Toyota Vitz 1.3F 後編
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ヴィッツのエンジンには1.0L、1.3L、1.5Lと3種類が用意されている。1.0Lは先日試乗して危険ともいえるパワー不足でボロクソ評価となったパッソ1.0と全く同じエンジンだから、 車両重量がパッソよりも70kgも重いヴィッツ1.0は、恐らくトンでもないパワー不足だろう。 今回試乗した1.3Lの1NR-FEは95ps/6,000rpmと12.3kg・m/4,000rpmを発生する。



フロアから生えたヒョロッとして安っぽいCVTのセレクターレバーをDに入れて走り出した第一印象は、普通に使うならば充分なトルク感とレスポンスでこれは結構イケルかな、という期待と共に、いやいやこれは例の小細工したスロットルレスポンスの成せる技で、それ以上踏んでも大したことは無いのではないか、という気持ちが交差する。 試乗したグレードには回転計が付いて無いので巡航中の回転数などは不明だが、まあ、そんなことはどうでもいいユーザーが乗ると思えば、こちらも何も考えずに流れに乗って走ってみた。そういう用途では、ヴィッツ1.3は特に不満は出ないし、2ヶ月程前に試乗した兄弟車のラクティスに比べて、同じエンジンながら車両重量が90kgも軽いだけあって、ラクティスよりは多少は軽快に走る。
次に例によって20km/hくらいからフル加速をしてみると、CVTは一瞬遅れてからガーっという安っぽいノイズと共にエンジンが全開になった事が判る。そして、その加速感はといえば、まあ1.3Lのコンパクトカーなりだが、それでもラクティスより90kg軽いボディの御利益は確かにある。
 

ヴィッツのステアリングはコンパクトカーらしく軽い操舵力でクルクルと回るが、直進付近からステアリングホイールの外周で10mm程度は更に軽くて、おまけに殆ど反応しない。こう書くと、その昔は常識だったステアリングギアの遊びのように思うかもしれないが、それならあるところで急に重くなって判るが、そうでもない。 そして10mmくらいの位置から何となく操舵力が増えて(といっても基本的には軽いが)車も反応し出す。このため、40〜50km/h程度で巡航中に左右に10mmくらい動かしても車はシッカリと真っ直ぐに走る。そこで今度は 周囲に車がいなくなったのを良い機会とばかりに、2車線を使って急にレーンチェンジしてみたら、このようにある程度の量を急激に回してみる、結構まともに反応するし、クルマの挙動も決して冷や汗をかく程ではないのは意外に好印象だった。
乗り心地は基本的には硬めだが不快な突き上げやポンポンと跳ねるようなことは無く、このクラスのコンパクトカーとしては充分に合格点が与えれえる。それにしても、乗り心地と安定性の両立という面では、最近の国産車も随分と進化したものだ。

  

ヴィッツの兄弟分であるラクティスの試乗では、最初の一踏みでガツンと効くカックンブレーキに驚いたが、基本的に同じシステムであろうヴィッツも同様で、最初に駐車場内を移動して公道に出る前の一時停止のために軽くブレーキペダルを踏んだ瞬間に、思いもよらない急ブレーキになってしまった。ただし、これも慣れれば大きな問題は無かったが、セカンドカー用途での使用等では、乗り換えた瞬間には毎回カックンをやってしまいそうだ。

試乗車はSMART STOP パッケージだったから、アイドリングストップ機能が装着されている。この機能はコンソール後方のスイッチでON/OFF出来るので最初はOFFで走っていたが、クルマの状況が概ね判った時点でONにして、この機能を確かめてみる。交差点の信号待ちで停車すると、少しの間をおいてエンジンが停止した。ブレーキペダルはクリープでの前進と止める程度に緩く踏んでいる状態で少し緩めてみるとエンジンが始動した。 ブレーキを緩めたといっても、クリープで前進することは無い程度に踏んでいる状態だから、この点では合格だ。次に右折車線で対向車の流れが途絶えるのを待っている状態でアイドリングがストップした。この機能のクルマに乗る時に一番不安になるのが、この交差点内での停止時だ。 信号が黄色になりサア出発と思いきや、対向車はシカとして突っ込んでくるので、こちらは発進できない。やっと右折できる状況になったのは、信号が赤に切り替わってから10秒近くも経ってしまっているので、ブレーキペダル上の足を素早くアクセルに踏み代えて、さあ発進。と、思ったのだが、エンジンは始動しない。と、一瞬遅れてセルモーターの音が聞こえ、さらにまた一瞬遅れてエンジンが掛かったようだが、その時点では既にアクセルと踏んでいたために、クルマはピョン、というよりもガーンと飛び出す。そう、使い方によっては、 結構危険が伴うのだった。

この状況を確認するために、直進での信号待ちでわざと素早い発進をしてみたが、やはり同じように飛び出すのを確認した。今度は状況が判っていたから冷静に観察していたら、原因は3つあることが判った。先ずはブレーキペダルを放してから始動を始めるまでのレスポンスが悪く、素早いペダル踏み 代えに対処できないこと。二つ目はエンジンの始動が、セルモーターがスタートしてから始動するまでの時間が遅い事だ。遅いといっても、従来からのクルマと変わりは無いのだが、アイドリングストップ機能のために配慮していない、普通のスターターシステムのような気がする。 3つ目は、アイドリングストップが解除された直後には、スロットルを踏んでいても飛び出しの無いような制御をしていないことが挙げられる。
そんなことを考えながら、多少の渋滞で前車の後ろについている時、ふと気が付くと前車が10mほど前進していた。おっと、いけねぇ。と、反射的にアクセルに踏み代えたが、あれっ、動かない?これまた反射的にアクセルを踏み増ししたころに、行き成りピョンと飛び出して、前車が急に迫ってきた。
ということで、条件によっては危険な状況に陥る駄目システムということになる。 SMART STOP パッケージはベースに対して6万円高いが、こんなものは只でもいらない、というのが正直な気持ちだ。
 

状況によっては危険さえ伴うアイドリングストップ機能を除けば、新型ヴィッツの出来は悪くは無い。ライバルのBセグメント車と比べても、特に際立った面もないが劣ることもない。世間の一部では新型スイフトの評価がバカに高いが、個人的にはそれ程とも思わない。 まあ、言ってしまえばBセグメントコンパクトカーなんていうのは目くそ鼻くそで、どれもソコソコの内容だ。その中では一番古株のホンダフィットが未だ総合力で他車より頭一つ抜き出ている。

という訳で、国産Bセグメントハッチバックの仕様を比較してみたが、こうしてみると、マーチはBセグメントというよりも、少し小さいサブBに近いようだ。価格的には各社ほとんど同じ130万円弱に設定しているから、結構熾烈な販売競争に なっているだろう。
 
      Toyota Nissan Honda Suzuki Mazda
      Vitz 1.3F March 12X Fit 1.3G Swift 1.2XG Demio 13C-V
 

型式

  DBA-NSP130 DBA-K13 DBA-GE6 DBA-ZC72S DBA-DE3FS
寸法重量乗車定員
全長(m) 3.885 3.780 3.900 3.850 3.885
全幅(m) 1.665 1.665 1.695 1.695 1.695
全高(m) 1.500 1.515 1.525 1.510 1.475
ホイールベース(m) 2.510 2.450 2.500 2.430 4.490
  最小回転半径(m)   4.5 4.5 4.7 4.8 4.7
車両重量(kg)   990 950 1,010 970 990
乗車定員(   5
エンジン
エンジン型式   K12B HR12DE L13A K12B ZJ-VEM
  エンジン種類   I4 DOHC I3 DOHC I4 SOHC I4 DOHC
総排気量(cm3) 1,329 1,198 1,339 1,242 1,348
  最高出力(ps/rpm) 95/6,000 79/6,000 99/6,000 91/6,000 90/6,000
最大トルク(kg-m/rpm) 12.3/4,000 10.8/4,400 12.8/4,8000 12.0/4,800 12.2/4,000
トランスミッション CVT
  駆動方式 FF
  パワーウェイトレシオ(kg/ps) 10.4 12.0 10.2 10.7 11.0
燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)
21.0 26.0 24.5 23.0 23.0
サスペンション・タイヤ
サスペンション方式 ストラット
トレーリングリンク
タイヤ寸法 前/後 165/70R14 165/70R14 175/65R14 175/65R15 175/65R14
ブレーキ方式 前/後 Vディスク/ドラム
価格
車両価格 129.0万円 123.0万円 123.0万円 124.4万円 128.5万円
  備考      

 

国産がどれも似たり寄ったりなのに対して、VWポロは大きさこそ国産Bセグメント車と似たようなものだが、シッカリしたボディによる安心感は国産のCセグメントクラスも敵わないくらいで、残念な事だが国産車とは次元が違う。今現在ではポロの在庫は無く、バックオーダーを抱えているということだが、日本でも違いが理解できるユーザーが確実に増えているという事だろう。そのポロも先代までは大したことはなかったから、今度の新型からVWらしさを獲得した訳だが、モデルサイクルの長いコンパクトカーの世界では、国産コンパクトがポロに追いつくのは早くても次のモデルチェンジサイクルである数年後ということになるのだろう。
なんだか、寂しい気がするが・・・・・。
 

注記:この試乗記は2011年1月現在の内容です。