Volkswagen The Beetle 後編
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シートに座ってみると、先代に比べて車両の全幅が80oも拡大されたことから、室内の幅にも当然余裕があるし、フロントグラスは先代のように妙に遠くにあるという違和感はなく、より普通のクルマ的になっている。レザーシートの座り心地は決して悪くないが、見かけ通りに本皮の表皮のグリップはイマイチだった。 エンジンの始動はオーソドックスな金属製のキーをステアリングコラム右横のキーホールに差し込み、右に捻るとエンジンは素直に目覚める。まあ、この外観でインテリジェントキーなどを使うのでは白けるだけなので、この方法で正解だ。ATセレクターは直線式でDの手前にSがあるのがVW(とアウディ)独特だが、それ以外は特に変わったところもない。パーキングブレーキも一般的なコンソール後方のレバー式だから、何も考えなくても解除できる。そして、ブレーキペダルから足を離すとクルマがわずかではあるがクリープで前進するし、そこからアクセルを少し踏むとスムースに動き出す。VWのDSG(DCT)も初期の頃は発進時に多少の違和感を感じたが、最近はトルコンATと比べても遜色無いまでに進化している。片側2車線の国道パイパスの本線に出ると、後ろにクルマが迫ってくることも無かったのでハーフスロットル程度で加速すると、スムースではあるが決してパワフルという感じはない。そこで、フルスロットルを踏んでみると多少のタイムラグを伴ってシフトダウンされて加速に移るが、感覚的には国産の1.5L級程度だ。 そんままバイパスでの60q/h程度の巡航では、2,000rpmくらいの場合が多く、殆どアクセルを踏まずに流している状態を続けると一段シフトアップされて回転計の針は1,500rpm辺りを指す。これは最近の国産車がほぼ惰性で巡航中には1,200rpm以下になるのに比べ少し高めとなっている。ここで、セレクターレバーをDの手前のSに入れるとスポーツモードとなるが、この場合はレバー上部のメカニカルなボタンを押してロックを解除する必要がある。Sモードに入れると、巡航時の回転数は2,000rpmくらいに上がり、その後もDレンジより500rpmくらい高い回転数となる。 Sレンジのままで今度は信号待ちからの発進時にフルスロットルを踏んでみると、最初に感じたのと同様で1速の加速は決して速くはなく、ノート1.5など国産の実用車と同程度だが、エンジン自体は振動も無く音も意外に静かで、そのままストレス無く5,500rpm位まで加速して2速にシフトアップされた。今度は定速巡航時からのキックダウンを試してみるために、40q/h程度まで速度を落としてからアクセルを踏みつけてみるが、この時にこれでもかと踏んづけると多少のタイムラグを伴ってキックダウンが起こる。この特性はお世辞にもクイックとは言えないが、その分繋がりもスムースで、やはりこのクルマは実用重視のチューニングがされていると感じる場面だ。なお、近い将来にもっと強力なエンジンを積んだモデルが追加されるようだから、走りも気にするマニアはもう少し待つことになる。 今度は地方道に入って少し荒れた部分もある舗装での乗り心地を試してみると、如何にも欧州車らしいチョット硬めで一瞬の突き上げ感はあるが、決して不快ではなく如何にもボディ剛性の高そうなフィーリングだった。この感覚は最近著しく進歩を遂げた最新のマツダ車などと比べると、ヤッパリ本家は違うと思うのは、ザ ビートルの場合は微妙な差とはいえ突き上げ感の吸収が何とも上手いのを改めて体験したことだ。先代から比べると車幅が大幅に拡大されて1,815oとなった新型だが、決して広くはない一般道でも特に持て余すような事は無かった。とはいえザ ビートルよりも全幅が130o狭いポロのような抜群の取り回し感は当然ながら無い。 ザ ビートルはいわゆるパイクカーだから、このクルマに高度なハンドリング性能などを期待はしていないが、さて実際の操舵感はといえば、まずセンター付近の不感帯は適度で一般的な出来の良い実用車という感じだ。言い換えれば、パイクカーとしての外観から想像するような、もしかしてマトモに走らないんではないか、という心配は無用に終わる。まあ、これは先代に試乗した際に、想像していたよりもマトモに走るのに驚いたくらいだから、今回の新型がある程度のレベルであることは、最初から想像はしていたが‥‥‥。 やがて今回の試乗コースでは数少ないブラインドコーナーが近づいてきたので、速度は50q/hくらいを維持してコーナーに進入してみたが、アンダーステアも少なくゴルフ程ではないが実用車としては充分な旋回性能で、その後に続く更に急なコーナーでも、40km/hほどで進入してみての傾向は変わらなかった。とはいえ、このクルマでのコーナーリングが楽しいということは無いのは言うまでもなく、まあそんなことを期待するユーザーも居ないだろうが。 ブレーキもBMW程に極端に軽くはないが極々普通に良く効くから、これまた普通に使う分には全く問題はない。それしても、イマイチとはいえ実用上は大きな問題にならない動力性能や無難な操舵性に乗り心地など、何やら外観とは打って変わっての80点主義のようなクルマだったが、元々フォルクスワーゲンは実用車メーカーだから、寧ろこれが当然なのかもしれない。ただしトヨタの80点とは、またチョット違うような気もするが‥‥。 先代での経験から今回も予想はしていたが、The Beetleは外観やコンセプトから想像するよりはず~っとマトモなクルマであり、その点では普通の実用車として使っても問題はないが、実用上での一番のネックは2ドアであることだ。 The Beetleのベースグレードは250万円であり、この価格帯にはミニクーパー(261~274万円)やフィアット500ツインエアー ラウンジ(250万円)、アバルト500(269万円)、トゥインゴRS(245万円)等、等、変態向けクルマの選択肢は結構広いから、後は趣味で選べた良いだろう。勿論、健全な良い子(と、良いオトナ)は、この手のクルマに近づかないのが無難だが、友人関係によっては周囲からの魔の手は迫ってくるかもしれない。 それで、お前自身はどれを選ぶのか?って、いやあ、B_Otakuは健全な良いオトナ、もとい良いおっさん、いや良いジイさんか。まあどうでもいいが、要するにこの手のクルマには手を出さないのだった。
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