BMW(F31) 320d Touring 特別編
  [BMW 3 Series vs MAZDA ATENZA 後編]


特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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車内に乗り込んだ状況はどちらも真っ当なセダンだから着座位置は適度に高い。320dは試乗車の内装が明るいアイボリーだったこともあり、ブラックのアテンザと比べると随分と明るい感じとなる。BMWは内装色が豊富ではあるが、日本人は無難なブラック系を選ぶユーザーが殆どで、逆に試乗車などはアイボリーの内装なんていうのも用意しているから、こういう内装のBMWに乗っている場合は、もしかして試乗車上がりのアプルーブドカーを買ったのかな?とか余計な想像をしてしまう。なんて言うと、本当に個人の趣味でアイボリーが欲しくて、3ヶ月待ちの値引き無しで買ったオーナーが怒り狂うといけないので、止めておこう。因みに、試乗車上がりといっても走行5,000q以下の殆ど新車同様のアプルーブドカーは結構良い選択だと思うのは、BMWの試乗車の場合、ユーザーが紳士淑女というか乗り方が大人しい場合が多く、事実上慣らしが済んだ新車みたいな場合が多いからだ。それに、価格的にも当然新車よりも安いし、言い換えればこの価格が適正であり、これなら欧州の新車価格に近い場合が多い。だが、しかし、場合がによっては訳ありの新車ならアプルーブドカーより安い、という場合だってあるので何とも言えないが。

それでシートの座り心地は、3シリーズの場合は欧州プレミアムブランドという言葉から推測される程には抜群ではない。というのは5シリーズと比較した場合だが、それでもMスポーツを選べば随分と良いシートが付いてくる。とはいえ、E46時代からすれば3シリーズの標準シートも随分と良くなってはいるが、その時代の国産車と比べるとE46だって明らかに良かったのだから、当時の国産車のシートが如何にどうしようもなかったか、ということが判るだそう。そしてアテンンザはといえば、国産車のシートとしては最も欧州車的なもので、これはマツダが欧州市場で活躍していることとも一致するが、更に言えば国内専用にケバいベロアシートなどを用意するだけの余裕が無いともいえる。ただしアテンザの場合、前編でも触れたようにL Pacageに標準装着されるレザーシートは見ただけでダメそうな外観とともに、座ってみればツルツルと滑って、本皮シートのネガティブな部分が強調されているようなシートだ。

エンジンの始動はどちらもインテリジェントキーとスタートボタンによる方式だから誰でもできる。その昔のディーゼルエンジンは、始動に先立ってキーを左に捻ると余熱となり、運転席にもエンジン内と同じヒーターが付いていて、これが徐々に赤くなってきたのを見ながらタイミングを見計らって右にキーを捻るとセルモーターが回ってエンジンが始動するという状況だった。このヒーター赤色(熱し)具合は、外気温度などの環境を考慮して感と経験で行う必要があった。まあ、当時はディーゼルエンジンといえば小さくても積載量が2トンクラスのトラックで、多くは中型(4トン)や大型(10トン)トラック、そしてバスだから、運転するのはプロであり一般人には無理な要求でもOKだった。それが、一部の乗用車に使われるようになり、余熱時間が自動化されたりと進歩をしてきたが、最近のように直噴化されたディーゼルエンジンは余熱が必要ないなど、随分と文化的になったものだ。

それで両車のアイドリングはといえば、320dの場合でもディーゼルとして充分に静かで振動も少ないが、アテンザの場合は更に音も振動も少なく、というよりもガソリンエンジン並で、この面ではマツダがBMWに勝るという結果になってしまった。ところで、エンジンが目覚めたところで正面のメータークラスターに目をやると、320dのメーターは試乗車がモダーンだったこともあり、メーターパネルが濃いアイボリーのために多少コントラストが弱く見辛い傾向があった。対するアテンザは日本車得意の自光式だが、以前のようにケバい色でギンギラギンの悪趣味なものでは無く、寧ろ自光色のメリットである強いコントラストによる視認性の良さが感じられるまでに進歩している。アテンザのメーターもハイコントラストの見やすさでは今や3シリーズに勝っている感さえ感じられるが、センスという意味では話は変わってくる。

320dのミッションはトルコン式の8速ATで、これは1シリーズから5シリーズまでギア比も共通であり(7シリーズは未確認)、各モデルへの適合はファイナルギアとタイヤ径で調整しているようだ。アテンザの場合は同じくトルコン式だが6速のために、320dに比べればギア比が粗いのは当然だ。そして、ATのセレクターは320dがこれまた最近のBMWに共通の電子式セレクターがコンソール上にある。コンソール上と明記したのは、先代7シリーズや現行のメルセデス各車のようにステアリングコラムにセレクターを移動した場合があるためで、確かに電子式ならばスイッチだけだからフロアに置く必要がない訳だ。アテンザはメカ式だから、当然ながらフロアコンソール上で、パターンは一時代前のジグザクゲートとなっている。国産車の場合はCVTが全盛の感があるから、それからみればアテンザはマトモなATが載っている訳で、セレクターが旧式だなんて文句をいうとバチが当たりそうだ。 えっ? マツダはCVTに掛ける余力が無かっただけだ、って?!

いよいよ走りだすためにATセレクターをDに入れて、さてパーキングブレーキはといえば、両車ともコンソール後方にあるオーソドックスなレバーを少し引いて先端のボタンを押してからリリースするという、今更言うまでもない方法による。BMWの場合、5シリーズ以上は電気式になっているのだが、3シリーズ以下はメカ(レバー)式となっている。えっ?電気式ではなく電子式だろう、って?実は電気と表現しているのは意味があって、パーキングブレーキというのは法律で機械式と定義されている。例えば駐車中にフートブレーキに油圧を掛ければ、パーキングブレーキとしての役目はするが、もしも油圧漏れや電気的誤動作で油圧バルブが誤動作などが起きてパーキングブレーキが外れれば、クルマが勝手に走り出すかもしれない。このために、最近の高級車で増えてきたエレキのパーキングブレーキは、スイッチを引いているとグイーンとモーターでワイヤーを引っ張る音が聞こえる場合があるが、要するに人間が手で引く代わりにモーターで引っ張る構造になっている筈だ。これなら、駐車中にバッテリーが上がろうが接点が壊れようが、メカ的にロックされたワイヤーがしっかりと駐車ブレーキを引っ張っていて、信頼性が高いとともに法規の規定も満足することになる。

そして実際の走りはどうかといえば、先ずは320dの場合は一般道の速度域の場合、1,500rpm位からならばスロットルを踏めばガソリン4L並のトルクに寄る力強い加速を味わえるが、直ぐに頭打ちとなり4,000rpmくらいが限度となる。これに比べてアテンザXDはスペック上でも320dより更に強力な最大トルクを発生するが、実際に走ってみてもアテンザの方が更にトルク感がある。実はそれ以上に大きな違いと感じるのは、アテンザはディーゼルとは思えないほどに高回転域まで伸びることで、レッドゾーンに近い5,000rpmまでストレス無く回るし、実際にトルクも出ていることだ。要するにアテンザXDは320dよりも1,000rpm近く高回転側まで回せるということだ。ところが、320dの場合は8速ATの細かいギア比が高回転域特性の悪さをカバーしていることで、実用上はアテンザに大きく劣るようには感じられないという、どちらも中々の勝負をしている。

ギア比に関しては下表にまとめてあるが、元々320dよりも高めのアテンザのギア比は4速で320dの5速に等しいから、一つのギアでの回転数の範囲はより広くなるのを高回転まで伸びる特性でカバーしていることになるし、逆に320dは高回転域が使えない分を、細かいギア比でカバーするということで、上記の試乗結果とも一致する。ところで表を見て再認識するのは最近の欧州車、特にBMWはギア比を共通化している為に、3シリーズも5シリーズも、ディーゼルもガソリンも8ATのギア比は全く共通となっていることだ。ところがアテンザの場合は、ガソリン(20S)とディーゼル(XD)でさえ、ギア比が異なっていて、その為に2種類のミッションを用意することになる。まあ、この辺は各メーカーのポリシーの違いだろうが‥‥。

  

どうやらディーゼルエンジンの出来としてはアテンザの方が上手のように思えるが、長い間使った時の耐久性や特性の変化などは今の段階では判らない。一般にディーゼルエンジンの耐久性はガソリンエンジンよりもはるかに優れていると思われがちだが、従来のディーゼルは前述のように業務用のヘビーユーザー向けということと、ディーゼルエンジンが高圧縮比に耐えるためにシリンダーブロックは鋳鉄のゴッツいものが使わていたり、エンジン回転数も低いためにエンジンとしては余裕で使っていたことが抜群の耐久性につながっていたのだが、今回のような軽量で高回転型の乗用ディーゼルでは、話は変わってくる。

ガソリンエンジンについて言えば、BMWと聞いただけでウルトラスムースな6気筒を想像するが、最近のダウンサイジングの波に乗って、BMWも多くが4気筒となってしまった。そして320iの場合は、先代の2L自然吸気170ps 21.4kg-mから2Lターボ184ps 27.5kg-mへと向上したが、普通ターボ化するにあたっては排気量を小さくするのだが、BMWは同じ2Lにターボを載せてきた。実は先代E90系の320iのように4気筒2Lモデルはその前のE46時代には318iと呼ばれていて、320iは6気筒であり、しかもE46初期には2Lだった排気量が中期からは2.2Lに拡大されていて、4気筒2Lの318iに比べると明らかにパワーがアップされた上級グレードだった。ということは、今回のターボ化で本来の320iの性能となった訳だ。それなのに、ワゴンボディの3シリーズツーリングには320iの設定はなく、ベースグレードはディーゼルの320dとなるのは、ワゴンユーザーの趣向を考えたのか、セダンより重いボディというハンディのために敢えてトルクの大きなディーゼルのみとしたのかは興味のあることろだ。

アテンザのガソリンは既述のように20Sはベースグレードのみ、25SはL Packageのみというバリエーションの少なさと、L Packageの標準シートの駄目さから、必然的に20Sとなってしまい、その結果は2L自然吸気のために最大トルクがXDの半分となってしまう。実際に試乗してみても遅いとは言わないが走りが好きなマニアだと、もう少し加速力が欲しくなるというか、何とか我慢出来る程度ということになる。エンジン関連として最後にボンネット内の写真を比較しておく。

なおBMWの場合、ディーゼルの320d(1,550kg)と320i(1,500kg)の重量差は50kgに対して、アテンザはXD(1,490kg)と20S(1,430kg)でその差は60kg(車重はいづれもセダンの場合)となる。なお、アテンザ20Sは自然吸気(NA)のためにターボとその関連補機類がないために重量差があって当然で、一般的にターボとNAでは軽のワゴンRでさえ20sの重量がある。ということは、2LのNAと2.2Lのターボディーゼルの重量差が60sだから、マツダ製ディーゼルエンジンは事実上BMW以上に軽量化されているということになる。

次に操舵性について比較してみる。まず320dの場合は言うまでもなく一般的な用途では充分な安定感と適度にクイックでスポーティという、これは本来のBMWのフィーリングであり、フロントが60kg重いディーゼルエンジンと、ワゴンボディによる車両重量の増加が70sもあるにも関わらず、基本的には操舵性において320iセダンとの明らかな違いは感じられないというのも流石にBMWだ。これに対してアテンザワゴンは、XDの場合にはフロントの重さを感じる緩慢な操舵特性であり、これはフロントヘビーな重量配分に加えて操舵系自体の剛性などもイマイチのような気がする。これが同じアテンザワゴンでもガソリン2Lの20Sとなると、フロントの軽さが良い方広に作用しているようで、XDに比べれば大分軽快感が増しているし、レスポンスも大分改善される。

欧州車と国産車の違いでよく言われるのはボディの剛性感の違いであり、ドイツ車、特にBMWの剛性感は非常に高いと言われている。ところで、なぜ剛性ではなく剛性感と感と付けるのかといえば、剛性自体はデーターが無いので分からないが、ガッチリ感を感じれば剛性感が高いと表現できるし、グニャグニャというか、ヨレヨレというか、まあそんな感じを受ければ、剛性感が低いということになる。

それでは兎に角ボディの補強を徹底的にすれば良いかといえば、そう簡単では無いようで、マツダは以前から高剛性ボディを試作して各種試験を行なっているという噂があり、そこで下手にボディ剛性を上げると限界を超えた時の挙動が急激となり、一般のドライバーの手に負えなくなるという事を確認したという。それではBMWはなぜ大丈夫なのかといえば、いや、状況によっては牙をむくかもしれない。そのこともあり、メルセデスは高剛性といってもルーフの剛性は少し下げて限界時には少し撓むようにすることで、挙動を穏やかにしているという。それでは、金庫のようだと喩えられるポルシェ911はといえば、はい、危険です。というか、911の場合は既にリアエンジンという危険因子を持っているから、元々限界を超えたたら素人には立て直せないクルマだというのは多くの読者が耳にしたことがあると思う。

と、色々能書きを言ってきたが、今回はBピラーの付け根を写真で比べてみる。写真左下の3シリーズはフレーム下部のRがなだらかで、結果的に見るからに前後方向の剛性が高そうな構造になっていが、マツダが何故BMWのようにしないのはマツダなりの理由がある筈だ。高剛性であるBMWのボディは、その結果車両重量が重くなっていて、今回の320dツーリングは1,620kgもあり、ワンサイズ大きいアテンザワゴンXDの1,530sより90sも重い。この1,620sという重量の立ち位置はといえば、国産Eセグメントセダンの代表である新型クラウンロイヤル2.5が1,540sということを考えても、320dは異常に重いといことになる。いや、こうしてみるとディーゼルとはいえアテンザだってクラウン並の重さだということだ。

 

320dのタイヤはベースグレードが205/60R16であるが、実際に試乗した車両はデザインライン(Modern)であるために225/50R17が装着されていた。乗り心地は硬めではあるけれど決して悪くはないのは最近のBMWに共通するもので、ランフラットタイヤ(RFT)を標準装備しているにも関わらずこの乗り心地は大したものだ。とはいえ、E90で全車にRFTを標準化した時点では独特の硬さが気になり、BMWもトンデモナイことを仕出かした、なんて思ったものだが、その後の改良でここまで到達出来た訳だ。

アテンザワゴンのタイヤは20S、XD共に225/55R17が標準となる。そして乗り心地はといえば、XDでは320dよりも多少硬いくらいで、欧州志向のユーザーならば問題になるほどではないが、長年国産のグニャグニャサスに乗っているようなユーザーだと、ちょっと気になるかもしれない。そして20Sだが、試乗した車両がオプションの225/45R19タイヤを装着していたこともあるが、それにしてもチョット硬すぎる傾向がある。これだと、スポーツ志向のドライバーでもギリギリ何とか我慢出来るくらいであり、大人しいドライバーだと我慢ができないかもしれない。まあ、普通のファミリードライバーが19インチの45タイヤをオプション装着することは無いとは思うが、偶々19インチを履いた不良在庫を安く買った、あんていう場合は注意が必要だ。とはいえ、19インチはカッコ良いから、ついついフラ~っとして、付けてしまうかもしれない。

BMWは会社のポリシーとしてブレーキに金を掛けないということは、このサイトでも何度か話題にしたが、3シリーズのブレーキも極々普通の鋳物製の片押しキャリパーを使用しているのは従来通りだ。とはいえ、必要な部分はしっかりと金を掛けているのもBMWならではで、3シリーズの場合はフロントのみならずリアにもベンチレーテッドタイプのディスクローターを使用している。これに対してアテンザのリアブレーキはソリッドタイプ、要するに放熱用のフィンが無い単なる板のような形状のローターを使用している。まあ、だからといって放熱不足でフェードするなんていうことは殆ど無いとは思うが、何となく釈然としない。もっとも言い換えれば静的な前後重量配分が50:50のためにリアの負荷が他社(車)に比べて相対的に大きいので、ベンチレーテッドタイプを使用している、とも解釈できる。これに対してアテンザはフロントベービーのFF車だから、リアの負荷が小さいためにソリッドディスクで充分、ということも想像できる。

なお効き自体は、どちらも普通に使用する分には充分な性能を持っているし、BMWは例によって軽い踏力で喰い付くように効くが、先代のような異常な軽さではないようにも感じた。アテンザは最近の国産車の通例で、適度に軽くて良く効くからこれまた全く問題はない。

以上色々比較してみたが、320dの価格がデザインラインのツーリングでは511万円であり、対するアテンザは320dに相当するディーゼルのXDワゴンが290万円と、その差は何と221万円で、倍率にすればアテンザの1.8倍となっている。それで、アテンザ20Sを選ぶとしたらば価格は250万円だから差額261万円であり、320dは20Sの約2倍となる。まあ、価値観の比較は難しいが少なくとも2倍の価値があるかといえば、それはないだろう。では価値観は価格のルート2倍としたらば1.4倍であり、結構合っているかもしれない。これをクルマ価格二乗の法則ということをご存知だろうか? えっ、知らない?? そりゃあそうだ。今閃いて名付けたのだから。