TOYOTA CROWN 3.5 Athlete (2013/2) 後編
  

シートに座ってドライビングポジションを調整するが、その昔のクラウンのように目一杯バックレストを立てても未だ寝過ぎていたり、その割にはステアリングホイールが妙に遠かったりという、寝っ転がって片手でチョロチョロとステアリングを操作する、成金農家のオッサンや中小企業のオヤジが喜ぶようなポジションになってしまう状況は、ゼロクラウンからは影を潜めたことで、一応マトモなポジションにセッティング出来るのは進化なのだろう。

エンジンの始動は当然ながらインテリジェントキーとプッシュボタンによるが、そのボタンはというと、最近では常識となったステアリングコラム左側のセンタークラスター近くではなく、ステアリングコラムの右側、すなわちインパネの右端にある(写真32)。ブレーキペダルを踏んでボタンを押せば回転計の針が上がって、エンジンが指導したのが判るが、例によってクラウンらしくアイドリング時は極めて静かだが、以前のように回転計を見ないとわからないくらいに無音で無振動というわけでもなかったのは、エンジンが冷えていたからなのか、それとも多少方針を変えたのか?

既に何度か触れているように3.5アスリートはこのクラスのトヨタ車としては珍しく8速ATが搭載されているが、コンソール上のATセレクターは旧式のジグザグゲート方式となっている(写真31)。このセレクターをDレンジに入れて、これも既に何度か書いたプッシュ/プッシュ式となってしまったパーキングブレーキを解除しようとペダルを踏んだらば、逆に掛かってしまったようで、既にパーキングはリリースされていたのだった(写真34)。だから、この方式は嫌だよ、と愚痴を言ってみる。

走り出したら、先ずは公道に出るために左一杯にステアリングを切って、クルマの切れ目を見つけてゆっくりと本道に入り、そこからハーフスロットルで加速すると、同じエンジンを搭載したGS350よりも幾分、いや大いに大人しいスロットルレスポンスで、GS350がチョイと踏むと飛び出したのとは対称的だ。まあ、最近のアクセルはフルエレキだから、それまでの使われ方で過激側に学習機能が働いでしまった、ということもあるので一概にGSが過激でアスリートが大人しい、とは断言できないのが現代のクルマの評価の難しさだ。


写真31
3.5Athleteはクラウンで唯一8ATを搭載しているが、旧式なセレクターレバーを見る限りでは6ATとの区別は付かない。


写真32
エンジン始動用のスタートボタンはインパネ右端にある。


写真33
GS250と共通と思える自光式メーター。以前の日本車に多かった演歌調のギラギラでなくなったのは良い傾向だ。


写真34
今回からクラウンもプッシュ/プッシュ式のパーキングブレーキとなってしまった。

そして直ぐに左折して決して広くはない地方道を走って行くと、当然2.5Lのロイヤルよりもパワフルではあるが、この手の道では40~50q/hで、出しても60q/hという状況では2.5Lだって充分とも感じる。そして、暫く地方道を走った後に片側2車線の国道バイパスに出る。ここでは当然流れが速いから、前車との距離が開いてしまい流れに追いつくような時にはアクセルペダルを強く踏んでキックダウンを誘うと、多少の遅れの後にシフトダウンされて、そこからは3.5Lらしい加速に移るが、GS350の6ATと異なりアスリートは8ATだからシフトアップまでのタイミングが速くなる。要するに悪く言えば伸びが無いということになるが、その分は加速が良いはずだが、どうもそれ程とは感じられない。

速い流れに乗って走っているので、ここからは走行モードを切り替えて試して見ることにする。既にロイヤルの試乗記で触れたように、新型クラウンの走行モードはエアコンの操作ディスプレイの下端にある切り替えスイッチで車両設定を選択すると、タッチパネルの画面が走行モードの切り替え表示になるので、これを指でタッチしてデフォルトNORMAL以外にPOWERとECOに切り替えられる(写真37)。なお、この表示は10秒ほどで自動的にエアコンの操作モードに戻ってしまう。道路の流れに乗って僅かにスロットルペダルを踏んだ状態で60q/h、1,200rpmからPOWERに切り替えるてみるが、回転計の針が動くことが無いのはロイヤルと同じだ。では何が違うかといえば次に加速たときのレスポンス向上とシフトアップが高回転側になること、そして操舵力が幾分増してフィーリングもシャキッとすることだ。このPOWERモードは、一部の欧州車のように過激ではないから、そのまま走っているとNORMALモードに戻すのを忘れて、そのまま違和感なく走っていたりすることがあった。

クラウンアスリート3.5Lについては2年ほど前に先代モデルに試乗しているが、先代のスポーツモード(POWERモードという呼び名は新型から)はもっと過激だったような覚えがある。まあ、言われてみれば呼び方がスポーツではなくパワーなのだから、スポーティーを求めたものではない、なんていう屁理屈が通じそうな状況だ。さて、今度はいつもながら気が乗らないECOモードを試してみる。最近のECOモードは以前のようなトロすぎで実用にならない特性というのは減ってきたし、特に今回のように排気量の大きいエンジンを積んだ上級クラスの場合は、結構使い物になる場合が多くなってきたが、このアスリート3.5Lも正しくそれで、確かに急に加速したい状況では苛々する場面もあるが、大人しいドライバーならば使えないこともない。

ところで、既に何回もの信号待ちに遭遇しているが、考えてみたらば一度もアイドリングストップが作動した覚えが無い?もしや、スイッチがオフとなっているのかとも思ってアイドリングストップオフのスイッチを探したのだが‥‥‥見つからない。実はガソリンエンジンのクラウンには、アイドリングストップ機能は付いていないのだった。お見事!あんなものは必要ないとキッパリ切り捨てたのはトヨタにしては上出来だ。


写真35
マニュアルシフト用のパドルスイッチは一見目立たないが、操作に支障は無い。


写真36
SPORT SおよびS+などの走行モードはメータークラスタ中央のディスプレイに表示される。


写真37
走行モードの切替はエアコン操作用のディスプレ下端にある車両設定というボタンで画面を切り替えると、写真右上のように走行モードの切り替え画面となる。

写真38
2GR-FSE V6 3.5Lエンジンは前期型からの使い回しでスペックも同じ。このエンジンはレクサスGS350にも搭載されているが、GS用は微妙に性能がアップしているが、事実上は同じものだ。

動力性能は充分として、今度はもう一つの興味である操舵性能についてまとめてみる。3.5アスリートの操舵力は軽いがGS350 F SPORTのような異常な軽さは無いし中心付近の反応も極々普通で、GSの場合はやはり4輪操舵のDRSが余計なことをしていて、確かに軽くてクイックではあるけれど何やらわざとらしさをハッキリと感じてしまったのだが、皮肉にもアスリートはGS F SPORTのような小細工が無い分だけ自然だったりする。

今回は一般道を走行中に中速でクリア出来そうなコーナーが何箇所かあったが、走行モードをスポーツにして、最初は少し控えめにコーナーに入ってみると、極々自然の素直な旋回特性のようなので、次からは少し強気でコーナーに進入してみたが、それでも安定性は充分であり、BMW5シリーズのような楽しさは無いのは仕方無いとしても、これはこれで悪くない。ただし、前回乗った2.5のロイヤルサルーンGだって、オッサンぽいグレード名の割には結構コーナーリングも良かったから、より強力なエンジンを積んでいて、シリーズとしてもスポーツ志向であるアスリートならば良くて当たり前、というかこれがクラウン?って思うくらいのハンドリングになっている、という淡い期待を寄せていたが、残念ながらそれほどまでにはスポーツ志向ではなかった。

操舵性はロイヤル系とそれ程は違わなかったが、そのメリットとしては結構乗り心地が良い事で、荒い路面では僅かな突き上げを感じるが、それも一発だけであり、中小企業の経営者が大事な取引先の担当者とその上司(といっても、精々主任・係長くらいだが)を接待するときに同乗させても、決して顰蹙(ひんしゅく)を買うことはない。


写真39
アスリートの標準タイヤは前後共225/45R18で、GS350 F Sportの19インチに比べてワンサイズ小さい。


写真40
3.5LはフロントにレクサスGS並のアルミ対向4ピストンキャリパーが奢られる。

クラウンのラインナップで唯一の3.5L搭載車であり、性能やコンセプトがレクサスGS350と被るという点でGSとの住み分けに興味があったが、そこは流石にトヨタだけの事はあり、アスリートとはいえ、あくまでクラウンとしてのスポーティーだった。

今回試乗した3.5アスリートGの633万円は、ベースモデルである2.5アスリートの357万円と比べれば280万円も高い事になり、何と差額でボルボV40のベースモデルが買えてしまいそうだ。2.5Lのクラウンはロイヤル系しか試乗していないので安易に2.5アスリートを勧める訳にはいかないが、2.5ロイヤルサルーンの出来からして、普通のドライバーには2.5アスリートでも充分な気がする。では3.5Lのユーザーはといえば、アクセルと踏んだ途端にぐい~んと加速しないと収まらない土建屋の社長向き、というところだろうか。だから、直線番長で充分なわけで、その割には旋回性能も決して悪くは無い、と思えばこのクルマの特性に納得できる。

ここで、トヨタ以外のライバルのことを考えてみれば、Eセグメントとはいえ国内(と中国)御用達のクラウンだから、BMW5シリーズと比べればコンセプトの違いがはっきるするだろう。それじゃあ、特別編はBMW5シリーズMスポとの比較だろう、って‥‥‥残念でした。今回からはレクサスGSが別のプラットフォームを採用したことで、実の兄弟、いや二卵性双生児くらいの関係から、従兄弟くらいと少し遠くなったようだが、そうはいってもトヨタ一族の強い血縁が消えるわけでもなく、GSと似たような部分も多々あった。そんなこともあり、既にレクサス試乗記で予告したように比較相手はGS350 F SPORTとする。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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