Toyota Vitz RS 5MT 後編
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ヴィッツRSのエンジンは1.5Lの1NZ−FEで、1,496ccから109ps/6,000rpmと
14.1kg・m/4,400rpmを発生する。 このエンジンは同じヴィッツのコンフォートグレードであるU(160万円)にも装備されるから、特にスポーティなエンジンではなく単なる実用エンジンでる。



MTに乗るぞとばかりに気負っていると、拍子抜けするくらい軽いクラッチを踏んで 、意外とフィーリングが良いしストロークも適度なミッションを1速に入れてクラッチをミートすると、つながりはスムースで軽い踏力と共に 繋がりも穏やかだから、チョッとMTの経験があるドライバーならば操作は簡単だろう。 1速での加速は、1.3Lよりも0.2L、14ps(95→109ps) 1.8kg・m(12.3→14.1kg・m)勝るだけとは思えないほどにトルク感があり、実際に速度計の針の上がり方だって結構速い。CR−Zでも同様だったが、国産車の場合は同じ車種でCVTとMTを比べてみると、 同じクルマとは思えない程にMTの方が楽しい。これは、いかにCVTが性能を殺しているし、面白味の無い特性を持っているかがよ〜く判る。 最近の若者が車に興味が無いことに加えて、CVTの普及は一層のクルマ離れを促進してしまうような気がする。 今回はホンのチョい乗りのために、一般道を精々50km/h程度で走ったくらいだが、発進時に1速で5,000rpm(40km/h)程度まで加速して2速に入れて、そこから4,500rpm、60km/h程度までフルスロットルを踏んでみたが、RSという名前程には速くはないがファミリーカーのレベルよりは上で、MTに乗る価値は充分にありそうだ。 このフル加速時のシフトアップを、結句速い操作でスパっとやってみたが、粘っこかったり引っ掛かりがあって迅速なシフトが出来ないということも無く、このクラスとしては充分に 素早いシフトアップが可能だったから、RSの5MTはフィーリングと共に充分に合格点を与えられる。

MTに乗る楽しみは普通にクラッチをつなげれば回転差による衝撃が殆ど出ないシフトアップ時よりも、ある程度正確に回転数を合わせないと大きなショックが出易いシフトダウン時であり、この回転合わせ、すなわちブリッピングが気持ちよく出来るかどうかが、わざわざMTに乗る価値があるかに繋がる。 結論から言えば、ヴィッツRSの1NZ-FEエンジンをブリッピングするときのレスポンスは、素早いヒールアンドトウには反応が遅くて回転の上昇がついていけなかった。すなわち、シフト中の短い時間にアクセルペダルを一l瞬蹴り飛ばすような操作をしても、エンジンの回転は殆ど上がらな い。 それでも、以前試乗してガッカリしたティーダ1.5のMTよりは大分マシだったから、ある程度間をおいて、少しユックリとアクセルを踏むことで、ある程度は何とかなる。まあ、それを言ってしまうと、大量生産の実用エンジンのMT車は似たような傾向があり、一時期MT乗りに人気があったマツダの先代アクセラ1.5なども、空ぶかし時のアクセルレスポンスは遅かったようだ。

そういう意味では、国産車の場合は本気でMT操作を楽しめるようなクルマというのは、ランエボやインプSTIという走り屋定番のクルマを選ぶしかないのかもしれない。 これが輸入車ではどうだろうか?輸入車で右ハンMTという貴重な存在であるBMW320iセダン 6MT車の場合は、本格的なスポーツエンジン程ではないが、シフトダウンの回転 合わせ程度のブリッピングなら殆ど文句の無い程度のレスポンスがある。 実はBMWのエンジンというのは世間一般で言うところのスポーツエンジンに近いものが極普通のセダンに当たり前に塔載されている。伊達に高いわけではないのは、こういうところで差が付くのだが、言い換えればMTだとエンジンのボロが出易いわけでもある。逆にCVTなんていうのは、事実上4,000rpm以上では使い物にならないようなガラクタエンジンでも、ユーザーにはそれを気付かせないというメリットがある。

ステアリングも1.3L同様に軽い操舵力でクルクルと回る。前述のように今回はホンのチョイ乗りだから、ハンドリングがどうのこうの、ということが出来ないが、ガラ空きの裏 (農)道で素早い車線変更などをやった限りでは、結構スポーティーに反応するし、ロールも少なめだった。 RSは専用のサスペンションチューニングを施しているというから、1.3Lとは異なりある程度の走る楽しみはあるだろう。

  

この結構安定した旋回特性の代償は、硬いサスペンションにある。といっても最近のクルマだから、我慢が出来ないほどには硬くないし、不快感も大したことは無い。 まあ、これは人それぞれで、ふんわかふんわかという乗り心地が好きな人から見れば、こんな硬いのに乗れるかぁ!ということだろう。

そして最後にブレーキはといえば、1.3Lも随分と軽い踏力だったが、RSも殆ど同じくらいに軽くてカックン気味のブレーキだった。なお、RSはヴィッツの 他モデルとは異なり、唯一リアにもディスクブレーキを装着している。 さらに、比べてみるとフロントのローター径やキャリパーも大きいようだ。と、いっても、普通にチョイ乗りした程度では1.3Lのリアドラムと何処が違うのかはハッキリと判る程の違いはない。

今回、ヴィッツRSの試乗を機に、3ペダルのマニュアルミッションを装着した国産Bセグメントハッチバックを調べてみたらば、下表の4種類が現在販売されていた。
 
      Toyota Honda Mazda Mitsubishi
      Vitz 1.5 RS Fit 1.5 RS Demio 1.5 Sport Colt 1.5 Rallyart
Version R
 

型式

  DBA-NCP131 DBA-GE8 DBA-DE5FS CBA-Z27AG

寸法重量乗車定員

全長(m)

3.930 3.915 3.895 3.925

全幅(m)

1.695 1.695 1.695 1.695

全高(m)

1.500 1.525 1.475 1.535

ホイールベース(m)

2.510 2.500 2.490 2.500
 

最小回転半径(m)

  5.6 4.9 4.9 5.4

車両重量(kg)

  1,020 1,050 1,000 1,110

乗車定員(

  5 4

エンジン

エンジン型式

  1NZ-FE L15A ZV-VE 4G15
 

エンジン種類

  I4 DOHC I4 DOHC Turbo

総排気量(cm3)

1,496 1,496 1,498 1,468
 

最高出力(ps/rpm)

109/6,000 120/6,600 113/6,000 163/6,000

最大トルク(kg-m/rpm)

14.1/4,400 14.8/4,300 14.2/4,000 21.4/3,500

トランスミッション

5MT 6MT 5MT 5MT
 

駆動方式

FF
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

9.4 8.8 8.8 6.8

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

18.0 17.4 19.4 15.4

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

トーションビーム

タイヤ寸法

  195/50R16 185/55R16 175/65R14 205/45R16

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/ディスク Vディスク/ドラム Vディスク/ディスク

価格

車両価格

172.0万円 169.8万円 166.2万円 198.5万円
 

備考

  CVT:179万円 CVT:169.8万円 CVT:166.2万円 CVT:198.5万円

ヴィッツ、フィット、デミオの3車は何れも1.5L自然吸気の、言ってみれば”普通のエンジン”にMTを組み合わせ、内装や足回りをスポーティーにしたもので、パワーウェイトレシオは9kg/ps前後で価格は170万円くらいという、言ってみればどれも似たようなスペックを持っている。問題は実用エンジンの吹け上がりがMTのシフト時の回転合わせをし辛くなることだが、これは個人の判断としよう。
これに対してコルトは1.5Lといってもターボで過給されていて、他の3車とは性能がマルで違う。これならホットハッチ的な性能を堪能できるかもしれない。また、日産についてはFMC実施後間もないマーチには現在MT車がラインナップされていないが、スーパーチャージャー塔載モデルが今年中に発売されるという噂もあるので、今後が期待できる。

絶滅寸前の3ペダルMT車だから、何とか生きながらえているだけでも有難い、と思うべきかもしれない。 ディーラーの話によると、RSの引き合いは殆どがMTだそうで、やっぱりMTということが選択の大きな理由になっているようだ。ところで、ヴィッツRSの172万円という価格は、このクラスの欧州製ハッチバックより価格的にも安いが、実際はどちらが得かという疑問もある。そこでアウディA1試乗記では特別編としてA1vsヴィッツRSという企画を 行っているので、その手の話題が好きな読者はそちらも参照してもらおう。特別編なんて気分が悪いものは見ないし、ボッタクリのアウディA1なんかよりヴィッツRSの方が良いに決まっているだろう、というアナタは、自信を持ってヴィッツRSを購入願おう。えっ?170万円も予算がない?
 

注記:この試乗記は2011年2月現在の内容です。