BMW M Roadstar (2008/6/7) 前編


BMWのMモデルといえば、マニア垂涎の高性能車の代表で、なかでもM5とM3は定番でもある。しかし、今回試乗したZ4 Mロードスターは、相当なクルマ好きでも知らない人が多いのではないか、と思うほどの隙間商品だ。このMロードスターは先代のZ3から存在していて、一部オープンマニアの間では憧れでもあり、また価格的にはM3に比べて買い得というメリットもあった。
今回取り上げるZ4版は、3245ccから343ps/7,900rpmの最高出力と365N・m/4,900rpmの最大トルクを発生する、先代E46のM3と同じ直6エンジン(326S4)を搭載している。E46 M3の車両重量は1560kgであるのに対して、Z4 Mロードスターは1430kgと130kgも軽量なことを考えると、その性能にも期待できる。Z4 Mロードスターの価格は843万円で、FMCによりV8 エンジンを搭載し、価格も1千万超となってしまった現行M3に対して、多少はリーズナブルだし、大きさも手ごろで、スポーツドライブという面ではむしろ好ましいスペックだから、これは 意外に掘り出し物かもしれない。

外観上で特にMモデルである特徴はといえば、”M”のエンブレムを除けば、お馴染みの左右各2本の4本出し排気管くらいだろうか(写真4)。Z4自身が、今時珍しいくらいのロングノーズ&ショートデッキスタイルだが、その長大なボンネットにM社の高性能直6エンジンを搭載しているというのは、実に的を得ている。 そして、ボンネットを開けると、マニアなら見ているだけでも時間を忘れる、M社の直6エンジンが長いボンネット一杯に姿を現す(写真5)。M3(E46)の場合はエンジンの半分以上がボディ側に隠れているし、M5に至ってはエンジンの殆どがカバーの下で、F1譲りのV10エンジンは全く見えないから、これほど完全に Mエンジンを眺められるMロードスターは、それだけでも価値がありそうだ。
 


写真1
フロントのエアインテーク形状はノーマルのZ4とは異っている。

 


写真2
左右シートのヘッドレスト間のディフューザーは風の巻き込み防止に大いなる効果があった。
 

 


写真3
ソフトトップを上げたところ。やはりこの手のロードスターはオープンのスタイルが本来で、幌は仮の姿だから、決してカッコよくはない。
 

 


写真4
リアの4本出しマフラーはお約束どおり。Mのマークはあるが、排気量などの表記が無いため、まるで320のM3エンブレムチューンのようだ。

 

  
写真5
長いボンネット一杯に搭載されている直6のM社製エンジン。これを眺めているだけでもこの車の価値がある。
 


写真6
それにしても狭いトランクルーム。

 


写真7
ソフトトップでも窓枠の無いサイドウィンドウは相手側に喰い込んで固定される。ただし、ボクスター程にはシッカリ感は無い。
 

 

ドアを開けて最初に目に入るのがドアシルプレートにある、お馴染”M”のロゴだ。しかし、このマークも、最近はMスポーツにさえ使われているから、以前ほどの感動は無い。 この事実は、Mスポでボロい商売をしたツケとなって、ブランド価値を下げたのは言うまでない。
室内は基本的にはZ4そのものだが、良く見ればインテリアの材質はレザーを多用していて、仕上げも凝っている。いうなればZ4の最上級バージョンという位置づけなのだろう。ソフトトップの出来も良いから、クローズドではクーペ並みの室内を実現している・・・・・・と、言いたいところだが、ボクスターのように正にクーペと見分けが付かないという程でも無い(写真9)し、ドアを閉めた直後にサイドウィンドウがルーフに喰い込む際も、 ボクスターのようなガッチリした枠が無いために、どうも確実性に不安がある(写真11)。

そして、ドアを閉めた瞬間の音も、なにやらドアの内部機構がビビっているような、安っぽい音がする。これも、剛性感抜群のズンッという、ピラーレスとは信じ難いボクスターのドアとは大いに差がついてしまう。Mロードスターは サルーンのコンポーネントを流用して作った量産スポーツカーで、しかもアメリカ製のZ4をベースとしているのに対して、ボクスターは高級スポーツカーの代名詞である911カレラと主要部品を共有しているという、出生の違いがハッキリ出てしまったようだ。 と、いっても、これは個性の問題と割り切れば、Mロードスターの多少ラフなところも、アメリカンな雰囲気と思えば、アバタもエクボというものだ。
 

写真8
オールレザーのスポーツシートが標準装備された室内。

 


写真9
クローズド時は天井の内装材などから、ソフトトップとは思えない、クーペのような室内となる・・・・と、言いたいところだが、写真の黄色い←→で示した樹脂性のプロテクターが雰囲気をぶち壊しにする。
 

 


写真10
ベースのZ4に比べるとレザーを多用した内装など、どちらかといえばZ4の最上級モデルの意味合いもある。

 


写真11
オールパワーのレザーシートとMのロゴをあしらったドアシルプレート。しかし、MマークはMスポーツにも付いていたような気が?
 

 

標準のレザーシートはサイドのサポートも充分で、Mロードスターのような横Gが掛かりやすいクルマのシートとしては合格だが、BMWのシートであるからレカロ系の硬さとガチガチのサポートを求めるユーザーには求める物がチョッと違うかもしれない。エンジンの始動は流行のインテリジェントキーやスターターボタンではなく、コンベンショナルなキーを捻るタイプで、Mロードスターの性格からも好ましい。
そのキーを捻ると、直列ル6気筒 3.2ℓのハイチューンエンジンは難なく始動した。アイドリングは結構静かで、思いのほか振動も少ないから、ポルシェカレラSのような クルマ全体がブルブルと震える異次元のアイドリングを想像すると期待外れとなるかもしれない。
クラッチは軽くて繋ぎ易いから、何の緊張感もなくクルマは走り出す。これなら、少しMTの経験があるドライバーは簡単に乗りこなす事が出来るだろう。これも、ある面では期待外れで、三百数十馬力のロードスターというスペックから想像するような、 素人ではスタートさえもできない乗り難さを期待すると、この段階で拍子抜けしてしまう。低速で走り出すと、最高出力の発生が7900rpmという高回転型エンジンから想像するほどには、低域でのトルクも細くは無く、街中では3000rpmMAXの大人しい運転をしてもギクシャクする事も無い。 とはいえ、街中主体ならばノーマルなZ4 3.0siの方が遥かにパワフルに感じるのは、M5と530iの関係と同様だと思えば良い。10分ほど走行して、クルマにも慣れてきたので、もっと踏み込んでみようと思い、メーター類に目を移すと、正面の2つのメーターは径が小さく て見難いし、 更にはステアングホイールとメーターのセンターがずれているから更に見づらい。 Mロードスターのステアリングはどう見ても左に寄っているし、シャフト自体が斜めになっているようだ。 ただし、15分程の運転で体が慣れたから、特に問題視することも無いかもしれない。
まあ、そんなネガな部分は置いておいて、そろそろ期待のエンジン性能を確かめてみよう。Mロードスターの回転計はレッドゾーンが可変となっていて、エンジンが完全に温まった状態にならないと、レッドゾーンが8000rpmにはならない。走行後10分程では回転計の目盛りは7500rpm以上が赤く光っている (写真13)。そこで、先ずは1速で5000rpm程度まで引っ張ってみる。今やM3はV8となり、Mロードスターの直6は貴重な存在となってしまった。そして、先代M3と全く同じ326S4エンジンの特性はといえば、先ずM車のハイチューンエンジンとは言っても基本的にはBMWのシルキーシックスだから、実にスムースに回る。ただ、BMW量産セダンに比べると、如何にも高性能という感じを与える独特の音が聞こえる点が異なる。
 

  
写真12
基本的には標準のZ4と変わらない室内だが、良く見ればレザーを多用するなど、高級な仕様となっている。
ステアリングホイールの中心は左に寄っているのが判るだろうか。更には、シフトレバーがステアリングから遠く、手前に
あるのも気に入らない。
 


写真13
回転計はレッドゾーンが可変する。しかし、2つのメーターは小さくて見難い。

 


写真14
ペダル配置はLHD仕様という事もあり、スペースも配置も適切だ。標準と変わらないゴムの滑り止めの付いたペダルはシラケる。ここはアルミ製を奢りたい。
 

 


写真15
標準のナビはiDRIVEではなく、”普通”のHDDタイプが装着されている。
 

 


写真16
日本向けのZ4には通常有り得ないMTだが、Mロードスターは逆にATの設定がない。

 

20分程走ったら、油温計の針も適温を指したので、今度は7,000rpmまで引っ張ってみる。

このつづきは後編にて

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