バブル時代に流行ったクルマのカテゴリーとして高級車以外に何故かクロスカントリー4WDがあった。取り分け人気があったのが三菱パジェロで 300万円超の高価格モデルが納期半年などというのは今ではとても想像できないような事態だった。他にはトヨタ ハイラックスサーフや日産テラノも人気車種だったし、フルサイズで更に高価なランドクルーザー80 やサファリも結構売れていたという今からは信じられない状況だった。そんな中で200万円代前半と言う安価な価格で、しかも充分な 4WD 性能による走破性と更に積載能力にも優れた車種、すわわちダブルキャブの 4WDトラックもそれなりの人気があった。具体的にはトヨタ ハイラックス、日産 ダットサン トラック (通称ダットラ) が代表的だが、これらはその後 SUV ブームに押されて生産中止となっていった。
ところが、最近トヨタからハイラックスダブルキャブが発売された。これは海外向けとして販売されていたものを、今回国内向けに発売したものだ。それにしても何故に今、急遽発売されたのか? まあそれはそれとして、現代に蘇ったハイラックストラックはバブル時代のハイラックスとどう違うのだろうか?
ハイラック自体は実用的な小型ボンネットトラックとして長い歴史があったが、個人ユーザーがレジャー用として購入を始めたのは前述のようにバブル期の4WDブームの流れだったが、人気のハイラックス サーフが FMC した 1989年 の翌年に、このサーフとコンポーネントを共有するハイラックストラックが FMC (LN108) され、この中でも5人乗りのダブルキャブがレジャー用トラックとして人気車種 (といってもマイナーだが) となった。この LN108 は7年後に FMC され RNZ169H となったが、この車種は 2004年に販売が終了して、その後日本国内でのハイラックストラックの販売は途絶えていた。
今回 14年ぶりにハイラックスが販売されたが、下の諸元で見るとボディーは一回り大型化されていて、取り分け全長は 5,335㎜ もあるし、車両重量は2トンを超え価格は300万円を超えるという、高級化と大型化が目立っている。なおこのモデルは既に 2015年に FMC されタイおよびオーストラリアで販売されている。
そこで先ずは新発売されたハイラックスのエクステリアを眺めてみると‥‥
大きさは大きいしフロントデザインも近代化がなされているが、基本的なスタイルはハイラックスと言われても違和感は無い。
以上2018年3月13日掲載分
フロントグリルは最近のトヨタ風では無く、昔ながらの小型トラックというかオフローダーらしいものが付いている。
サイドから見ると全長 5,335㎜ という長さはレクサス LS 500h エグゼクティブ (ロングボティー) の5,235㎜ よりも長いという凄まじさで、荷台長と室内長の両方を確保しようとするとこうなるのだろう。その結果は回転半径が 6.4m という大きさに反映されていて、如何にもとり回しが悪そうだ。
リアビューは全くのトラックそのもので、ある面このゴッツさも魅力の内か?
ダブルキャブというのは一般的に荷台の長さが短いが、このクルマは前述のように全長が長いために荷台長も結構実用になりそうなサイズとなっている。
このゴッツいボンネットカバーを開けるためには結構な力を必要として、これはもしや‥‥と思ったら案の定ダンパーではなくロッドを差し込むタイプだった。まあこれは実用トラックだから軟弱な機能は無くて当然だが。
エンジンは 2.4L ターボディーゼルだが最近の乗用車用ハイパワータイプでは無く、低回転型のトラック用エンジンだから出力は 150ps と低く、パワーウェイトレシオは 13.7㎏/ps という軽自動車並みの値となっている。
ブレーキアシスト用のバキュームブースターは乗用車に比べると遥かに大きい。
やはりこのクルマはトラックそのものだから、最近の軟弱な SUV とは訳が違う。
以上2018年3月14日掲載分
ホイールとそこから覗くブレーキを見ようとしたら、その前に重大な事実に気が付いた (と言う程大げさなものでも無いが) 。それはモノコックが常識な現在のクルマに対して、ハイラックスはラダーフレームが見える事で、この頑強なフレームの上にボディは乗っかっているだけだから、違うボディーを載せるのが簡単だという事だ。更にはこのフレームをちょん切って短くしたり伸ばして長くしたりと、ホイールベース違いを作るのが簡単だというメリットもある。
そしてもう一つはサスペンションがリーフスプリングによるリジット、要するに板ばねという事だ。リーフリジットサスペンションは構造が簡単でボディへの張り出しも無いからタイヤハウスは最小限で荷台も最大限のスペースを確保出来、トラックとしては最適の方式だ。ただしデメリットとしてはコーナーリング性能は期待出来ない事と乗り心地が悪い事だが、なんたってこれは ”トラック” ですから‥‥。
タイヤは 215R15-6PRLT でホイールは一応アルミ製を標準としている。えっ、タイヤサイズにへん平率が書いて無い、間違いだろ、って? いや実は昔はへん平率は表示していなかったのだ。なぜならばへん平率は 85%が当たり前だから特に表記は必要なかった。更にこのタイヤはトラック用だからタイヤの強度を表すプライ数が表記されていて、この例だと 6PR (6プライ) で最後の LT は小型トラック用 (Light Truck) を表している。それにしても最近の乗用車と比べてタイヤのハイトが高いのが判る。
ブレーキはフロントに対向4ピストンという立派なものが付いているが、これはブレンボに代表されるアルミ製ではなく鋳物製で、トヨタの小型トラックは以前からこのタイプを使用している。因みに日産は片押しで2ピストンのタイプを使用しているが、どちらも大負荷だからシングルピストンでは心許無い為だ。そしてリアはといえば、これはもうトラックらしくドラムブレーキが見える。
ここからは室内編とするが、写真のクルマのグレードは上級モデルの "Z" で価格は374.2万円と、トラックのくせにかなり高価だ。なお下位モデルとして "Z" (326.7万円) もある。
室内の眺めは一見すれば普通の SUV と変わらないが、全長が軽く5.3m もあるにしてはリアの足元が狭いのは、やはり荷台優先のトラックらしいところだ。
シート表皮はファブリックで白いステッチが入るなど実用トラックと違って乗用車的だが、まあ400万円に迫る価格だから当然ではあるが。
一見普通の SUV 風だった室内も実は床位置の高さから、これは尋常ではないと予想がつく。しっかし、これじゃ乗り込むのが大変じゃねぇ?
その対策として、実は高い床面に乗るためのステップが付いているのだった。そいう言えばバブル期に流行ったクロスカントリー4WDにはこういうのが付いていたっけ。
ドアのインナートリムは、まあトラックだから実用重視だが、それでもトリムを付けたりと極力トラック臭さを消す努力はしているのは上級グレードの為だろうか。
パワーウィンドウのスイッチパネルはピアノブラックを奢っている。しかも写真下では上部にステッチが入っている‥‥と思って指で叩いてみたらば、痛って~! 何と硬質プラスチックのフェイクだった。
ここまでの処は、実用トラックを高級レジャーカーに見せる為に色々苦労しているようで、まあ価格を考えればこれでも我慢の出来る下限だろう。シツコく言うが、このトラックは 400万円近いのだから。
以上2018年3月15日掲載分
インパネは一見すれば極普通だが、良く見ればセンタークラスターの配置などは決して最新のモノとは思えない。それでもディスプレイ周りにはピアノブラックのパネルを使ったり、半艶消しクロームシルバーの水平トリムとか、値段なりの事をやろうという意欲は汲んでおこう。
しか~し、何とディスプレイのエリアにはブランクパネルが付いていて、370万円出してもオーディオレスだからここには市販のオーディオ一体ナビ等をポン付けする必要がある。まあ、キャラクターからすれば敢えてナビなんか付けずにセコい CD ラジオが似合うかもしれない。
エアコンについては一応オートのようだ。その下には3つのスイッチがあるが、右端は恐らく 4WD のスイッチだろう。えっ、普段はいつも 4WD じゃあないの? って、いや、これはパートタイム 4WD という方式なので通常は RWD で走行して、オフロード等で初めてフロントも駆動するタイプで、もしも舗装路で 4WD にするとこれが何と曲がれなくなってしまう。何故なら前後輪の回転差を吸収するデバイスが無いからであり、フルタイム 4WDが当たり前の現代ではチョッと信じられないだろう。
ただし本気でオフロードを走るにはこのタイプは実に頼りになるのもまた事実だ。
コンソール上には AT セレクターとモード切り替えスイッチのみというシンプルさだ。そしてパーキングブレーキも勿論オーソドックスなレバー式となっている。
コンソールの後端には世間の常識であるリア用のエアアウトレット何て文化的なモノは無い! それじゃリアパッセンジャーは可哀そうだ、って? いやそれよりもマトモに屋根の下に居られるだけ幸せだと考えれば良い。要するに荷台よりはマシという事だ。
AT のパターンはジグザグゲートのティプトロタイプでマニュアルモードが付いているのはオフロードでの脱出に必要だからだ。
メーターは極普通のメカ式で、って、それゃカラー液晶のフルディスプレイの訳も無いが‥‥。
ボンネット左先端には今時珍しいキノコみたいなミラーが生えている。最近はこれの代わりにディスプレイに死角の画像が表示される為にこのキノコを見る事も少なくなっている。
ペダルはまあ普通の2ペダルだが、恐らく海外向けには 3ペダルの MT が主流となっているだろう。
さぁて、このハイラックス ダブルキャブをどう評価するべきだろうか。ベースモデルでも軽く 300万円を超える価格で、非文化的というか、マッチョというか、まあそう言うモノを求めるユーザーには良いのかもしれない。
以上2018年3月16日掲載分