Lexus IS-F (2008/3/8) 後編 ⇒前編


 

フートブレーキを踏みながら、ジグザクゲートのATセレクターをDレンジに入れて、さてパーキングブレーキのリリースレバーを探すと・・・・・・、無いっ!何と800万円出してプッシュ/プッシュ式だった。走り出す前から、行き成り突っ込み処満点で、思わず苦笑しながら、いざ出発。何しろV8、5ℓ、423psと聞いただけで、1500rpmからパワーモリモリのアメリカンなクルマを想像していたが、なにやら”普通”だ。勿論、決して遅くはないが、弟分のIS350と大きな差を見つけられない。 でも、まあ、これはBMW530iとM5の関係にも似てはいる。M5には400psモードと500psモードがあって、400ps&ドライブ(オートマ状態)モードで街中を流していると、530iの方がパワフルに感じたりするからだ。400psモードねぇ。んっ、そうだ、もしかしてIS−Fにもモード切替があるのでは、と思ってダッシュボードのスイッチ類を確認したら、ステアリングホイールに隠れて見難いところに、MODEというスイッチにSPORTという文字があるではないか(写真15)。このスイッチのSPORT側を押すと、メーターパネル中央上方にFをモチーフにした、ロゴが現れる。これがスポーツモードに入っている事を表すインジケーターとなる。
さて、スポーツモードになったIS−Fは、俄然スポーティな反応を示す。と、いっても、そこは富裕層向けのレクサスのこと、中でも飛び切りの上級モデルでもあるFシリーズだから、ランエボ]のスポーツモードのように、ペダルをチョッと踏んだだけでガオッと飛び出したり、ドライブモードで3000rpm過ぎてもシフトアップしないなどという下品な挙動はない。実際には、このスポーツモードが本来のIS−Fの姿に違いない。 ところで、この大パワーながら迫力がイマイチという感覚はどこかで覚えがある、と思ってよく考えたら、半年程前に乗ったブレイドマスター、例のカローラに3.5ℓエンジンを載せた和製ゴルフR32とソックリだった。
IS−Fのミッションは8速ATが搭載されているが、8速もあるメリットは良く判らなかった。そもそも5ℓもの馬鹿でかいエンジンをDセグメントのセダンに強引に押し込んでいるのだから、8速どころか4速だって十分に速そうな気がするのだが、何故に8速なのだろうか?

今回は折角の高性能車だから、一般道のみならず高速道路まで走ってみた。レクサスの場合は以前からディーラーによっては高速走行を試乗コースに含めているようだが、行きつけのレクサス店では今回が始めての高速試乗だった。 試乗車にはちゃあ〜んとETCが装備されていたし、勿論カードも挿入されいたから、そのまま高速道路のゲートを通過してランプウェイのコーナーを回る。この時点でも安定した足回りや柔らかい割りにサポートの良いシートが確認できる。そしていよいよ加速車線に到達し、とりあえずスロットル開度は2/3程度で直線加速に移 ると、あっという間に100km/hに達して、加速車線を半分以上残して余裕で合流できる。取り合えず流れに乗って走ってみると、その直進安定性は抜群で、これならクルマの運転がお世辞にも上手いとはいえないお金持ちの奥様でも全く安心して高速巡航 ができそうだ。
次にいよいよ、Dレンジ&スポーツモードでフルスロットルを踏んでみると、ATのキックダウンは特に速いとはいえないが、まあまあのタイミングでシフトダウンが起ったと思ったら、 強烈な加速感により上体がバックレストに押し付けられた。IS−Fのシートは前述のように柔らかめだから、余計に上体がシートにめり込むような気がする。 この時の排気音は中々勇ましく、V8のビートを轟かせる姿は、何となくアメリカンV8を積んだスポーツカー的であり、少なくともM5のようなハイチューンエンジンの音ではないが、これはこれで中々迫力がある。そして、あっという間に前車が迫ってくるので、ここで減速 してみると、ブレンボ製のフロント6ポット、リヤ2ポットのキャリパーを装着するブレーキシステムを装着するだけあって、高速でも効きは十分だ。ただし、ポルシェ(カレラは当然ながら、ボクスター/ケイマンでも)のように、目に見えない巨大な手で、後ろからとっ捕まえられるという程ではない。 まあ、ブレーキシステム自体というよりも、背中の後ろや尻の先にエンジンを乗せたクルマとセダンを比較しては不公平でもあるが、世界のトヨタの大パワーモデルなのだから、無理を承知でもう一息の減速性能アップに挑戦してもらいたいものだ。
 


写真17
LS600h用エンジンをベースとしてV8 5ℓは423/6,600の最高出力と51.5/5,200の最大トルクを発生する。
 

高速道路を下りた後は、ワインディング路も試してみた。 実はこのコースで少し前に、”比較的”運転の上手くないドライバーが試乗して、見事に大きく外側にはらんでしまい危ないところで電子制御の介入となったこともあり、強烈なレスポンスと控えめな 安全制御のスポーツモードは一般道の試乗には使わないことにしたそうだ。勿論、それでは評価にならないので、スポーツモードで通したのは言うまでもい。最初は挙動も判らないので、安全マージンを十分に取ってコーナーに進入してみたが、 フロントに5ℓという分不相応な大排気量エンジンを載せている割には、アンダーも少なく素直な特性で、もちろんロールも少ないから、これなら大丈夫とばかりに、徐々にコーナーリング速度を上げていく。数日前に乗ったランエボ]が、全く機械任せでスイスイ回るのに対して、こちらは結構オードックスなFR車(エンスーは RWD、アンちゃんはアトカキと呼ぶ)の挙動を見せる。この時のシフトモードは勿論マニュアルモードで、直線からコーナー手前で減速しながらシフトダウン、パーシャルスロットルで頂点をかすめたら、 5ℓエンジンの大トルクで破綻しないように、神経を右足に集中しながら力を込めると、結構楽めるのも事実だ。細かい点には注文もあるが、それでもトヨタ製のクルマとしては、例外的にコーナーを攻めて遊ぶ気になることは間違い。BMW3シリーズのように自分の運転が2ランク上がったような錯覚に陥るほどの良さはないが、エンスーなオーナーでも不満は出ないと思う。

サスのセッティングは当然ながら硬いが、良く出来た欧州車と同様にボディがシッカリしている事から、乗り心地は決して悪く無い。街中での遅い巡航で、橋の繋ぎ目などの大き目の段差を通過すると、一瞬は突き上げを感じるが、一発で収まるから 、この手の高性能車を選ぶユーザーには全く問題は無いし、本来クルマなんて如何でも良いけど、クルマ好きの亭主が一家に一台のファミリーカーにIS−Fを選んでしまった為に、ウィークデーには自分の足になる奥方でも、十部に我慢が出来そうだ。

高速走行時のブレーキ性能が、IS−Fのモンスターパワーに対して十分なことは既に述べたが、街中の低速な流れでも、勿論良く効く。チョット踏めばガツンッと効く、悪く言えばカックン気味だが、BMWのサルーンなども同様だから、今やプレミアムカーとしては常識的は特性と思ってよい。
 


写真18
リアには255/35R19タイヤと19×9鍛造(BBS製)ホイールが標準装備される。
 


写真19
フロントには225/40R19タイヤと9×8鍛造(BBS製)ホイールが標準装備される。

 


写真20
リアキャリパーはブレンボ製の2ポット対向ピストン

 


写真21
フロントキャリパーは6ポット対向ピストンで、前後とも
ブレンボ製キャリパーとドリルドローターを使用している。
トヨタの市販車でブレンボ製を使用するのは今回が始めてとなる。
 

 

新興高級レストランチェーンの”レスサス亭”は、ポルシェという名シェフのお陰で、なんの変哲も無い素材であるISを最高級の料理にしてみせたが、流石に限界もあったようだ。刺身 で食べても格別 の生きの良い真鯛を名シェフがムニエルにすれば、これはもう格別だろうが、生きの悪いキンメダイを素材にして、真鯛と同じバターを使って誤魔化しても、 直ぐに見抜くグルメな客ばかりではないが、わかる人には判ってしまう。名シェフであるポルシェも苦労をしたろう。その甲斐あってか 、余程のグルメ客でも無い限りは、おーっ、名シェフの料理は流石だと舌鼓を打つのを期待したIS−Fだったが、何とライバルの、いやレストランチェーンでは格下だと馬鹿にしていた”にっさん亭”がIS−Fと同じ値段で、 名シェフ・ポルシェ自身の、それも最高級看板料理の911ターボと同じ味、いや多少でも上回ったというGT−Rなるスペシャルメニューを出してきた。しかも大衆ファミレスのニッサンブランドでのメニューという、コストパフォーマンス抜群で、IS−Fとしては、何とも分が悪いことになった。

レクサスIS−Fをスポーツセダンとして見れば、決して悪いクルマではない。しかし、国産の高性能セダン、例えばランエボ]と比べれば、その価格差は300万円以上。そんなことを言ったって、IS−FはV8 5ℓで423psに対してランエボ]は直4 2ℓで280psだから、まるで世界が違うじゃないか、と言いたいレクサスファンもいるだろう(いや、いないかな?)。そして性格もマルで違う。同じ体育会系でも学ランでオッスのランエボ]とブレザーのお坊ちゃん学校のIS−Fというところだから、これはもう好みと予算次第。 でも、まあ、月産40台のIS−Fだから、日本中にはその程度の数の物好きは十分にいるだろう。