MAZDA ATENZA WAGON 20S
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先日のディーゼルワゴン(XD)につづき、今回はガソリン2.0Lのワゴン20Sに試乗してみた。ガソリンエンジン搭載のアテンザはセダン、ワゴン共にベースグレードが2Lの20Sで2.5Lの25Sは本革シート等を装備したL Packegeのみとなり、2.5Lのファブリックシートという設定は無い。そして、20Sの装備や内装はXDと全く同じとなっているため、詳細はワゴンXDの試乗記を参照願うとして、ここではディーゼルとの違い、取り分け動力性能や操舵性の結果についてまとめることにする。 最初に、いつものスペック比較はアテンザワゴンの3つのエンジンバリエーションを並べてみる。 今回の20SはXDより40万円安い低価格と60s軽い車重、その割にはJC08モードでそれ程変わらない燃費など、結構注目したくなる面が多い。 エクステリアはガソリンとディーゼルを区別することが出来ないくらいに同じで、リアの2本出しマフラーや"SKYACTIV TECHNOLOGY"のエンブレムすら同じようだ。内装も20SとXDはブラックのファブリックシートや内装が全く同じであり、これまたボンネットを開けてみなければ区別がつかないくらいだ。
XDの試乗記ではSKYACTIV-D 2.2について説明したので、今回はSKYACTIV-G 2.5/2.0を取り上げてみることにする。なお、使用した図表については前回同様に参考資料2より転載した。 ガソリンエンジンにおいてもディーゼルエンジンのように圧縮比を高くすれば熱効率の改善が期待できるが、圧縮上死点での圧縮温度が高いとノッキングを発生しやすくなる。圧縮上死点温度は下の図のように残留ガスの割合に大きく依存している。たとえば、圧縮上死点温度を840K(567℃)に抑える場合、圧縮比11ならば残留ガスの割合が8%でも良いが、14まで圧縮比を上げると4%まで下げる必要がある。 例として下図上段のように排気経路が短い場合は、3番シリンダーの排気バルブが開いた瞬間に発生する大きな排気圧力が吸気行程を始める1番シリンダーに到達して排出した排気ガスがシリンダー内に押し戻されることで残留ガスが発生する。これを防ぐためには下図下段のように4-2-1排気系を採用することで、残留ガスの大幅低減を達成し、これによりガソリンエンジンでも13という高圧縮比が可能となった。 しかし、4-2-1排気系は触媒までの距離が長くなり、排気ガス温度が低下することで触媒の早期活性化(冷間時の早期立ち上がり)ができなくなることがある。排ガス温度を上昇させるには点火時期を遅らせる方法があるが、これにより燃焼が不安定になるため、ピストン上面にキャビティを設けてプラグ周辺に適切な混合気が形成されるようにしたことで、高温の排気ガスを安定して発生させることが出来るようになった。
参考資料1:マツダ オフィシャルサイト http://www.atenza.mazda.co.jp XDの試乗記に続き、今回も多少技術的な解説をしてみたが、理解していただけただろうか。色々とゴチャゴチャ書いてしまったが、要するに排気系を4-2-1として、ピストンにはキャビティを付けることで高圧縮比を達成できた、ということだ。 この4-2-1排気系というは、高出力のNAエンジンでは昔から行われていた方法で、通称タコ足と呼ばれていたアレのことで、最近では確かシビックタイプRに搭載されていた覚えがある。 ボンネットを開けてアテンザ 20Sのエンジンを実際に見てみると、当然ながらディーゼルのXDとは外観が異なるが、基本的な大きさなどは変わらない。XDと比べてパワーは20ps少ない155psと大きくは変わらないが最大トルクとなるとXDの42.8kg-mに対して20.0kg-mと半分以下しか無い。
インテリアについてはディーゼルのXDと全くと言っも良い程に同じなので、ここでは特に写真を掲載しないので、ワゴンXDの(簡易)試乗記を参照願いたい。 |
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それでは早速試乗してみることにする。 ディーゼルと同じ位置にあるスタートボタンでエンジンを始動させると、アイドリング時の振動は多少感じるから、ディーゼルとしては異例に振動の少なかったXDと比べれば同程度となる。そしてドライバーズシートに座った時の唯一の違いは、正面の回転計の目盛が違うことで、フルスケールはXDの6,000rpmに対して8,000rpm、レッドゾーンは5,000rpmに対して6,500rpmとなっていることくらいか。 そして、これまた全く同じATセレクターをDレンジに入れてレバー式のパーキングブレーキをリリースしてフットブレーキを放すと、クルマは僅かにクリープで前進する。駐車場から公道に出て軽く加速してみると、XDのようなディーゼル独特の強大なトルク感は無いものの、一般道を普通に走る分には特に問題はない程度の加速はする。40~50km/hくらいでの巡航で慣性に載せて走る時は1,500rpm位を維持するのはXDと同様だ。 定速巡航からのキックダウンに対するミッションのレスポンスはトルコンATとしては良い方だろうか。このミッションはXDと同様にSKYACTIV-DRIVEであり、XDと同じくトルコンスリップが少ないが劇的かといえばそれ程でもない。20Sはアテンザのラインナップでは最も安い(250万円)モデルではあるが、それでもステアリングホイールにはパドルスイッチも付いていたので試してみたがXD同様にイマイチのレスポンスで使うメリットは特になかった。Dレンジに戻して、主要国道に出てから前車が減速して右折車線に入った後に30km/hくらいからフルスロットルを踏んでみたらば、多少のタイムラグの後に2速(2,000rpm)へのシフトダウンが起こり、その後はスムースに回転計の針が上がっていって、5,500rpmで80km/hまで上がったところでも未だシフトアップしないが、前車が迫ってきたこと(と速度が上がりすぎたこと)からスロットルを戻したので、この状況でのシフトアップポイントは判からなかった。なお、フルスロットル時の音は特にうるさいという程でもないが音質自体は安っぽく、お世辞にもスポーティーとかワクワクするとかいうことはない。
XDの場合はディーゼルエンジンの出来では320dにも勝る位だったが、操舵性となるとマルで歯が立たない状況だった。しかし、今回の20Sは結論から言えば嬉しいことにXDよりも遥かに機敏で、ステアリングのレスポンスも上回っていた。取り分け鼻先の軽い印象がXDと大きく異るところで、車両重量がワゴンの場合XDの1,530sに対して20Sは1,450sと80kgもの重量差があり、その殆どがエンジンとパワートレインだから、重量増加分はフロントオーバーハングにぶら下がっている訳で、ハンドリングが大いに違うのと辻褄が合う。またXDで感じたステアリングギア比がローギアード過ぎるような感覚も20Sでは感じられなかった。 実は今回の試乗車は標準の225/55R17ではなく、オプションの225/45R19が付いてたことから、これがステアリングレスポンスの向上に寄与していたことは間違いないが、それを差し引いても鼻先の軽さは重量配分が原因だろう。なお、25Sの場合は1,470kgと20kg程重くなることもあり、アテンザワゴンでは恐らく20Sが一番軽快なハンドリングだろうと想像は出来る。そして、乗り心地はといえばXDも硬めだったが、20Sは更に硬い印象があったのはやはりタイヤが原因だろうが、それを考慮してもXDの重量増加分は乗り心地に関しては重厚な方向に寄与していた可能性もある。ただし、硬いといっても我慢出来ない硬さではないし、自慢のSKYACTIV-BODYによる剛性感の高さもあり、欧州車的な硬さなのが救いとなっている。ところで、ご自慢のボディの剛性感については、う~ん、感覚的には流石にBMW3シリーズの領域までは行っていない、という気がする。この辺は、近々特別編で比較してみようと思っている。まあ、理想を言えばXDと20Sでは同じタイヤで条件を揃えて比較したかったわけで、正直言って20Sの試乗車を見てオプションの19インチが付いていた時には「くっそ〜ッ、余計なことをしやがって」という気持ちだった。 XDに40万円の価値があるかといえば個人の考え次第だろうが、最大のメリットである低燃費については、20SとXDはJC08モードで17.4と20.0q/Lであり、燃料代はレギュラーガソリンを145円/L、軽油を123円/Lとすると1q走行するコストは20Sが8.3円に対してXDは6.2円とその差は2.1円しかない。すなわち、40万円の元を取るには400,000/2.1≒19万qの走行が必要となる。ファミリーユースで19万q走るユーザーっていうのは極々少数派であろう。実際に読者の中に一台のクルマで19万q走ったという人はいるのだろうか? 結局は燃費で元を取るという案は殆ど意味がなさそうだから他のメリットを考えると、それは20Sの倍以上もある強力なトルクだろう。実際にXDの中回転域までのトルク感は強力で、まあ40s-m以上のトルクといえば4L V8級だから、これに惚れ込んだならば40万円も高くは無いかもしれない。それでも40万円の差は大きいし、250万円の20Sならばマツダのことだから大幅値引きで更に安くなって、200万円代の前半、になるかどうかは判らないが、BMW320iの半分程度にはなるだろう。まあ、その分はリセールや耐久性など心配も尽きないが、結局は各自の自己判断、自己責任ということになる。 注記:この試乗記は2012年12月現在の内容です。 |