はBMWとしは珍しく、フロントに4ポット対向ピストンキャリパーが付いていた。

さて、結論だが、確かに強力な動力性能に魅力のあるActiveHybrid 3と5ではあるが、やっぱりマダマダ改良の余地はありそうだし、個人的にはActiveHybrid 3に720万円出すのならば、528i(715万円)を選ぶだろうし、ActiveHybrid 5の予算(850万円)があれば、535i(840万円)を選ぶだろう。と、書いてみて気が付いたのは535iにモーターやバッテリーを加えたActiveHybrid 5の価格が10万円しか違わないって? 本当かよ? とうことで、念の為にBMWのサイトで再度価格を調べてみたが、間違いなく850万円となっている。考えれみれば、燃費の有利なハイブリッドモデルだから、購入時の優遇税制だってある筈で、そうなると価格が逆転するかもしれない。

もう一の事実は、3シリーズの場合は335iがラインナップから消えてしまったので、3シリーズの高性能モデルが欲しいユーザーは結局ActiveHybrid 3を選ぶことになる。因みに先代(E90)の335iは686万円だったから、5シリーズよりは割高のようだ。まあ、335iも含めて、個人的には3シリーズを選ぶならば上級志向でも328i(デザインラインで586万円)で止めておいて、一般的には320iもしくは320dが3シリーズらしいと思っている。要するに今の3シリーズはチョイと高級でスポーツ志向のファミリーカーと割り切るべきで、600万円以上出すのならば5シリーズを選んだほうが良いのではないか、というのはあくまで個人の意見ではある。

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