Toyota Passo 1.0 +Hana 後編
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試乗車のエンジン始動は、 写真左のように金属キーをステアリングコラム右側面のキーホールに入れて右に捻るという、オーソドックスな方法による。3気筒エンジンのアイドリングは、明らかに不快な振動がシートを伝って体全体に伝わるし、ドライバーにはステアリングホイールを通じでハッキリと判る程度 の振動を伝えて、まるでディーゼルエンジンの商用車のようだ。この振動は約1.5時間の試乗時間中、信号待ちでは常に気になったから、慣れで解決できる程度を超えている。いくら3気筒エンジンだといっても、もう少し何とかならないのだろうか。同じ3気筒のマーチの振動は明らかにパッソより少な いし、排気量が小さいという有利な面はあるにしても、アルトやワゴンR等の最近の良く出来た軽の3気筒にも負けている。

正面のメータークラスターは大径の速度計とその中に組み込まれた小さな液晶ディスプレイというシンプルな構成だが、濃いグレーのパネルに明るめのグレーの文字という配色はコントラストが低く、日陰などに入ると非常に見に辛い。 左下の写真で上側のライト消灯時を見ると右半分が良く見えないが、状況によっては左半分も丁度写真のようになる。そういえば同じトヨタのノアも同じような状況だったから、こえれはトヨタの低価格車(といってもノアなんて2百数十万円もする)に共通のようだ。



ステアリングコラム左側から生えたシフトレバー(写真右上の↓)は、ターゲットの女性ドライバー向けにお洒落で華奢な・・・・というよりも単に細くてチャチなレバーを使ってDを選択する。踏む度にオン/オフを繰り返す御馴染みのパーキングブレーキをリリースして、ブレーキペダルから足を離すと、クルマはクリープで前進する、といっても極僅かで、 これもノアと同様だ。 地下駐車場でクルマを受け取り地上へ出るための急な上り坂で、試しに止まってからユックリと再発進したら、車は一瞬後退したのもノアと同じだった。急な上り坂の信号待ちで、後ろにいるDQNドライバーの4トントラックが之でもかとピッタリに付けて停車した場合などは注意が必要だ。ただし、ペダルを迅速に踏み代えれば問題は無いが、トロイ運転をすると要注意で、本来パッソのドライバーなんて、どちらかと言えば・・・・・・。

一般道に出て直ぐに信号で停止、次の青信号でスロットル半分くらいで発進するが、加速は極めて緩慢だ。そんなことをしているうちに、前車とはどんどんと離れてしまう。これは マズいぞ、とフルスロットルを踏むとワンテンポ、いやスリーテンポくらい遅れてガーっという盛大なエンジン音とともに、クルマは・・・あれっ、ユックリと加速する。いくら1リッターのエンジンとは言え、660ccの軽よりも3割も排気量が多いのに、一体この動力性能はどうした事か?  こんな状況だから前車の左折などにより流れから離れてしまった時には大変だ。直ぐに床を踏み抜くくらいの覚悟でフルスロットルを踏んでも、ガーガーと煩いばかりで速度は上がらず、先の歩行者用信号の点滅から、黄色信号が近いと思っても 巡航速度に達せずに、結局信号に引っかかってしま う。後ろの車にしてみれば、チンタラ走る前車のお陰で、本来通過できる筈の信号に引っかかってしまうから怒り心頭だろう、と想像するだけで恥ずかしくなってしまう。 そして、パッソの動力性能をライバルのマーチと比べれば、排気量の違いもあるが、これはもうマーチの圧勝だ。そこで、もう一度価格を比較してみたら、パッソとマーチは価格的に完全に重なっているではないか!

この軽トラ並の動力性能は一体どうしたことだろうか。車重910kgに対して69psだからパワーウェイトレシオは13.2kg/psで、これはスズキアルトGの13.5kg/psとほぼ同等だ。しかし、実際 の動力性能はアルトの方が明らかに優れている。しかもアルトの4AT(CVTもあるが)に対してパッソは効率の良い筈のCVTなのだが??

   
 

最悪の動力性能に対して、操舵性能は意外にもそれ程は悪くない。まあ、加速が悪すぎるので、その割にはハンドリングはマシだと思う事もあるが、操舵力は適度に軽いし、中心付近の不感帯もそれ程酷くな く、何よりステアリングを切ればちゃんと反応する。しかし、ステアリングは軽めではあるが、どうも操作していて機械的な摩擦というか擦動抵抗を感じ 、ここでも目一杯コストダウンした出来の悪いリンク系の存在を暗示している。

走行中に右左折のためにウィンカーを出すと、キンコロ・キンコロと煩くてセンスの無い作動音が聞こえて、これが結構気にさわる。更に試乗途中で突然バイクが割り込んできて、とっさにホーンを鳴らしたら,ビーっという驚く程にチンケなホーンの音が聞こえてビックリした。国産車の大部分がみっともない音を出す平型ホーンを採用しているのは認識していたが、パッソのホーンは取り分け情けないというか、恥ずかしい音がする。これは女性向きと考えて採用したのか、単に安物を付けただけなのかは判らない。

乗り心地はスタイルやコンセプトを考えれば意外にも硬めで、挙動自体も安定しているのはメッケものだ。例えば、都内の幹線道路を法定速度(60km/h)で走るのはそれ程苦労は無い。ただし劇遅の加速は、そこ (60km/h)に到達するまでが大変だが・・・・。そういう点では旋回能力も駄目な代表となってしまったウィッシュよるは明らかに勝っているが、ライバルのマーチやスイフトは元よりも、アルトやワゴンRなどの現在の標準的な軽自動車と比べても精々同程度だから、大したことはない。

ブレーキはペダルのリターンスプリングがヤタラ強いのか、最初の遊び部分でも結句重たく、どこから効きだすのかが判らない。そして、突然ガツンと効くし、その位置が毎回異なるから、これは恐らくブレーキペダルのリンク系すらケチったために、摺動抵抗が大きいのだろう。しかも一度効くと、 ペダルを多少緩めてもブレーキは効いたままで、言ってみればこれは本物のカックンブレーキだ。更に少し強いブレーキを必要とする時は、一生懸命踏んでもスーっと滑って、思ったように減速しない。20年位前の国産車なら、こんなブレーキも結構あったが、今時これは無いだろう。
 

今回の試乗車、パッソ1.0 +ハナの価格は129.5万円で、これはマーチ12Xの123万円より寧ろ高いくらいだ。マーチ以外でもフィット1.3G(123万円)、スプラッシュ(123.9万円)など、どれもパッソと比べれは遥かに出来が良い。試乗前には所詮コンパクトカーだから、良いの悪いのといったところで、目くそ鼻くそで、まあ似たようなモノだろう、と思っていたが、結果はパッソの出来の悪さに唖然とすることになった。 世間では新型スイフトの評判がすこぶる良いが、なるほど、パッソしか知らないユーザーがスイフトに試乗したら、出来の良さに驚くのも頷ける。

それにしても、パッソを見る限り、トヨタはどうしてしまったのだろう?と心配になってしまう。 近いうちにヴィッツがFMCされるが、果たしてパッソに比べて出来はどうなのだろうか?新型ヴィッツにも廉価グレードとしてパッソと同じ3気筒1Lエンジンを塔載したモデルもあるようだが、これは気になる。もしも、新型ヴィッツが今回のパッソよりも出来が良かったら、それこそパッソの存在意義が無くなってしまうが・・・・。

注記:この試乗記は2010年11月現在の内容です。