Nissan New March
※検索エンジン経由でノーフレームの場合はここをクリックしてください。

初代から国産車としては異例に長いライフサイクルを実施していた日産のコンパクトカーであるマーチがFMCにより4代目となった。今回からマーチは全てタイのニッサンで製造される。 エクステリアは先代K12の可愛らしいスタイルから一転してオーソドックスなコンパクトカーとなったが、人によっては先代の可愛らしさが捨てがたいという人もいるだろう。

 

バリエーションはベースグレードの12S(999,600円)、中心となる12X(1,229,550円)、そして今回主に紹介した上級モデルの12G(1,468,350)円で、ベースモデルに対する大きな違いは以下のようになる。

12X

12Sに対して主な違いは、 エクステリアはフロントグリルメッキ加飾、カラードアハンドル、UVカットグラス、電動格納式ドアミラーが追加。そして、機構的にはインテリジェン ト・キー +プッシュ・エンジンスターター、アイドリングストップ、エンジン・イモビライザーなどが追加されている。

12G
12Xに対して更に、プライバシーガラス、オートライト、メーター類とエアコンおよびシート関係などが異なる。

今回の試乗車は最上級グレードの12Gで、以下の写真も特記なき場合は12Gを使用している。



ボンネットを開けてみるとタイ製というイメージからは意外にも出来が良い、というか小ぎれいに出来てはいる。しかし、よく見れば鉄板の繋ぎ目にはやけに目立つシール材の跡はあるし、ウィンドウォッシャーのチューブはブランと垂れ下がっているなど、何となく不安になる要素もある(写真右上)。

 

内装を見回すと、当然ながら安っぽいがタイ生産というイメージからチリ(隙間)がずれていたり、段差が付いているということはなく、出来自体は悪くない。ダッシュボードを指でコンコンと叩いてみれば、コチコチの単なる樹脂成形であり、パッドらしき機能は無いようだ。まあ、このクラスならこんなものだと割り切るしかない。


シート表皮は安物だけあってサイドが粗い折り目のファブリックで座面は幾何学模様の入った生地を使用しているが、言ってみれば安物欧州車的な実用性を感じるもので、個人的には嫌いではない。いや、むしろ毛足の短い変なベロアなんかよりも余程好感が持てる。シートは長さ方向に短く太もも を充分にサポートしきれないが、適度に硬い欧州車的な座わり心地の助けもあって、国産コンパクトカーとしては良い部類になる。 この分野でも最も評判の良いフィットと比べても特に劣らない気がする。



12Gのフロントシートには運転 席側にアームレストが付いているが、小さくて使いづらく、まああっても邪魔にはならない(畳めるから)、程度のものだ。

前述のようにエアコンは12Gのみフルオートで他はマニュアルとなる。

新型マーチはオーディオレスで工場オプションはなく、全てディーラーオプションとなる。試乗車(12G)も展示車(12X)もナビが装着されていて、一般的なFM+CDというユニットは見ることができなかった。 オジサンからみれば、100万円程度のクルマに20万以上もするナビを付けるなんて信じられないが、若者からすればナビの無い車なんて信じられないだろうから、お互い様だ。
 

ATセレクターをDに入れてユックリ走り出しと、スムースに発進する。少しスロットルを踏んでみると、1.2リッターとは思えないトルク感を感じるのは最近の国産車の非線形スロットル特性の成せる 業だが、その業にも成熟が見られて結構自然なフィーリングだ。例によって4車線の国道バイパスを流れに乗って走ってみると、軽自動車の倍近い排気量は伊達ではなく、普通に走る分には充分の性能だ。そして、この程度の 負荷では3気筒とはいえ、特に妙なエンジン音などは聞こえない。 そこでフルスロットルを試みると、エンジン音は突然にやかましくなりビーという、3気筒エンジンらしい安っぽい騒音を撒き散らし、その割には大した加速はしない。 要するに960kgのボディを1.2リッター79psエンジンで引っ張る、12.2kg/psなりの加速ということになる。
CVTの特性は一時期のように、スロットルを踏んでも徹頭徹尾一定回転を保つような、精神衛生上よろしくないような動作ではなく、踏めばそれなりに回転も上がるようになっているから、特に気にしなければトルコンATの設定が欲しくなる事も無い。 試乗したグレード(G)には回転計がついているが、MTモードがあるわけではないCVTでは殆ど役には立たないが、単なるアクセサリーと思えば邪魔でもない。

先代マーチ(K12)のステアリングは異常と言ってもいい程に軽かった。今回はそれ程でもないが、世間の標準からすれば充分に軽い。反応自体は適度にクイックで、妙な遅れなども特に感じないから、低価格のFF車としては上等だろう。結構出来の良い操舵特性に気を良くして、何時もニッサン車の試乗で試すコーナーを少し速め の速度で進入してみたが、マーチの挙動は実に安定しているし、特性の弱いアンダーでFF臭さもない立派なものだ。 これは、このクラスの国産車としては定評のあるフィットよりも勝るかもしれないし、Bセグメントのベンチマーク的存在のVWポロと比べても見劣りしない程に出来が良い。 これならば、一般的なマーチの用途としては充分過ぎるくらいで、アクティブセーフティという面では立派に評価できる。先日試乗してボロクソの評価となったトヨタ・ウィッシュとは月とスッポンくらいに違う。

新型マーチは乗り心地でも大いに改善の跡がみられる。全体的に硬めではあるがフラットでしなやかさすら感じるのには驚いた。特に多少の継ぎ目や、マンホールなどでも、40〜60km/h程度の走行では、軽いショックと共に上手に吸収する。何やら良く出来た欧州車、それもCセグ メント以上のような感覚で、とにかく意外だった。ところが、狭い裏道に入って、相当に凸凹な路面を低速(20〜30km/h)で通過すると、今までの乗り心地の良さはとは全く 異なり、車体全体が大きく揺すられて、乗員の胃に響くような振動を発生する。この点ではBセグメント丸出しとなってしまう。

マーチのタイヤは165/70R14でアルミホイールの設定はオプションすら無いが、このクラスならば社外品のアルミホイールにタイヤまで付けて数万円で揃うから勝手にやってくれ、ということだろうか。あっ、数万円というのは4本の値段 (しかもタイヤ付き)ですからねっ!

ブレーキは適度のストロークと踏力で、実用車としては何の不満もない。ブレーキ自体が日本製なのかタイ製なのかは判らないが、既にタイには主力の日系部品メーカー の子会社があるから、基本的には国内と同等の性能の部品が生産されているので、心配する事は無い。 そういう意味では中国も同様で、日本の主力部品メーカーの殆どが中国に合弁で現地法人を持ち、国内と基本的に同じ部品を製造している。

 今回のマーチには中間グレードのX以上にアイドリングストップ機能が装着されている。そこで早速信号待ちで停止してみると、なるほど停止から一瞬の間を空けてエンジンが停止した。所期のデミオではクリープしない程度に最小限でブレーキペダルを踏んだ程度では解除されてエンジンが回り出したが、マーチの場合は極軽くブレーキペダルに足を載せるだけでもエンジンは停止している。信号が青になってブレーキペダルを放すと、多少のタイムラグがあってからセルモーターの回るのがはっきり認識できてエンジンが再始動し、クルマは走り出す。この間、ホンの一瞬ではあるが発進すべきタイミングより少し遅れる訳で、これが実に不安になる。特に、右折車線で勢いよく突っ走ってくる対向車の流れが切れた時に、さあ右折、という気持ちなのに、ここで遅れが出るのは心理的よくない。この点ではハイブリッド車であるインサイトなどのように極々自然に発進して、どこでエンジンが掛かったか判らないような、絶妙なタイミングに比べると、見劣りしてしまう。
まあ、気になるようならばオフスイッチ(左写真の左下のスイッチ)もあるから、使わなければいいのだが・・・・・。
 

マーチのライバルといえば真っ先に思い浮かぶのがフィットだろう。フィットは今や長年の販売第一位だったカローラを抜き、押しも押されもしない国産ベストセラーの地位を確保している。マーチと比べると排気量では140cc多いが、これが小排気量クラスの場合には大いに効いてくる。
 
    @ A B C D
      NISSAN HONDA SUZUKI DAIHATSU VOLKSWAGEN
      MARCH 12G FIT 1.3L SPLASH TANTO EXE
CUSTOM RS
POLO TSI
COMFORLINE
 

車両型式

  DBA-K13 DBA-GE6 DBA-XB32S DBA-L455S 955141

寸法重量乗車定員

全長(m)

3.780 3.900 3.715 3.395 3.995

全幅(m)

1.665 1.695 1.680 1,475 1.685

全高(m)

1.515 1.525 1.590 1,730 1.475

ホイールベース(m)

2.450 2.500 2.360 2.490 2.470

駆動方式

FF
 

最小回転半径(m)

  4.5 4.7 5.2 4.5 4.9

車両重量(kg)

  960 1,030 1,050 920 1,100

乗車定員(

  5 4 5
 

エンジン型式

  HR12DE L13A K12B KF-DET CBZ

エンジン種類

   I3 DOHC I4 SOHC I4 DOHC I3 DOHC
TURBO
I4 DOHC
TURBO

総排気量(cm3)

1,198 1,339 1,242 658 1,197
 

最高出力(ps/rpm)

79/6,000 100/6,000 88/5,600 64/6,000 105/5,000

最大トルク(kg・m/rpm)

10.8/4,4800 13.0/4,800 11.9/4,400 10.5/3,000 17.8/4,100

トランスミッション

CVT 7DSG
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

26.0 21.5 18.6 19.0 20.0
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

12.2 10.3 11.9 14.4 10.5

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

トーションビーム

タイヤ寸法

前/後 165/70R14 175/65R14 185/60R15 165/55R15 185/60R15

ブレーキ方式

前/後 Vディスク/ドラム Vディスク/ディスク

価格

車両価格(発売時)

146.9万円 146.0万円 123.9万円 157.0万円 213.0万円

備考

S:99.9万円
X:122.9万円
G:119.7万円   X:121万円  

スプラッシュは皆さんご存知のようにハンガリーのマジャールスズキで生産され、オペルにOEM供給もされていて、欧州ではオペルアギーラとう名称でも販売されている正真正銘の欧州車だが、ホイールベースがマーチより90mmも短いことからも判るとおり、本来のカテゴリーはサブBと呼ばれる少し小さいクルマに分類される場合もある。スプラッシュを絶賛する人々もいるが、スプラッシュは言ってみれば安物の欧州車だから、欧州車の長所と共に短所も持っている。最大の課題は硬い乗り心地で、マーチのしなやかさを求めるユーザーには不快で我慢が出来ない可能性もある。要するに問答無用でスプラッシュが勝っているうような事はないという事だ。

ダイハツ タントエグゼは高性能の軽自動車の代表として比べてみたもので、スズキの相当車種でも同様だが、価格はマーチと同等以上だし燃費もマーチに劣る。動力性能だってターボを持ってしても普通車のマーチに は敵わないし、はっきり言って優遇税制以外には良いところが見当たらない。まあ、それでも買うのは個人の自由だが・・・・。

そして最後はBセグメントのお手本のようなVW ポロを取り上げてみた。価格的に高いのが難点だが、輸入車というハンディと元々原価が高いことなどもあり、個人的には価値は充分にあると思っているが、人によっては高いだけのボッタクリとも思うわけで、まあそう思うのなら買わなければいいだけなのだが、何故かポロのオーナーやオーナー予備軍にケチを付けたがる輩が多いようだ。まあ、この件は何年たっても平行線だから、今更言うのもバカバカしいが・・・・・。

結論としては、上の表の@〜Bならば、どれを選んでも不満はでないだろうし、Dなら文句はないが価格が高いから、それに納得できる事と予算が出せる事が必要となる。そしてCは、まあご自由に。
以上のA〜Dの試乗記へのリンクを下に貼っておくが、タントだけは表にあるターボではなくNAモデルとなる。

     

追記:発売後2週間での新型マーチの販売台数は1万台を突破したという。今回、ちょっとベタ褒めに近かったが、それなりの良さはユーザーも認めていたということか。
注記:この試乗記は2010年7月現在の内容です。