スズキ スプラッシュ
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正直に告白すると、スズキというメーカーは個人的には決して好きではなかった。 軽自動車が主なのでどうしてもローコストな設計を余儀なくされるのは理解できるが、それにしてもクルマの基本構造や装備が何とも安全意識に欠けているように思えて、正に安かろう悪かろうの典型的メーカーと思っていた。 しかし、順調な業績とともに主力のワゴンRは時と共に改良され、いまやクルマとしての基本性能や安全性はコンパクトカーと比べてもそれ程は引けを取らないまでになったのは、前回新型ワゴンRを試乗してみて確認済みだ。 そして、そのスズキから欧州向けモデルであるスプラッシュが新たに国内発売された。スプラッシュはハンガリーにあるスズキの現地法人であるマジャールスズキで生産されて いる。このクルマはGMとの共同開発で 同グループのオペルブランドとしても欧州で販売されている。

スタイルは成るほど欧州生まれと納得でき、日本車とは全く異なる雰囲気がある。特にリアのデザインは好き嫌いは別としても個性的であることは間違いない。 スプラッシュは単一グレードで価格は123.9万円だから、輸入車と思えば買い得でもある。

 

では、その内容は?
先ずは、この手のBセグメントハッチバック車のライバルとのスペックを比較してみよう。

    SUZUKI SUZUKI VW POLO MAZDA DEMIO HONDA FIT

Splash Swift 1.2XG 1.4 Trendline 13C-V 1.3L

寸法重量乗車定員

全長(m)

3.715 3.755 3.915 3.885 3.900

全幅(m)

  1.680 1.690 1.665 1.695 1.695

全高(m)

1.590 1.510 1.480 1.475 1.525

ホイールベース(m)

2.360 3.390 2.470 2.490 2.500

最小回転半径(m)

5.2 5.2 4.9 4.7 4.7

車両重量(kg)

1,050 1,000 1,110 990 1,030

乗車定員(

  5 5 5 5 5

エンジン・トランスミッション

 

エンジン形式

直4 DOHC 直4 DOHC 直4 DOHC 直4 DOHC 直4 DOHC

総排気量(cm3)

1,242 1,242 1,389 1,348 1,339

最高出力(ps/rpm)

88/5,600 90/6,000 80/5,000 90/6,000 100/6,000

最大トルク(kg・m/rpm)

11.9/4,400 12.0/4,400 13.5/3,800 12.2/4,000 13.0/4,800

燃料消費率(km/L)※

18.6 20.5 13.2 23.0 21.5

トランスミッション

CVT CVT 6AT CVT CVT

駆動方式> 駆動方式

FF FF FF FF FF

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット ストラット ストラット ストラット ストラット

トーションビーム トーションビーム トーションビーム トーションビーム 車軸式

ブレーキ

ベンチレーテッド
ディスク
ベンチレーテッド
ディスク
ベンチレーテッド
ディスク
ベンチレーテット
゙ディスク
ベンチレーテッドディスク

ドラム ディスク ディスク ドラム ドラム

タイヤ寸法

185/60R15 185/60R15 185/60R14 175/70R14 165/65R15

価格・その他

   

車両価格

1,239,000 1,197,000 1,690,000 1,457,000 1,344,000

サイドエアバック

横滑り防止装置

※燃料消費率は10/15モードによる ●:標準装備 ○:オプション

寸法的にはスプラッシュが全長、ホイールベースともライバルより多少短く全幅も少し狭く、逆に全高は65〜100mm高いので見かけは小さく背が高くて、マルで軽のハイトワゴン のようにも見える。エンジンはスイフトと共通だが、性能はスイフトよりも僅かに控えめで、その割には10/15燃費では逆に劣るのはどうした訳だろうか?

 

ボンネットを開けて見ると欧州規格のバッテリーが目に入る。このバッテリーは日本では割高なのだが、スプラッシュの場合はスズキの純正品として適価で提供されるとは思うが。

スプラッシュの内装色はボディの塗装色により組み合わせが決まる。試乗したターコイズメタリックの場合はターコイズインテリアという黒を基調として水色のツートーンとなる。ちなみに他にブラックとブルーがあるが、試乗車の内装色が最もスプラッシュらしかった。シートの表皮は欧州車(の廉価グレード)でお馴染みの織り目の粗いファブリックで、更に座り心地も座面が平らで コチコチに硬いという全くの欧州調だから、この手の欧州製コンパクトカーオーナーなら全く違和感が無いだろう。
内装の質感は、コレマタ安物欧州車的なチャチさと実用性の高さが身に染みるが、個人的には実に好ましく思う。そして、硬くてマッ平らなリアシートには3人分の立派なヘッドレストと3点式シートベルトが装着されているのも、日本の安 グルマには普通は有り得ないことだ。

今回は前回のワゴンRとは別のディーラーでの試乗だったが、何と前回同様に試乗車にも関らずシートにはビニールカバーが掛かっていて、本当の座り心地は判らなかった。まあ、これはスズキディーラーの方針というか、整備工場上がりの軽自動車屋の感覚ということで納得するしかない。同じ国産車のディーラーでもレクサスとは対極をなすのは当然だが、それにしても随分違うものだ。確かに一流ホテルと木賃宿(最近は見なくなったが)以上に違うようだ。



運転席正面には大径の速度計のみで、その円周上に各種の表示ランプが並んでいる。 回転計なんていう不要なものは付いていないのがキッパリとしていて、このクルマのキャラクターを表している。確かに加速中にエンジン回転がほぼ一定なCVT車に回転計を付ける意味が無いのは事実だ。 ところで、正面の速度計を見るとフルスケールは何と200km/hとなっているのも欧州生産らしい。もしかして速度リミッターも180km/hではないかもしれない?そして、センターコンソールにはクロームシルバーの縁取りがあるが、これもまた欧州テイストを強調しているようだ。
なお、写真の試乗車にはディーラーオプションのナビが装着されていたが、スプラッシュはオーディオレスで2DINのスペースにはオーナーが好みのオーディオを装着する事になる。



エアコンはマニュアル式でその操作パネルは、これまたチャチだが、このクルマのポリシーにはピッタリだ。エンジンはステアリングコラムの右側にある溝にキーを挿し込んでから、キー自体を捻るというオーソドックスな方法で、そういえばチョッと前まではこれが当たり前だった筈なのに、ここ数年でインテリジェントキーが当たり前になっ てしまった。ステアリングの調整は上下のみ可能で、ステアリングコラム 底面のレバーを解除して行うのだが、そのレバーはプラスチック製で力を入れればボキッといきそうな、何ともチャチなものだった。 ブレーキを踏みながらATのセレクトレバーを見れば、ジグザクゲートは何やらレバーを手前に引くと同時に左に離れていく。普通の常識ならば自分の方に引き寄せるように右に引くの本来なのだが、これは左ハンドル仕様をそのまま持ってきたのだろう。



ATセレクターをDに入れてユックリと走り始めれば、スイフトと共通の1.2ℓエンジンとCVTの組み合わせは最近の小型車そのもので、動力性能も必要充分だが決して速くはない。 それでも最新ライバルのフィット、デミオなどの1.2〜1.3ℓ級の国産コンパクトカーと比べてそれほど劣ることはないが、スプラッシュの1.2ℓに対してライバル は1.3ℓという排気量でのハンディはある。スプラッシュの乗り心地はハッキリ言って硬い。舗装の荒れた路面では常に突け上げを感じるし、平坦な路面でもちょっとした舗装の継ぎ目ではカンッと一瞬の 突き上げがあるが、この手の欧州車的な乗り心地に慣れたユーザーなら特に不満も出ない筈だ。しかし一般的な国産車ユーザーにはどうだろうか?程度としては昔のVW的でもあり、トヨタがイギリス工場から輸入したアヴェンシスや硬すぎる足が唯一の不満だったVWパサートV6 と似ているが、それら程には硬くない。
コレだけ欧州テイスト満点だと、もしやと期待しながらホーンボタンを押して見ると・・・・・・国産車丸出しのビーッというチンケな音が聞こえたのにはガッカリ。ここはひとつファーッという渦巻きホーンを奢ってもらいたいところだ った。

スプラッシュは単一グレードで全て185/60R15タイヤにアルミホイールを履いている。 ステアリングは走行中は意外と重めだが、ドッシリしているとは言い難く、フィーリングもあまり良くはない。最近のFF車はVWゴルフに代表されるように、FFと聞かされなければ判らない程に自然な操舵感を持つクルマが国産でも多くなってきたが、スプラッシュはそれ程には良くない。FFらしさを多少持っているから、欧州製と いうことで過度な期待をするとガッカリするかもしれない。と、いっても決して悪くはないのだが、最新のデミオやフィットが出来が良いだけに、直接比べると辛いものがある。ただし、硬い足からも想像されるように、安定性自体は決して悪くはないし、コーナーでも結構安定してるから、実用用途には十分 だろう。

ブレーキも適度な剛性感と踏力で、そんなに悪くは無いから、これも実用としては充分だ。スプラッシュのブレーキは欧州生産と聞いて想像する4輪ディスクではないが、逆に低価格車はリアがドラムを使用したほうが剛性感も効きも有利になるから、この点でもスプラッシュは正解かもしれない。

個人的には現在の軽自動車は近い将来無くなると思っている。日本独自の特殊な規格はグローバルな展開からすれば極めて変態的なクルマを作る必要があり、結果的には少量生産となって割高なクルマになってしまう。何言ってるの、ワゴンRなんて月に2万台も売れているじゃないか・・・と、言いたいだろうが、今のクルマというのはグローバル展開して、共通部品により月に数万台、いや10万台 分なんていうレベルで世界中の工場で生産するような時代になりつつあるのだから、月に2万台と言っても国内専用の変態クルマを作っているような時代ではないのだ。それが証拠に、スプラッシュの130万円という価格はチョット高級装備の軽自動車と同等価格だ。
スプラッシュに乗った結論は、紛れも無く欧州車、それも悪く言えば安物の欧州車そのものだった。彼の地ではオペルブランドで販売されるようだが、日本でもオペルのマークでも付ければ有りがたがって250万円くらい出すユーザーもいるかもしれない。 と思ったらオペルは既に日本から撤退していた。そりゃそうだろう。オペルなんて言ってみれば安物ブランド。スズキからOEM供給されているのをみても、メーカーの格としてはそんなものだ。 そういえば、以前300万円で売っていたオペルザフィーラというミニバンがトラヴィックというスバルブランドで発売されたら100万円も安くて、しかも排気量も より大きいというのでオペルのボッタクリがバレれしまい、結果的には日本からの撤退と相成ってしまった。

その昔は男性用装飾品の代表として高級シガーライターというのがあった。ダンヒルとかデュポンなどの金や銀製の重くて立派なライターでシュポッと点けてバチンと蓋を閉じて消す。これが男のステータスだったのだが、今ではライターといえば使い捨てで、銀製高級ライターなんて使っている人はまず見かけない。また、我々が学生時代には高級オーディオマニアというのが結構メジャーな存在で、当時の学生は夏休みにアルバイトに励み、その収入で高価なアンプやスピーカーを買い揃えたものだった。ところが、今ではオーディオマニアなんていうのは極々マイナーな存在になってしまった。何しろ当時の一般的なオーディオ機器というのは、低音はボコボコで高温はシャリシャリと典型的な質の悪い音が主流だった。その大きな理由は日本人全体の志向が低次元だったからだろう。ところが現在は日本人の音楽レベルは大いにアップして、そんな低次元な音を好まなくなったことから、一般向けのオーディオ機器も無理のないセンスの良い音になったことと、電子技術の進歩で性能自体も飛躍的にアップしたこともあり、そんなに 高価ではなくてもソコソコの音がでることもオーディオマニアが絶滅寸前の理由と思う。 クルマだって同じで、近い将来にはクルマが趣味なんていう奇特な人は殆ど絶滅してしまい、皆が実用に徹したコンパクトカーに乗るのが当たり前の時代が来るかもしれない。

えっ?クルマの中からドッカン・ドッカンという質の悪い音をあたりにぶちまけているのはどうなんだ?って。まあ、色んな人が居るもんだ、ということで・・・・・・。

注記:この試乗記は2008年11月現在の内容です。