BMW Z4 sDRIVE
35i (2009/8) 前編 ⇒後編 |
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マツダがユーノスロードスターを発売したのが1989年で、同車は世界中でヒットしたことから、他社も2シーターオープンスポーツの分野に続々と参入してきた。BMWも1996年に3シリーズコンパクトとプラットフォームを共有するZ3を発売した。当初のZ3は4気筒1.9ℓエンジンを搭載し、日本では5ナンバーサイズとなるコンパクトなクルマだったが、その後のバリエーションの追加により4気筒は2.0lに拡大され、6気筒版が2.2L、2.8L、3.0Lと3シリーズの変更に合わせて追加および変更され
、ハイパワー化の対策でタイヤのワイド化の必要性から車両の全幅も拡大という道を歩んで来た。さらにはM3と共通のエンジンを搭載したMロードスターの発売や、クーペバージョンのZ3クーペやMクーペも追加されて、多くのバリエーションを擁する結果となった。
2002年に発表されたZ4はZ3の後継車種で、日本では翌2003年に発売された。Z3と異なりエンジンは全て6気筒で、排気量は2.2L、2.5L、3.0Lと当時の3シリーズと共通となっている。その後Z4 Mロードスターやクーペ版のZ4 クーペおよびZ4 Mクーペもバリエーションに加わった。
そして、今回のFMCによる2代目Z4の大きな特徴として、布製のソフトトップを装備していた先代に代わって流行のリトラクタブル・ハード・トップとなったことで、これに伴いクローズド時のスタイルは曲線を使用したクーペ的なデザインとなった。
先代まではバリエーションとしてクーペが存在したが、新型では敢えてクーペを用意する必要もないだろう。
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写真1
Z3(1996〜)
発売当時は4気筒エンジン搭載の5ナンバー車だったが、その後ワイド化と6気筒化で肥大していった。 |
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写真2
先代Z4(2003〜)
Z3に比べてさらに大きく、高級になったZ4。7シリーズから始まったクリス バングルによるアグレッシブなスタイルが特徴だ。
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写真3
同一ホイールベースながら新型はフロントオーバーハングが短く、ドライバーの位置も多少前進した。
この角度だとルーフ形状の違いがよく判る。ウエストラインは高く、再度ウィンドウは狭くなったのも判る。 |
写真4
リアのデザインは全く変わってしまった。
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写真5
フルオープンにするとウエストラインの高さがよく判る。 |
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写真6
ルーフの格納スペースが大きいRHTタイプはトランクスペースが狭いのが難点だ。
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試乗した3Lツインターボ 35iの価格は695万円で2.5L 23iの523万円に対して172万円も高い。35iの場合は標準でレザーシートと一部
(アームレスト)がレザーのインテリアが標準となる。シートの材質は言うまでもなくBMWらしい厚いレザー
(写真8)が使われている。因みに23iの標準はファブリックシートでレザーシートはハイラインパッケージ(561万円)に装着される
が、これでも23iよりは134万円も高い。
なお、ナビやオーディをダイヤルでコントロールするお馴染みiDRIVEは全グレードで標準装備されている。
35iの大きな特徴はミッションに最近流行のDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)タイプが装着されたことだ。なお、23iはオーソドックスなトルコン式ATとなる。
試乗車の室内は白に近いキャンベラベージュというカラーで、このZ4の雰囲気には実に合っているが、実際に購入する場合には汚れ易さを考えて躊躇してしまいそうだ。
トリムは35iの標準であるブラッシュド・アルミ・トリムと呼ばれるアルミに水平にヘアラインの入ったものが装着されていた。これはZ4のスポーティーさには実にマッチしている。オプションでウッドトリムもあるが、個人的にはZ4にウッドはちょっと・・・・・。
そしてシートに座るとスポーツカーらしい低い着座姿勢で、フルパワーのシートと上下&前後に調整可能なステアリングの位置を合わせれば、極自然な姿勢を取れる。まあ、当たり前の話だが、国産の一部(というより多く)の車種では何をどう調整してもマトモな運転姿勢を取れないクルマがあるのも事実だから、そんなクルマのオーナーがZ4の運転席に座ったら、結構感動するのではないか。いや、判らないかな?
シートの座り心地はBMWらしく表面は多少柔らかいが、決して体が沈んだりしないし、当然ながら長時間の使用でも腰が痛くなることは無い。しかしポルシェ
のシートに比べるとZ4は座面が短い
から太もものサポートは今一歩足りないが、これが気になるユーザーはオプションのスポーツシートを装着すればよい。ただし、そういう仕様が直ぐに手に入るかという問題は残るが。
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写真7
35iはレザーシートが標準で装着されている。
しかしポルシェ
のシートに比べるとZ4は座面が短い
。
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写真8
レザーはBMWお馴染みのブ厚いレザーが使われている。 |
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写真9
先代より豪華さが増した新型Z4のインテリアはライバルのメルセデスSLKに比べてより現代的な雰囲気を感じる。SLKより設計時点が新しいことと、両社のポリシーの違いも関係している。 |
写真10
L型のパネルに並ぶ円形ダイヤルというデザインがユニークなエアコンのコントロール部分。
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写真11
ダッシュボード右端にはBMWらしくライトスイッチがある。アルミヘアラインのトリムはZ4の性格に似合っている。 |
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写真12
おっ、ダッシュボード全面にレザー仕上げか、と思ってしまうシボとステッチだが、樹脂製のフェイクのようだ。
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写真13
35iの場合にはアームレスト(ドアとセンターコンソール)はステッチの入った”本物”のレザーが標準となる。 |
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写真14
ポルシェの場合はオプションのレザーセレクションを選べばダッシュボードは元より内装の至るところをレザー仕上げとすることが可能。(ただし、高い!)
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写真15
ランボルギーニの場合は問答無用のレザーとステッチは流石にイタリアンスーパーカーの代表格。 |
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エンジンを掛けると多少の振動が車体とステアリングに伝わってくるが、旧330i(E46)のように大げさな振動ではない。それでもスポーツカーの雰囲気はしっかりと伝わってくる。5シリーズのMCから採用された新型のATセレクター
(写真18)もX5、7シリーズと試乗してきて慣れたこともあり、特に違和感なくDレンジに入れる。
走り出しはDCTという割にはダイレクト感がなく、下手なドライバーが慣れないMTを操作するような、回転を上げて半クラッチを盛大に使って発進するような感じがする。
この時後述するモード切替はトロくて使えないと思われる「ノーマル」だったが、それを差し引いても不調だった。実は走行距離約4,000kmの試乗車は、各営業所を10日くらいで持ち回り試乗に使った為に
、10分単位くらいで多くの(しかも慣れない)ユーザーが試乗したために学習機能が出鱈目になっている点を考慮して欲しいという申し入れがあった
。要するに試乗車は決して本来のZ4の良さは発揮していない状態だったようだ
が、オープン時の風の巻き込みや排気音、そしてクルマ自体の安定性などには影響がないということで、以下進めることにする。
最初はオープンで走ってみたが、サイドウィンドウを上げた状態では先代よりも風の巻き込みが明らかに少ない。と、いうよりも先代Z4は車格の割には風を巻き込むタイプだったから、今回のFMCで他のライバル並みになったというとこだ。そして、サイドウィンドウを下ろして完全なオープン状態にしてみると、これも結構風の巻き込みが少なくて、
う〜ん、なるほどと感心しながら走っていたのだが、
何やら右肩のシートベルトに当たっている部分に振動を感じたので手で触ってみたらば、何とサイドウィンドウを下ろした状態での風の流れは、ドライバーの体には当たらないのだがシートベルトを直撃するために、その空気の振動が右肩に伝わる状態だった。この右肩へのバイブレーター攻撃はとても我慢が出来な
かったので、早速サイドウィンドウを上げる事にした。
まあ、これも全く気にならない人もいるだろうし、慣れればそんな物だと気にならなくなるかもしれない。
先代Z4は剛性感という面ではライバルのSLKやボクスターとは比較すると明らかに負けていた。特にオープン走行中はルームミラーの画像は常に震度してスカットルシェイクのお手本のようなAピラー自身の振動と共に
、チョッとした突き上げでもブルンっとボディが振動し、車体全体の剛性の無さを感じてしまうというレベルだった。まあ、オープンカーの剛性というのは、本来そんな物なのだが、最近のライバル達のレベルアップの前には、オープンなんだから多少の柔さは我慢が必要、
という考えが通用しなくなっている。その面では今度の新型Z4で現代の水準に追いついたというところだ。当日は暑い真夏日で、オンボートコンピューターのディスプレイは外気温度が35℃であることを告げていた。それでも多少雲が多かったのでお天道様の直撃は無
いことを考慮しても、
Z4のオートエアコンは適当な温度に設定しておけば、オープン走行でも室内は充分に涼しい状況に保たれていた。こういう文化的な装備ではサルーンメーカーのBMWらしく、走ってナンボのスポーツカー専門メーカーであるポルシェと比べるとエアコンの性能では遥かに勝っている。
走り初めてから15分程度経過したところで、ウィンドスクリーンにポツッ、ポツッと水滴が。あれっ、と思っているうちに水滴はドンドンと広がってくる。ヤバッイ!オープン走行中の突然の雨というのは無さそうで有るもので、とに角急いで屋根を上げるしかない。幸い100m程先の交差点で歩行者信号が点滅中なので少し減速して赤信号にわざと引っかか
って停車できた。停止後、即座にルーフのクローズドスイッチを押すと、何やら背後で動きが感じられてから屋根が頭上に被ってきた。
15秒程で屋根が被ったのでもう終わりかと思ったが、自動で下まで降りているサイドウィンドウはそのままなので、更にスイッチを押し続けて未だか未だかと苛々していると、ようやく両サイドのウィンドウが上がり始めた。そして上がりきったとこでスイッチの赤い表示も消え
て、ルーフが完全にセットされた事が判る。レクサスIS250Cの時も同様だったが、交差点で信号待ちでのルーフの開け閉めは苛
々するものだ。そして、ニューZ4の開閉はといえば、決して速くはない。
感覚的には4シーターという条件の悪いIS250Cとそれ程変わらず、同じ2シーターのリトラクタブルハードトップであるマツダロードスターRHTの驚異的な速さと比べたら、
確実に遅い部類に入るだろう。ダントツのマツダは別格としても、ソフトトップという有利な条件とはいえボクスターと比べてもニューZ4は遥かに遅い。ところで、先代のZ4はといえば、感覚的に同じソフトトップのボクスターと同程度だったから、ハードトップ化
により確実に作動時間が伸びてしまったようだ。
信号が青になる前に無事屋根が閉まったことにホッとして、近くの高速道路入り口に向かう。試乗車にはETCが装着されていたが、この時カードは自身のクルマに装着したまま
忘れてきたため、諦めて通行券を取ろうと「一般」の入り口へ向かう。この時、ETCユニットから強烈な警告音が発せられた。恐らくETCゲートからの
漏れ信号を受けて近くにゲートがあることを感知したが、カードが挿入されていないことから、このまま気付かずにETCゲートに侵入してトラブルとならないように警告したようだ。
これって、最近のETC車載機っていうのは皆そうなのだろうか?
誰か勇気の在る読者が実際に実験してみて、結果をメールでいただければ実に有難い!のだが。ちなみに、最近のBMW各車はルームミラーの支柱にETC装置を組み込んであるので実に
スッキリとしている。
ゲートを過ぎたら、今までポツッ、ポツッという雨足が突然にドシャ降りに変わってしまった(写真22)。そんな状況でも流石はBMWの2シータースポーツで、全く安定した走りは最悪の路面コンディションのことを忘れてしまいそうだ。そてにランフラットタイヤ(RFT)のウェットグリップも充分で、他車が恐る恐る走るような悪コンディションでも余裕のクルージングが出来るし、ワイパーも真面目に仕事をしていた。
夏の積乱雲というのは1km手前がドシャ降りでも突然に雲の切れ目で晴れる時がある。丁度そんな状況で、突然青空になり路面も乾いている状況に出っくわした。ここでチャンスとばかりに80km/hから一気に加速すると、イマイチ本調子でない駆動系とはいえ流石に3Lツインターボで、本領発揮とばかりにグイグイと加速する。
この時の加速感はボクスター(2.7v)以上で、Z4Mロードスター(先代Z4、新型のMは未発売)以下ということろか。
高速道路上での豪雨のお陰でウェット時のZ4の高速安定性をチェックできたし、高速走行時のワイパーも充分に機能しているのを確認できたから、
ある意味ではラッキーだった(と考えよう)。しかし、ちょっと気になったのが高速での過敏なステアリングの特性だった。BMWにしては珍しく中心付近の不感帯が少ないのは良いのだが、100km/h巡航中に僅かにステアリングを動かす、というより手首を捻るとクルマはピクっと反応する。まあ、考えか
たによってはスポーツカーらしいダイレクトなフィーリングという事になるのだが、Z4は決してピュアースポーツカーではないから、この特性はチョッと的外れな気がする。サルーンでもBMWはメルセデスに比べてステアリングレスポンスが良い分だけ高速巡航は疲れると言われているが、Z4はさらに気を使う。これは晴天で路面もドライな区間でも同様だった。
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写真16616
BMWらしいメーターだが、右下の油温計がサルーン系とは違う。
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写真17
ATセレクター右のスイッチでモードを選択する。 |
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写真18
5シリーズから始まって新7シリーズにも使われた新タイプのATセレクターが使われている。 |
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写真19
iDRIVEのコントローラも初期のポリシーを捨ててダイヤルの周りにスイッチを並べているのも最近の傾向だ。
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写真20
ステアリングに付いたMT用のスイッチは押してアップ、引いてダウンとなる。左右とも同じ動きをする。 |
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写真21
標準では地味〜な黒いゴムで覆ったペダル類。普通はこのクラスならばアルミ製のカッコ良いヤツを標準にするだろうに。
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写真22
土砂降りの高速道路でも安心して100km/h巡航ができる安定感はBMWならではだが、ステアリングは過敏すぎる傾向がある。
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クルマの調子はイマイチだし、おまけに天候も良くないしと、踏んだり蹴ったりのZ4試乗だったが、これでは本当の実力を判断できないと思い、
後日改めて別のクルマ(グレードは同じ sDRIVE35i)に再試乗してみた。
この続きは後編にて。
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