ニッサン ROOX Highway STAR



ニッサンから新発売された軽自動車のROOX(ルークス)はスズキよりパレットのOEM版として供給される。オリジナルとの大きな違いは外観上ではフロントマスクが”ニッサン顔”となっていることで、マルでセレナの子供のようだ。 元来女性向の可愛らしいスタイルの多い軽自動車の中ではスズキパレットは男性が乗っても決して可笑しくない軽自動車だったが、ROOXのセレナ顔は益々男性向けの雰囲気がある。全幅1,475mm×全高1,735mmという寸法でも判るように、ROOXは如何にも背高のっぽの印象を受ける。

今回の試乗車は上級版のハイウェイスター(2WD)というモデルで、これはスズキで言えばパレットSWに相当する。価格は146.5万円にオプションのナビ(20.9万円)が付いていたから、車両価格でも167.4万円という1.5ℓ級の普通車顔負けの価格となる。 これがターボ4WDだと、あと25万円のプラスとなるからナビを付けて約192万円となり、総額は軽く200万円を越してしまう。こうなると価格的には1.8ℓ級となり、本当に軽のメリットがあるのかという疑問も出てくる。 さてルークスのリアゲートを開けると、そこに現れるラッゲージスペースは軽としては決して狭くはないし、いざとなったら後席を畳む事でバンのように使用できるのはミニバンタイプの利点でもある(これは、別にROOXに限らないが)。

内装の良さは軽としては驚異的で、ドアアームレストのパワーウィンドウスイッチのパネルに張られたピアノ調トリムや、内装材の質感(写真下左)、そしてシート表皮 (写真下右)など、 どれを取っても一昔前の軽では考えられない程に高級感がある。しかも、試乗車にはオプションのナビまでついていたから、全幅の狭さ以外はCセグメント(カローラ等) クラス顔負けだ。
ただし、心を冷静にしてダッシュボードの上面を叩いてみればコツコツと硬質樹脂の音がする。流石にここを弾性樹脂等を使用したパッドにするのは予算的に無理があったのだろうか。 でも150万円なのに・・・。



ROOXのリアドアは左右共にスライドドアを採用している。そして、このリアドアを開けて現れるスペースの広さには圧倒される。後席は前後に大きくスライドできて、一番前にしても前席との空間は充分だし、リアシートを最後部まで移動したときの足元の広さは圧巻で 、どんな普通車でも敵わないくらいの空間が確保できる。
運転席に座ってみると高い着座位置から実に見通しが良いし、着座姿勢も椅子に座っている感じで足は膝から下をほぼ垂直に降ろすようなスタイルだから、当然ながらシートバックも立てた位置が本来の運転姿勢となる。ステアリングホイールはコラム底面のレバーを解除すると上下に位置を調整できる。 この時に、もしやと思ってステアリングホイールを前後に引いたり押したりしてみたがビクともしなかったから、調整はチルトのみのようだ。こんな具合だから ROOXのドライビングポジションは、言ってみればスポーツカー的なポジションとは全く反対で、人によってはスポーティーでないと思うかもしれないが、だからといってシートを引いて、バックレストを寝かせたのではアホ丸出しのDQNスタイルになってしまう。 シートの座面も密度の高そうなウレタンにより適度に硬い座面で、普通車を含めた国産車のなかでも決して悪くない。それに膝から下が垂直になるポジションのために、シート座面が多少短くても足が浮くことがないという有利な面もある。狭い全幅から助手席の住人との干渉が心配だが、センターのアームレストで仕切ればパッセンジャーと腕がぶつかる事も無く、 この点でもギリギリでOKという状況だ。





エンジンの始動は多くの国産車と同様にインテリジェントキーを所持して(ブレーキペダルを踏み)スタートボタン (写真上左)を押す方法 で、アイドリングは3気筒らしく振動を感じるが、慣れれば気にならない程度だった。正面のメーターは軽とはいえ自光式で、センターの大径速度計と共に左には小径ではあるが、一丁前に回転計も 付いている。

足踏み式で踏むたびにオン/オフを繰り返すタイプのパーキングブレーキを解除して、ブレーキペダルから足を放すがクリープらしき挙動は殆ど感じない。そこでユックリとアクセルを踏むと意外にスムースにクルマは発進し、駐車場をユックリ進む限りでは結構トルクフルに感じる。一旦停止してクルマの切れ目を見つけ公道に出る時、段差を斜めに超える時の挙動は背が高い割には左右に大きく揺すられる事も無く、軽とはいえ結構マトモなダンパーが付いているようだ。

直線に入ってから加速をしてみると、自然吸気の軽自動車としては決して悲惨ではない加速をする。ルークスは全車に副変速機付CVTを装着しているが、なるほど耳を澄ませて回転計を睨んでいれば低速でガーっというエンジン音と共に加速する時の回転数は4,000rpm程度まで上がるが、速度が乗ったときに一瞬回転数が下がる場面がある。恐らくこのタイミングで副変速機がLoからHiに切り替わったと想像するが、余程気にしていないと判らないほどに自然な挙動を示す。

ところで、 ROOXのATセレクターをみるとP→R→N→D→Lという昔ながらのパターンになっていて、普通車で流行の ティプトロタイプのマニュアルモードは付いていない。Dの手前のLは副変速機をLo側にロックするのだろうか?その副変速機の存在が一番わかりやすいのは20〜30km/hの流れで トロイ前車が左折などでいなくなったときに 10km/hくらいからフルスロットル踏んだ時で、CVTの挙動とは違い低いギヤにシフトダウンされたような、一気に回転数が4,000rpm以上に上がる動作に入った時 で、これは贔屓目に言えば、普通車(それも上級)の5AT的な感覚で、従来の軽にはないものだった。結果的にROOXの加速は軽同士で比べると自然吸気としては速いがターボよりは遅いというところで、これがターボモデルだったら、それこそ軽とは思えない加速感が得られる筈だ。

と、まあ ROOXの加速性能を褒めてはみたが、これはあくまで軽としてのことで、150万円も出せは1.5ℓ級のコンパクトカーが買えるわけで、これらの加速に比べたら所詮は軽ということは忘れてはならない。
 
ROOXのステアリングは適度に軽く中心付近もクイックだが、普通に軽自動車を選ぶようなユーザーには寧ろ 敏感過ぎて慣れないと驚くかもしれない。ところが、中心付近のクイックさに対して、それ以上回したときはそれ程でもない、要するに切り始めだけがクイックに感じるのはパワーステアリングの特性だろうか?まあ、これも慣れれば気にするまでもない程度だ。

軽自動車の乗り心地といえば以前は安っぽくピョンピョン跳ねるという最悪のイメージだったが、最近の軽、とりわけ価格的に高めのモデルはコンパクトカー顔負けの乗り心地 だったりする。このROOXも中々のもので、硬いながらも乗り心地が悪いとは感じられない。ワゴンRと比べると幾分ROOXの方が硬い気もするが、 こちらはハイウェースターというエアロやアルミホイールを標準とするモデルなので、多少はスポーティーに振っていることも考えられる。

走行時の安定性も以前の軽に比べればその進歩に驚くが、数ヶ月前に乗った新型ワゴンRのほうが走行時の安心感では上のような気もする。
ブレーキは静止時にペダルを踏んでみたら、やたらとストロークが長くて所詮は軽だと思ったが、走行中にはそれ程ストロークは伸びなかったから、実用上は問題ないだろう。
 

ROOXは”軽としては”という条件で考えれば実に良く出来たクルマだ。とは言っても所詮は660ccのエンジンだから多くは望めない。 そして、150万円に届こうという価格はノートやフィットの1.5ℓモデルが買えてしまう。 
 
    NISSAN DIHATSU SUZUKI NISSAN HONDA
      ROOX
Highway
STAR
TANTO Custom
X Limited
WAGON R
Stingray T
NOTE 15X FIT 1.5X
 

車両型式

  ML21S L375S MH23S E11 GE8

寸法重量乗車定員

全長(m)

3.395 4.020 3.900

全幅(m)

1.475 1.690 1.695

全高(m)

1.735     1.535 1.525

ホイールベース(m)

2.400 2,490 2.400 2.600 2,500

駆動方式

FF
 

最小回転半径(m)

  4.5 4.5 4.4 4.7 4.9

車両重量(kg)

  930 940 880 1,100 1,070

乗車定員(

  4 5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  K6A K24A L5-VE EJ25 BZB

エンジン種類

  I3 DOHC I3 DOHC Turbo I4 DOHC I4 SOHC

総排気量(cm3)

658 1,498 1,496

最高出力(ps/rpm)

54/6,500 58/7,200 64/6,000 109/6,000 120/6,600

最大トルク(kg・m/rpm)

6.4/3,500 6.6/4,000 9.7/3,000 15.1/4,400 14.8/4,800

トランスミッション

  CVT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

21.5 20.5 21.5 20.0 20.0

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

17.2 16.2 13.8 10.1 8.9

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

トレーリングリンク トーションビーム トレーリングリンク トーションビーム リジット

タイヤ寸法

  165/55R14 155/65R14 155/65R14 175/65R14 175/65R15

ブレーキ方式

前/後 ディスク/ドラム Vディスク/ドラム

価格

車両価格

146.5万円 147.0万円 139.7万円 139.9万円 146.0万円

備考

4WD:
158.4万円
       

表を見れば一目瞭然だが、同じく150万円クラスでも軽自動車と1.5ℓ普通車ではパワーウェイトレシオが劇的に違う。ターボをつければ幾らかマシになるが、それでも全く敵わない。 こうなると上級の軽自動車のメリットは小さい事くらいで、狭い道を多く走るとか、運転に自信が無くてとにかく全幅の狭いクルマが欲しいという場合以外は、如何考えても1.5ℓ普通車の方が得のような気がする。 確かに、東京のど真ん中でも戦災にあわなかった地域では戦前の規格である大八車が通れる道幅、なんていう地域もあるから、全幅1.48m以内の軽自動車でないと 自宅に横付け出来ないというユーザーも居る事だろう。

何をボケた事を言っとるんだ!軽と普通車ではランニングコストが違うだろう!と怒られそうだが、先行き不透明とはいえ、暫定税率である重量税は今後廃止若しくは軽減の方向だし、何より自動車税自体だって排出ガス基準となれば、それこそ軽の恩恵は無くなってしまう。まあ、今すぐに突然軽の恩恵が無くなる事は無いにしても、将来的には厳しい状況にあることは間違いない。いや、そんなことよりも多少のランニングコストアップの代償としての動力性能や制動性能、そして衝突安全性などを考えれば、150万円の軽自動車を買うのは果たしてドンナ物だろうか?勿論結論はユーザー自身が出すしかないが。

注記:この試乗記は2010年2月現在の内容です。