MAZDA ATENZA WAGON XD 後編
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見かけどおりに欧州車的な硬めの座り心地のシートに座り、上級のL Packageだとフルパワーでのシート調整ができるが、試乗車はベースグレードのために手動式でポジションを合わせる。次にステアリングコラムの底面あたりを探ってみるとレバーらしきものがあったのでこれを引いてみたらばステアリングが上下に動き、試しに手前に引いてみると動いたことでチルト&テレスコピック機能があることを確認した。あっ、別にアテンザごときにテレスコピックは無いだろうと高を括っていた訳ではありませんので、念のため。エンジンの始動はインテリジェントキーとスタートボタンを使用するのは今時のクルマとしては極一般的だが、スタートボタンはメータークラスター左下のステアリングホイールに隠れて見辛いところにある。アイドリングはディーゼルとは思えない程静かで振動もなく、この点ではBMW320dよりも優っている。なお、パーキングブレーキはオーソドックスなレバー式となっている。

最初に片側2車線の国道を60km/h位で巡航している時のエンジン回転数は約1,500rpmで、エンジンの振動も殆ど感じないし音も充分に静かだから、パッセンジャーは特に説明がなければこのクルマがディーゼルだということに気が付かないだろう。前車との関係で一度速度が20q/hくらいまで落ちても少しスロットルを踏むだけでスムースに加速するし、この程度の加速ならばエンジン音も気にならない。今度は同じく20q/hから2/3スロットルで加速すると約4,000rpm位までスムースに回転が上昇してシフトアップされた。

  

今回のアテンザはフルスカイアクティブということで、ATもロックアップを多用した6速AT(SKYACTIV-DRIVE)が搭載されている。そしてそのご利益はといえば、確かにトルコンのスリップは少なめでダイレクト感はあるが、欧州車まで含めてATとしては特別驚くほど凄いかといえば、それ程でもないように感じる。ただし、これはディーゼルエンジン自体の出来があまりにも良すぎるために相対的にミッションの評価が下がってしまうということもある。そしてシフトショックについては殆ど気づかないくらいにスムースではあるが、マニュアルシフト時のレスポンスなどを見る限りでは、レスポンスよりもスムースな繋がりを重視しているようにも感じる。

XDにはマニュアルモードは勿論のこと、ステアリングホールにはパドルスイッチまで備わっていたので早速Mに入れて見る。うまい具合に信号で停止したので次の発進でフルスロットルを踏んでみると、全くトルクが衰えることもなくレッドゾーンの5,000rpmまで回ったところで右のパドルを引いてシフトアップする。ディーゼルエンジンとしては、とてつもなく高回転に相当する4,000rpm以上でもトルクを維持しているというのは驚異的であり、BMW320dが4,000rpmを過ぎると突然トルクが下降することで実質は4,000rpmが上限であることに比べると、アテンザは明らかにBMWに勝っている。えっ?マツダがBMWに勝つ??何とも大変な時代になったものだが、考えてみればBMWは乗用車専業メーカーだからディーゼルエンジンの経験は極めて乏しいのに対して、マツダは商用車、特に小型(2〜3トン)トラックであるタイタンを長年作ってきて、当然ながらこのクラスはディーゼルエンジンが主流だから、その面での経験はBMWより優っているのではないか。そのいう意味ではホンダもディーゼルについては経験がないわけで、それをユニークさでカバーするのだろう。余談ながら、トヨタはといえば大型商用車(バス、トラック)では世界的にもトップレベルの技術を持つ日野自工を傘下に持っていている。既に日野の大型用ディーゼルエンジンはターボ化によるダウンサイジングが終了していて、メルセデスのような尿素を使用する方式も実用化されているので、乗用車用もその気になればいつでもOKという状況だろう。

ところで、マニュアルでレッドゾーンまで引っ張った時のシフトレスポンスは充分なものだったが、もしかするとレッドゾーンのリミッタでシフトアップ指令が既に出ていたのかもしれない。というのは、その後のマニュアルシフトはイマイチのレスポンスだったからだ。といっても、トルコンATとしては標準的なものだが、スカイアクティブミッション(SKYACTIV-DRIVE)とはいえ、マニュアルシフト時のレスポンスまでは手が回らなかったのか、元々ATのマニュアルモードなんてオマケと思ってるのかのどちらかだろう。実際にこれだけフラットトルクだと、マニュアルシフトのメリットはほどんどないのはワインディング路で実感しているから、気にすることもないのだが。

アテンザにはマツダ得意のi-STOPというアイドリングストップ機構が組み込まれていて、信号待ちで停止すると程なくしてエンジンは停止した。次に発信時に極普通にブレーキからアクセルに踏み換えると、殆どセルモーターの回転を感知できないほどに一瞬で、しかもディーゼルらしいスナッチなどもなく、極々自然にエンジンが始動する。この点でもBMW320dを完全に上回っている。次に、いつものように目一杯速いタイミングでペダルを踏み換えると、アクセルを踏んだ時点では未だエンジンは始動していないが、一瞬遅れて始動した後に飛び出しなどもなくスムースに発信した。この時もセルモーターの存在を殆ど意識しない位に一瞬でエンジンは始動した。

ここで動力性能について少し机上検討をしてみることにする。アテンザにはディーゼルのXDとガソリンが25Sと20Sのモデルがあり、これに”ライバル!”のBMW 320dを加えてのギア比を比較してみる。

ディーゼルのXDがアテンザの中では最もハイギアードとなっているのは、使用する回転域が低回転側でトルクが大きいから当然であり、また一番の高回転タイプで逆にトルクが低い20Sがローギアードの設定になっているのも常識どおりだ。320dの場合はアテンザの6速に対して8速という多段ミッションを装備しているために、当然ながらきめ細かい制御ができるが、トルクバンドが広くフラットなディーゼルの場合、あえて8速が必要かという疑問もあり、一概にアテンザが6速だから駄目、ということもない。ただし、320dは100q/h巡航を8速1,600rpmという低い回転数で達成出来るのに対して、アテンザXDでは6速 1,800rpmと幾分高くなる。

ディーゼルエンジンについてはBMWを上回るという予想外の結果だったが、それでは操舵性はどうだろうか。結論を先に言えば、国産FF車としては充分に満足できるが、BMWと比べるとちょっと分が悪い。なにより、ステアリング系の剛性感がイマイチで路面からのインフォメーションも殆どない。今回は結構長めの試乗時間がとれたので、ワインディングが続くコースを走ってみた。ただし、ローリング族が出没したことから道幅はポールで狭められて、しかもコーナーにはゼブラの舗装が施されているので、完全に安全圏内の速度でしか走れないが、それでもアテンザは国産FF車としては弱いアンダーステアで素直に曲がっていく。しかしステアリングの応答はイマイチだし、ステアリングギア比も緩慢な設定なのか、思ったよりも舵角を切り増しする状況が頻発していた。この原因はアンダーステアというよりも、ステアリングギア比の問題のような気がしたので、添付の諸元表をみたが残念ながら記載はなかった。恐らくロックtoロック回転数が大きいのではないか。

ブレーキについてはリアがパーキングドラムを持たずにキャリパーにパーキング機構を組み込んだP付きといわれるタイプになっているが、これは先代からの伝統となっている。そして効きは市街地での試乗では特に問題は無かった。まあ、最近の国産車でブレーキの効きが悪くて問題だ、なんていうクルマは殆ど見かけなくなったから、これは当然だろう。なお、アテンザは全グレードでアルミホイールが標準装備されている。

  

今年の3月に同じエンジンのCX-5 XDに試乗して結果が良かったので、今回も充分な満足感があるだろうという予想はあったが、改めてこのディーゼルエンジンに乗ってみると出来の良さに驚いてしまう。しかしディーゼルエンジンの出来が良すぎたのに対して、シャーシーやボディの剛性感、そして操舵性などではマダマダ改良の余地があるという事も事実で、SKYACTIV-BODYやSKYACTIV-CHASSISという主張の割りには大したことは無かったのが残念だった。この面である程度の出来に達していたらば、本編の試乗記で扱おうとも思ったのだが、残念ながらそこまでは達していなかった。それでもXDの290万円という価格は320dの491万円よりも約200万円も安いから、買い得であることは間違いない。しかし300万円という価格は、最近は社会問題になっている非正規雇用者からすれば、そう簡単に買える価格ではない。そうなるとガソリンのベースグレードである20S(250万円、これでも未だ高い!)に興味が湧いてくるから、これはチャンスがあれば試乗してみたいとは思っている。

注記:この試乗記は2012年12月現在の内容です。