BMW 535i GRAN TURISMO (2010/7) 前編 |
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去年の11月に日本でも発売された5シリーズグランツリスモ(以下GT)は従来のラインナップには無い5ドアハッチバックで車高が少し高い、言って見ればクロスオーバーカーの部類に入るクルマだった。5シリーズの発売より半年ばかり先行して発売され、名称からしても5シリーズのバリエーションと思うのが普通だが、実はベースは7シリーズという、何とも不思議なコンセプトにも思える。しかし、5シリーズのコンパクト
さ(ただし、7シリーズに比べて)と、7シリーズの高級感を併せ持っていれば、これはもしかしたら理想のファミリーカーになるかもしれない、なんていう期待と共に試乗してみた。
5シリーズGTのバリエーションは3リッターターボの535i(878万円)とV8ターボの550i(1,114万円)の2種類で、今回試乗したのは”廉価版”の535iの方だった。GTの2グレードとセダン535i、そしてGTと基本コンポーネントを共用する7シリーズから740i、さらにはGTと同じ5シリーズをベースとしたクーペのようなラインを持ったSUVのX6も比較の対象と
したのが下の表だ。
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BMW |
BMW |
BMW |
BMW |
BMW |
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535i GRAN
TURISMO |
550i GRAN
TURISMO |
535i
(Sedan) |
740i |
X6 xDrive35i |
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車両型式 |
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CBA-SN30 |
ABA-SN44 |
CBA-FR35 |
ABA-KA30 |
ABA-FG35 |
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寸法・重量・乗車定員 |
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全長(m) |
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5.000 |
← |
4.910 |
5.070 |
4.885 |
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全幅(m) |
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1.900 |
← |
1.860 |
1.900 |
1,985 |
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全高(m) |
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1.565 |
← |
1.475 |
1.490 |
1,690 |
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ホイールベース(m) |
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3.070 |
← |
2.970 |
3.070 |
2.935 |
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駆動方式 |
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FR |
← |
← |
← |
4WD |
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最小回転半径(m) |
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5.5 |
← |
← |
← |
6.4 |
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車両重量(kg) |
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2,020 |
2,150 |
1,820 |
1,980 |
2,180 |
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乗車定員(名) |
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5 |
← |
← |
← |
4 |
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エンジン・トランスミッション |
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エンジン型式 |
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N55B30A |
N62B40A |
N55B30A |
N54B30A |
N55B30A |
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エンジン種類 |
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I6 DOHC Turbo |
V8 DOHC Turbo |
I6 DOHC Turbo |
← |
← |
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総排気量(cm3) |
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2,979 |
4,394 |
2,979 |
← |
← |
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最高出力(ps/rpm) |
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306/5,800 |
407/5,500 |
306/5,800 |
326/5,800 |
306/5,800 |
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最大トルク(kg・m/rpm) |
40.8/5,000 |
61.2/4,500 |
40.8/5,000 |
45.9/4,500 |
40.8/5,000 |
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トランスミッション |
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8AT |
← |
← |
6AT |
8AT |
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燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行) |
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9.4 |
7.4 |
10.6 |
7.8 |
8.6 |
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パワーウェイトレシオ (kg/ps) |
6.6 |
5.3 |
5.9 |
6.1 |
7.1 |
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サスペンション・タイヤ |
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サスペンション方式 |
前 |
ダブルウィシュボーン |
← |
← |
← |
← |
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後 |
インテグラル・アーム |
← |
← |
← |
← |
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タイヤ寸法 |
前 |
245/40R18 |
245/45R19 |
245/45R18 |
245/50R18 |
255/50R19 |
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|
後 |
245/40R18 |
275/40R19 |
245/45R18 |
245/50R18 |
285/45R19 |
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価 格 |
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車両価格 |
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878.0万円 |
1,114.0万円 |
835.0万円 |
1,010.0万円 |
856.00万円 |
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備 考 |
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こうしてみれば、3,070mというGTのホイールベースは確かに7シリーズと同一だし、1,900mmもある全幅だって7シリーズと同一だった。全長
は7シリーズより70mm短いが、5シリーズよりは90mmも長い。まあ、何れにしてもマンションの立体駐車場には入らなそうだが、5シリーズだってどうせ入らないから、どっちもどっちだが。
エクステリアは個人的にはどうも好きになれない、というか、このセンスが理解できない。これはX6にも言える事だし、5シリーズセダン、いや全てのBMWに共通している、悪く言えばブタっ鼻を更に強調したように感じてしまう。5シリーズとの目で見た違いは写真1〜3を参照願うとして、GTの大きな特徴であるリアのドアは大きなハッチとして使う事は当然だが、下半分、すなわちセダンのトランクのように使う事も出来る(写真4〜5参照)。
エンジンは535iセダンも535iGTもX6 35iも全く同じだが、740iは同じ排気量でもエンジン型式が違うし、パワー&トルクもより大きい。まあ、だから4リッター級の車名が付いているのだが。
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写真1
グランツリスモとセダンは車高が高い以外には殆どイメージが同じ。 |
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写真2
ハッチバックのグランツリスモは当然セダンとは異なるリアスタイルとなるが、どちらかと言えば
7シリーズに似ている。 |
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写真3
セダンに比べて全長で90mm長く、全高では90mm高い。ホイールベースも100mm長いグランツリスモ。
比べてみると、高さの違いが一番目立つ。
5ドアのクーペとも言うべきスタイルは、大いに好みが分かれるところだ。 |

写真4
あれっ、グランツリスモはリアハッチバックの筈が、トランクがある?? |
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写真5
実は、リアハッチ全体と、セダンのようにトランクだけの両方の使い方が出来る。 |
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セダンと同じ水平にメッキラインの入ったドアグリップを引いてドアを開けると、最初に目に入ったのはシートの座面が高いこととだった(写真6)。車高が高いのだから当然ではあるが、それ以外はセダンと大きな違いは無い。今度はリアドアを開けると、リアパッセンジャーのレッグスペースはセダンよりも明らかに広いのは(写真7)、ホイールベース(W/B)が100mm長いから当然ではあるし、3,070というW/Bはプラットフォームを共有する7シリーズと同じだから、GTが7シリーズをベースとしているという話は間違いない。
シートの表皮は最近の5シリーズと同様で、以前に比べてよりなめした革は薄くてシボが目立たないという、英国車的になっていた。シートの形状などは5シリーズと共通で、プラットフォームを共有しても標準のシートなどは7シリーズよりワンランク落ちるようだ。
最初にドアを開けた時に、もう一つ気づく事がある。それはサッシュレスドアを使用していること(写真10)で、BMWの場合は2ドアクーペやオープン以外に、この手のドアを使っている例を知らない。バブル時代の国産車と言えばサッシュレスが全盛で、只でさえ剛性の低いボディに窓枠まで取っ払ってしまったのだから、もうヨレヨレのボディだった。中にはセンターピラーまで取ってしまった為に、フロントドアを閉めるとリアドアが激しく揺れるという、もう
剛性もヘッタクレも無いような車が堂々と販売されていたものだった。そんな、イメージのサッシュレスを剛性命のBMWが何故に採用するのだろうかという疑問はどうしても拭えないが、メルセデスだってCLSなんていう訳の判らないものを出しているから、これはもう欧州のトレンドなのかもしれない。こうなったら、トヨタもカリーナEDを復活させるなんていう案はどんなものだろうか?もっとも、EDという名前はバイアグラが要りそうで
いただけないが。
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写真6
GTのシートは基本的にセダンと同一だが、着座位置はセダンよりも高い。
7シリーズのシートは更に高級だから、GTはプラットフォームは7と共通でも、シートは5と共通なのだろう。 |

写真7
GTのリアスペースは7シリーズと同様に充分な広さを持っている。これに比べるとセダンのすぺースはチョッと狭い。 |

写真8
リアーシートもリクライニングと前後調整が出来る。 |
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写真9
フロントシートの調整用スイッチ部分は5シリーズセダンと共通。 |
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写真10
BMWでは珍しいサッシュレスのドアを採用している。 |
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写真11
新しい5シリーズと同様にシボが目立たない薄くなめした表皮を使っている。 |
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フロントのダッシュボードからセンタークラスター、コンソールまでを含めての基本デザインは、5シリーズセダンとほぼ同一だし、これらを比べてみると7シリーズとも限りなく近いデザインとなっている。ただし、GTの場合はボディ(ウエストライン)自体の高さが高いことから、センタークラスターも50mmほど高さ方向に余裕がある。
オーディオとエアコンのコントロールパネルはセダンとGTは全く同一で、740iも殆ど同じ。違いは740iに標準装着のシートエアコンの調整スイッチが付く事くらいだろうか。余談ながら、3シリーズのオーディオパネルはこれらとは全く異なるから、試乗記「スカイライン250GTvs320i」でボロクソの評価となった320iのオーディオは当然ながら5シリーズ以上とはヘッドユニットも違う事になる。また、320iと335iのパネルを比べてみると同じのようだから、335iも含めて標準オーディオは5シリーズ以上より格下の物が使われているようだ。3シリーズの上位モデルである335i(686万円)か5シリーズのベースグレードである523i(610万円)かの選択では、523iとはいえ基本は5シリーズである、という事実が選択にあたっては大いに悩む事になる。
次にコンソール上から生えたATセレクターとiDriveのジョクダイヤル付近については、写真15を見れば判るが、GTと7シリーズが全く同じで、セダンは一部異なる。と、いっても殆ど同じではあるが。ただし、GTと740iの標準装着ウッドパネルと比較すると、流石に740iの木目は美しく、見るからに高級感がある。それだけでも、インテリアの雰囲気が違って見えるから、740iに乗ったパッセンジャーは「やっぱり、7シリーズは違うな」と、思うに違いない。
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写真12-1
基本的にはセダンと共通のデザインだが、センタークラスタのエアコンアウトレットとオーディオユニットの間に50mmほどの余裕がある。 |

写真12-2
セダンのフロントデザインはGTと殆ど共通となっている。 |

写真12-3
7シリーズもデザイン自体は5シリーズセダンやGTと同じだが、内装材はより高級なものを使っている。 |

写真13
基本的には同じコントロールパネルのオーディオとエアコン。740iのみはシートエアコンの調整ボタンが付いているためにボタン群の幅が広い。 |
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写真14
リアシートから見たところ。 |
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写真15
初期のポリシーを捨て周辺にスイッチを並べた最近のiDriveの定石に従っている。
この部分はGTと7シリーズが同一で、5シリーズセダンは多少異なる。
ただし、7シリーズのウッドパネルは木目も綺麗でワンランク上の材質を使っているようだ。
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写真16
意外に質素なドアのインナートリムやパワーウィンドウのスイッチ部分。その上にはスピーカーが見える。
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写真17
巨大なガラスサンルーフはGTに標準装備される。 |
今回も320iと同様にオーディオと猛暑のエアコンをテストしてみる。
まずは、オーディオからだが、試聴に使用したCDは320i、スカイライン250GTとの比較の為に、全く同じ曲を使用した。GTのオーディオは前述のようにヘッドユニットが明らかに3シリーズとは違うし、スピーカーもAピラーに組み込まれたツイーターがドライバー方向を向いて、指向性の高い高音を少しでも良い条件でドライバーに伝えようとするなど期待ができる
(写真18)。これは、現行3シリーズとは大いに異なるが、先代(E46)では5シリーズと同様にAピラーにツイータを埋め込んでいたのだが・・・・・。
そして、先ずは例によって
ビル・エヴァンスを聞いてみれば、最初のピアノソロも予想通りに結構マトモな音が伝わってきた。そして、ドラムのブラシュワークもベースのタッチも320iとは比較にならない程に音質は良い。ただし、先代E60が多少耳に付く
傾向はあるものの、如何にも高音が伸びているという感じの音に比べると、GTの音はもう少しレンジを絞って聞きやすくした、という感じた。付加えると、本来高音が伸びたからといって、キンキンと耳障りの悪い音になると
いうのは高音域の質が悪いからで、本当に良質な高音ならば、幾ら音域を伸ばしても決して耳障りにはならない。GTのオーディオが320iに比べて各段に良かったこともあり、今回はバロッックの定番である
イ・ムジチ合奏団演奏のビバルディ:四季も聞いてみたが、まあ無難に聞く事ができた。
という訳で、その後の
アート・ペッパーもヘンデルの
王宮の花火の音楽も、320iとは全く比較のならない程に良かったが、では、GTの音質が家庭用も含めてオーディオとして高音質かといえば、決してそうでもない。
しかし、一般にカーオーディオは音質的にイマイチの割りに価格が高いのは、夏の炎天下に駐車すれば室内温度は100℃にも達し、真冬の北海道なら外気は−20℃などという状況での屋外駐車など、極めて広い温度範囲に対応が必要だし、更には走行中常に振動で揺すられている状況で超精密なCDのパターンを読み込むと言う、軍用品なみのスペックを要求されることにある。そんな訳だから、クルマで
聞くオーディオなんていうのは、適度なところで妥協をすることが賢い選択だと思うし、そういう目で見ればGTの標準オーディオは充分に合格だと思う。
次にエアコンだが、試乗当日は有難い(?)ことに外気は36℃を越していて、320iのエアコンが完全に容量不足となった時と同等の猛暑だった。そして、結論から言えば、最初に最大風量で出ていた冷風も、15分程経過したらば徐々に絞られて行き、30分経過後は適度な風量で28℃をキープできた。要するにスカイラインと同等の能力はあったとい
う事で、輸入車としては合格といえる。
オーディオにしても、エアコンにしても、やはり3シリーズと5シリーズ以上では性能的に異なることが判明した訳で、BMWも車格というのは意識しているようだ。
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写真18
Aピラーに組み込まれた高音用スピーカー(ツイータ)のお陰で、伸びの良い音が聞ける。
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写真19
オーディオモードでは挿入したCDのデーターが表示される。 |
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そしていよいよ走り出すことになるのだが、この続きは後編にて。
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