NISSAN SERENA S-HYBRID 後編
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シートに座ってみると意外とマトモな座り心地で、欧州車のようなファブリックのシート表皮とともに、演歌調の日本車とは一線を画している。ミニバンだから当然ながら着座位置は高く、その代わりに視界は良いし、おまけに全幅が1,695mm以内の5ナンバーサイズだから、なおのこと取り回しは良い。と、書いたところで気が付いたのだが、試乗車はハイウェースターのために全幅は1,735mmとエアロパーツ分の40mmが広くなっているが、車内やボディの基本は変わらないから、実際の運転では5ナンバーサイズと変わりはなく、これが取り回しの良さに通じているのだろう。



エンジンの始動はインパネ上のCVTセレクターの右にあるスタートボタンによるという、最近では当然の方法となっている。始動直後は正面の速度計がフルスケールまで振れるという儀式の後に左側の回転計の針が800rpm位を指している。普通のハイブリッド車はスタートスイッチを押してもメーター類が点灯するだけなのだが、セレナはハイブリッドとはいえ、何やらガソリン車っぽい。

駐車場内を移動するためにユックリと走り出した時のトルク感に不足は無いが、最近のクルマはこのように僅かにアクセルを踏んだ時にトルク感を感じさせ、しかも飛び出すこともないという、上手い制御を身に着けたようだ。国道に合流するために左にステアリングを切って段差を降りると、クルマは多少左右に揺すられる挙動が感じられた。といっても、エアサスのバス程ではないが、サスのセッティングは乗り心地重視のようだ。国道の速い流れに乗るために、早速フルスロットルを踏んでみると、ガーっとヴィーンという音が混じった安物4気筒丸出しの音を振り撒いて加速しようとするが、これがまた安物CVTそのもので、エンジンはガーガーと頑張っている割には速度が上がらない状況となる。

その後は幅員10mくらいの地方道を流れに沿って40〜50km/h程で巡航すると、エンジンの回転数も1,500rpm以下と低いこともあり、結構静かで快適となるし、そこから穏やかに加速する場合にはCVT独特のトルク抜け感は感じられないが、前車との距離が離れたので追い付くべくスロットルを踏むと、例のよってトルクが何処かへ逃げていくように速度が上がらない。ここで、気になるのは何時まで経っても電気モーター特有の低速でのトルク感を感じられないことだ。とにかく、動力性能は2Lガソリンを積んだミニバンそのもので、本当にこれがハイブリッドなのか??と、疑問を持ちながら走行する。

実は今回の試乗にあたって、妙な先入観を持たないようにセレナのハイブリッドの内容については一切知らない状態で臨んだために、試乗した時には、これが真っ当なハイブリッドと思っていたのだった。そのうちに、信号待ちで停車したらばエンジンが停止したので、今時流行のアイドリングストップが作動した事を感じる。そして、ブレーキペダルから足を話すとエンジンが始動して普通に発進する。あれっ?これってハイブリッド車だったよなぁ。とすれば、普通は停止状態からはまずモーターで発進して、その直後にエンジンも、何時の間にやら加わっている、というのがハイブリッドの特徴だった筈だが、セレナは普通のガソリンエンジン車と全く変わらない。

今度は大きな交差点での右折待ちのために交差点内で停止した状態でエンジンがストップした時、軽〜いステアリングにちょっと力を入れたらビクともしない。あれっ?何か変だぞ、と思って、次回から色々試してみたらば、何とエンジンが停止すると同時にパワステもオフになって、普通の力ではステアリングはビクともしないのだった、この状態からノンパワステで極めて重いステアリングホイールをグイっと力任せに回してみたらば、その一瞬後にエンジンが始動して操舵力は急に軽くなり、勢い余って派手な据え切りになってしまった。しかし、これって、もしも走行中に誤動作でエンジンがストップでもしたらば、完全に操舵困難になって恐ろしい事になりそうだが、まあ、そういう状態にはならないような制御システムになっていることを信じよう。

2年程前に試乗した前期型のハイウェースターも軽い操舵力と不正確でアンダーの多めな特性だったが、今回のハイッブリッドは更に悪い方向になっていた。すなわち、やたらと軽いステアリングは直線状態から少しくらい回してもクルマの挙動は変わらないし、そのから切り増していったときも実に緩慢な操舵特性を披露してくれた。ハイブリッドとガソリンモデルの重量差は約50kgと大人一人分程度だが、モーターやバッテリーなど、その殆どはフロントに集中しているだろうし、バッテリーなどは明らかに目一杯前端に置かれているから、フロントの重量は大きいし、回転時のモーメントも大きいだろう。そういえば、先代レクサスGSのハイブリッドもこんなふうに曲がらなかったところを見ると、ハイブリッドの難しさでもあるのだろうか。

前述のように最初に国道に出るために歩道の段差を斜めに降りた時に、左右に振れるような挙動を感じたので想像はしていたが、コーナーリング中のロールは結構大きい。前期型の試乗時には感じなかったから、MCで明らかに特性を変えたのだろう。これがハイブリッド絡みなのか、それとも、この手のクルマのユーザーには寧ろ乗り心地を重視したほうが喜ばれるだろうか。そういえばカローラもフィールダー1.8で十分に優秀な操舵性を達成できているにも関わらず、カローラ アクシオ1.5ではグニャグニャの特性だったのはコストダウンもあるだろうが、あの手のユーザーはそういう特性を好むのではないか、とも思っている。
 

実は、最初に駐車場内を移動している時に、減速が必要になりハイブリッドという事が頭にあったので軽くブレーキペダルに足をのせ、その瞬間にクィーンという地下鉄のような音と共に減速が起こると勝手に想像していたのだが、何も起こらない!慌ててブレーキを踏み増しすると、普通のブレーキの感覚で減速した。ところで、エンジンルームの中を覗いて、ブレーキ液のリザーバータンクの奥の方を覗いてみると、何やらマスターシリンダーらしきモノが見えるが、バキュームブースターは見えないところをみると、何か他の方法でアシストしているのだろう。しかし、これが普通のガソリン車だと理解した後でのブレーキ操作は、ごく普通の国産ミニバンの標準的なものだった。



セレナの価格はガソリン車の20Sが216.3万円に対してハイブリッドのベースグレードである20Xは238.5万円で、その差は約22万円であり、装備の差をみるとハイブリッド関連以外はオートスライドドア、VDC(横滑り防止装置)とHSA(坂道発進補助)、フルオートデュアルエアコンなどだから、ハイブリッド装置自体は10万円以下という事だろうか。同じ日産のフーガの場合は、Hyb.車はガソリン車に対して80万円も価格設定だったから、逆に言えばセレナの価格差では大したHyb.ができないこは当然で、まあ、こんなものかもしれない。

それにしても、今回試乗したモデルは約280万円で、これに純正ナビが付いていたから実際の車両価格は軽く300万円を越している。まあ、ナビを別にしても、280万円という価格は、スバル BRZ S(MT)の279.3万円とドンピシャで同じだった!クルマ好きのオトウサンからみれば、同じ支払で理想(に近い)のBRZが買えるのに、なんでグニャグニャのセレナを買わなければならないのか、と悲しい気持ちになるだろう。 

注記:この試乗記は2012年8月現在の内容です。