PORSCHE 981 CAYMAN (2013/5) 後編
  

新シリーズの981/991もカレラS、ボクスターS、カレラ4と試乗を重ねてきて、基本的には同じデザインのセンタークラスターや左右端のメーターが無い(5眼メーター⇒3眼メーター)ことを除けば、基本的にカレラからボクスターまで同じメータークラスターなど、先代同様に911系とホクスター系の共通点は多く、ドライバーズシートに座ってみての座り心地、フロントウィンドウ(ウィンドウシールド)越しに見える眺めなどどれも共通している。そして今回のケイマンもまた同様で、ドライバースシートに座ってもボクスターとの違いは感じられなく、唯一の違いはルームミラーに映るリアウィンドウの位置くらいだろうか、えっ?ボクスターSなら回転計の色が違う、って? それゃ、ボクスターとケイマンの違いでは無くベースモデルとSの違いだろうに、なんてくだらない事を書くのは「ボクスターSとケイマンではメーターの色が違います」なんていうメールが来たりすると、ズッコケてモチベーションが下がるといけないのが理由でして、まあ、色々大変な訳ですよ。話を戻して、オープンのボクススターは当然ながらクローズドクーペのケイマンとは天井が違うのだが、ボクスターの室内から天井を見た限りでは、これが本当にオープンモデルのソフトトップ越しに見ている光景なのだろうか? と、思うくらいによく出来ているのは先代でも同様だったから、ボクスターからケイマンに乗り換えても違いは殆ど感じない訳だ。

したがって、エンジンを掛ける手順も今までの試乗車と全く同様で、唯一違いといえばカレラ4にはあまり便利とはいえないオプションキーのレススタートが付いていたくらいで、標準ではこれまた全てのモデルに共通となっている。お馴染みのPDKセレクターをDに入れて、ダッシュボート右端の下という手を入れ難い場所にある電動パーキングブレーキスイッチを引いてリリースするのも同じだ。ところで最近にわかに増えてきた電動式のパーキングブレーキスイッチについては、引いてリリースするものと押してリリースものとがあり、前車はダッシュボート下端にある場合で、後者はセンターコンソール上にある場合のようだ。何故にこのようになっているかを考えたが、恐らくセンターコンソール上の場合はレバー式の操作を継承していて、レバーを引いてオン、ロックを外して下に戻して、すなわち押す方向でリリースとなるから、電気式も引いてオンになっているのではないだろうか。そしてダッシュボード下端のタイプはメルセデスなどのように足踏みでオンとなり、リリースはダッシュボード下端のリリースレバーを引いて解除するタイプを継承しての引いてリリースとなっていると想定している。えっ、それじゃあプッシュ/プッシュ式のペダルの場合は、って、知るかそんな事!

981のエンジンはボクスターとケイマンで其々ベースが2.7L、Sが3.4Lであるが、先代981ではケイマンの方がボクスターよりも多少なりともハイチューンとなって、性能に多少の差を付けていたが、981の場合も2.7Lがボクスター/ケイマンで其々265ps/275ps 28.6/29.6kg-m、3.4LのSでは315ps/325ps 36.7/37.7kg-mといづれもケイマンの方が10psおよび1.0kg-mだけ勝っている。しかし、10と1.0という数字は何やら胡散臭いが‥‥。

駐車場でレバーをRに入れてブレーキペダル上の足から力を抜くと、クルマはユックリとバックで動き出した。この時の動きは実に安定していて、バックという言ってみればクルマの走行としては普通じゃない状況でも、実に安全確実な動作をするのは、出来の良いトルコンAT並だ。そう言えば15年ほど前までの国産AT車は、このような状況ではアクセルを踏んでもトルコンがスリップしてスタートしないので、少し強めにアクセルと踏むと、ある時点で急に飛び出すような特性で、とりわけ駐車場に段差があって発進時の負荷が大きい時などは顕著だった。このような状況で安全に動かすには左足をブレーキペダルに載せておいて、飛び出しそうになったらば即座にブレーキペダルを踏み込むことが、いわゆる車庫入れ時には必要だった。ところが10年ほど前にBMWに乗って駐車場の段差に遭遇したら国産ATとは比較にならない程にスリップが少なくて、右足のアクセルコントロールで僅かな前進も思いのままというのに驚いたものだった。それから月日が流れて、今では国産車のATも劇的に性能アップして、段差の発進で危険な程に飛び出すクルマも上級車にはほとんど見かけなくなったから、今では左足ブレーキも無用の長物となったようだ。あっ、上級車ではない場合はといえば、殆どがCVTだからトルコンの飛び出しは無い訳で、そうしてみると安物クルマがCVTとなったことでの安全性向上というメリットも受けられたことになる。


写真21
インテリジェントキーは911やボクスターと共通となっている。


写真22
インテリジェントキーといっても、インパネ上のスロットに挿入して回すのも911などと共通だし右側のライトスイッチも同じ。


写真23
ATセレクターもボクスターと完全に同じだが、911とはパネルの仕上げ(色)が少し違う。


写真24
ペダル類もボクスターや911と同じだし、多分987/997から受け継がれているように見える。

さて実際に走り出してみると、走行距離が1,000km程度の実質新車にしてはスムースによく回るし、一般道での使用に関しては、普通のドライバーからすればもうこれで充分だろう。PDKも相変わらず調子良くて、ほとんど空走がなく一瞬でシフトアップが行われ、耳に入るエンジンの音も一瞬で音程が変るだけで途切れることは全くない。流石にこれだけの性能になると、もう3ペダルのMTと決別してもいいかな、なんて考えが脳裏を過るのは既にボクスターSで経験済だ。ポルシェの2ペダルモデルがトルコン式からDCTタイプのPDKとなったのは987/997の後期(フェイズ2)からであり、初期モデルでは多少の違和感のあった制御も、今では殆ど非の打ち所が無いまでになったが、今回のケイマンでは極偶に低速時に行き成りシフトダウンしてドカンっという振動を何回か感じたことで、これは997フェイズ2が出たばかりの初期型PDKでは度々感じたことだったので最近では久しぶりだ。まあ、個体差も有るのだろうか?

今回も従来までのポルシェ試乗記と同様に一般道を暫く走った後に高速道路の起点から本線でのETCゲードからのスタンディングスタートを試みてみたが、100km/h程度までは前回のボクスターSやカレラ4と比べてもそれ程大きな差は感じないが、違いの出るのはその先、すなわち大きな声では言えないような速度領域ではシッカリとパワーの差を感じさせてくれる。高速走行では今回の試乗車の色とフロントマスクがマルでフェラーリと見紛うばかりであったことが原因だろうか、追い越し車線を走ると前車が慌てて左に車線変更して追い越し車線を譲ってくれるという、性能とは全く関係ないメリットを甘受できたのは正に想定外だった。

高速道路を降りて、今度は以前から走り慣れたワインディングを含む一般道を走る。このコースはボクスターでも走っているし、先代でも911やボクスターで走り慣れているので、言ってみれば久々のホームグラウンドということになる。981ケイマンのステアリングは試乗車がSではない素のケイマンで、タイヤがポルシェとしては大人しいサイズだったこともあり、操舵力は比較的軽くて、中心付近もガッチガチとまではいかないが、BMWの一般的なサルーンなどよりはクイックで不感帯も少ない。同じく981のボクスターと比べると当然ながら基本的に同じだし、オプション装着していたスポーツクロノを使ってSPORT PLUSにでもすれば、ステアリング特性は中心付近もカチっとするし、レスポンスもより良くなるが、いくらクルマが好きといっても終日このモードで走るほどには若くないので、そいういう意味ではセッティングは絶妙というところだ。

写真25
コンソール上のスイッチ群も911やボクスターと同じだが、ボクスターはセンターにルーフの開閉スイッチがある。なお、ケイマンもサンルーフを付けると、この部分に開閉スイッチが付く。

写真26
これまた、ケイマンと全く同じメーターとステアリングパドルスイッチ。ただし、パドルは建前上はオプションで、標準はヘンテコなステアリングスポーク上のスイッチとなる。

上記で操舵感は981ボクスターと基本的に同じという表現をしたのは、ボクスターの試乗車はSであり、フロント235/40ZR19、リア265/40ZR19というタイヤを履いていたのに比べて、今回の試乗車は素のケイマンだからフロント235/45ZR18、リア265/45R18であり、ちょうとワンサイズ大人しい寸法となっている。したがって、40と45の違い分だろうか、今回の試乗車は幾分タイヤの剛性感が落ちるような感覚、というかグニャっとしたフィーリングが僅かに感じられるが、これも走行モードをSPORT PLUSにすれば殆ど判らない。

と、そんな事を考えているうちに、いつものチョッとしたワインディングに差し掛かったので、最初はある程度速度を押さえてコーナーに進入するが簡単にクリアしてしまい、まあボクスターの経験から想像できたことだが、それではと速度を上げていって最後は結構速度を上げて侵入したが挙動は全く安定そのもので、コーナーのクリッピングポイント辺りから加速を始めて、コーナーを脱出して直線で速度計を見ると、ありゃ、ヤバい、ということで減速する。普通に乗っていた状況ではオープンのボクスターに比べて世間で言われるほどには圧倒的な剛性感や走りの良さを感じることは無かったが、こうして見るとボクスターの、それもSと比べてもチョッと勝っているかとも感じるし、前回同じコースを走ったカレラ4の抜群に安定したコーナーリングに比べれば多少暴れ気味の感もあるが、面白さではこちらが上かというころだ。実はこの道は以前997カレラSで何度も通ったことがあるのだが、コーナーリング速度で言えば、もしかすると今回の新型ケイマンの方が勝っている?なんて気もしないでもない。(と、多少ボカしておく)

ポルシェのブレーキというのは、踏力が重くてグイッと踏むと真綿を絞めるように効いてくるという独特のフィーリングであり、このブレーキとやはり重いクラッチのMTを絶妙に使いこなしてこそポルシェの世界であり「軟弱な女・子供には乗りこなせねえだろ、ざまあみろ」なんていう楽しみは残念ながら終わりつつあるようだ。というのは、前回のカレラ4で面食らったポルシェとは思えない軽くて喰い付く、まるでBMWのようなブレーキフィーリングに今回のケイマンも近かったことから、やはりポルシェの方針が多少は変わったのだと確信できた訳で、オッさん、いやジイさんとしては寂しいものがある。


写真27
ケイマンのタイヤはフロントが235/45ZR18、リアが265/45ZR18で、勿論ボクスターと同一だ。


写真28
ブレーキキャリパーもボクスターと同様の前後アルミ対向ピストンタイプに、ディスクローターはドリルドタイプで、これが魅力の一つとなっている。

既に述べたように981/991の新型ポルシェにはカレラS、ボクスターS、カレラ4と試乗してきて、今回のケイマンで一応新型の試乗がひと通り終わったことになる。ということで、ケイマンはシリーズとしては4台目となることもあり、試乗する前からおおよその結果が想像できたし、実際に結果も思ったとおりだった。まあ、ポルシェの場合は、殆ど番狂わせということがないし、ボクスターとカレラは前半分が同じだし、ケイマンはボクスターに屋根を付けてクーペにしただけだという具合に全て兄弟だから、基本的な流れは共通していた当たり前で、あとはオーナーの予算と考え方で選ばば良い。要するに他人がとやかく言う必要もない訳だ。

それでも、先代987/997と比べてどうかといえば、新型はポルシェらしさが薄れたのなんのという事も言えないことはないが、それ以上に新型の進歩は明らかであり、結局ポルシェとパソコンは新しい程良いということになる。新しいほど良いものとして、本当はもう一つ加えたいのだが、女性読者もいるようなので止めておこう。へっ、へっ、へっ。

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