NISSAN MOCO X 後編
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最近は軽自動車でさえ当たり前になったプッシュ式のスタートボタンを押すと、スズキの新型エンジン(R06A)は始動するが、アイドリングは3気筒とは思えないほどに静かで振動も少ない。正面のメーターは速度計のみだが、自光式で明るく見易い。

ダッシュボードから生えたATセレクターをDに入れて、レクサスISと同じ(!)プッシュ/プッシュ式のパーキングブレーキペダルを踏んでリリースし、ブレーキを放すとすと僅かにクリープするのでアクセル をユックリと踏むと、クルマはスムースに前進する。駐車場内を移動している時の20km/h以下の低速では実にトルク感があり、とても軽とは思えない程だ。

モコ(MRワゴン)のエンジンは、従来のK6Aから今回新型のR06Aとなった。新型は排気量は同一ながら、よりロングストローク化され、最高出力と最大トルクは54ps及び6.4kg・mと変わらないが、吸排気VVT(可変バルブタイミング)を採用して、低回転域のトルク特性と燃費が改善されているとうい うことだ。なお、ターボモデルは吸気側のみVVTとなる。

駐車場内をユックリ移動して公道の手前で停止し、クルマの流れが途切れたところで左にフルステアをしながら本線に合流する。 ここでハーフスロットルを踏むとエンジン音が高まり加速体制に入るが、駐車場内で感じた低速時のトルク感は無く、加速が緩慢なのは自然吸気の軽自動車の宿命ではあるが、それでも他のライバルに比べればマシなほうだ。 新型エンジンの良さは、加速中のエンジン音も軽として極めて静かで振動も少ない事だ。したがって従来の軽自動車の常識だった、フルスロットル時の盛大な騒音と振動は、新型モコでは大いに改善されている。 いや軽自動車どころか、トヨタパッソの1.0Lモデルよりも明らかに振動も騒音も少ないし、それでいて加速は勝っている。

モコのステアリングは適度の操舵力で、軽に有りがちな軽すぎるようなこともなく反応も丁度良いから、このクルマの性格からしたらジャストフィットという感じだ。 この辺は流石に軽のトップメーカーであるスズキの製品らしい。そして旋回特性はといえば適度なアンダーステアで、しかも下手なコンパクトカー顔負けのコーナーリン特性で、以前ピノ(旧アルトのニッサン向けOEM)で40km/hでも不安だったコーナーを50km/hで安定して旋回したから、確実に技術は進歩しているようだ。

乗り心地は適度に硬いが軽としてはカチッとしていて、これまた合格点を与えられる。実際に一般道を走っていると、精々50〜60km/h程度の巡航では、何も考えずに普通に走れる。 そのため、音や挙動を注意深く観察していないと、普通に巡航しての感想は殆どない、なんていう事になってしまう。それ程、極々自然で普通の乗り味だった。勿論ブレーキだって、普通の用途には充分に軽い踏力と適度なストロークで、これまた特に感心はしないが文句もない。

と、このように軽としては絶賛したくなる出来の良さだが、お馴染みの4車線の一級国道バイパスで70km/h以上の速い流れに乗ろうとすると、不安定な感覚がチョロッと覗き始めた。 一瞬だけ80km/hまで加速して見たが、これ以上の速度では今までの出来の良さが行き成り崩れて、何やらドライバーに不安感を与えてしまう。ということは、高速道路の走行は結構厳しいだろうと思う。

ところで、スズキといえばタイヤハウス内も薄い塗装のみでアンダーコートなどを行っていないために石跳ねなどで傷が付き、そこからボディが腐食するといわれているが、新型のタイヤハウス内を覗いてみると・・・・やっぱり薄い塗装のみだった。
今やあらゆる面で普通車に迫ったスズキの軽ではあるが、こういう面は未だ昔のままのようだ。そろそろ何とかするベキと思うのだが。

最後に新旧モコのスペックを比較してみる。なお、同じニッサンが販売するスズキよりのOEM供給軽自動車の中で、上級に位置するルークスハイウェースター(スズキ パレットSW)と先代まではピノとして日産にOEM供給されていたが、新型からは供給が途絶えた低価格軽自動車の代表であるアルト、さらにはニッサンのBセグメントハッチバックのマーチも比較してみた。

      Nissan Nissan Nissan Suzuki Nissan
      Moco X (旧)Moco E Rooks
Highwaystar
Alto E March 12X
 

型式

  DBA-MG33S DBA-MG22S DBA-ML21S DBA-HA25S DBA-K13
寸法重量乗車定員
全長(m) 3.395 3.780
全幅(m) 1.475 1.665
全高(m) 1.625 1.620 1.735 1.535 1.515
ホイールベース(m) 2.425 2.360 2.400 2.450
  最小回転半径(m)   4.2 4.1 4.5 4.2 4.5
車両重量(kg)   810 820 930 730 950
乗車定員(   4 5
エンジン
エンジン型式   R06A K06A HR12DE
  エンジン種類   I3 DOHC
総排気量(cm3) 658 1,193
  最高出力(ps/rpm) 54/6,500 79/6,000
最大トルク(kg-m/rpm) 6.4/4,000 6.4/3,500 10.8/4,400
トランスミッション CVT 4AT CVT 4AT CVT
  駆動方式 FF
  パワーウェイトレシオ(kg/ps) 15.0 15.2 17.2 13.5 12.0
燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)
25.5 22.0 22.5 22.5 26.0
サスペンション・タイヤ
サスペンション方式 ストラット
トレーリングリンク トーションビーム
タイヤ寸法 前/後 145/805R13 155/65R13 165/55R14 145/80R13 165/70R14
ブレーキ方式 前/後 ディスク/ドラム Vディスク/ドラム
価格
車両価格 116.3万円 113.7万円 146.5万円 73.3万円 123.0万円
  備考   S:107.9万円   Palette SW G(CVT):
95万円

12S:100万円

こうしてみると、一番低価格のアルトが最も軽量なことから、パワーウェイトレシオが最も良い結果となるのは皮肉なものだ。 それもその筈で、スズキの軽自動車は自然吸気エンジンは全て同一エンジンによる同一スペックだからで、今回モコ(MRワゴン)に新型エンジンが搭載された事で、今後は モデルチェンジを機にこちらのエンジンが塔載されるのだろう。

マーチの場合は、流石にエンジン排気量の大きさが違うから、特にトルクでは大いに勝り、しかも燃費はどの軽自動車よりも良く、車輌価格も同等となれば、あとはランニングコストだけの問題となる。だから、少し前までは誰が考えたってマーチなどの小型車を買うのが得であり、軽を買うユーザーが信じられなかったが、最近の軽の出来の良さを見るにつけ、以前ほど軽自動車を拒否する気は無くなってきた。

もしも、自宅から半径10km/h以内の市町村道しか走らない、所謂下駄代わりの買い物クルマとして、速度も40〜50k/h程度で走るような用途ならば、この際、普通車登録のリッターカー(実際には1.2L程度はあるが)の代わりとしてモコを買うという手も有るかもしれない。 ただし、あくまでも軽自動車だから、たとえリッターカーといえども普通車と比べれば、不幸にして事故に至った時の安全性という面では、大いなる不安はある。そして、間違っても高速道路は走らない事と、一般道でも流れの速い4車線以上のパイパスは避けた方が良いだろう。 それさえ満足するならば、今や軽自動車を買うことに反対はしないし、自分自身、もしもそのような用途で一台必要になった時には、選択肢に含めても良いか、とも 思っている。(←本気かあ?という声が聞こえるが)

注記:この試乗記は2011年3月現在の内容です。