エンジンの始動はインテリジェントキーを所持してステアリングホイールの左側に隠れた位置にあるプッシュボタンを押すと、極普通に始動する。あれっ、ディーゼルっていうのは、最初に余熱して・・・・なんて思っていないでしょうね?
アイドリングは思いの他静かで、一般的な4気筒ガソリン車と変わらないくらいで、勿論振動も4気筒ディーゼルとしては極めて少ない。この点ではニッサンのエクストレイルディーゼルよりも明らかに勝っているし、価格的に何倍もするメルセデスのEクラスディーゼルと比べても引けをとらないくらいで、これは嬉しい誤算だった。6ATのセレクターをDに入れて、コンソール上の手前にあるオーソドックスなレバー式のパーキングブレーキをリリースして、右足をブレーキペダルから右のアクセルペダルに載せ代えて僅かに踏むとクルマはスムースに走り出す。そして、公道の手前で一時停止してクルマの流れが切れたのを確認後に左に90°旋回しながら本線に入る。
ここで、さらにアクセルと踏むと、如何にもディーゼルエンジンらしい強力なトルク感を伴って加速をする。制限速度の50km/h程度までの加速ならば、グイグイと速度を上げて直ぐに到達する。この感覚は、3.5L級のSUV並みと感じるし、少なくともこのクラスの中型SUVにガソリンの2Lエンジンを積んだタイプとは力強さがまるで異なる。後でスペックを確認したらば最大トルクは42.0kg-mというガソリンのNAエンジンなら4.2L並の値だった。
巡航中に前車の状況などで30km/hくらいに速度が落ちても、少しアクセルと踏んでやればあえてキックダウンをしないでもそのまま加速してしまうのは、低速トルクの絶大なディーゼルのメリットだし、このディーゼルエンジンのメリットが実に良く出ている。巡航中のエンジン音もディーゼルとしては最も静かな部類だが、フル加速を試みたら2,000rpmを過ぎるとディーゼルっぽい音は確かに聞こえる。それでも決して気になる音では無いし、最高出力発生回転数の4,000rpmくらいまでは気持ちよく吹けあがったので、回転計のレッドゾーンは5,200rpmではあるが、それ以上は無意味と同時に速度も結構上がってしまったので
アクセルを緩めて巡航に移ることにした。
CX-5
XDのミッションはSKYACTIV-DRIVEと呼ばれる6ATが搭載されているが、このミッションは確かにシフトはスムースだしスリップ感が少なくロックアップ領域が広いという謳い文句が感じられる。巡航時にキックアップを誘う為に強くアクセルペダルを踏んでみると、トルコンATを搭載したクルマとしては充分にレスポンス良くシフトダウンされた。ATセレクターのパターン表示には最近の定番であるD位置から右に倒すすとMと表示されていて、奥へ押すと”−”、手前に引くと”+”という表示もあるので、早速マニュアルモードにしてみる。マニュアル時の変速レスポンスもマアマアというところだが、低回転側の広い回転域で太いトルクを発生するディーゼルの特性から、マニュアル操作は殆ど無意味と感じたので、このモードは早々に終了した。
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想像以上に出来の良いディーゼルエンジンに気を良くして、さて乗り心地はというと、最近の傾向というか欧州調というか、基本的に固めでシャキッとしていて、欧州車オーナーなら納得というところだ。路面の突き上げは殆ど気にならない程度だから、言ってみれば乗り心地も良好ということになる。このように、乗り心地からみてもCX-5の車両剛性は充分なものがあるのだろう。そうなれば、当然ながら操舵性や走行安定性にも期待できるわけだ。
それで操舵性はといえば、適度な操舵力とレスポンスのステアリング系は剛性不足を起因とするような遅れは全く感じないし、走行中の安定性も高くて実に安心できるクルマだ。そこで、旋回性能を試す為に片側1車線の地方道にしては道幅にも余裕があり、適度なコーナーが続く道を走ってみた。ところが、運悪く前に遅いクルマがいるために、その後に続いて走る羽目になってしまった。そこで直線部分ではわざとユックリ走って前車との距離を空けてから、コーナーが見えると加速して速度をあげるなどしながら、コーナーをクリアしていったが、CX-5の旋回は実に安定していて背の高いSUVとしては文句なしの性能だった。試乗車の駆動はFFだったが、それらしきアンダーも殆ど感じずに、ニュートラルに近い特性には、これまた想像以上の出来だった。そうはいってもFFだから、FRであるBMW
X1のようなニュートラル感は無いが、いってみればVW ゴルフを髣髴させるような出来の良いFF特有の安定した旋回を続けていく。そのうち遅い前車がいなくなり、これぁ良いチャンス、と思ったら横道から1台が前に入ってしまった。しょうがないので、その後に付いていったが、もっと速いコーナーリングを試したのに、とぼやきなやがら、ふと速度計を見れば、えっ?決して遅くは無い速度だった。この速度でもこんなに安定しているというのは、やはりボディとシャーシーがしっかりしているからということになる。
ただし、この速度感の無さは、ある面では面白みの無さにも通じでしまい、ワクワクするコーナーリングを
求めると、一般公道では他の要因で危険が伴ってしまうという、SUVとは思えないものだった。それにしてもSKYACTIVはハッタリではなかった。そして、残るブレーキに関しては、特に優れても居ないが最近の国産新型車の水準にはいっているから、大きな遊びやスポンジーな踏み込み感などは無く踏力も
軽いから、少なくとも一般道では充分な性能を持っている。考えてみたらば、試乗車の車両重量は1,510kgだから、これは代表的DセグメントサルーンであるBMW328iの1,500kgよりも50kg軽いという、見かけの割には軽量だから、ブレーキもその程度の容量で良いのだった。
今回のフルスカイアクティブ化でSKYACTIV-BODYとSKYACTIV-CHASSISを採用しているが、これはどうやらハッタリではなさそうで、前回乗って期待の割にはそれ程でもなくてガッカリしたアクセラに比べれば、マルで出来が違うという結果になった。そして、ディーゼルエンジンも極めて出来が良いのに、これまた驚いた訳だが、マツダ
のディーゼルといえば小型トラックのタイタンで経験はあるものの、乗用車用にディーゼルエンジンをここまでモノにするとは想像もできなった。というと、マツダ関係者に怒られてしまいそうだが、こうなるとライバルである日産エクストレイルディーゼルは旧世代ディーゼルの欠点、すなわち振動と騒音が完全に払拭されていない現実では相当に分が悪い。
と、正にベタ褒め状態になってしまったCX-5 XDだが、コストの高いディーゼルエンジンを搭載していることで価格的には同じCX-5の2Lガソリン版と比べるとXD(258万円)と装備が同じ20S(220万円)との価格差は38万円となる。そこで、両車の燃費の差、すなわちJC08モードで夫々18.6と16.0km/Lだから、1km走る為の燃料は0.054および0.063Lであり、ガソリンを150円/L、軽油を115円/Lとして、1万キロ走るには8.1万円と6.2万円の燃費が必要となり、その差は1.9万円となる。これで車両の差額である38万円を回収するには20万キロの走行が必要となり、ファミリーカーとしては殆ど元が取れないことになってしまう。要するに、ディーゼルによる燃費の節約というのは事実上無意味であり、むし
ろ強大なトルク感によるドライバリティーの向上を求めるというのがディーゼル車のメリットと考えないと、何の意味もなくなってしまう。そうなるとCX-5のガソリン2Lはどんなものかと気がかりになってしまうが、余計な事をいうとまた宿題を抱えてしまうので、これにて御免!
最後に当サイトに於けるディーゼル乗用車の試乗記および簡易試乗記へのリンクを貼っておく。
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