Nissan X-TRAIL 2.0GT (Diesel AT)
※検索エンジン経由でノーフレームの場合はここをクリックしてください。

ニッサンのSUVエクストレイルは国産車には珍しくディーセルエンジン車が設定されていたが、残念ながらMTのみだった。今回のMCを機に待望のATが追加されたので、早速試乗してみた。

ディーゼル搭載車のグレードは20GTと呼ばれAT車の価格は314万円とエクストレイルとしては結構なお値段となる。エクステリアはガソリン車と特に変わらることはなく、エンジン以外は基本的にエクストレイルそのものだ。しかし、主力のガソリン車よりも70万円近い事もあり、インテリアも多少高級感がある。



   

ラッゲージルームが2重構造小物入れの引き出しまでついているのは従来どおり。
注目のエンジンは4気筒2ℓターボディーゼルで173ps/3,750rpm、36.7kgm/2,000rpmを発生する。このトルクはガソリンのNAエンジンならば3.7ℓクラスと同等と なり、ミッションは6MTもしくは6ATが組み合わされる。 ガソリン車はCVTを搭載しているのに対して、ディーゼルのATはトルコン式となる。まあ、このトルクを考えれば、CVTでは無理があるのだろう。

  

インテリアが多少高級に見えるのは、20GTのみに採用されているシート表皮がスエード調のトリコットの質感が良いことが原因のようだ。エクストレイルのガソリンモデルは、人工皮革を使った耐水機能のある表皮を使って、アクティブなスポーツの道具感覚を強調しているが、ディーゼルの20GTは、高級な設定のようだ。
しかし、シート表皮やドアのインナートリムの材質はガソリン車よりも高級といえ、その他の樹脂部分は所詮200万円代前半のSUVだから、よく見れば決して高級な質感ではない。



20GTのエアコンはフルオートタイプが標準で装着されている。なお、エクストレイルでマニュアルエアコン装着車は最廉価グレードの20Sのみで、他は全てフルオートとなる。

  

エンジンの始動はインテリジェントキーを所持して、スタート/ストップボタンを押す・・・・と思って探したがない。そこでステアリングコラムの右側面をみたら、回転式のレバースイッチがあったので右に捻って見たらば見事にエンジンは始動した。 アイドリングの振動は、それ程でも無いから、特に気にしなければ問題は無いが、よーく注意するとボディやステアリングは微かに振動していて、ディーゼルであることを忘れるほどの静けさ、ではない。

X−TRAILの4WDモードには常にフロントのみで走行する2WDモード、自動的に配分が調整されるATTOモード、そして4WDにロックされるLOCKモードの3モードをがあるが、今回は時間の関係もあり2WDモードのみで走行した (写真左下)。

  

最近流行のティプトロタイプのセレクターをDにいれて走り出した瞬間に、車格からは想像もつかないような重厚な雰囲気に一瞬驚きながら、駐車場内をユックリと前進してみる。 今回は裏口から細い一般道に出てみた。ここは大きな傾斜となっているため直角に曲がる際にクルマがローリングするのだが、Xtrail GTはチョッと多めに左右に振られるし、多少のピッチングも感じた。これはまるで20年ほど前に流行った重量級(2.3t級!)の4WDクロスカントリー車的なもので、試乗車の車重が1690kgというのが信じられないような雰囲気をもっている。

一般道で40km/h程度まで普通に加速するには、3.5ℓ級ガソリンエンジン並の大トルクが感じられる。巡航中のエンジンはガソリン並みの静かさだが、少しでもスロットルを踏むと途端にガーっというエンジン音とカタカタというメカ音が聞こえることで、このクルマがディーゼルエンジンを搭載していることが判る。

今度は信号待ちからの発進でフルスロットルを踏んでみる。青信号になったのを確認して静かにしかし、目一杯スロットルペダルを踏むと、ガーっ、カタカタというディーゼル音とともに発進するが、最初の出だしはあまりよくない。しかし、20km/hくらいから言ってみれば1.5リッタークラスの乗用車よりは少しマシな程度の加速をし始める。 この時、回転計を見ると、4,500rpmのレッドソーン手前まで滑らかに周り、実際にはさらに500rpmくらいは余裕で回りそうな雰囲気だった。6ATもキッチリ仕事をしていて、ガソリンエンジンのX−TRAILが搭載しているCVTに比べ ると、やっぱりトルコンATの方が違和感のない加速をすることを再認識する。

SUVらしく高めの視線での前方の眺めは、最近のクルマには珍しくボンネットが完璧に視界に入ることに気が付く。そしてボンネット左先端には、何と最近珍しいキノコのようなサイドアンダーミラーが視界に入る。 背の高いSUVには以前から付いていたが、最初は自主規制だったのが何時の間にか義務化されたようだ。ただし、ディスプレイなどで代用できる場合は不要のために、高級SUVと言われるクルマにはナビと連動して、必要な時には画面がサイドモニターになる装備が付いているものだ。 試乗車にはナビが装着されていたが250GTには、この機能が無い。

30分ほど走ったところで、シートの座り心地を確認したが、ウレタンのへたりで体が沈んだり、既に腰が痛くなったりすることは無かったから、まあ合格というところだ。エクストレイルは兄弟分のキャッシュカイほどでは無いが、欧州でも結構売れている。 欧州向けと国内向けのシートが同じとは断定できないが、国内向けだけに知らん顔してショボイシートを付けているというこは無さそうだ。

操舵特性としては中心付近のレスポンスは決して良くないが、SUVとしては普通のレベルだし、運転していて嫌になるほどトロい事はない。 操舵力は適度でセンタリングも結構強いから、コーナーリング途中の保舵力は適度に必要となる。この感覚は昔のFF的で、アンダーステアも大きめなのだが、単なるアンダーでもなく何となく不自然なフィーリングだ。後ほど調べてみると、 「ALL MODE 4×4−i」という機能があり、舵角、ヨーレート、Gの各センサーによりコーナーリング状態を認識すると、駆動配分を自動的に制御してアンダーステアを打ち消してニュートラルステアにするそうだ。 あの不自然な操舵感は、この機能が原因だったのだろうか?まあ、これも慣れれば違和感は感じなくなるとは思うし、コーナーリング性能自体は背の高いSUVとしては良い方だから、これも良しとしよう。

そんなエレキの助けもあってか、コーナーリング中の安定性は決して悪くはないし、ロールも想像よりは少ないから、多少速いクルマの後について曲がりくねった道を走っても、置いて行かれる事は無さそうだ。 前回の簡易試乗記でボロクソの評価になってしまったウィッシュ20Gと比べてどうかといえば、これはもう雲泥の差で、X−TRAILの勝ち。それにしてもウィッシュの出来の悪さは、やっぱり現代の標準に比べれは落ちこぼれというしかない。

冒頭に述べたように、乗った瞬間から実際の車輌重量以上に重厚感を感じたが、その後の走行で乗り心地も決して悪くないが、路面の細かい凹凸は意外と拾うことと、ザラザラとして舗装の路面ではタイヤノイズも耳に入ってくることに気が付く。 そして前回のマーチと同様に、路面の凹凸が多い路面を低速で走行すると、結構振動が多いのを感じる。まあ、試乗車はマッサラな新車で、ダンパーの当たりが付いていないという状況も考慮したいが、さて、欧州車のように5000kmも走れば見違えるようになるのだろうか?

ブレーキも特に問題はなく、国産車乗用車としての平均的な性能は充分に発揮しそうだ。ディーゼルエンジンの場合はガソリンエンジンのように吸気側で強力な負圧が得られないために、バキュームブースター、要するに負圧でブレーキの踏力を補助する装置のパワー源としてのバキュームはポンプによって作ることになる。これをタンクに蓄えるのだが、頻繁な制動を繰り返すと足りなくなってブレーキが重くなってしまうという懸念もあるが、2.0GTはそういう事も無さそうだった。
 

今回は日本で唯一の国産ディーゼル乗用車ということでライバル不在のため、仕様比較は同じエクストレイルのエンジン違いと、エクストレイルの兄弟であるデュアリスの比較をしてみる。

    @ A B C D
      NISSAN NISSAN NISSAN NISSAN NISSAN
      X-TRAIL
20GT
X-TRAIL
25X
X-TRAIL
20X
DUALIS
20G FOUR
DUALIS
20S
 

車両型式

  LDA-DNT31 CBA-TNT31 DBA-T31 DBA-KNJ10 DBA-KJ10

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.635 4.315

全幅(m)

1.790 1,780

全高(m)

1.700 1,615

ホイールベース(m)

2.630

駆動方式

4WD FF 4WD FF
 

最小回転半径(m)

  5.5 4.3 5.3

車両重量(kg)

  1,690 1,530 1,440 1,520 1,400

乗車定員(

  5
 

エンジン型式

  M9R QR25DE MR20DE

エンジン種類

   I4 DOHC
DIESEL TURBO
I4 DOHC

総排気量(cm3)

1,995 2,488 1,997
 

最高出力(ps/rpm)

173/3,750 170/6,000 137/5,200

最大トルク(kg・m/rpm)

36.7/2,000 23.5/4,400 20.4/4,400

トランスミッション

6AT CVT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

14.2 11.6 14.0 13.2 15.0
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

9.8 9.0 10.5 11.1 10.2

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

マルチリンク

タイヤ寸法

  225/55R18 225/60R17 215/60R17 215/65R16

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/
Vディスク
Vディスク/ディスク Vディスク/ディスク

価格

車両価格(発売時)

314.0万円 260.7万円 224.0万円 251.5万円 209.8万円

備考

Diesel   4WD:245万円 2WD:
230.8万円
 

重い、高い、遅い、煩い、黒い煙を吐くというディーゼルの固定観念で、日本ではディーゼル乗用車は一度は絶滅してしまったが、欧州ではエコの切り札としてディーゼルが発展してきた。そして、3年ほど前に久々のディーゼル乗用車としてメルセデスがEクラスにディーゼルをラインナップしてき て、当サイトでも早速試乗記をアップしているが、話に聞いていたとは言え、小型トラック用の国産ディーゼルの概念とは全く異なる進歩に、唖然としたものだった。その後、08年秋には国産初の欧州タイプのディーゼル乗用車としてエクストレイルのバリエーションが発売されたが、残念ながらMTのみ の設定だった。そういう点からも、今回のATの追加は大いなる意義がある。
しかし、エクストレイル20GTの314万円という価格は、ガソリン2ℓの中間グレード20Sの224万円よりも90万円も高いから、燃費の差だけでは元はとれそうにもない。 これにナビやその他のオプオションをつけると、総額は400万円近くなってしまう。
そして、出来も決して悪いとは言わないが、メルセデスのように抜群のトルク感で、ある面ガソリン車を凌ぐという程でもないし、ディーゼルの欠点である振動と騒音も、完全に克服しているわけでは無さそうだ。そういう面では一体、誰が買うのだろうか? なんて、思ってしまう。

それでも、まあ、これは国内でのディーゼル車の第一歩ということで、発売された事に意義があると考えることにしよう。


注記:この試乗記は2010年8月現在の内容です。