NISSAN NV350 CARAVAN 後編
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運転席に座ると着座位置の高さは乗用ミニバンよりも高く、2トン車より少し低いくらいだが、感覚的にはミニバンよりもトラックに近い。実はキャブオーバートラックというのは前方視界抜群であり、だからこそ大型トラックなど全幅2.5m、全長12mなどという巨大なクルマが、いくら腕が良いといっても見事にギリギリのスペースをスイスイと走れる訳だ。

エンジンの始動は、当然ながら金属式のキーであり、インテリジェントキーなどは考える余地すらなさそうだ。アイドリングは思ったよりは静かだが、まあ多くを期待してはいけない。試乗車はガソリンエンジンだったが、1ボックス商用車という成り立ちから、本来はディーゼルが似合っているし、実際に重量物を積む機会が多ければガソリン(18.1kg・m)の2倍という強力なトルクのディーゼル(36.3kg・m)は必需品でもある。

試乗車のミッションはATだったが、商用車では今でもメジャーな5MTも用意されている。なお、ATはライバルであるハイエースが4ATであるのに対して、キャラバンは5ATと差を付けている。 試乗車はATだったのでセンタークラスターの中間部分、エアコン操作パネルの隣にある、いわゆるインパネシフトとなっていて、パターンは一般的なATのシフトだが、Dの手前に3と2があるという最近では希少なパターンとなっている。

駐車場の段差を斜めに降りながら国道に出るときに、細長くて重心の高いボディは左右に揺れるが、これはトラックと思えば何も不思議はない。加速性能については何の期待もしていなかったが、それでもマーチなどの1.2Lコンパクトカー程度の加速はするし、危険な程加速が悪かった1Lのパッソに比べれば充分に速い。まあ、考えて見ればこのクルマは商用車だから、最大積載量の荷物を積んでフル乗車した時の総重量は3,100kgであり、試乗時は一人乗車だから車両重量1,680kgにドライバー分を加えた約1,750kg程度と60%以下の負荷で走っている訳で「空荷のトラックは速い」という定説どうりだ。

国道から一般道に入り、流れに乗って40〜50km/hで走行している時のエンジン回転数は約1,500rpmだが、少しでもアクセルを踏むと即座に2,000rpm位までトルコンがスリップして回転数が上昇する。更に踏み込むとキックダウンが起こり、1段シフトダウンされて回転数は3,000rpm位まで上がる。このように乗用ミニバンに比べると常に回転数は高いし、負荷がかかった時のシフトダウンのレスポンスも下手な乗用車より遥かに迅速なのは、高負荷の積載時を考慮しているのだろう。何しろ130psに対して総重量3,100kgという最大積載時のパワーウェイトレシオは23.6kg/psという悲劇的な数値になるから、エンジンのパワーをフルに使うためにも常に高回転を常用することになるし、そのような特性になっているのだろう。

ところで、ドライバ正面のメータークラスターには立派な回転計と速度計が付いていて、目盛もコントラストが高く視認性はかなり良い。こんなクルマに回転計というのもイマイチ不釣り合いに感じるだろうが、中型以上のトラックには20年以上前から回転計が当然のように装備されていたから、キャラバンに回転計があっても少しも変ではない。

次に走行音はといえば、エンジンは前席シートの下にあるから、いくら防音処理をしたところで、騒音は室内に侵入してくるので、はっきり言って静かではない。とはいえ、30年ほど前のキャラバンやハイエースのように、60km/h以上だとラジオのボリュウムを一杯に上げないと聞こえない・・・・なんていう程ではないが、乗用の大型ミニバンなどと比べると当然煩い。

背の高いミニバンは当然重心も高いから旋回特性では乗用車に対して大きなハンディがあるが、さらに重心が高くでサスペンションだって安物、というよりも積載を考慮しているから走行性なんて二の次で、そうなればどう考えてもキャラバンに旋回性能や操舵特性を求めるのは筋違いだが、さて、実際にはどんなものなのだろう? まず、乗り心地については当然硬いが昔の”空荷のトラック”のようにポンポンと跳ねるような救いようのない硬さではなく、気にしなければ十分に耐えられるし、一部のスポーツタイプと同等くらいだ。キャラバンのサスはフロントにダブルウィシュボーン、リアにリーフリジットという典型的な小型トラックの方式だ。因みにリーフリジットというのは言い換えれば”板バネ”であり、アクスルは当然ながらリジットだから、まともな旋回性能を期待するのには無理がある。

ステアリングはキャブオーバートラックらしく、乗用車に比べると随分と角度が寝ているが、本格的なトラックのように水平に近いという訳では無く、乗用車と小型トラックの中間くらいだ。操舵力はパワステのお蔭で適度に軽いから、これまた昔のようにやたら重いということはない。そしてステアリングギア比もミニバンと大きく変わらない程度で、左折の度にステアリングホイールを2回転も回すということはない。そうは言っても前輪がドライバーズシートの下にある、キャブキャブオーバータイプだから、左折時には一度自分自身が対向車線側に出て、大きく頭を振りながら車線に戻るような軌跡を描く必要があり、言ってみればトラック的な運転の入門用という感じだ。慣れればどうという事は無いが、乗用車的に速めにステアリングを切ると、リアが曲がれなくなってしまうから、常に自分自身が乗用車ではエンジンの位置にいることを認識する必要がある。

ここまで読んでもらえば、キャラバンの操舵性なんて期待する方が間違っていることが判ってもらえるだろうが、逆にトラック丸出しのドライビングポジションと尻の下で唸るエンジンノイズを耳にすれば、急がず騒がずノンビリと行こうという気になる。そういう気持ちで走ってみると、一般道で60km/hくらいの巡航では、何故か結構安定している。実際にこの簡易試乗記でボロクソの評価となったウィッシュよりも余程安定しているのだから笑ってしまう。コーナーリングだって積載前提の硬いサスはロールを抑えて結構安定したコーナーリングをするし、高い重心とはいえ、ある程度までなら意外にも下手な乗用車よりも安定したコーナーリング特性になる。そこで、ふと思い浮かぶのは、峠道でトラックが意外にもハイペースでコーナーを通過していく事実で、読者もこういう状況を目にしたことがあるかもしれない。

ブレーキについては効き自体は悪くはないが、最初に踏んでから効くまでの遊びが大きく、かなりのストロークを過ぎないと効き始めないから、早めのブレーキを心がける必要がある。まあ、それもトラックゆえと思えば納得もできる。それで、どんなブレーキが付いているのかと思って、降りてからホイールを見たらば残念ながらスチールホイールで、中は全く見えなかった。そりゃあそうだ。トラックにアルミホイールは無意味だから、鉄っちんホイールで十分だった。

今回試乗したモデルは、リア―シートが簡易型で事実上の2人乗りモデルだったが、キャラバンにはもっとマトモなリア―シートを装備したモデルもある。これならファミリーミニバンとして使うことも出来ないこと無なく、事実、ファミリーカーとしてキャラバンを買うお客さんも意外に多いということだ。 豪華なフルサイズミニバン、日産で言えばエルグランドの豪華絢爛な室内と、強力なエンジンによる贅沢な走るリビングルームも良いだろうが、キャラバンの実用的な良さもまた捨てがたい。まあ、この辺はユーザーの好み次第だろう。

えっ? どっちもいらねえ、って。まあ、走りが好きな人はそうでしょう。

おっ、院長は興味があるんですか? 何々、病院と養老院の送迎用に10人乗りを検討中ですか。確かにそれこそ、キャラバンの本来の姿には違いないですねぇ。

注記:この試乗記は2012年9月現在の内容です。