Abarth 500 (2013/5) 前編

  

アバルトといえばフィアット車をベースに強力なエンジンを載せて足回りを強化したホットマシンとして有名で、サソリのマークが象徴するように可成り危険な雰囲気のするクルマでもある。そのアバルトがフィアット500(写真1)をベースとして、本来は0.9L ターボ 85psや1.2L 69psが搭載されるところに1.4Lターボ 135psを押し込んだというアバルト500が今回の試乗車だ。

アバルト500のスペックを他社と比較するにあたって、ベースとなったフィアット500は当然として、出来れば国産でアバルト500に近いスペックを持ったクルマを、と思ったのだが今の国産にはAセグメントのホットモデルなんて有るわけがないし、何よりもAセグメント自体も殆ど存在しないのは、日本の場合にはこのクラスのクルマは軽自動車が独占しているために、敢えて国内でAセグメント車を発売する意義がないこともある。それならば軽のホットモデルでの比較はといえば、以前は存在していたスズキの”ワークス”などは今や絶滅してしまった。それでは輸入車はといえば、ルノー トゥインゴRSが思い浮かぶし、実際にスペックも似通っていそうだ、ということで以下の表を作ってみた。

ライバルたるトゥインゴRSはサイズ的に見ると全長が+45o、全幅では+65o、そしてホイールベースも+65oと何れもトゥインゴRSが大きく、その割には車両重量はほぼ同等という関係となっている。こうしてみればアバルト500の場合はベースとなっているフィアット500自体の小ささが際立っているが、これを軽自動車と比べると軽規格から必然的に全長3,995x全幅1,475oであり、何と長さについてはフィアット500よりも軽のほうが長かった。幅については流石に軽規格の関係から150oも狭いから、上から見れば軽は随分と細長く見える訳だ。

アバルト500とフィアット500の大きな違いはエンジンであり、オリジナルのフィアット版が0.9Lターボ(85ps)や1.2L自然吸気(69ps)を搭載するところに、1.4Lターボ(135ps)を押し込んだ訳で、85psの1.2POPと比べればパワーは2倍もあるが、価格的には199万円(1.2POP)に対して269万円と40%高いだけであり、これって結構買い得ではないか、なんて思ってしまう。なお、海外の資料を見ると車名はFIAT 500 ABARTHというのが正しいようだが、今回はマニアの間での通りの良さと、輸入元でも日本名としているアバルト500と呼ぶことにする。

実は上記の比較ではあえて触れなかったが、アバルト500はアルファロメオ ミトとも近い関係にあるし、同じフィアットの小型車であるプントをベースとしたアバルト プントも日本で発売されているが、これらについては別の機会に取り上げたいと思っている。


写真1
アバルト500のベースなっているフィアット500。


写真2
サイズは僅かん大きいた、その他のスペックが近いことでライバルともいえるルノー トゥインゴRS。

最初にことわっておくと、今回の試乗車は2012年モデルのためにレザーシートが標準装備されているが、最新モデルではファブリックシートとなり、その代わりに価格は299万円から269万円と下がっていることを了承願いたい。

まずはエクステリアを眺めてみれば、昔のアバルトを知るマニアからすとと意外と大人しいのに驚くかもしれない。車高もそれほど落としてはいないし、ボンネットに大き な穴や切り欠きも無いから、何も知らない人がみたらば、これがアバルトという特殊な高性能モデルであることに気が付かないかもしれない。何しろ昔のアバルトはリアエンジンのオリジナルフィアット500に無理や大きなエンジンを押し込めたために、リアのエンジンカバーが半分空いたままで固定されている、というモデルがあって、これが未だに脳裏に残っているくらいだ。アバルト500はフィアット500と基本的に同形状だから、実際に現車を見ると随分と幅が狭くて背が高く、しかもコロッとしていて、何だかだるまみたいというか、低く広くの如何にも高性能車らしいフォルムとは似ても似つかないから、これは好みが分かれそうだ。なお、エクステリアでアバルトを主張している部分としては、フロント、リア、そして両サイドにサソリのエンブレムが付いている(写真7)から、見る人が見ればすぐにアバルトであると認識できるし、リアからみれば太い左右出しのマフラーやルーフスポイラーなどで、これもマニアが見れば実用車では無さそうなことは想像がつく。

リアラッゲージルームはフィアット500と同じだから、Aセグメント車としては決して狭くないのだろうが、日本で言えば軽自動車程度か(写真8)。


写真3
全長3,655oと日本の軽自動車の3,955mmよりも短い。


写真4
リアは左右から出る太いマフラーとルーフ後端のスポイラーが何かを予感させる。


写真5
フロントもフィアット500に比べて特にケバいという訳ではない。


写真6
ボディは幅方向では下端が一番広く上部に行くに従って絞られていて、まさに台形フォルムなことに気が付く。

写真7
エクステリアでアバルトを主張している部分は、フロント、リア、そして両サイドにサソリのエンブレムが付いている


写真8
リアラッゲージルームはフィアット500と同じだから、日本で言えば軽自動車程度か。


写真9
写真のストラップは社外品で、オリジナルはもっとチャチな奴がついている。

そしてドアを開けるとブラックを基調にシート表面とドアインナートリムの一部に鮮やかなレッドをあしらった如何にもアバルト、如何にもイタリアンという室内が目に入る(写真10)。前述のように写真の本革シートは前年モデルまでで、現在のモデルはファブリックとなっている。さらにサイドスカットルに目を移すとブランド物のクルマの場合は、そのロゴが誇らしげに付いているものだから、アバルト500では"ABARTH"のロゴとかサソリのマークくらいは付いているかと思ったら、なぜか”500”をもチーフにしたロゴがついているのみだった(写真11)。シートに座って位置を調整しようと左手をシート座面の側面におき、レバーもしくはスイッチ類を探すが見つからない。それではドアトリムにでも電動スイッチがあるのかとも思ったがそれも無く(写真13)、実はシートの中央部に付いていた(写真12)。

そのドア インナートリムは、基本的にはフィアット500だからプラスチッキーで、赤いレザー貼りの部分との質感のギャップが大きいが、まあそれがアバルトらしいということか。そして見たところミラーの調整スイッチらしきものはあるが、多くのクルマに付いているサイドウィンドウのスイッチが無いので面くらうが、実はセンタークラスターのシフトレバーのすぐ上辺りに付いている 。

写真10
いかにもアバルトらしい黒に鮮やかなレッドのツートーンが目を引くインテリア。


写真11
サイドスカットルにはなぜか500をもチーフにしたロゴがついている。


写真12
シートの上下とバックレストの調整は車両の中央側にあるレバーとダイヤルを使用する。

 
写真13
ドアインナートリムのプラスチック部分はフィアット500譲りの安っぽさで、アバルトの赤いレザーとの格差を感じる。
パワーウィンドウのスイッチはドアではなくセンタークラスターのシフトレバー付近にある。

今度はインパネを見てみると、当然ながら基本の形状はフィアット500の流用だが、グローブボックスを中心として水平方向にはピアノブラック仕上げとしたり、ステアリングホイールやメーターなどもアバルト独特のものだから、フィアット500のポップな印象とは全く異るし高級感も中々のものだ。と、思いながら最新のフィアット500のインパネを調べてみたらば、何とグレードによってはアバルト500に近いセンスのインパネを持っていたりして、フィアット500が全てお洒落でポップな訳では無さそうだ(写真14)。ところで、最近では日本の軽自動車も上級モデルならば結構高級感もあるようになったが、アバルト500と比べると全く歯が立たないのは価格(約2倍)からしても無理な要求だろうか。

センタークラスターには上部にオーディオ、その下にオートエアコンが装着されている。オーディオは専用品でエアコンとともにイタリアンデザインのスタイリッシュなもので、こういうセンスはドイツ車では得られない(写真15,16)。勿論ナビのディスプレイスペースなんてモノは考慮されていないから、ナビは何処?なんていう愚問はしないように。ところで、フィアットのオートエアコンなんて聞けば温度はマトモに制御できないし、すぐにぶっ壊れる、なんていうのを想像するが、フィアットのエアコンを供給していたフィアット直系の部品メーカーであるマネッティマレリ社は10年程前にエアコンに関する事業を日本のデンソーに売却したために、写真のエアコンも中身はデンソー製であろうから性能に不安はない。


写真14
フィアット500とは全くイメージが異なり、高級感のあるインパネ、と思ったら最近ではフィアット500もモデルによってはアバルトに近い雰囲気のものもあるようだ。


写真15
オーディオはCD付きのFMという当たり前のものだが、デザインはイタリアンで流石はラテンのセンスだ。


写真16
エアコンはフルオートタイプが付いている。そして操作パネルのデザインはオーディオと同じセンスのイタリアンデザインとなる。

室内を見た結果は、やはりアバルトは走り以外でもこのコテコテのイタリアンセンスが大いなる魅力であり、軽自動車より一回り大きいだけのクルマでこれ程のインテリアンテイストを味わえるクルマはチョッと見当たらない(実はアルファロメオ ミトもあるが)。

それでも、アバルトといえば走りが気になる訳で、それについては後編にて。

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