Toyota Mark X 250G Relax Edition (2011/6) 後編


エンジン の始動はいうまでもなくインテリジェントキーを所持してダッシュボード右端にあるスタートボタン(写真21)を押す方式だ。ただし、最廉価版の250G Fセレクションの場合は旧来の金属式キーによるらしい (現車を見た事が無いが)。
ブレーキペダルを離すとクルマはゆっくりとクリープする。そこで少しアクセルを踏むとマアマアのレスポンスでエンジンが吹け上がり回転計の針は 2,000rpmくらいを指す。しかし回転数の割にはクルマは前に進まずに、少し遅れてから速度が上がりだす。要するにトルコンのスリップが今時のクルマとして結構大きいようで、最初の出足がモタつく事になる。それでも20km/h程度まで速度が上がれば、それ以後の加速は決して悪くない。 まあ、車両重量1,520kgのセダンに2.5L 203psのV6エンジンを搭載しているのだから、一般用途のクルマとしては充分な性能を持っているのは当たり前だが ・・・・。フル加速時の排気音やエンジン音はトヨタのハイオーナーカーという目で見れば決して静かではなく、贔屓目に言えば思いのほかスポーティーだとも言える。これは同じ2.5LセダンでマークXのライバルであろうと思われるスカイライン250GTと比べると、意外にもスカイラインの方が静かで、従来からの日本車独特の雰囲気がある。

巡航状態に入ると回転計の針は1,200〜1,500rpm程度を指していて、この状態ではグリーンのECOマークが表示される。ただし、既に述べたように少しトルクをかけると 今時のクルマとしては大きすぎるくらいのトルコンスリップで回転数が上昇するので、1,500rpmで巡航中に少しアクセルを踏めば、即座にエンジン回転数は2,000rpm以上になる。 この状況自体は先代のBMW3シリーズ(E46)のトルコンも同様で、巡航状態からチョッと踏み込むと回転数が上がって、エンジンのトルク自体は急激に上がる領域になるので、見かけ上はシフトダウンしたのに近い感覚となるから、決して悪いことではないのだが、E46は発進時のスリップはこれほど大きくは無かったし、全体にもう少しダイレクト感があった。こういう微妙なフィーリングのノウハウは未だにBMWに敵わない、というよりも、BMWの旧型に追いついていないという現実を思い知らされてしまう。

マークXのマニュアルモードはレクサスも含めてトヨタ方式で、実はシフトアップのロックであり、例えば3速を選んだときは1〜3速のATとなる。このモードを選ぶには、コンソール上のATセレクターをDの位置から右に倒すことで、メータークラスター内のインジケーターにはS※と表示される。なお、ここで※は直前にATで選択されていたポジションで、例えばATで4速走行中にレバーを操作するとS4と表示され、動作としては1〜4速の間でATとなるから、速度が落ちれば3速→2速→1速とシフトダウンが行われる。 マニュアル操作はATセレクターをSに倒した状態で前に押すとアップ、手前に引くとダウンとなり、ステアリングスイッチとかパドルとかは試乗車には付いていないが、バージョンSを選べばパドルスイッチが標準装備される。マニュアルでのシフト操作の反応は、まあまあで、タイムラグも許容範囲内だが、クルマの性格からいって、これを使う事は先ずないだろう。
 


写真21
エンジン始動は当然ながらスマートキーとプッシュボタン方式による。

 


写真22
ATセレクター(シフトレバー)も根元にブーツの付いた直線式のティプトロタイプという欧州車の定番と同じものが使われている。 手前はSPORTおよびECOモードの選択のスイッチ。
 

 


写真23
国産高級車の証である自光式メーター。それでも、最近の傾向で、以前ほどケバケバしく無くなったが、やはり気にはなる。
 

 


写真24
最廉価版のFパッケージを除き、ステアリングスイッチが標準装備されている。
 

操舵力は適度で、低速での左折などでも極端に軽くなることはない。中心付近の不感帯は多少あるが、緊急時や少し派手な車線変更などはチョと大目に操作すればよく、要するに素早くグイっと切れば結句速い挙動を示してくれる。その挙動は結構スポーティーで、少なくとも思ったラインを外す事は無い。 今回はワインディング路といえる場面は無かったが、一般道のコーナーなどで試した限りでは、アンダーステアも弱く、多少速めでコーナーに侵入しても安定したコーナーリングを維持できるから実用車としては充分な性能だし、FRという駆動方式は伊達ではないという感触もある。 最近のFFは実に良くなっていて、コーナーリング特性もFFらしい癖が殆ど感じられないクルマもあるが、こうしてマークXに乗ってみると、前輪を操舵と駆動の両方に使うということの根本的な問題はゼロにはならない、ということを感じてしまう。

マークXの乗り心地は決して悪くないが、どちらかといえば固めの設定となっていて、よく言えばこれまたスポーティーといえる。この点でもスカイライン250GTの方が柔らかく、コンフォートに振っているのが意外だったが、動力特性とともに、マークXは結構スポーティーなチューニングを意識しているのだろうか。 ただし、試乗車は走行距離が8,000km程度だったので、ダンパーも丁度良い状態であっただろうと思われ、これが5万キロ過ぎたときに何処までこの特性が維持できるのかは興味がある。因みに、BMW3シリーズの場合は、普通に都市内で使用している限りでは8万キロ程度でも、殆どダンパーがヘタっていなかったことを経験している。

マークXはATセレクター手前にあるスイッチで、SPORTおよびECOモードを選択できる(写真22)。そこで先ずはECOモードを選択してみるが、これは他の国産車と同様で極端に緩慢になってしまい、とても使う気にはならなかった。次にSPORTモードに切り替えると、確かにスロットルレスポンスは幾分機敏になり、その他の特性も気のせいかスポーティーになったように感じるが、それほどには大きな違いは無いし、逆にノーマル(SPORTをオフ)に戻しても、緩慢に感じたりはしないから、普通に走るには使用するメリットは無さそうに感じた。
 

写真25
V6 2,499cc 203ps/6,400
rpm、24.3kg・m/4,800rpmを発生する4GR-FSEエンジン。
 

実は最初に走り始めて、公道に出る前に減速しようと思い、ブレーキペダルに足を乗せた瞬間に、クルマがガンっと止まった。いわゆるカックンブレーキの状態で、これはその後2〜3回分の制動で同じように発生し が、そのうちに普通の踏力と普通の制動力となっていた。最初は速度が遅いとカックンが出るのかとも思ったがそうでもない。要するに走り出し間際には、ブレーキパッドが吸湿していてμ(摩擦係数)が異常に高くなっていて、これが何回かの制動により水分が蒸発して、正常な状態になったのではないか。こういう現象は、特に寒い日の朝一発に起こりやすく、Morning Effect(略してMEとかM/E)と呼ばれている。


写真26
標準装備のタイヤは215/60R16という最近としては大人しいものだ。
 

 


写真27
ブレーキは極一般的な鋳物製のシングルピストンキャリパーを搭載している。 

 

ホンの10年前の国産ハイオーナーカーは、5分で腰が痛くなるシートに座って、狭いトレッドに、グニャグニャのサス設定で急なレーンチェンジなどを行なえばクルマはユラッとする・・・・くらいなら良い方で、ちょっと無理をすれば事故に至る挙動。 小径ホイールの中には小さなディスクローターでブレーキを踏めばブカブカのフィーリング。高速道路での緊急事態には成すすべも無く事故に巻き込まれそうなクルマが当たり前で、メルセデスやBMWと比べるなんてトンでもない話だった。それが突然変わったのは、クラウンがゼロクラウンになり、セド/グロがフーガに、マークUはマークXと名前を変えた頃の事だった。全く新しい国際基準のプラットフォームはトレッドも広く、ホイールもブレーキローターも欧州車と同等以上のサイズになり、その走りは一変したのはホンの数年前だったことになる。

今回、改めてマークXに乗ってみて、価格を考えれば実に良く出来たクルマであるという、以前から思っていた事実を再確認した訳で、その面では新たな発見はなかったのが残念というか、当たり前というか・・・。しかし、神経を集中して、よ〜く観察してみれば、世界的ベンチマークである3シリーズやCクラスに比べれば、やっぱり及ばない点は多々ある。ただし、その差が、以前に比べれば極々僅かになったのは間違いないし、僅かとはいえ未だ敵わない部分もあるし、それは技術的に差があるということもあるが、低価格路線のために予算がないという理由も大きいと思う。それならもう少し手を入れて、3シリーズとガチンコ勝負のクルマを創ったら良いじゃあないか、と思うかもしれないが、それは既にレクサスISでチャレンジしているのだが、結果は皆さんご存知のとおりだ。
そういう意味では、割高のレクサスで欧州勝負なんてしないで、マークXを欧州で低価格で売ったらば、結構売れるのではないだろうか。事実、中国では鋭志という名称で高級車として通用しているし、低価格という面ではヒュンダイの雅尊(アゼーラ=グレンジャー)と同価格帯で、これで売れない訳が無い。

3・11以来、日本の運命はそれ以前とは全く変わってしまった。こんな世の中だから、クルマなんかに金をかけずに、その予算は他に回そう、ということで、500万円の325iを買うのを止めて260万円のマークXにすれば、ほぼ半額の出費で済む。
いや、待てよ。関東以北は3月の福島第一、3号炉の爆発でシッカリと被曝してしまった(しかも、未だに終息してない)のだから、どうせ長生きはできまい。それなら、325iなんて言わないで、もうチョッと予算を奮発して523iでも買っちまうか。いや、どうせなら528iで行こう!