BMW 523i (2010/9) 後編


それでは、いよいよ走り出す事にしよう。
新5シリーズには全モデルに標準でエンジンやステアリング、シフトのレスポンスが変更できるダイナミック・ドライビング・コントロールが装着されているが、今回は全てノーマルの位置で試乗した。

駐車場から国道に出てハーフスロットルで加速すると、エンジンはスムースに吹け上がり、4,000rpm(約50km/h)以上まで回ってからシフトアップされた。60km/hの流れに乗って走りながら、ふと回転計を見ると指針は2,000rpmを指していたから、この時のギア位置は5速ということになる。 最近のクルマは輸入・国産を問わずに環境対策から巡航時には直ぐに6速や7速まで一気にシフトアップしてしまい、1,200〜1,500rpmくらいで巡航するのが殆どだが、523iは最近の常識に反して高めの回転数で巡航をしている。そして60km/h(5速、2,000rpm)から少し踏み込むと素早く4速にシフトダウンし、回転数は2,600rpmまで上がり、そこから気持ち良く加速していくし、フルスロットルを踏めば更に3速、3,300rpmまで回転は上がる。
待てよ、これって若しかしてSモードに入っているのでは?と思って直ぐに確認したが、メーター内下部に組み込まれたインジケーターの表示は”D”だし、コンソール上のセレクターレバーも間違いなくDの位置にある。念の為にセレクターをSにしてみたら、更にシフトポイントが上がったが、それも極僅かで、それよりもアクセルレスポンスが明らかに良くなったから、 いままでのはD レンジに間違い無い。ということは、Dレンジの設定がスポーツ寄りに学習してしまったのかとも思ったが、試乗車の走行距離はまだ300km足らずなのと、後ほど複数のディーラーマンに確認したが、納車時点から既にこのような特性だったそうで、そうなるとデフォルトの設定が高回転常用になっている可能性十分にあり得る。

それにしても、この特性はどこかで覚えがあると思ったら、そうだ、先代E46で2.2ℓの320iが丁度こんな感じだったのを思い出した。320i(2.2ℓ)は2.5ℓの325iと比べても動力性能の違いはわずかで、しかも高回転を 常用するシフトスケジュールと2.5ℓよりも寧ろスムースな2.2ℓの正にシルキーシックスと呼べる特性から、実に気持ちよく乗れるクルマだったが、この523iは正にその感覚だった。

今度は更に高回転まで引っ張ってみる事にした。信号待ちでセレクターをS側に倒して、レバーを押してシフトダウンして表示を”1”にして、青信号でGO! レッドゾーンは7,000rpmだが、流石にマッサラの新車なので1速で5500rpmまで引っ張って約45km/h。因みにレッゾゾーンまで引っ張ると約56km/hとなるが、最大出力が6,300rpmで発生される事からも、殆ど意味が無さそうだ。ところで、5,000rpmを過ぎてからの回転の上昇は、この手のデチューンエンジンとしてはまあまあ で、決して勢いが良いとは言えないが、高級オーナーサルーンとしては充分だろう。そして、2速にシフトアップして、更に引っ張ると、これまた実用的には十分だが、高性能車のようなモノを求めるユーザーには物足りないかもしれない。まあ、そういう場合は、同じ予算でE46のM3のアプルーブドカーでも買ってもらうことにしようか。

ところで、523iのギア比を調べ見たらば、何と528iと全く同じだった。8速ATどころかファイナルも同じだし、標準装着タイヤのサイズも同じ。その割には性能差はそれほどには感じなかったのは、523iの2.5リッターエンジンの出来や シフトスケジュールなどが良いのだろう。詳細は下の表を参照願おう。
 
  1 ギア比較            
      ギア       オーバーオール*
    BMW
523i
BMW
528i
BMW
535i
BMW
550i
BMW
523i
BMW
528i
BMW
535i
BMW
550i
    8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT
  1 4.714 4.714 4.714 4.714 15.96 15.96 14.50 13.26
  2 3.143 3.143 3.143 3.143 10.64 10.64 9.67 8.84
  3 2.106 2.106 2.106 2.106 7.13 7.13 6.48 5.92
  4 1.667 1.667 1.667 1.667 5.64 5.64 5.13 4.69
  5 1.285 1.285 1.285 1.285 4.35 4.35 3.95 3.61
  6 1.000 1.000 1.000 1.000 3.39 3.39 3.08 2.81
  7 0.839 0.839 0.839 0.839 2.84 2.84 2.58 2.36
  8 0.667 0.667 0.667 0.667 2.26 2.26 2.05 1.88
  R 3.295 3.295 3.295 3.317 11.15 11.15 10.14 9.33
  FINAL 3.385 3.385 3.077 2.813   *ギア比×ファイナル  

 
  2 速度比較              
    回転数と速度(km/h) 最高出力(rpm)時速度(km/h)
      1500 rpm   6300 6600 5800 5500
    BMW
523i
BMW
528i
BMW
535i
BMW
550i
BMW
523i
BMW
528i
BMW
535i
BMW
550i
    8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT 8AT
  1

12.0

12.0

13.2

14.4

50.5

52.9

51.1

52.9

  2

18.0

18.0

19.8

21.6

75.8

79.4

76.6

79.4

  3

26.9

26.9

29.6

32.3

113.1

118.5

114.3

118.4

  4

34.0

34.0

37.3

40.8

142.9

149.7

144.4

149.6

  5

44.1

44.1

48.4

52.9

185.4

194.2

187.3

194.1

  6

56.7

56.7

62.2

68.0

238.2

249.5

240.7

249.5

  7

67.6

67.6

74.2

81.1

283.9

297.4

286.9

297.3

  8

85.0

85.0

93.3

102.0

357.1

374.1

360.8

374.0

  タイヤ半径

0.340

0.340

0.339

0.339

0.340

0.340

0.339

0.339

こうして見ると、8速ATのギア比は7〜8速が完全に巡航ギアとなっていて、言ってみれば6速+巡航2速というところだ。更に、1〜3速を見てみれば、最高出力回転数まで回しても523iの場合で1速→2速→3速は約51→76→113km/hであり、決して良く伸びるというわけではない。これが535iであっても、それほどには変わらない (最高出力発生回転が多少上程度だ)から、言ってみれば、スポーティーとはいえ所詮はサルーンなのだということで、これがポルシェカレラSの場合には7速PDKで約80→135→190km/hという圧倒的な速度まで加速する。カレラSと比べるのは反則というのならば、ボクスター(フェイズ2)では どうかというと6MTの場合で、約62→104→145km/hとなり、これでも535iよりも明らかにハイギアードで伸びが良い。
勿論、5シリーズは8速だから、ボクスターの3速は5シリーズの4速に相当するということも言えるが、それが頻繁なギアチェンジを誘発する訳でもあるし、前述のように8速といっても事実上の6速だから、やっぱりローギアードで伸びが無い事には変わりない。 しかし、見方を変えれば、523iのワイドなギア比は、1速の発進時にはかなりのローギアードとなっており、これが活発な発進加速を生む原因でもあるから、BMWの設計は流石ともいえる。
 


写真21
528iと同一のメーター類。回転計のレッドゾーンも7,000
rpmと全く同じ。

 


写真22
55km/h巡航中でも2,500rpmと高回転を維持している。回転計内下部のDの表示がスポーツモード出ないことの証となる。

 

←写真 22
ATセレクターや
iDriveのコントローラーなど、センターコンソール上の操作機器類は全て共通。この写真で、523iと528iの区別は付かない。


写真 23
新5シリーズはボンネット先端が視認できるのが嬉しい。


 

 

523iの乗り心地は非常に良い。しなやかさと硬さを両立していて、安定している。これもRFT採用以前に近い状態まで改善された。しかし、ほとんど同じ構成の528iの時はこれ程までにしなやかには感じなかったのは 、どうしたことだろうか。 523iは一足遅れでの発売だから、新5シリーズ(F10)としては全くの初期モデルというわけでもない。国内の自動車メーカーでは新型車の最初の1〜2ヶ月程を「初期流動期間」と呼び、特別の検査体制で生産する。 それは、ラインの製造要員が慣れていないここと、最初は何が起こるか想像できないからで、微妙な設定などはこの期間である程度調整することもあるようだ。 まあ、初期流動品なんていうのは、多くがティーラーの試乗車などに回るので一般のユーザーにはあまり渡る事はないだろうが、早くから予約をして発売と同時に手に入れるという思い入れのあるユーザーの場合には、この初期流動品が回ってくることになる。
話を5シリーズに戻すと、最も初期の生産ロットであろう528iの試乗車は、ある面では完全な生産状態でのチューニングではなかった事も考えられるし、初期ロットで 納入されたダンパーやスプリングなどの部品だって、同じく性能が安定していない可能性だってある。 この件は、一年ほどしてから528iに再度試乗して確認するのが良いかもしれない。

今回は523iのハンドリングを本格的に試す程の時間はとれなかったが、それでもある程度の中速コーナーは試してみたが、非常に良い結果だった528iと大きく変わらな かった。ただし、528iの時はそこまで気が回らなかった、アクティブステアリングの速度による特性変化について、今回は少し気を配ってみた。この結果については特別編にて解説する。

ブレーキについては写真26に示すように基本的に528iと同一となっている。”基本的に”と表現したのは、リアキャリパーのフレーム(サポート)の形状が少し違うように見えるからだが、シリンダーハウジング(ボディ)は同一のようだから、性能は同等と見て良いだろう。まあ、考えてみれば、523iと528iの車輌重量はピッタリ同じだから、ブレーキも同一となって当然ではある が、どこかの国のメーカーでは重量が同じでも廉価モデルのブレーキはグレードが落ちる場合もあるものでして・・・・・。
 

写真 24-1
直6、2.5ℓにより204ps/6,300
rpmの最高出力と 25.5kg・m/2,750〜3,000rpmの最大トルクを発生する。

 


写真 24-2
排気量は523iより0.5リットルも多いが、外観上は全く同じ528iのエンジン外観。


写真 24-3
同じ3リッターとはいえ、ターボが付くのみではなく、外観上も528iとは全く異なる535iのエンジン外観。
 


写真25-1
523iは8J×17、Vスポーク・スタイリング236ホイールと225/55R17タイヤの組み合わせが標準となる 。

 




写真26
ブレーキキャリパーも外観で見る限りは同一のようだ。
まあ、車両重量が同じだから当然だが。

 


写真25-2
528iは同じ8J×17でもスタースポーク・スタイリング327ホイールとなる。タイヤも同一。

   

という訳で、思いの外結果の良かった523iは、レザーのインテリアさえ求めなければ528iよりも105万円も安く、実質的な性能では大きな差は無いのだから、新5シリーズ(F10)の ラインナップ中ではベストバイに間違いない。ライバルであるメルセデス E250については、発売初期のモデルに乗った限りではエンジンのレスポンスが悪く、とてもではないが523iの敵ではなかった。ただし、メルセデスの事だから、E250だって近い将来に大幅改良されるだろう 。そうなれば良きライバルとなるが、5シリーズとEクラスというのはユーザー層が多少異なるようで、両車を比較検討して購入するユーザーという例をあまり聞かない。
まあ、どちらにしても6百万円強という価格は、最近とみに価格が上がっている国産Eセグメントセダンの上級モデルと比べると、百万円までの違いが無いことになってしまい、これはこの手の国産車を狙っているユーザーにとっても大いなる興味となるだろう。ということで、最後にライバルの緒元を一覧としておこう。
 
    @ A B C D
      BMW Mercedes
Benz
Lexus Toyota Nissan
      523i E250 CGI
Blue Efficiency
GS350
Version I
Crown Athlete
3.5 G Package
Fuga 370 VIP
 

車両型式

  DBA-FP25 DBA-21204C DBA-GRS191 DBA-GRS204 DBA-KY51

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.910 4.870 4.850 4.870 4.945

全幅(m)

1.860 1.855 1.820 1.795 1.845

全高(m)

1.475 1.470 1.425 1.470 1.510

ホイールベース(m)

2.970 2.875 2.850 2.850 2.900

駆動方式

FR
 

最小回転半径(m)

  5.5 5.3 5.2

車両重量(kg)

  1,770 1,680 1,650 1,660 1,760

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  N52B25A 271 2GR-FSE VQ37VHR

エンジン種類

  I6 DOHC I4 DOHC Turbo V6 DOHC

総排気量(cm3)

2,496 1,795 3,456 3,696
 

最高出力(ps/rpm)

204/6,300 204/5,500 315/6,400 333/7,000

最大トルク(kg・m/rpm)

25.5/2,750-3,000 31.6/2,000-4,300 38.4/4,800 37.0/5,200

トランスミッション

  8AT 5AT 6AT 7AT
 

 燃料消費率(km/L)
(10・15/JC08モード)

11.4/11.2 11.4/ - 10.0/ - 10.0
 

パワーウェイトレシオ (kg/ps)

8.7 8.2 5.2 5.3 5.3

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ダブルウィシュボーン 3リンク ダブルウィシュボーン

インテグラル・アーム マルチリンク

タイヤ寸法

225/55R17 225/55R16 225/50R17 225/45R18 245/50R18
    225/55R17 225/55R16 225/50R17 225/45R18 245/50R18

価 格

車両価格

610.0万円 634.0万円 593.0万円 559.0万円 550.2万円

備  考

Hi-Lineパッケージ
+39万円
    2.5:
425.0万円
250GT:
427.4万円

国産勢が圧倒的に勝っているのは排気量差によるパワーとトルクだが、まあどちらを選ぶかはユーザー次第で、もうこれ以上何も言う事は無い。

という訳で、例によって一般の読者向けの試乗記はこれでオシマイ。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回は特にテーマは持たずに、新5シリーズで思い当たった事をランダムに述べてみる。

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