トヨタ ノア 2.0S 後編 (試乗編)
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エンジンを始動するには極普通の金属製で溝のついたキーをステアリングコラム右側面のキーホールに入れて右に捻るという方式で、今時軽自動車だってインテリジェントキーとプッシュボタンだったりするのに、と不思議に思うが、別にこれで不便は無い。ノアのメーターは車輌のセンターにあるから、目がメーターの方に行くまでは慣れが必要で、今回の1時間弱の試乗では最後まで自然に視線が移動してメーターを確認する事は無かった。 個人的にはメーター類はドライバーの真正面にあるべきと思うが、何故にトヨタはこういう方式を採用するのだろうか。本当に良い方式なら全ての車種に採用する筈だが、実際には一部のクルマのみで採用されている。そして、もう一つの問題点は無灯火時にメーターが暗いことで、回転計や速度計の目盛が非常に見辛い。ただし、同じノアでもコンフォートモデルの場合は トヨタ得意の自光式となるので、この問題は無くなる。 アイドリング自体はトヨタ車としては決して静かではないが、特に気になるほどでもない。パーキングブレーキは足踏み式のプッシュ/プッシュ方式で、コストを掛けられないことと、ミニバンのためにウォークスルーの機能を生かすにはレバー式も不可能だから、まあこれしか無い事は理解できる。

  

センタークラスターから斜めに生えたATセレクターはジグザクゲート式でP→R→N→Dというオーソドックスなティプトロタイプで、Dの右にはMもあり、押してアップ、引いてダウンとなっている (写真左)。 このセレクターをDに入れていよいよ発進してみる。しかし、ブレーキを放しても殆どクリープは無く、更にアクセルを踏むと半クラッチで発進するような、滑っているようなタイムラグの後にクルマは発進する。最近のCVTの発進は自然なものが多い中、ノアの場合はチョッと違う。クリープの弱さは勾配のきつい登り坂での発進に、一瞬車が下がることでも体感できた。 スタート時の半クラによる一瞬の遅れを過ぎれば、2Lのファミリーミニバンとは思えないほど力強いトルク感でクルマが前進する。う〜ん、これは中々良いではないか。いや、待てよ、騙されてはいけない。国産車、特にトヨタ車はアクセルの特性を弄ってスタート時のトルク感を助長しているが、それ以上踏んでも大したことがなくてガッカリするのが一般的だ。 そこで、20km/h位まで速度が落ちた後に、フルスロットルを踏んでみると、結構盛大なエンジン音(しかも、安っぽい)と共に、想像以上の加速を始めた。回転計は速度計の上昇に比例して上がって行き、気が付いたら結構な速度まで達していた。 その加速は感覚としてはBMW320i程度だったから、決して速くは無いがファミリーミニバンとしては立派なものだし、CVTの違和感も気にならない。先日試乗した新型スイフト(ご丁寧も副変速機付き!)に比べれば、CVTの出来は比較にならないほどノアが上だ。 まあ、1.2LのBセグメントミニバンとはいえ2.0LのCセグメントの差というか、100万円の価格差というべきか。 それにトヨタの場合はATでは世界的に定評のあるアイシンAWを傘下に持つという強みがあるのに対して、スイフトはニッサン系のジヤトコから供給してもらうという立場の違いも大いに効いていると想う。

一般道に出る時にフルステアで左に切りながら段差を超えると、クルマ自体は多少左右に振られるが一度でキッチリと止まった。試乗車は走行距離1,000kmの降ろしたてだったから、ダンパーもキッチリと仕事をしているのだろう。 欧州の高級車の場合は新車のダンパーは当たりが付いていなくてガチガチなのが、1万キロ、2万キロと走行距離が伸びるに従ってしなやかになってくるが、国産車(の安物)のダンパーは新車時が一番キチッとしていて、5万キロも走ればスカスカなんていうのが多かったりする。 最近乗った同じトヨタのハイトワゴンというか低床ミニバンというか、まあそのウィッシュの操舵性と安定性が惨憺たる結果だったから、同じトヨタでその兄弟分みたいな位置 付けで、更にはウィッシュよりも重心の高いノアには全く期待はしていなかった。さて、ウィッシュ以上に駄目駄目でボロクソ評価になるのだろうか?

  

低速での操舵力はネエちゃん・オバちゃん向けコンパクトーカー並に軽い。まあ、ファミリー向けだから誰でも運転するので、コンパクトカー感覚の方が好ましいのかもしれないし、この軽さは決して悪いフィーリングではない。走り出してみると、予想を反して結構安定しているのに驚く。 ウィッシュでは60km/h走行でも緊張した都内の幹線道路の速めの流れでも、充分に流れに乗っていられる。軽いステアリングも決してダルくはないし、広い道で車線幅を 一杯に使って左右に軽く振ってみたが、結構安定していた。あれれ?重心の低いはずのウィッシュよりも余程出来が良いのは何故なんだ。 ウィッシュでは制限速度(60km/h)では恐怖を感じる緩いカーブも、ノアなら問題なくクリアできるし、ウィッシュでは40km/hでもヤバかったきつめのコーナーも50km/hなら何とかクリアできた。コーナーリング中のロールも、高い重心を考慮すれば少ない方で、ロール自体はウィッシュと比べて特に少ないとはいえないが、クルマ自体の挙動の安心感ではノアが完璧に上回る。

 

 

ブレーキペダルは初期の遊びストロークは大きめだが、それを過ぎてからは適度の踏力と、これまた適度の効き味で、決して高級ではないこのクラスの、しかもミニバンとしては充分合格点が与えられる。

さて、ここで同じクラスのミニバンであるニッサンセレナとホンダステップワゴンの諸元を比較してみることにしよう。 なお、セレナは11月末に発売されたばかりの新型車である。

 
    TOYOTA TOYOTA TOYOTA NISSAN HONDA
      NOAH S NOAH X WISH 20G Serena 20X Step wagon
2.0L
 

車両型式

  DBA-ZRR70W DBA-ZRR70G DBA-ZGE21G DBA-C26 DBA-RK1

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.635 4.595 4.590 4.730 4.690

全幅(m)

1.720 1.695 1.695 1.795 1.695

全高(m)

1.850 1.590 1.840 1.815

ホイールベース(m)

2.825 2.750 2.850 2.855

駆動方式

FF
 

最小回転半径(m)

  5.5 5.3 5.2 5.3

車両重量(kg)

  1,590 1,580 1,380 1,510 1,600

乗車定員(

  8 7 8

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  3ZR-FAE MR20DD R20A

エンジン種類

  I4 DOHC I4 SOHC

総排気量(cm3)

1,986 1,997 1,997
 

最高出力(ps/rpm)

158/6,200 147/5,600 150/6,200

最大トルク(kg・m/rpm)

20.0/4,400 21.4/4,400 19.7/4,200

トランスミッション

  CVT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

14.4 14.4 15.2 15.4 14.2
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

10.1 10.0 8.7 10.3 10.7

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

トーションビーム

タイヤ寸法

前/後 205/60R16 195/65R15 195/65R15

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/ディスク Vディスク/ドラム Vディスク/ディスク

価格

車両価格

230.0万円 209.0万円 226.0万円 233.1万円 240.8万円

備考

      11月新発売  

今回試乗した”S”というグレードは、アルミホイールと16インチタイヤ(205/60R16)や4輪ディスクブレーキ、そしてシート表皮は欧州調の平織りというモデルだった。それに対して旧来のトヨタ的なグレードである”X”を初めとして 、その他のグレードの場合はリアがドラムブレーキであり、シートは如何にもトヨタ臭いトリコットだった。 と、言う事はSの安定感などはそれなりの味付けをしているからであり、平織りファブリックが安っぽいと感じるユーザーにはリアブレーキなんてドラムで充分だというトヨタの思想ではないか。となると、他のモデルの走りはウィッシュ並ということも有り得るかもしれない。

そういう事を考えると、今回のノアは意外にもマトモな走りをしていたのは、Sというグレードだからである可能性も出てきた。 流石はトヨタ!日本のB層のバカさ加減を良く知っているし、また一部には走りを重視するが家庭の事情で仕方なくミニバンを買う層がいることもお見通しで、そういうユーザーの為にSというグレードを用意している、という想像も強ち間違いでは無さそうだ。 ミニバンを買うなら、目的とするグレードに試乗して、目的にあったグレードを確定しないと、ただノアということで選ぶと酷い目にあることは間違いない。ご用心!
そういう意味では1.8Lのアリオンに試乗して結果が良かったので少しパワーの少ない1.5Lで充分と思って、1.5には試乗せずに買ってみたら、あっと驚くグニャグニャステアリングで泣く泣く速攻で売却したという話もある。

という訳で前回のウィッシュのボロクソ結果から、今回は更に惨憺たる結果を期待していたセレブの皆様のご期待に沿えずに誠に申し訳ない気持ちで一杯だが、でも、まあ感の良い常連さんならば、試乗編に突入する前に特に警告も無かった事から、ボロクソ評価ではない事を察していただろう。
ところで、今回の評価が結構良かったからといって、庶民のミニバンが 同じく背の高いカイエンやX5のような安定感と高速性能を持っている訳ではなく、あくまでファミリーミニバンということを考えた割にはマトモに走ると言う事なので、 この点は誤解なきように。

注記:この試乗記は2010年11月現在の内容です。