LEXUS GS 450h (2012/5) 後編
 

エンジンの始動、ではなくイグニッションのオン、いやこれも違うか? 要するにシステムをオンするには、GS250と同じ位置にある丸いボタン式のスイッチを押すが、250が黒地に白でSTART/STOPと表記されているのに対して450hはブルーに白でPOWERと表記されていて更に電子機器で使われているパワースイッチの略号も付いている(写真21)。このボタンを押すと、正面のメーターはインジケーターが全て点灯し、その後消えて定常状態となる。

メーター内には赤いブレーキマークが点灯してパーキングブレーキが作動していることを警告しているが、電気式のブレーキは発進すると自動的に解除される。これは慣れないと何となく不安があるし、間違って発進することなどは無いのだろうか。まあ、Dレンジに入れた時点で発進する意志があるということだから、問題は無いのかもしれない。ATセレクターについてはオーソドックスなティプトロ方式だが、GS250のレバーは根元にブーツがかかった最近流行の方式だが、GS450は大げさなゲートをわざと見せる、一時代前に流行った形をしている(写真22)。例によって駐車場内をゆっくりと進むが、ハイブリッドらしく殆ど無音で滑らかに移動する。このディーラーも片側3車線国道沿いなので、本線に出たら直ぐに2/3スロットルで加速するが、この時に予想通りに電気モーター独特の低速のトルク感を味わうことができる。取り合えず流れに乗って10分ほど走り、クルマの感覚にも慣れたところで走行モードを確認すると、現在はノーマルモードで走っているようだったので、コンソール上のATセレクターの手前にあるダイヤル式のスイッチ(写真23)を右に捻ってみる。これでスポーツモードに変わった筈なので、メーター内のどこかにSPORTとかのインジケーターが点灯しているだろうと思って確認したら、あれっ?先ほどまでパワーメーターであったはずの左側のメーターが回転計になっている(写真24)。そういえば、同じレクサスのCT200hも、そんなことがあったのを思い出す。

NORMALモードでも電気モーターの強力なトルクを感じられたのだから、SPORTモードでのレスポンスは更に強力で、走行中にチョッと強くアクセルを踏むと、クルマはグイーンと加速する。この加速感は間違いなくV8搭載のEセグメント車という感じで、3,000rpmまでだったらばアルピナB5と比べたって、それ程遜色が無いのではいか、というくらいの加速であり、しかもツインターターボとはいえ極々僅かではあるがターボラグがあるアルピナに対して、こちらはエレキだから右足直結的なレスポンスを味わえる。今度はATセレクターを右側に倒してマニュアルモードを試してみる。450hのミッションは電子式の無段変速、要するにCVTタイプということになるので、各ギアで高回転域まで回すような加速をするにはマニュアルモードにする必要がある。何時ものように信号待ちで1速ホールドにして、青信号でフル加速すると、当然ながら強力な加速感とともに速度はどんどんと上がってゆく。フル加速時の音はV6エンジンの音がハッキリ聞こえるが、決して煩くはない。しかし、、感応的でも、スポーティーでもなく、基本的にはトヨタのV6 3.5Lの、例えばクラウンアスリート3.5などと同じ系統の音がする。回転の上がり方は、相対的にモーターのトルクが勝っている3,000rpmくらいまでは、物凄いトルク感があるが、それ以降の勢いはといえば多少衰え気味というか、スポーティーな自然吸気エンジンのようような、高回転域ほどワクワクするような特性とは異なるのは当然ではある。いや、むしろハイブリッド車としては充分にスポーティーだというのが本来の評価かもしれない。


写真 21
当然ながらインテリジェントキーとスタートボタンにより始動する。
ただし、GS250がグレーでSTART/STOPと表示されているのに対して、
GS450hの表示は”POWER"であり、ボタンの色もブルーとなっている。

写真22
GS250のATセレクターはオーソドックスなティプトロタイプで、ブーツは掛かっているがジグザグタイプなのはメルセデスにソックリだ。
これに対してGS450hは何故か一時代前のジグザクゲートを採用している。

走行モードはSPORTとしているので、左側のメーターは回転計になっているから、5,000rpmくらいまで達したところで素早く右側のパドルスイッチを引く。この時のレスポンスは、マアマアのトルコンAT車程度というか、前回試乗したトルコンATのGS250と同程度だった。次にマニュアルのシフトダウンをやってみるが、これも標準的なレスポンスで良く言えばハイブリッドにしては上出来、というところだ。本来、Eセグメントの高級セダンで、しかもハイブリッドといえば、マニュアルでグイグイと引っ張ったり、派手なダウンシフトなんてやるようなクルマではないが、その割にはやる気になれば見かけによらず、結構使い物になる。なお、GSは全グレードに標準でステアリングホイールにパドルスイッチが付いている(写真27)。

今度はECOモードを試してみることにする。最近の多くのクルマにはこのECOモードいうのがあるが、他車の場合、多くは苛々するくらいにレスポンスが悪く、場合によっては緊急回避も出来ずに危険ですらあるという代物で、とても使う気にならない場合が多い。そんな訳で、乗り気は全くしないのだが、試してみない訳にはいかない。コンソール後端のダイヤルスイッチを左に回して、メーター内にグリーンのECO表示が出たことで、間違いなくECOモードになった訳だが、その挙動はといえば、確かにNORMALから切り替えた途端にレスポンスが悪くなるのは判るが、一般的なECOモードに比べれば、意外にも何とか使い物になりそうな程度のレスポンスはあった。この原因を考えてみると、車両重量が違うとは言え、モーターの力を借りて何とか走れるようなプリウスの1.8L 99psに対してV6 3.5L 295psのGS450hのエンジンは、モーターのサポート無しで、しかも相当にスロットルを絞っていても充分過ぎるパワーとトルクがあるということだろう。まあ、価格がプリウスの3倍もするのだから、良くて当然ではあるが。

なお、GS450hの走行モードにはGS250には無かったスポーツプラスというポジションがあり、セレクトダイヤルを右に回してスポーツに入れた状態で、更にもう一度右に回すと選択できる。このモードでは更にレスポンスが向上して、常用回転数も上がるということだが、今回は時間の関係で試しにちょいと使った程度だが、確かに更に更にスポーティー志向の特性となるようだが、スポーツとの差はそれ程でも無いと感じた。

写真23
ATセレクター手前にあるダイヤルは走行モード切替えスイッチで、右でSPORT、左でECO、そして押すとNORMALに戻るが、GS450hではスポーツに入れた状態でも意一度右に回すとスポーツプラスとなる。
また、GS450hにはHVらしくEVモードのスイッチもある。


写真24
GS450hの場合、左側のメーターがNORMALモードの時はHV用の電流の流れを示すが、SPORTモードではオーソドックスな回転計に変身する。


写真25
ガソリンエンジンのメーター


写真26
新型とは全く異なる、旧型のメーター。

写真27
ステアリングホイールも共通だが、今回の試乗車はオーナメントに合わせてステッチも黄色い糸が使われていた。

先代のGSハイブリッドは最初の交差点を左折した瞬間に、まっ、曲がらない!という感じで、空前絶後のド・アンダーであり、またステアリングを周で50mm程度動かしたくらいではビクともしない、鬼のような直進性!!だった。それに対して今回の新型は実に自然で素直な操舵性だったのは、技術の進歩だろう。今回は特にワインディングは走っていないが、途中のちょっとしたコーナーで充分に素直なことは確認した。まあ、旧GS450Hが酷すぎたから、あれに比べるとやけに良くなったように感じてしまう点も考慮が必要だが・・・・。それではBNW5シリーズと比べてどうかといえば、いや、既術のように今回は特にハンドリングを試験していないので、何とも言えない(ということにしておく)。GS450hにはFスポーツの設定があり、これが意外にも売れ筋だという。確かに、ハイブリッドとはいえエコよりも強力な動力性能を楽しむクルマと考えれば、更に走りを期待できるFスポーツに興味が湧くし、これで走り慣れたワインディング路を走ってみたいものだ。

ブレーキに関してはフルエレキのバイワイヤー方式を採用しているのはトヨタのHVとして当然だが、旧型GSではガソリンモデルでもバイワイヤー方式だったが、今度の新型では少なくとも前回試乗したGS250はオーソドックスなバキュームサーボ方式だった(写真28)。そこで、カタログをみたらばGS450hのみが電子制御ブレーキ(ECB)装着となっていたから、GS350もバキュームサーボ方式かもしれない。450hのブレーキフィーリングはバイワイヤー方式であると言われなければ殆ど気が付かないくらいに自然で良く効くが、それでも最初の遊びが殆ど無くてその後もストロークが短いのは、ペダルに繋がる緊急用のマスターシリンダを使って、この部分の圧力をセンサーで感知し、その圧力をブレーキ力の要求信号としているためで、勿論ストロークが短いことは決して悪いことではない。

今度は外に出て、ホイールのスポークの隙間から覗くブレーキキャリパーを見ると、レクサスやトヨタの一部上級車でお馴染みの黒くて無骨なキャリパーが見える(写真31‐1)。機構的にはアルミの対向ピストンなのだが、デザインといい、色といい、もう少し何とかならないだろうか。これに関してはライバルのニッサンが一部の高級スポーツ車種に採用しているキャリパーの方が圧倒的に見栄えが良い(写真31‐2)。しかも、GSはリアが片押しキャリパーであるのに対して、ニッサンはリアもフロントと同一デザインの2ピストンのアルミ対向ピストンを装着している。

実は今回の試乗はGS350 Fスポーツを予定していたのだが、ディーラーの都合で試乗車が他所に貸し出されていたことで、急遽空いていたGS450hに試乗したのだが、結果は想像に反して結構良かった。何しろドアンダーだし、トランクルームが殆ど無いし、という呆れるような旧型をイメージしていたから、現実は想定外に進歩していた。


写真28
エンジンルーム内の運転席付近にはGS250の場合はバキュームブースターがある。
しかしブレーキバイワイヤのGS450hはブレーキペダル開度のセンサーを持ったマスターシリンダーで、緊急時は直接油圧をブレーキに供給するユニットが装着されている。


写真29
BMW5シリーズのように比較的高い着座位置は辛うじてボンネット先端が認識できる。ハイブリッドとしての特別なことな何もない。


写真30
GS250と全く同じ225/50R17タイヤに17×71/2Jホイールが標準となっている。


写真31-1
フロントのADVICS製アルミ対向4ピストンキャリパーはイマイチかっこ悪い。リアには片押しタイプだがハウジングはアルミ化されたキャリパーを装着しているのは他のGSと同じ。


写真31-2
こちらはライバルのニッサンフーガ(インフィニティM)の上級モデルで、フロントに4ピストン、リアに2ピストンのアルミ対向ピストンキャリパーを搭載している。レクサスに比べて圧倒的に見栄えが良い。

GS450hの価格帯は700〜800万円という切りの良い数値だから、まあ、原価を元に悩んだ挙句にギリギリの計算で出したものでは無さそうだ。そして、ライバルはといえばクラウンハイブリッド(540〜620万円)やフーガハイブリッド(540〜643万円)となるのだろうが、これらはGS450hに対して殆どカローラ1台分の160万円も安い。レクサスの国内展開を始めた頃はベンツ・ビーエムのユーザーがレクサスに飛びついてくると本気で思っていたマスコミや文化人の予想を大きく裏切って、この手のユーザーからは全く相手にされたかったが、最近ではトヨダ自身がGSのターゲットユーザーはクラウンからの代替だと言っているのは、随分謙虚になったのか、実はトヨタの実務関係者は最初から知っていたか当時はとても本当のことを言えなかった、ということかもしれない。

ところで、そのベンツ・ビーエムだが、GS450hの価格帯で買えるのはというと、E250アバンギャルド(698万円)〜E350アバンギャルド ディーゼルターボ(798万円)、そしてBMWは528i(715万円)〜535i(840万円)であり、こうなるとGS450hの価格帯では欧州車の個人オーナーからの乗り換えを期待するのは厳しいだろう。しかも、E350ディーゼルは優遇税制のオマケまでついている。

とはいえ、なんだかんだと言っても、ハイブリッド車はトヨタからすれば伝家の宝刀であり、基本的なクルマの技術ではどうしても敵わなかったメルセデスやBMWに対して、これならば将来勝ち目がある・・・・という期待もある。6年前のレクサス立ち上げ時に、GSがこの新型くらいのレベルに達していて、しかもハイブリッドを前面に出していれば、あるいはメルセデスやBMWのオーナーの一部を獲得できたかもしれないが、何しろあんな状況だったから、結局悪いイメージが定着してしまい、今からいくら良いものを出しても、そう簡単には目を向けてもらえない状態に落ち込んでしまった。それでも、あの豪華なショールームやしっかりと教育された従業員などの強みもあるのだから、もう、こうなったら地道に何年もかけて固めていくしかないのだろう。