NISSAN LATIO X 後編
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シート座面は国産車としては硬い部類になるが、欧州車のように硬いけれども骨の部分はしっかりと沈んで体にフィットするのとは異なり、ただ硬いだけで、極端い言えば公園のベンチみたいなものだし、シートの寸法も小さい。シート位置を合わせてから、ステアリングコラム底面辺りを探すとレバーがあったので、これをリリースしてステアリングホイールの高さを合わせる。ついでに前後に動かそうとしたが動かなかったから、結局チルトのみ調整が出来るだけだった。ということで、理想のポジションではないがまあまあのところで妥協してからシートベルトを締めて、エンジンスタートのためにプッシュボタンを探すが‥‥‥‥無い?そこでステアリングコラムの右側面を見たらば金属式のキーが挿してあったので、これを捻ってエンジンをスタートさせる。

実は後で気がついたのだが、試乗車にはアイドリングストップ機能が付いていたから、イグニッション自体は電子式の筈であり、ということはキーを捻った状態ではプッシュボタンを押したのと同じ回路に繋がっているのではないだろうか。要するに、昔のようにキーで直接セルモーターに通電しているのではなく、あくまでキースイッチは信号をコントローラーに送っているだけ、なのではないか?

CVTのセレクターはコンソール上にありNOTEの下位モデルと同じもので、パターンはP→R→N→Dという直線で、Dの手前には降坂用のLがある。このセレクターをDに入れて、コンソール手前にあるオーソドックスなレバー式のパーキングブレーキレバーを解除する。公道に出るために駐車場内を低速で移動する時点では1.2Lエンジンとは思えないトルク感があるのは最近の日産車に共通している。公道に出て加速すると、2ヶ月程前に試乗したノート、それも安いほうのノート Xに似ている、と思ったら同じエンジンだった。しかも車両重量はラティオがノートよりも10kg軽いが事実上は同一重量だから、乗った感じも同じで当然だった。

今回のコースはノートと同じで、国道から地方道へ入って40〜50q/hで巡航中のエンジン回転数は1,500rpmを基準として、少し踏むと2,000rpmくらい、完全に慣性で巡航しているような状況では1,000rpmくらいまで下がることがあるが、僅かでもアクセルを踏むと即座(といっても所詮CVTとしてはだが)に1,500rpmくらいには上昇する。次に前のクルマがいなくなったのでハーフスロットルくらい踏み込んでみると回転計の針は3,000rpm位まで上昇する。そこから更に踏み込めば踏み具合によって回転は更に上昇し、目一杯踏んだ時は5,000rpmくらいまで上昇して加速するが、盛大なエンジンノイズの割りには加速は大したことはなく、所詮は1.2L自然吸気だと感じるところだ、まあ1,030kgの車重に79psのエンジンではパワーウェイトレシオ(P/Wレシオ)は13.0s/psと、ワゴンR スティングレイT(820kg/64ps)の12.8s/psと同程度なのだが、それにしてはワゴンRはやけに速いのは何故だろうか?と思って考えてみたらば、トルク特性がまるで違うようだ。まあ、こういうこともあるからP/Wレシオだけで判断すると危険ということでもある。

ラティオのステアリングは中心付近の不感帯が結構感じられるが、同じクラスのセダンであるカローラ アクシオよりは幾分、いや大分マシというべきか。操舵力自体は軽くて扱いやすいし、中心付近を超えれば回転角度に対して概ね追従してくるのだが、微妙な修正時に思ったようにならない事もある。ラティオに乗って直ぐに気がつくのは乗り心地がやけに硬いことであり、走行中は鏡のように平らな路面以外では常に細かい振動が伝わってくるし、舗装の粗い場面ではザーっというノイズと共にステアリングホイールにまで細かい振動が伝わってくる。試乗車のオドメーターは僅かに70km程度を表示していたから当たりが付いていない事も考慮が必要だが、それだけでは無さそうだ。

そこで、写真撮影の時に装着タイヤを見たらば、"BRIDGESTONE B250"と書いてあった。調べてみると省燃費のエコタイヤで海外向けでは「B250 ECOPIA」という名称で、何れもカーメーカーに新車装着用として納入するいわゆるOEM専用品ということだ。ということは、安いのが取り柄のショボいタイヤということだろうか。なお、新車装着されているタイヤメーカーは複数が設定されている場合が多く、したがって全てのラティオ XにBS B250が装着されてくるとは限らない。

それに関しての笑い話をひとつ。バブル経済華やかなりし頃、中小企業の社長がマジェスタを注文して目出度く納車されたが、付いていたタイヤがOHTSUだったために怒り狂って、こんな車はいらねぇ。持って帰れ!と怒鳴ったとか。確かにマジェスタにオーツはあんまりで、社長の気持ちもよく判る。結局、ディーラーが自腹でBSに入れ替えたとか。まあ、下手に社長を怒らせると10台ほど使ってもらっている業務用のハイエースが次回からキャラバンになると大変だから、タイヤくらい安いものだ。結局何が言いたいかといえば日本のカーメーカーは、新車装着用のOEMタイヤは複数の銘柄を設定して、ライン上では無差別に装着しているということで、BSが付いてくるのかYOKOHAMAなのかは納車されるまで判らない。ところで上記の話にでたOHTSUは2003年に住友ゴム工業に吸収されて現在ではファルケンブランドで販売されている。はっ?ファルケンてオーツだったの!

ラティオの走行安定性特に良いとはいえないが許容範囲といえるだろう。そして、コーナーリングはといえば、硬いサスから想像が付くように、ロールが少ないし、最近は重心が高いハイトワゴン系が多い中で、ラティオは真っ当なセダンということもあり、常識的な速度でならコーナーリングも決して悪くない。といっても乗って楽しい、ということは無いし、あのタイヤを考えれば限界だって低そうだから無理は禁物で、あくまでも普通に走っていれば特に問題は無いという程度だ。

それにしてもラティオに対するユーザーの感心は極めて低いようだ、今回の試乗車も試乗希望者が全く現れず、走行距離も乗り込んだ時点では60q程度だった。ラティオのユーザーは銀行や保険会社の課長級の外回り用としての企業ユーザーが殆どだから、これで良いのかもしれないし、そういう用途に使用するクルマだって必要なのは言うまでもある。だから、我々一般ユーザーがどうのこうのと言う必要もないようで、今回の試乗記は、そんなクルマがあるのか、という参考のためであり、このサイトの読者が購入検討することは無いだろう。

えっ、社長、今ラティオを検討中だって? 成程、営業社員の業務用としてカローラと比較検討している、って?

注記:この試乗記は2012年11月現在の内容です。